エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第5章

08 ジャルド(2)

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 その予感は外れることが無く、その日から仕事を承諾した事を後悔した。
 辞めてやると毎日思い、明日は出て行ってやると眠りに着くが、何故か屋敷を離れる事が出来なかった。

 妙に居心地が良かったこと。
 何時でも出ていけるという約定があったこと。

 これを彼が予想していたのなら、自分の主人あるじは本当に嫌な男だと思う。
  
 ダラダラと数年経ち、それなりに訓練もこなせるようになってはいたが、それでもお嬢の護衛になるつもりは無かった。
 何となく留まっていただけで、いつかは出て行くと思っていたし、誰かを守るなんて自分には向いていない。

 小さな子どもは、少女になっていたが、相変わらずお転婆な子どもで可愛いとは思うがそれだけだった。
 その後、屋敷にきた男の子も、護衛など必要としない事は分かっている。

 あの日、領主と奥方が王都に行ってしまい、森からの迎えが来るまでの一瞬の間だった。
 曲者が屋敷を囲み、お嬢をさらうために襲ってきた。

「ダメ、外へ。中にいるとみんなが困るから」

 たまたま側にいたので、お嬢達を連れて隠れようとすると、外に出ると手を引かれた。

「アル、大丈夫よ」

 弟に声をかけていても、自分を掴んだ右手が震えていても、屋敷を背に姿を見せ、敵に自分がここにいると主張していた。

「ジャルド、側にいてくれてありがとう」

 森から来た人が敵を一掃した後、やっと安心した顔をして、少女がニッコリ笑ってみせた。

 その時に決めた。
 このお転婆な少女の側にいてみようと、少しだけ手を貸そうと思った。

 森から来た人の腕の中で、やっと安心して泣いている姿を見て、こんな風に守ってやることは出来なくても、彼女が真っすぐ立っていられるように側にいることはできる。
 その位なら自分でもどうにかなる。

 そのうち訓練するよりお転婆な少女の側にいる事が多くなり、少女が11歳の時、正式に護衛となった。
 それから五年、彼女を見失ったことはない。

 それが王宮の中で、存在が感じられなくなるとは思っても見なかった。

「くそ!」

 今日、お嬢は后妃に呼ばれて王宮に来ていた。
 王宮で妙な噂が広がっていたため、それが誤りであると話をするために。

 嫌な感じがする。
 意識を広げるが、お嬢を見つける事が出来ないため、アル坊が作ったリングを探してみる。

 すると王宮の東側で見付けられたので、リングを付けた女中を捕まえるが、拾ったと言うばかりで話にならない。

 これが計画的な物なら、おそらく時間の余裕は殆ど無い。
 連れていかれ、遠くに運ばれてしまうとどうにもならない。

 自分が探せないのなら、自分以上の力を持つ者に頼むしか無い、それも今すぐ。
 その人が、北の城門付近にいる。

「お嬢がいなくなりました」

 言い終わらないうちに目の前に銀色の狼が現れる。
 次いで変化した二頭の狼と一緒に走り出したので、必死に後を追う。

 彼にお嬢を見つける事が出来なければ、それは二度とお嬢に会えなくなるのと同じ意味をもつ。
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