悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り

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アンネローゼ✖️2vs王子になりますか?

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「社交ダンス部の双子の先輩、結構大会に参加してるって聞いてたのよね」
「思い出したわけだ」
「その先輩なら、平民の主人公になったとしても、ダンスが出来ておかしくないかな。って」

  私は邸に帰りながらロバートに自分の推理を伝えていく。万が一王子が奇襲をかけてきても、怪しまれないようにしなくてはならない。アンネローゼと語り合って、王子はかなりやばいと認識できたのである。

「3年生なら、俺らより勉強できるもんな。社交ダンスやってるなら、そっち方面でマナーも習ってるかもね」

  ロバートの推測は、なかなかごもっともかもしれない。

「後ろにいたのかな?」

    あの日、あの横断歩道に、高校の生徒がたくさん歩いていた。怪我をした人もいただろうけど、私たちのように死んでしまった生徒もいただろう。

「そんだけ社交ダンスしてたんなら、怪我しただけでも死にたくなるんでない?」

  私は、その言葉にハッとした。それもそうだ、怪我をした箇所によっては、死にたくなるかもしれない。

「どっち、だろう?」

  口にしてしまってから私は後悔した。どっち、って、何が?
  厩舎での主人公は、獲物を狙うハンターの如く、私にとってはとても怖い雰囲気を醸し出していたから、もしかすると転生先で逆恨みをされている。とも限らない。
  主人公とはいえども、平民だ。私は悪役令嬢になるかもしれないけど、公爵令嬢で王子の婚約者だ。ものすごく恵まれている。今のところ王子に阻害されてはいるが、やるきになれば毎晩でもダンスパーティを開くことができるだろう。ドレスだって、好きなだけ新調できる。そんな私を羨んでいないとは言いきれない。
  ないよりは、あった方がいいに決まっている。

「忘れて」

  私は振り返らないでロバートに言った。一瞬でも、そんな事を考えた自分が嫌になった。悪役令嬢と言うより、非道だ。
  邸に戻り、リリスに着替えを手伝ってもらって、家庭教師たちとお茶を飲みながら談笑したが、まったく気分は晴れなかった。



  昼休みや放課後は、自主練習が認められている。特にダンスホールは、人気だ。
  私は、王子の策略をぶっ潰す(口悪いですね)為にここに来た。制服を着ているためか、ホールに入ってもだも私に気づかない。ふむふむ、いい感じだ。
  ダンスの授業は学年ごとに行われるけれど、昼休み放課後の自主練習は、学年がご茶混ぜで、かなりカオスな様子だった。平民も貴族も関係ない。ただダンスがしたい生徒が集まりひたすら踊っているのだ。楽曲は、レコードから流れている。それを操作するのは教師だった。

「ダンスの先生かな?遠目で分かりにくいけど」

  よく見ると、制服でない人もいるので、生徒に混ざって先生方も踊っているようだ。中庭でバスケとか、パレーボールとかでなく、ダンスホールで社交ダンスとはなんて優雅な世界なんだろう。とか、感心している場合では無い。
  踊っている顔ぶれを見て、私は内心ガッツポーズをした。見間違えるわけが無い。王子が踊っている。婚約者である私を、社交界で踊らせない。という放置プレーをした張本人が、女子生徒と手を繋いで踊っているのである。

「許さないんだから」

  私は、闘志が燃えた。ガッツリ踊ってやる!
  いわゆる壁の花だったからだろうか?不意に誰かが手を差し伸べてきた。いわゆるお誘いである。私はその手を取って、ホールに滑り出した。今日は初心者向けのワルツだったようで、ゆったりとした踊りながらも、基本のステップを確認するように、特に1年生は足元を見まくっているようだ。
  そのせいなのか、私がホールの中央に進んでいることに誰も気がついていない。私の手を取った男子生徒には悪いけれど、完全に私がリードをしていた。
  踊り始めてから気がついたらしく、男子生徒は目を白黒させていたので、私は思わず笑ってしまった。

「そんなに緊張なさらないで」

  顔を近づけてそっと、囁いた。髪をゆいあげていないから、ステップを踏む度に背中で長い髪が揺れるのがおもしろい。生まれて初めての感覚に、私は夢中になっていた。
  だがしかし、私はターゲットをしっかりと見据えてステップを踏んでいるのだ。パートナーになった男子生徒には申し訳ないが、リードしているのは完全に私。移動の方向も、私が主権を握っているのだ。

  そうして、私はしっかりと、ハッキリと、王子の目の前で見知らぬ男子生徒をパートナーにして、ダンスを披露したのである。
  王子が、相手をしているのは、おそらく3年生の女子生徒だろう。ヴィオレッタ様ではなかった。私は、王子に向けて睨むでもなく、怒るでもなく、満面の笑みを見せてやった。

  曲が変わればパートナーも変わる。
  王子は、近くにいた女子生徒と再びパートナーを組んで踊っていた。私も、すぐそばにいた男子生徒とパートナーを組んだ。もちろん、誰だか知らない。踊り方からして貴族のご子息っぽい。リードの仕方が手馴れている。

「誰かと思ったらアンネローゼ様ではありませんか」

  パートナーになった男子生徒は、とても白々しく私の名前を呼んだ。

「あら、私の名前をご存知ですの?お差し支えなければ、お伺いしても?」

  私もわざとらしく聞いてみた。

「サーシスと申します」

  わざとらしい笑みがなかなかだ。こやつ、私の意図が分かっているらしい。

「お上手ですのね。先輩かしら?」
「3年生なんですよ。こうしてあなたと踊れるなんて夢のようだ」
「あら、嬉しい。それなら毎日でもここに来ようかしら?」

  私は、あえて王子のそばに来た時にそう答えてやった。お互い動きまくっているから、話の内容は聞き取れないだろう。だから、あえてサーシスの声は聞こえないようにして、私の返事だけを聞こえるようにステップを駆使しているのだ。これは本当に、パートナーもそれなりに踊れないとできることではない。

  
  昼休みの時間は有効だ。
  レコード係をしていた教師が終了の合図を出した。それに従い生徒たちはパートナーに一礼をする。
  そうして解散をして生徒たちは教室に戻るのだが、

「アンネローゼ、なぜここにいるんだ」

  ダンスホールに声が響き渡った。
  言わずもがな、王子の声だ。分かっちゃいるけどめんどくさいやつだよ。まぁ、私があえて煽りに来たんだけどね。

「あら、アラン様ではありませんか」

  ご機嫌麗しゅうと、私はスカートをつまんで淑女の礼をした。
  もちろん、王子はそれに応じなかった。応じないだろうとは、分かっていたけどね。
  だけど、残念なことにレコード係の教師と、生徒に混ざって踊っていた教師がいる。当然み咎められた。

「アラン殿礼儀です」

  踊っていた教師が、割と近いところから注意をしてきた。学校の規則があるのだ。

「っ、なぜここにいる?」

  王子は、あえて名前を呼ばす、本題だけを突きつけてきた。プライドの高いやつ。

「もちろん、ダンスの練習ですわ。私が成績優秀者を狙っているのは、この間ご説明しましたわよね?」

  ニッコリ微笑んで、ハッキリと、この場にいる全員に聞こえるように言ってやった。

「アンネローゼ、君は僕の…」

  私は、右手の人差し指で王子の唇を軽く押えた。

「ここは学校です。肩書きをひけらかすのは野暮でございましょう?まして学校の規則もございます。まさかとは思いますけれど、アラン様自らがお守りになれないと?」

   私は一言一言をハッキリとした口調で言ってやった。
  ダンスホールに集まっていた生徒たちは、私が来ていたことに気がついてざわめき始めた。王子の密かな指示は平民の1年生にはあまり響いていなかったらしく、ざわついているのはほとんど3年生の貴族の子息令嬢たちのようだった。

「学校内では、学校の規則に従うのがよろしいかと思いますけれど?」

  私がもう一度規則、と、ハッキリ言ったものだから、王子は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。これ以上何かをいえば、自らが規則を破ったと認めることになるのだろう。
  私がニッコリ微笑むと、近くにいた生徒たちは理解したようだ。王子の指示より、学校の、規則を守るべきである。と。





「スッキリしたわよー」

  私は帰りの馬車の中で声高らかに宣言した。リリスが驚いた顔をしたあと、呆れた声で聞いてきた。

「よろしいのですか?王子の機嫌を損ねたのでは?」
「かまわないわよ。どーせ社交界では王族の偏愛のせいで不自由極まりないんですもの。それを学校にまで持ち込もうとした王子が悪いのよ。だいいち、それを理由に実際に圧力をかけようものなら、王族の威信は地に落ちるわ」

  私はハッキリ言ってやった。正直言って、国王陛下は政治的手腕に長けている。外交もそつなくこなす。国民のためを思って国を納めている。素晴らしい方だ。一つだけ欠点を言えば、ヤンデレ。
  そう、女性への愛し方がだいぶおかしい。
  それさえ目を瞑れば、なんら問題はない。
  犠牲になるのは、国王陛下の愛する妻だけ。
  完璧な人物なんているはずがない。どこかに欠点があるはずなのだ。それがヤンデレなだけ。いいじゃないか!被害は最小限に抑えられるのだから!

「そうしますと、ますます社交界でアンネローゼ様は孤立すますわね」

「望むところよ!それこそ、私の思うつぼ。学校内で私の評価が上がれば上がるほど、王子は私への執着を強くするはずよ!」
  それこそが狙いなんだから。




「なんで、王子の、ヤンデレ加速させんのが狙いなんだよ?」

  帰り馬車の中での私の力説を聞いていたロバートこと井上貴志は、私の狙いが分からなくていつもの日記タイムに窓下にやって来た。

「もし、仮によ。主人公が王子を攻略対象にしていて、フラグが回収されているとするじゃない?アンネローゼは平民は側室にしかなれないって言ってたのよ」
「出自の差は埋められないか」
「側室は公式行事には出られないのよ。でも、それってかなり美味しいポジションなのよね。贅沢はできる。面倒なことはしなくていい。王族からしたら、ヤンデレしまくりなわけ。だって、自分だけが愛でて、囲うことが公に認められてるんだもん」

  そう、側室こそが王族最大のヤンデレの巣なのだ。愛する女性を自分だけのものにして、誰にも見せなくていい。むしろ、外に出さない事の方が推奨されているのが側室制度。

「なんで、それ狙い?」
「アンネローゼから聞いたのよ。破滅エンドで教会に出家しても、お金を詰めば贅沢三昧。まして、公爵領地内にある教会だと、事実上決定権は公爵家にあるから、アンネローゼが一番偉いことになるんだって」
「なんだそれ?」
「日本人の思う、お寺で修行とは全く違うみたい」

  私は、改めて思う、この乙女ゲームのエンディングに、『末永く』の言葉がないことの意味を。

「主人公は、王子と結婚出来て、幸せにはなれるんだけどずーっと幸せが続く訳では無いのよ。側室にしかなれなくて、立場的には日陰の身にしかなれないのよね」
「夢も希望もないな」
「悪役令嬢も、たいした破滅エンドじゃないしねぇ」

  地獄の沙汰も金次第な破滅エンドって、別に避けなくてもいーじゃん。って思ってしまったのよね。
  だから、ヤンデレ王子にかるーく意趣返しをしてやる事に決めたのだ。JKなめんなよ。
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