エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第3章

01 ウエストリアで

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 すっかり日も落ちた時間なのに、屋敷に人が到着した音がする。
 父がいつも通りに戻ってくれば、確かにこの時刻だが、今回はお客様と一緒に来ているはずなのに、、、

「まぁ、お父様、まさか今日も早駆けで帰って来られたのですか?」
「ハハ、無理と言われれば途中で止まるつもりだったのだけどね」

 そんな事を言う余裕を与えていたとは思えないが、父は後の事をフランツに頼んで、さっさと母の部屋に向かっている。

「よくおいで下さいました、ザイード様。今日はゆっくり休んで下さいね」

 挨拶を済ませて部屋に戻り、久しぶりにあった人の事を考える。
 父の早駆けに付き合わされ疲れた顔をしていたのに、自分を見つけて嬉しそうに笑ってくれた様に見えたのは気のせいかしら?

「いやだわ、ザイード様がそんな事を思うはずがないのに、、、」

 知らない土地に来て、慣れない場所で知人に会えば安心するのは当たり前だ。

 ザイード様達は、数日、ウエストリアの屋敷に滞在する。

「気を付けないと。訳の分からない事を考えている場合じゃぁないわ」


 朝になるとザイード様達を案内して、屋敷の周りを歩き、川の支流まで足をのばす。
 右手には麦畑や牧草地が広がり、目の前にひろがる深い森を見て、ザイード様が目を見張っている。

 一緒にいるサイラス様は今にも走り出しそうな顔をしているし、いつも穏やかなイグルス様まで楽しそうだ。

「今日は後からロニが昼食を運んでくれますから、川に着いたら釣りをしましょうね」
「釣り?」

 ザイード様が驚いた声で聞き返す。

「はい、この辺りの河にはギーという魚がいます。外で調理するのは難しいかもしれませんが、食べる事も出来ますよ」

「お嬢、あんまりお転婆を公言しないで下さいよ、俺が奥様に怒られるんすから」
「あら、そうなの?」

 残念だけど仕方がない。
 これでお母様に外出禁止でも言われてしまうと、本当に外に出られなくなってしまう

 川に着き、大喜びで水に入るサイラス様達を、少し離れた所から見ているとザイード様が側に来て話しかけてくる。

「リディア嬢も水辺に行かれますか?」
「私はここで」

「本当に?」
「ええ、お母さまから水遊びはダメだと言われているみたい」

「私達がいるからでしょうか?」
「いいえ、きっと屋敷にいる時くらい領主の娘らしくなさいってことね」
「では、私もここにいてよろしいですか?」

「水は苦手ですか?」
「いや、二人が楽しんでいますので冷静な者も必要になります」
「それならば、是非」

 水の中で楽しそうにしている二人が何か問題を起こすとは思えないので、ザイード様が気を使ってくれたのだろう。

「ウエストリア伯は、いつも早駆けで帰って来られるのですか?」
「ええ、大変でしたか?」

「はい、実は、、、、、、」
「ふふっ、私も父の早駆けに付いてきたお客様は、今まで見たことがありません」

 そのまま少し領地のことを話す。

「ウエストリア領は、一人の領主が治めています。その為、父はどこにでも出掛けて行く必要があるので、早駆けに慣れているだけなんです」

 急に何時間も馬で走れば辛いのを知っていて、敢えて自分に付き合わせるのだから、本当にお父様は意地が悪い。

 ロニが昼食を運んでくれたので、食事を渡すと「川辺の方で」と離れて行く。
 いけない、獣人の方は食事に意味があると教えて貰っているのに、すっかり忘れてしまっている。

 流石に帰りは馬車で屋敷に戻る。
 森や森人の話、牧草地に咲くニルバの花の事など、思いつくままに話しをすると彼も笑って聞いている。

 彼には、せっかく大好きな土地に興味を持ってくれたのだから、是非、好きになって帰って欲しい。
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