26 / 82
第2章
12 フレの工房で
しおりを挟む
約束の日、フレの工房にアレス様がやって来る。
アレス様が何か言いたそうな顔をしていても、家の中の事は話せない。
こちらが何事も無かった様に迎えれば、アレス様も納得できなくても理解はしてくれたみたいだった。
「無理なお願いをしましたか?」
「いや、ここに呼ばれた理由を考えていました、何か見せて頂けるのですか?」
「ええ、気に入って頂けると良いのだけど」
アニタに織って貰った一枚の布を見せる。
彼女の織った布には図柄が織り込まれていて、先日、アレス様に渡したものとは比較にならないほど美しい。
「素敵でしょう?」
「これは?」
「彼女にお願いして織り上げて貰いました。もう少し試行錯誤が必要ですけど、素敵だと思いませんか?」
いつも工房の案内を頼んいる女性を紹介しながら話す。
「はい、確かに素晴らしい」
「良かった。やっぱり一番良い物をと、アニタに織って貰って良かったわ」
「図柄は、お嬢様がお考えになった物ではありませんか、私は頼まれた物を織っただけですから」
「それは本に載っていた物を使わせて貰っただけよ。やっぱり出来上がりは大切よね、アニタに頼んで良かったわ」
彼女は、図柄の織り方を教えると、あっという間に織り上げてしまった。
「織り込んだ図柄も良いですね、刺繍を組み合わせるなど、色々な形が出来そうだ」
「それも面白いかも」
それからは布の軽さをどのくらい残すか、どんな図柄や刺繍が好きかなど、知らない国の話を聞く。
彼は話上手で、それらを聞いているのは楽しかった。
特にこの国では考えられない精霊の話は心惹かれるものがある。
「魔力が無くても精霊達は、私達の願いを叶えてくれるのですか?」
「そうですね、歌を唄ったり、楽器を奏でたり、ちょっとしたお菓子などを渡したり。
精霊達が気に入ってくれれば、魔道具を使うより多くの力を貸してくれるので、大きな船には、楽器を演奏する者が必ず乗っていますよ」
「アレス様の船にも?」
「はい、僕は風の精霊達と相性が悪いらしく、船にはリュートの奏者がいます」
「相性があるのですか?」
「僕の魔力を風の精霊は気に入らないらしい。他の精霊達とはそうでも無いのですが、船を動かすには風の精霊の力が必要なので」
「なんだか楽しそう」
「そうですね、何をするにも精霊の気持ち次第、気まぐれな彼等と付き合いながら生活するのに慣れてしまえばとても楽しいですよ」
しばらく知らない国の話をしていたアレス様が、白い透明な塊が入った小瓶を渡してくれる。
「ノーストリアに少し戻っていたので、リディア嬢に差し上げたい物があります」
「これは何ですか?」
「ノーストリアのゼム地方で、果実酒を作る時に使っているものです。食べても平気ですよ?」
そう言うので、手のひらに瓶の中身を取り出して一つ口に入れてみる。
「甘いわ」
「砂糖から作られた物で、氷砂糖と呼ばれています」
「なぜ果実酒を作る時に使っているのですか?」
「砂糖を使うより果実酒が甘くならないし、溶けるのに時間がかかるから、かな?」
「マテの粉でも同じ物が作れると思います?」
「製法を教える事は出来ませんが、おそらく」
マテの粉からも同じものが作れるなら、冷たい紅茶にも使えるかもしれない。
固く透明な氷砂糖は、冷たい飲み物の中にあっても綺麗だし、溶けて甘くなるならミリオネアの好みにも合うだろう。
「ありがとうございます。良い物を見せて頂きました。私はとても助かりますけれど、アレス様は良かったのですか?
果実酒は、ノーストリアにとって大切なものでしょう?」
「大丈夫ですよ。お気にならさず」
確かにノーストリア地方の交易は、もっと度数の高い飲み物が主流になっていて、果実酒などはあまり見かけない。
「それならば良かったです。ウエストリアに戻ってマテの粉を使えないか少し考えてみます。
今後、アレス様と連絡を取る事が出来ますか?」
人を移動させる様な転移門は、魔道具も大きいので魔力も沢山必要になる。
その為、エルメニアにも数える程しか無いが、手紙や本などを送る転移箱は、大きな街や屋敷に行けば必ずある。
リディアに連絡するには、ウエストリアの屋敷に送って貰えれば良いが、アレス様への送り先が分からない。
「サウストリアのロートアに送って下さい。
ミリオネアに直接送る事は出来ませんが、そこに送って貰えれば自分の所に届くようになっています」
「わかりました」
「アレス・ノアと」
「えっ?」
「その名前で送って下さい。ノーストリアの名よりその名前に馴染みがある」
「ノア様ですね、覚えておきます」
「リディア嬢は、領地に戻られるのですか? 一度、ウエストリアに伺ってみたいですね」
「まぁ、是非いらして下さい。アレス様も歓迎しますわ。
夏のウエストリアもそれは素晴らしいんですよ、森にはフレの花が咲いて、その後の摘み取りや種割りはちょっと大変かも知れませんけれど、、、」
「姉さま、お客様にフレの種割りまで手伝わすつもりなの?」
「それもそうね」
「いや、是非手伝ってみたいですね。これからフレの糸を扱うなら、色々知っておきたい」
「あら、その言葉、絶対忘れないで下さいね」
フレの糸は固い殻に守られているので、この殻を取るのがとにかく大変な作業になる。
この種割りは、男性の仕事になっていて、フレの作業場に行けば、まずこの作業を手伝う事になるだろう。
この茶目っ気のある人が、フレの種割りで、どんな顔をするかちょっと楽しみ思えてくる。
アレス様が何か言いたそうな顔をしていても、家の中の事は話せない。
こちらが何事も無かった様に迎えれば、アレス様も納得できなくても理解はしてくれたみたいだった。
「無理なお願いをしましたか?」
「いや、ここに呼ばれた理由を考えていました、何か見せて頂けるのですか?」
「ええ、気に入って頂けると良いのだけど」
アニタに織って貰った一枚の布を見せる。
彼女の織った布には図柄が織り込まれていて、先日、アレス様に渡したものとは比較にならないほど美しい。
「素敵でしょう?」
「これは?」
「彼女にお願いして織り上げて貰いました。もう少し試行錯誤が必要ですけど、素敵だと思いませんか?」
いつも工房の案内を頼んいる女性を紹介しながら話す。
「はい、確かに素晴らしい」
「良かった。やっぱり一番良い物をと、アニタに織って貰って良かったわ」
「図柄は、お嬢様がお考えになった物ではありませんか、私は頼まれた物を織っただけですから」
「それは本に載っていた物を使わせて貰っただけよ。やっぱり出来上がりは大切よね、アニタに頼んで良かったわ」
彼女は、図柄の織り方を教えると、あっという間に織り上げてしまった。
「織り込んだ図柄も良いですね、刺繍を組み合わせるなど、色々な形が出来そうだ」
「それも面白いかも」
それからは布の軽さをどのくらい残すか、どんな図柄や刺繍が好きかなど、知らない国の話を聞く。
彼は話上手で、それらを聞いているのは楽しかった。
特にこの国では考えられない精霊の話は心惹かれるものがある。
「魔力が無くても精霊達は、私達の願いを叶えてくれるのですか?」
「そうですね、歌を唄ったり、楽器を奏でたり、ちょっとしたお菓子などを渡したり。
精霊達が気に入ってくれれば、魔道具を使うより多くの力を貸してくれるので、大きな船には、楽器を演奏する者が必ず乗っていますよ」
「アレス様の船にも?」
「はい、僕は風の精霊達と相性が悪いらしく、船にはリュートの奏者がいます」
「相性があるのですか?」
「僕の魔力を風の精霊は気に入らないらしい。他の精霊達とはそうでも無いのですが、船を動かすには風の精霊の力が必要なので」
「なんだか楽しそう」
「そうですね、何をするにも精霊の気持ち次第、気まぐれな彼等と付き合いながら生活するのに慣れてしまえばとても楽しいですよ」
しばらく知らない国の話をしていたアレス様が、白い透明な塊が入った小瓶を渡してくれる。
「ノーストリアに少し戻っていたので、リディア嬢に差し上げたい物があります」
「これは何ですか?」
「ノーストリアのゼム地方で、果実酒を作る時に使っているものです。食べても平気ですよ?」
そう言うので、手のひらに瓶の中身を取り出して一つ口に入れてみる。
「甘いわ」
「砂糖から作られた物で、氷砂糖と呼ばれています」
「なぜ果実酒を作る時に使っているのですか?」
「砂糖を使うより果実酒が甘くならないし、溶けるのに時間がかかるから、かな?」
「マテの粉でも同じ物が作れると思います?」
「製法を教える事は出来ませんが、おそらく」
マテの粉からも同じものが作れるなら、冷たい紅茶にも使えるかもしれない。
固く透明な氷砂糖は、冷たい飲み物の中にあっても綺麗だし、溶けて甘くなるならミリオネアの好みにも合うだろう。
「ありがとうございます。良い物を見せて頂きました。私はとても助かりますけれど、アレス様は良かったのですか?
果実酒は、ノーストリアにとって大切なものでしょう?」
「大丈夫ですよ。お気にならさず」
確かにノーストリア地方の交易は、もっと度数の高い飲み物が主流になっていて、果実酒などはあまり見かけない。
「それならば良かったです。ウエストリアに戻ってマテの粉を使えないか少し考えてみます。
今後、アレス様と連絡を取る事が出来ますか?」
人を移動させる様な転移門は、魔道具も大きいので魔力も沢山必要になる。
その為、エルメニアにも数える程しか無いが、手紙や本などを送る転移箱は、大きな街や屋敷に行けば必ずある。
リディアに連絡するには、ウエストリアの屋敷に送って貰えれば良いが、アレス様への送り先が分からない。
「サウストリアのロートアに送って下さい。
ミリオネアに直接送る事は出来ませんが、そこに送って貰えれば自分の所に届くようになっています」
「わかりました」
「アレス・ノアと」
「えっ?」
「その名前で送って下さい。ノーストリアの名よりその名前に馴染みがある」
「ノア様ですね、覚えておきます」
「リディア嬢は、領地に戻られるのですか? 一度、ウエストリアに伺ってみたいですね」
「まぁ、是非いらして下さい。アレス様も歓迎しますわ。
夏のウエストリアもそれは素晴らしいんですよ、森にはフレの花が咲いて、その後の摘み取りや種割りはちょっと大変かも知れませんけれど、、、」
「姉さま、お客様にフレの種割りまで手伝わすつもりなの?」
「それもそうね」
「いや、是非手伝ってみたいですね。これからフレの糸を扱うなら、色々知っておきたい」
「あら、その言葉、絶対忘れないで下さいね」
フレの糸は固い殻に守られているので、この殻を取るのがとにかく大変な作業になる。
この種割りは、男性の仕事になっていて、フレの作業場に行けば、まずこの作業を手伝う事になるだろう。
この茶目っ気のある人が、フレの種割りで、どんな顔をするかちょっと楽しみ思えてくる。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる