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第2章
07 王宮で
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「これはリディア嬢、相変らずお美しい。辺境伯が大切にされている様子が見えるようですな」
王宮に来ると声高に近づいて来る人がいる。
嫌な人に捕まったと思うが、そんな様子をつゆほども見せず、にこやかに答える。
「こんにちは、ドルイド伯爵」
リディアは社交が嫌いな訳では無かった。
貴族の友人、知人もいるし、領地での貴族同士の付き合いも普通に楽しんでいる。
が、こうした場で自分に近づいてくる人々が、自分から何らかの利を得ようとするものだと分かっているので、多少憂鬱にはなる。
ウエストリア辺境伯の娘、その意味や恩恵も知っているつもりだし、それに伴う義務と責任も分かっているが、自分に近づくことで不当に利を得ようと画策される事にどうしても抵抗があった。
彼らは少しでも自分に近づき、欲しい物を得る事が出来ないかと機嫌を取ろうとする。
間接的に近づいてくる事には、面倒でも対応に困る事はないが、こうして直接近づいて来られるのが苦手だった。
「はじめまして、ドルイド伯爵」
「おぉ、アルフレッド殿か。ウエストリア伯によく似ておられる。13歳になられたなら、私の娘と年の頃がちょうど良いな」
アルフレッドが伯爵の前に出て、私に近づけないようにしてくれると、今度はアルフレッドの相手まで決めようとする。
だからここには来たくなかった。
友人が招いてくれた社交の場ではこういった事で困る事はない。
面倒な相手に捕まっても、お互いに上手く間に入って助けあう事ができる。
ドルイド伯爵はそういった意味で面倒な相手だ。
伯爵家として歴史は古く、その一族の何人かが王都の政治を司っている。
大きな力は無いが、無視できない相手。
ここで安易に返事を返すと、それが一生の約束になる可能性がある。
こちらが最近の王都の話題や、先日の舞踏会でのこと、果ては天候の話までして話を変えようとするが、全て無視して自分の娘をアルフレッドと個人的に会わせようとする。
「失礼、彼らをお借りしてもよろしいですか?」
聞きなれた声が割って入る。
「おお、殿下」
「ご令嬢とお約束でもしているのですかな?」
「いえ、お二人と約束がありまして」
殿下が弟は関係ないだろうと言うドルイド伯爵から助けてくれる。
さすがに友好国の王子に何の約束があるのかなど聞く事は出来ないので、伯爵も残念そうに離れて行く。
「ありがとうございます」
「少しここから離れましょう」
小さな声で礼を言うと、庭園の方に促されるので、アルフレッドにエスコートされてその後をついて行く。
「ごめん、姉さま。 僕、上手く出来なくて」
「あたりまえよ。あんな腹黒狸の相手はお父様くらいにならないと」
「お父様くらいになれば、いいの?」
「別にならなくても良いのよ。我が家にあの父が二人いるのも問題だわ、あなたはそのままでいてね」
小さな声でいつもの調子で話していると、前を歩いている人の背中が笑っている。
「まぁ、聞こえているのですか?」
「申し訳ない、私たちは耳が良いので」クックッと笑い続け、「確かに狸に似ているな」などと言う。
「しかし、面白いですね。ああいった所での発言は、ウエストリア伯には意味がないと思えるが」
「そうですね、父には全く意味がありません。そう伝えているつもりなのですが、それを理解している方が思いのほか少ないのです」
着いてそうそう来た事を後悔させられたが、しだいに気持ちが落ち着いてくる。
不思議とこの人の側は居心地がよかった。
最初は嫌われているのかと不安になったが、今はそんな風に感じない。
自分と話している時は、とても楽しそうに笑ってくれるし、必要以上に近づいて来ないので安心していられた。
獣人は、自分が望んだ相手に率直に好意を見せると聞いているので、自分はその対象ではないのだろうと納得もする。
「王宮に来られているとは思いませんでしたわ」
「そうですね、苦手ではあるのですが、、、、、、」
話を続けようとしていると、向こうから、カシム王子が自分を呼びながら近づいて来るのが見える。
「秋に、ウエストリア領に伺う事を楽しみにしています」
そう挨拶され、カシム王子にも会釈してザイード様が離れて行く。
彼が離れた後、カシム王子が聞いてくる。
「殿下をよく知っているのか?」
「先程、ドルイド伯爵に捕まっていた所を助けて頂きました」
「ドルイド伯爵か、苦手なのか?」
「カシム様は、お得意なのですか?」
「まぁ、分かりやすいとは思うな」
「私は、分かりやす過ぎて苦手です」
「ハハッ そうかお前はああいうのが苦手なのか」
「ここには私の苦手な人が沢山いますので、ついつい足が遠のきます」
カシム王子がえらく楽しそうに笑うので、王宮に顔を出さない言い訳を伝えておく。
「それは仕方ないだろ? いない事を確かめてくればいい」
「残念ながら私は魔力を持っていませんので、そんな事はできません」
「弟は出来るだろ? 一緒にくるなら大丈夫じゃないか」
「僕は地の魔力が、得意ではありませんから」
「ならあの護衛を連れてくればいい。あいつは得意そうだ」
「彼はそんな事を教えてくれるほど、やさしくありません」
カシム王子は勝手な事を言っているが、さすがに護衛を連れて王宮に入る事は出来ないのでそう答える。
二つ年上の王子とは、今では友人のような関係になりつつある。
出来れば二人の婚約者たちとも仲良くなりたいが、いまのところその気配はない。
王宮に来ると声高に近づいて来る人がいる。
嫌な人に捕まったと思うが、そんな様子をつゆほども見せず、にこやかに答える。
「こんにちは、ドルイド伯爵」
リディアは社交が嫌いな訳では無かった。
貴族の友人、知人もいるし、領地での貴族同士の付き合いも普通に楽しんでいる。
が、こうした場で自分に近づいてくる人々が、自分から何らかの利を得ようとするものだと分かっているので、多少憂鬱にはなる。
ウエストリア辺境伯の娘、その意味や恩恵も知っているつもりだし、それに伴う義務と責任も分かっているが、自分に近づくことで不当に利を得ようと画策される事にどうしても抵抗があった。
彼らは少しでも自分に近づき、欲しい物を得る事が出来ないかと機嫌を取ろうとする。
間接的に近づいてくる事には、面倒でも対応に困る事はないが、こうして直接近づいて来られるのが苦手だった。
「はじめまして、ドルイド伯爵」
「おぉ、アルフレッド殿か。ウエストリア伯によく似ておられる。13歳になられたなら、私の娘と年の頃がちょうど良いな」
アルフレッドが伯爵の前に出て、私に近づけないようにしてくれると、今度はアルフレッドの相手まで決めようとする。
だからここには来たくなかった。
友人が招いてくれた社交の場ではこういった事で困る事はない。
面倒な相手に捕まっても、お互いに上手く間に入って助けあう事ができる。
ドルイド伯爵はそういった意味で面倒な相手だ。
伯爵家として歴史は古く、その一族の何人かが王都の政治を司っている。
大きな力は無いが、無視できない相手。
ここで安易に返事を返すと、それが一生の約束になる可能性がある。
こちらが最近の王都の話題や、先日の舞踏会でのこと、果ては天候の話までして話を変えようとするが、全て無視して自分の娘をアルフレッドと個人的に会わせようとする。
「失礼、彼らをお借りしてもよろしいですか?」
聞きなれた声が割って入る。
「おお、殿下」
「ご令嬢とお約束でもしているのですかな?」
「いえ、お二人と約束がありまして」
殿下が弟は関係ないだろうと言うドルイド伯爵から助けてくれる。
さすがに友好国の王子に何の約束があるのかなど聞く事は出来ないので、伯爵も残念そうに離れて行く。
「ありがとうございます」
「少しここから離れましょう」
小さな声で礼を言うと、庭園の方に促されるので、アルフレッドにエスコートされてその後をついて行く。
「ごめん、姉さま。 僕、上手く出来なくて」
「あたりまえよ。あんな腹黒狸の相手はお父様くらいにならないと」
「お父様くらいになれば、いいの?」
「別にならなくても良いのよ。我が家にあの父が二人いるのも問題だわ、あなたはそのままでいてね」
小さな声でいつもの調子で話していると、前を歩いている人の背中が笑っている。
「まぁ、聞こえているのですか?」
「申し訳ない、私たちは耳が良いので」クックッと笑い続け、「確かに狸に似ているな」などと言う。
「しかし、面白いですね。ああいった所での発言は、ウエストリア伯には意味がないと思えるが」
「そうですね、父には全く意味がありません。そう伝えているつもりなのですが、それを理解している方が思いのほか少ないのです」
着いてそうそう来た事を後悔させられたが、しだいに気持ちが落ち着いてくる。
不思議とこの人の側は居心地がよかった。
最初は嫌われているのかと不安になったが、今はそんな風に感じない。
自分と話している時は、とても楽しそうに笑ってくれるし、必要以上に近づいて来ないので安心していられた。
獣人は、自分が望んだ相手に率直に好意を見せると聞いているので、自分はその対象ではないのだろうと納得もする。
「王宮に来られているとは思いませんでしたわ」
「そうですね、苦手ではあるのですが、、、、、、」
話を続けようとしていると、向こうから、カシム王子が自分を呼びながら近づいて来るのが見える。
「秋に、ウエストリア領に伺う事を楽しみにしています」
そう挨拶され、カシム王子にも会釈してザイード様が離れて行く。
彼が離れた後、カシム王子が聞いてくる。
「殿下をよく知っているのか?」
「先程、ドルイド伯爵に捕まっていた所を助けて頂きました」
「ドルイド伯爵か、苦手なのか?」
「カシム様は、お得意なのですか?」
「まぁ、分かりやすいとは思うな」
「私は、分かりやす過ぎて苦手です」
「ハハッ そうかお前はああいうのが苦手なのか」
「ここには私の苦手な人が沢山いますので、ついつい足が遠のきます」
カシム王子がえらく楽しそうに笑うので、王宮に顔を出さない言い訳を伝えておく。
「それは仕方ないだろ? いない事を確かめてくればいい」
「残念ながら私は魔力を持っていませんので、そんな事はできません」
「弟は出来るだろ? 一緒にくるなら大丈夫じゃないか」
「僕は地の魔力が、得意ではありませんから」
「ならあの護衛を連れてくればいい。あいつは得意そうだ」
「彼はそんな事を教えてくれるほど、やさしくありません」
カシム王子は勝手な事を言っているが、さすがに護衛を連れて王宮に入る事は出来ないのでそう答える。
二つ年上の王子とは、今では友人のような関係になりつつある。
出来れば二人の婚約者たちとも仲良くなりたいが、いまのところその気配はない。
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