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第5章
09 ザイード
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「ザィード、、、」
愛しい人に呼ばれたような気がするのに、何故か嫌な気配がする。
全身の毛が逆立つ様な不快な気配。
なんだこれは、と思った瞬間、見覚えのある男が目の前に現れる。
「お嬢がいなくなりました」
彼は自分を見つけると、リディアが言った言葉が頭をよぎる。
『必ず、どこにいても』
その場で獣の姿になり、耳を澄ます。
多くの音や匂いの中からたった一人の気配を探すが、王宮の奥で途切れた匂いはどこにも続いていない。
ざわざわと嫌な予感がするなか、僅かに自分の魔力を感じる。
ウエストリアで彼女に渡した髪飾りに残した自分の魔力。
『見つけた』と思った瞬間、獣の姿で走り出すと、後ろからはサイラスとイグルスも同じように続く。
王都の第一層から街の中を抜け、第二層の城門を通り、そのまま街道を走り続ける。
彼女がいつも身に付けていたリングを護衛が持っていたので、魔道具だと知っていた敵があえて外したとしても、ただの髪飾りに魔力が残っているとは知らないはずで、髪飾りを囮にしているとは考えられない。
必ずこの先に、リディアがいるはずだった。
街道の先、追っていたものを見つけるが、彼女がどんな状況か分からないので、安易に近づけず思案していると、同胞たちの気配を感じる。
人は難しくとも、馬の足は止められる。
森の狼たちの意識を掌握し自分に従わせ、馬車の足を止めて時間を稼ぐ。
荷馬車の前に野生の狼が現れたので、馬が驚いて止まると、荷馬車の中から人が何かを担いで森の中に入って行くのが見える。
男達が矢を放って彼を攻撃しようとしているが、野生の狼が気になって追って行く事も出来ないようだった。
荷馬車の周りにいた男達をサイラスとイグルスに任せて急いで森の中に向かうと、半人がリディアを包むベールのような布を外している所だった。
彼女を腕に抱き、目の前にいる男に問いかける。
「何があった」
「分からない、僕が行った時はもうこの中に入れられていて、でもカップがあったから、何か飲まされたんだと思う」
しかし自分には、そういった知識は無い。
それに腕の中の彼女はまるで死人のように冷たくて、呼吸もほとんど感じられない。
そっと唇を重ねて自分の魔力を彼女の中に入れる。
多少の毒であれば、自分が与える魔力は彼女を守ってくれるはずだったが、強い魔力は逆に、毒にも働く可能性がある。
知識のある人に託すしか無いので、腕に抱いて街道に戻ると、ジャルドが数人の護衛達と敵を制圧していた。
「お嬢は?」
「怪我は無い、が毒を飲んだのでは無いかと言っていた」
ジャルドが一瞬嫌な顔をするが、リディアの左手にリングを戻したかと思うと、緑色の小瓶を渡される。
「これを飲ませてください」
瓶の中身を口移しで飲ませるが、彼女に変化は無い。
護衛がここで出来る事は無いと言うので、そのまま彼女を屋敷に連れて帰る。
数ヶ月ぶりにあった人が、自分の腕の中でどんどん冷たくなっていくため、何も考えられず、ただ、目の前の人に従う。
屋敷に戻り、彼女の周りに癒しの魔道具が置かれるが変化はない。
自分の魔力があるので何となくどんな状態か感じられるが、ドロドロとした気持ちの悪いものが彼女の中にあって、自分の魔力と自分の知らない不思議な力がギリギリの所で彼女を守っていた。
それでもこんな状態が続けば、彼女はその黒く気持ちの悪いものに囚われてしまいそうだった。
「どうすれば、、、」
「分からない。これは単純な毒ではない、解毒出来るものでは無いんだ」
ウエストリア伯がしばらくリディアの側にいたが、そう言った後、侍女に後を任せて部屋を出る。
「ロニ、一時間毎にリディアに回復薬を飲ませてくれ」
「承知しました」
「私がここで出来ることは無い、後は頼んだよ」
伯がそう言って姿を消した深夜、王都で大きな爆炎が起こった。
それが何だったのか分からないが、その時から彼女の中にあった黒くドロドロしたものが、弱くなったように感じる。
愛しい人に呼ばれたような気がするのに、何故か嫌な気配がする。
全身の毛が逆立つ様な不快な気配。
なんだこれは、と思った瞬間、見覚えのある男が目の前に現れる。
「お嬢がいなくなりました」
彼は自分を見つけると、リディアが言った言葉が頭をよぎる。
『必ず、どこにいても』
その場で獣の姿になり、耳を澄ます。
多くの音や匂いの中からたった一人の気配を探すが、王宮の奥で途切れた匂いはどこにも続いていない。
ざわざわと嫌な予感がするなか、僅かに自分の魔力を感じる。
ウエストリアで彼女に渡した髪飾りに残した自分の魔力。
『見つけた』と思った瞬間、獣の姿で走り出すと、後ろからはサイラスとイグルスも同じように続く。
王都の第一層から街の中を抜け、第二層の城門を通り、そのまま街道を走り続ける。
彼女がいつも身に付けていたリングを護衛が持っていたので、魔道具だと知っていた敵があえて外したとしても、ただの髪飾りに魔力が残っているとは知らないはずで、髪飾りを囮にしているとは考えられない。
必ずこの先に、リディアがいるはずだった。
街道の先、追っていたものを見つけるが、彼女がどんな状況か分からないので、安易に近づけず思案していると、同胞たちの気配を感じる。
人は難しくとも、馬の足は止められる。
森の狼たちの意識を掌握し自分に従わせ、馬車の足を止めて時間を稼ぐ。
荷馬車の前に野生の狼が現れたので、馬が驚いて止まると、荷馬車の中から人が何かを担いで森の中に入って行くのが見える。
男達が矢を放って彼を攻撃しようとしているが、野生の狼が気になって追って行く事も出来ないようだった。
荷馬車の周りにいた男達をサイラスとイグルスに任せて急いで森の中に向かうと、半人がリディアを包むベールのような布を外している所だった。
彼女を腕に抱き、目の前にいる男に問いかける。
「何があった」
「分からない、僕が行った時はもうこの中に入れられていて、でもカップがあったから、何か飲まされたんだと思う」
しかし自分には、そういった知識は無い。
それに腕の中の彼女はまるで死人のように冷たくて、呼吸もほとんど感じられない。
そっと唇を重ねて自分の魔力を彼女の中に入れる。
多少の毒であれば、自分が与える魔力は彼女を守ってくれるはずだったが、強い魔力は逆に、毒にも働く可能性がある。
知識のある人に託すしか無いので、腕に抱いて街道に戻ると、ジャルドが数人の護衛達と敵を制圧していた。
「お嬢は?」
「怪我は無い、が毒を飲んだのでは無いかと言っていた」
ジャルドが一瞬嫌な顔をするが、リディアの左手にリングを戻したかと思うと、緑色の小瓶を渡される。
「これを飲ませてください」
瓶の中身を口移しで飲ませるが、彼女に変化は無い。
護衛がここで出来る事は無いと言うので、そのまま彼女を屋敷に連れて帰る。
数ヶ月ぶりにあった人が、自分の腕の中でどんどん冷たくなっていくため、何も考えられず、ただ、目の前の人に従う。
屋敷に戻り、彼女の周りに癒しの魔道具が置かれるが変化はない。
自分の魔力があるので何となくどんな状態か感じられるが、ドロドロとした気持ちの悪いものが彼女の中にあって、自分の魔力と自分の知らない不思議な力がギリギリの所で彼女を守っていた。
それでもこんな状態が続けば、彼女はその黒く気持ちの悪いものに囚われてしまいそうだった。
「どうすれば、、、」
「分からない。これは単純な毒ではない、解毒出来るものでは無いんだ」
ウエストリア伯がしばらくリディアの側にいたが、そう言った後、侍女に後を任せて部屋を出る。
「ロニ、一時間毎にリディアに回復薬を飲ませてくれ」
「承知しました」
「私がここで出来ることは無い、後は頼んだよ」
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