エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第2章

13 カシム

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「まぁ、カシム様、お待たせして申し訳ありません。ウエストリアの屋敷に来て下さるとは思っていませんでしたわ」

 フレの工房から戻ると、王宮からお客様が来ていると聞いてびっくりする。

 急いで応接室に行くが、どのくらい待っていたのかお客様の機嫌は悪そうだし、テーブルのお茶は既に何度も運ばれた後の様だった。

「お嬢様」
「あら、いけない」

 部屋に控えていたフランツに指摘されて、王室の客人にまず正式な礼をする。

「ようこそ、おいで下さいました」
「良い、公式なものでは無いのだから気にするな」
「ありがとうございます。では、屋敷の庭園をご案内しますわ、もうお茶は必要無いでしょう?」

 カシム様の前に置いてあるカップを見れば、彼が何杯もお茶を飲んで待っていた事が分かる。

「それより、お前に渡す物がある」

 カシム様が護衛の一人が持っていた物を渡してくれる。
 中にはドレスをあつらえる為の最高級の布地で、濃い緑の布地にフレの糸でニテリラの花が刺繍してある。

「まぁ、ニテニラの花ですね」
「花を気に入っていたからな、それなら良いだろう」
「はい、嬉しいです」

「気に入ったか?」
「もちろん、カシム様がニテリラの花の事を覚えて下さったのでしょう?  白い花と金糸がとても綺麗です」

「なら、今度の舞踏会に着て来いよ」
「舞踏会ですか?」
「来月、王宮である。 母上が主催の会だが、、、仕立てるのは間に合うだろう?」

「申し訳ありません、カシム様。私達はウエストリアの方に戻る様に言われています」
「戻る?」

「辺境伯からは何も聞いていないぞ」
「私と弟だけですから、父と母はこちらに残ります」

「弟も戻るのか」
「夏は、フレの取り入れの季節なのです」

「フレ? 刺繍糸の事か、お前も何かするのか?」
「私も弟も、ですわ。人手はいくらあっても困りませんから」

 フレは種から糸を取るが、種が弾ける直前に摘む必要がある。
 弾けてしまえば良い糸が取れないので、花が枯れた後、何度も足を運んで種が膨らんだ所を摘む。
 摘まれた種の殻は硬いので、蒸して殻を取り、糸を紡いで、その後染める。

 それを夏の間に行うので、忙しいしとにかく暑い。
 特に殻を取るのは大変で、蒸して実が熱い間に殻を剥くので皮の手袋を付けての種割りは、体力も忍耐力も必要になる。

「どんな事をするんだ」
「私が出来るのは、種の摘み取りと糸を紡ぐ事だけですわ。 
 それでも、茶葉を摘んだり、夏の実を集めたり、猫の手も借りたい時期ですから」

「王宮に来るより楽しそうだな」
「ウエストリアは、私にとって馴染みのある場所ですから、王宮と比べる事は出来ません。
 でも王宮の庭園は美しいですし、王都も面白いと思っていますよ」

「それでも帰るんだろう」
「まぁ、少しは残念に思って下さいますか?」

「別に、、、婚約者はみな平等に扱えと言われている。それも他の二人にも渡している物だから持って来ただけだ」
「ありがとうございます、それでも嬉しかったです。次、王都に来るまでに仕立てておきますね」

 始終不機嫌な王子を見送りながら少し残念に思う。

 カシム様は、多少私をきらっていても不機嫌になったりしても、決していやな人では無かった。

 薬草園での事を覚えていて、その花をドレスにして贈ってくれたり、それをわざわざ自分で届けてくれる様な優しい所もある。

 王宮での生活や后妃としての立場には全く興味を持てないが、カシム様が王族ではなく貴族の子息であったなら、"友人"ではなく"恋人"になれないかと考えたのでは無いだろうか。

 明日になれば王都を離れる。

 結局、王都に来ても、"ウエストリア"に興味を持った人は現れても、"リディア"に興味を持った人は現れてくれない。

「もう、いやになっちゃう」

 それだけ人を惹きつける魅力が自分に無いと言う事なのだが、どうすれば手に入るのか、こればかりはさっぱり分からない。
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