エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第3章

16 トレポレの街(3)

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 トレポレの祭りでは、中央の広場から東西南北にびっしりと屋台が伸びていて、色々な物を売っている。
 暗くなると屋台に明かりが灯り、人々が集まって一気活気が出る。

 屋台には、食事を扱う店から、色々な商品を扱う店や、子どもが遊べる様なお店まであるので、人々は、屋台で食べ物を買ったり、飲んだりして食事を済ますかと思えば、色々なお店で買い物を楽しむ。

 最初は祭りを楽しんでいたサイラス様とイグルス様も、人の多さと喧騒に疲れたのか、人混みから逃れ宿に戻ってしまう。

 ザイード様もしばらく屋台を見て回っていたようだが、結局戻ってきて、屋台の裏の方で休んでいる。

 案内も出来なくて申し訳ないが、街の子ども達も入れ代わり立ち代わりやって来ては、声をかけ、手を振っていくし、色々な街から集まってきた人とも、気軽に話が出来る機会でもあるので、それも大切にしたい。

「ザイード様、ここにいらっしゃるなら是非食べて下さい。
 ごめんなさい案内もしないで、それに宿の方に戻って下さってもいいのですからね」

 マルタ特性のスープとパンを運び、サイラス様達が居なくなってしまったので、街の案内が出来ない事を詫びる。

「大丈夫ですよ、ここに居ても街の様子は分かります。気にしないで、それより貴方の方が忙しそうだが、大丈夫ですか?」

 気遣うようにそっと頬に指がふれる。

「ええ、ありがとうございます」

 人の熱気に当てられたのか顔が赤くなるのが分かる。

「私は楽しんでいるから、気にする必要はない」
「分かっていますけど、街の中を見なくていいのですか?」

「人が多いからな、あまり得意な方ではない。がここで人の動きを見ているのは面白い」
「本当に?」
「ああ」
「それなら良かったです」

「貴方も楽しそうだ」
「はい。私はトレポレの街に来るのはこの時だけなので、年に一度の挨拶のようなものですもの」

「禁じられている訳ではないだろう?」
「もちろん、只、屋敷から馬車でトレポレの街まで来るには丸一日かかります。
 必要なものはイリノアの街で手に入りますし、メルニアの街に行くと足がついつい止まってしまいます」

「その気持ちは判るな」
「イグルス様やサイラス様もメルニアの方が気に入っておられるみたいですね」

「元々、イグルスは落ち着いた場所を好む。サイラスは、今、他に気になっている事があるせいだろうな」

「気になっていること?」
「暗くなってから、サイラスが本来の姿で外に出ていることは知っておられますか?」

「はい、朝方帰ってきては、居間でよく眠っておられますよね」
「屋敷の周りをウロウロしているだけでなく、イリノアの方まで行っているらしい」

「街の方に、ですか?」

 暗くなると人は、街の外に出ない。
 魔物が襲ってくることがあるからで、街の中にいれば安全だが、外にいると命を落とす可能性がある。

 ウエストリア家の周辺は、守りの魔道具が置かれているが、イリノアの街までの道を守るものではない。

「勝手なことをさせて申し訳ない」
「最近、街道沿いで魔石が残っているのは、サイラス様のおかげですか?」

「知っているのですか?」
「そうような知らせが入っています」

 先日、子ども達が川で溺れていたのも魔石を探して川に近づき過ぎたせいだった。

「サイラスが遊んでいたのだと思う」
「危険ではありませんか?」

「エルメニアで、自分たちが危険だと感じた魔物に会ったことはありません」

 彼らが強いことは聞いているが、普段とても穏やかな人なのでこういう時は驚かされる。

「それなら大丈夫です。私が知っていることを、父が知らないとは考えられません。
 父が何も言っていないのなら、問題ないのだと思いますわ」

「それならば、良かった」
「ザイード様?」

「ん?」
「サイラス様はどうしてイリノアの街に?」

「気が付いていないのですか?」
「少しは、感じていましたけれど、、、」
「サイラスは相応ふさしくないでしょうか」

「ごめんなさい、そういう意味ではないの。獣人の方は、強い人を選ぶと聞いていたので」
「それは誰から?」

「誰からと云うより、以前、トルテの事を調べていた時に読んだ本の中かしら」
「ああ、なるほど」

「違うのですか?」
「いや、間違っている訳ではありませんよ。特に獣人の女性はね、強い相手を選ぶ」

「女性が、ですか?」
「強い子孫を残したければそうなります」

「まぁ、、、この話はここで止めておきます」

 困った顔をして話をしていた人に、未婚の女性が聞き出すような事ではない。
 顔が真っ赤になっているのが分かるし、恥ずかしいので彼の前から逃げ出す。

『お前はもう少し考えてから行動しなさい』

 昔、父によく言われた言葉を思い出す、今日だけは父の言葉を認めるしかない。
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