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第2章
12 フレの工房で
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約束の日、フレの工房にアレス様がやって来る。
アレス様が何か言いたそうな顔をしていても、家の中の事は話せない。
こちらが何事も無かった様に迎えれば、アレス様も納得できなくても理解はしてくれたみたいだった。
「無理なお願いをしましたか?」
「いや、ここに呼ばれた理由を考えていました、何か見せて頂けるのですか?」
「ええ、気に入って頂けると良いのだけど」
アニタに織って貰った一枚の布を見せる。
彼女の織った布には図柄が織り込まれていて、先日、アレス様に渡したものとは比較にならないほど美しい。
「素敵でしょう?」
「これは?」
「彼女にお願いして織り上げて貰いました。もう少し試行錯誤が必要ですけど、素敵だと思いませんか?」
いつも工房の案内を頼んいる女性を紹介しながら話す。
「はい、確かに素晴らしい」
「良かった。やっぱり一番良い物をと、アニタに織って貰って良かったわ」
「図柄は、お嬢様がお考えになった物ではありませんか、私は頼まれた物を織っただけですから」
「それは本に載っていた物を使わせて貰っただけよ。やっぱり出来上がりは大切よね、アニタに頼んで良かったわ」
彼女は、図柄の織り方を教えると、あっという間に織り上げてしまった。
「織り込んだ図柄も良いですね、刺繍を組み合わせるなど、色々な形が出来そうだ」
「それも面白いかも」
それからは布の軽さをどのくらい残すか、どんな図柄や刺繍が好きかなど、知らない国の話を聞く。
彼は話上手で、それらを聞いているのは楽しかった。
特にこの国では考えられない精霊の話は心惹かれるものがある。
「魔力が無くても精霊達は、私達の願いを叶えてくれるのですか?」
「そうですね、歌を唄ったり、楽器を奏でたり、ちょっとしたお菓子などを渡したり。
精霊達が気に入ってくれれば、魔道具を使うより多くの力を貸してくれるので、大きな船には、楽器を演奏する者が必ず乗っていますよ」
「アレス様の船にも?」
「はい、僕は風の精霊達と相性が悪いらしく、船にはリュートの奏者がいます」
「相性があるのですか?」
「僕の魔力を風の精霊は気に入らないらしい。他の精霊達とはそうでも無いのですが、船を動かすには風の精霊の力が必要なので」
「なんだか楽しそう」
「そうですね、何をするにも精霊の気持ち次第、気まぐれな彼等と付き合いながら生活するのに慣れてしまえばとても楽しいですよ」
しばらく知らない国の話をしていたアレス様が、白い透明な塊が入った小瓶を渡してくれる。
「ノーストリアに少し戻っていたので、リディア嬢に差し上げたい物があります」
「これは何ですか?」
「ノーストリアのゼム地方で、果実酒を作る時に使っているものです。食べても平気ですよ?」
そう言うので、手のひらに瓶の中身を取り出して一つ口に入れてみる。
「甘いわ」
「砂糖から作られた物で、氷砂糖と呼ばれています」
「なぜ果実酒を作る時に使っているのですか?」
「砂糖を使うより果実酒が甘くならないし、溶けるのに時間がかかるから、かな?」
「マテの粉でも同じ物が作れると思います?」
「製法を教える事は出来ませんが、おそらく」
マテの粉からも同じものが作れるなら、冷たい紅茶にも使えるかもしれない。
固く透明な氷砂糖は、冷たい飲み物の中にあっても綺麗だし、溶けて甘くなるならミリオネアの好みにも合うだろう。
「ありがとうございます。良い物を見せて頂きました。私はとても助かりますけれど、アレス様は良かったのですか?
果実酒は、ノーストリアにとって大切なものでしょう?」
「大丈夫ですよ。お気にならさず」
確かにノーストリア地方の交易は、もっと度数の高い飲み物が主流になっていて、果実酒などはあまり見かけない。
「それならば良かったです。ウエストリアに戻ってマテの粉を使えないか少し考えてみます。
今後、アレス様と連絡を取る事が出来ますか?」
人を移動させる様な転移門は、魔道具も大きいので魔力も沢山必要になる。
その為、エルメニアにも数える程しか無いが、手紙や本などを送る転移箱は、大きな街や屋敷に行けば必ずある。
リディアに連絡するには、ウエストリアの屋敷に送って貰えれば良いが、アレス様への送り先が分からない。
「サウストリアのロートアに送って下さい。
ミリオネアに直接送る事は出来ませんが、そこに送って貰えれば自分の所に届くようになっています」
「わかりました」
「アレス・ノアと」
「えっ?」
「その名前で送って下さい。ノーストリアの名よりその名前に馴染みがある」
「ノア様ですね、覚えておきます」
「リディア嬢は、領地に戻られるのですか? 一度、ウエストリアに伺ってみたいですね」
「まぁ、是非いらして下さい。アレス様も歓迎しますわ。
夏のウエストリアもそれは素晴らしいんですよ、森にはフレの花が咲いて、その後の摘み取りや種割りはちょっと大変かも知れませんけれど、、、」
「姉さま、お客様にフレの種割りまで手伝わすつもりなの?」
「それもそうね」
「いや、是非手伝ってみたいですね。これからフレの糸を扱うなら、色々知っておきたい」
「あら、その言葉、絶対忘れないで下さいね」
フレの糸は固い殻に守られているので、この殻を取るのがとにかく大変な作業になる。
この種割りは、男性の仕事になっていて、フレの作業場に行けば、まずこの作業を手伝う事になるだろう。
この茶目っ気のある人が、フレの種割りで、どんな顔をするかちょっと楽しみ思えてくる。
アレス様が何か言いたそうな顔をしていても、家の中の事は話せない。
こちらが何事も無かった様に迎えれば、アレス様も納得できなくても理解はしてくれたみたいだった。
「無理なお願いをしましたか?」
「いや、ここに呼ばれた理由を考えていました、何か見せて頂けるのですか?」
「ええ、気に入って頂けると良いのだけど」
アニタに織って貰った一枚の布を見せる。
彼女の織った布には図柄が織り込まれていて、先日、アレス様に渡したものとは比較にならないほど美しい。
「素敵でしょう?」
「これは?」
「彼女にお願いして織り上げて貰いました。もう少し試行錯誤が必要ですけど、素敵だと思いませんか?」
いつも工房の案内を頼んいる女性を紹介しながら話す。
「はい、確かに素晴らしい」
「良かった。やっぱり一番良い物をと、アニタに織って貰って良かったわ」
「図柄は、お嬢様がお考えになった物ではありませんか、私は頼まれた物を織っただけですから」
「それは本に載っていた物を使わせて貰っただけよ。やっぱり出来上がりは大切よね、アニタに頼んで良かったわ」
彼女は、図柄の織り方を教えると、あっという間に織り上げてしまった。
「織り込んだ図柄も良いですね、刺繍を組み合わせるなど、色々な形が出来そうだ」
「それも面白いかも」
それからは布の軽さをどのくらい残すか、どんな図柄や刺繍が好きかなど、知らない国の話を聞く。
彼は話上手で、それらを聞いているのは楽しかった。
特にこの国では考えられない精霊の話は心惹かれるものがある。
「魔力が無くても精霊達は、私達の願いを叶えてくれるのですか?」
「そうですね、歌を唄ったり、楽器を奏でたり、ちょっとしたお菓子などを渡したり。
精霊達が気に入ってくれれば、魔道具を使うより多くの力を貸してくれるので、大きな船には、楽器を演奏する者が必ず乗っていますよ」
「アレス様の船にも?」
「はい、僕は風の精霊達と相性が悪いらしく、船にはリュートの奏者がいます」
「相性があるのですか?」
「僕の魔力を風の精霊は気に入らないらしい。他の精霊達とはそうでも無いのですが、船を動かすには風の精霊の力が必要なので」
「なんだか楽しそう」
「そうですね、何をするにも精霊の気持ち次第、気まぐれな彼等と付き合いながら生活するのに慣れてしまえばとても楽しいですよ」
しばらく知らない国の話をしていたアレス様が、白い透明な塊が入った小瓶を渡してくれる。
「ノーストリアに少し戻っていたので、リディア嬢に差し上げたい物があります」
「これは何ですか?」
「ノーストリアのゼム地方で、果実酒を作る時に使っているものです。食べても平気ですよ?」
そう言うので、手のひらに瓶の中身を取り出して一つ口に入れてみる。
「甘いわ」
「砂糖から作られた物で、氷砂糖と呼ばれています」
「なぜ果実酒を作る時に使っているのですか?」
「砂糖を使うより果実酒が甘くならないし、溶けるのに時間がかかるから、かな?」
「マテの粉でも同じ物が作れると思います?」
「製法を教える事は出来ませんが、おそらく」
マテの粉からも同じものが作れるなら、冷たい紅茶にも使えるかもしれない。
固く透明な氷砂糖は、冷たい飲み物の中にあっても綺麗だし、溶けて甘くなるならミリオネアの好みにも合うだろう。
「ありがとうございます。良い物を見せて頂きました。私はとても助かりますけれど、アレス様は良かったのですか?
果実酒は、ノーストリアにとって大切なものでしょう?」
「大丈夫ですよ。お気にならさず」
確かにノーストリア地方の交易は、もっと度数の高い飲み物が主流になっていて、果実酒などはあまり見かけない。
「それならば良かったです。ウエストリアに戻ってマテの粉を使えないか少し考えてみます。
今後、アレス様と連絡を取る事が出来ますか?」
人を移動させる様な転移門は、魔道具も大きいので魔力も沢山必要になる。
その為、エルメニアにも数える程しか無いが、手紙や本などを送る転移箱は、大きな街や屋敷に行けば必ずある。
リディアに連絡するには、ウエストリアの屋敷に送って貰えれば良いが、アレス様への送り先が分からない。
「サウストリアのロートアに送って下さい。
ミリオネアに直接送る事は出来ませんが、そこに送って貰えれば自分の所に届くようになっています」
「わかりました」
「アレス・ノアと」
「えっ?」
「その名前で送って下さい。ノーストリアの名よりその名前に馴染みがある」
「ノア様ですね、覚えておきます」
「リディア嬢は、領地に戻られるのですか? 一度、ウエストリアに伺ってみたいですね」
「まぁ、是非いらして下さい。アレス様も歓迎しますわ。
夏のウエストリアもそれは素晴らしいんですよ、森にはフレの花が咲いて、その後の摘み取りや種割りはちょっと大変かも知れませんけれど、、、」
「姉さま、お客様にフレの種割りまで手伝わすつもりなの?」
「それもそうね」
「いや、是非手伝ってみたいですね。これからフレの糸を扱うなら、色々知っておきたい」
「あら、その言葉、絶対忘れないで下さいね」
フレの糸は固い殻に守られているので、この殻を取るのがとにかく大変な作業になる。
この種割りは、男性の仕事になっていて、フレの作業場に行けば、まずこの作業を手伝う事になるだろう。
この茶目っ気のある人が、フレの種割りで、どんな顔をするかちょっと楽しみ思えてくる。
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