6 / 17
第6話 それからの
しおりを挟む
ヒートが明けて、将晴は石崎の運転する車に乗っていた。着てきた服はクリーニングがされていた。きちんとアイロンまで、かけられているシャツは、自分のものとは思えなかった。
ボディバックを身につけて、地下駐車場から外に出ると、ゴールデンウィーク中らしい初夏の陽気で当たりが眩しい。
「自宅まで送るから」
石崎が、そう言う。
「え、やだ、やめてくれ」
将晴は答える。
「じゃあ、どこがいい?」
将晴はすっかり自分を出して喋っていた。ヒートの間そばにいられたのだ、あれだけの姿と声を知られてしまった相手に今更取り繕う気にはなれない。
「ショッピングモールがいい」
「いいの?混んでるよ?」
「その方がいい」
バックミラー越しに石崎が様子を伺ってくるけれど、将晴は気にしないことにした。
ショピングモールは混んでいて、駐車場の空きを見つけるのに苦労した。何故か石崎は将晴を連れて建物に入っていく。
「なに?」
「記念に服を買ってあげるから」
「はぁ?」
戸惑う将晴に気遣うことなく、石崎はショピングモールの中にある店へと足を進める。男性向けのカジュアルブランド。ちょっと背伸びした高校生に人気ではある。
「この辺がいいかな?」
将晴のサイズを把握しているのか、適当に合わせて会計を済まされた。
「次は夏だろう?」
紙袋を将晴に渡しながら、石崎は耳元でそんなことを言う。それを聞いて、将晴の喉が上下する。
「混んでるから、買ってあげる」
石崎はファストフードでパーティセットを買って将晴に渡してきた。
「三十分程度で家に着くんだよね?夕飯にもなるから、お母さんと食べてね」
随分とおおきな袋を将晴に持たせて、ついでに季節限定フレーバーの、シェイクを口に押し付ける。
「…………」
将晴は無言で受け取ると。もう、両手がいっぱいだ。普段なら、ここには自転車で来るのだけれど、今日は歩きで帰る。いささか、荷物が多いけれど、自宅に送って貰う訳には行かない。祝日で、母親が家にいる。
既に、ヒートが明けたから。とメッセージを送ってあるのだ。昼ごはんはいらないとも連絡をしてるから、もしかしたら居ないかもしれないけれど、近所の人に、見られるのは宜しくない。
既に初夏の日差しの中、徒歩で三十分は些かキツかったが仕方がない。玄関は鍵がかかっていて、母親は不在だった。
買い物にでも出ているのかと思って、パーティセットは念の為冷蔵庫にしまいこむ。飲み終わったシェイクの容器をゴミ箱に捨てて、2階の自室に入ると、日差しのせいでこもっていた。
窓を開けて換気をする。
貰った紙袋の中をベッドに出すと、夏らしい色合いのシャツと通年履けそうな色合いのズボン。それとカーディガンがあった。簡単に値札を外されてはいるが、あの店の大体の値段は知っている。いきなりこんなに増えたら母親が気にするだろう。
将晴はとりあえず、カーディガンと、ズボンだけタグを外してタンスにしまった。
シャツは紙袋にいれて、とりあえずベッドのしたに隠した。
ボディバックを開けると、見知ら封筒が入っていた。スマホを、出した時には気づかなかったのか、なかったのか。初日の石崎の手際を考えると、将晴が気づかなかったのは仕方がなかったと言い訳する。
「なんか、入ってる」
封筒の中に固いものがあるのが分かった。机の上で中身を出すと、プリントされた用紙とクレジットカードだ。
アルバイト代を振り込むための口座らしい。
「……なん、で…」
クレジットカードに記載されている名前を見て、将晴は血の気が引いた。まさか、ここまで調べられているとは思わなかった。
クレジットカードの名義は、小山田将晴。
別れた父親の姓で作られていた。
生活保護の監視から逃れるためには、確かにこれは有効かもしれない。ただ、どうやって作ったのかが疑問ではある。
同封されていた用紙を読んで、ネットバンクの口座を確認すると、高校生のアルバイト代としてはずいぶんと破格な金額が入っていた。
「───────!」
思わず背筋が伸びた時、タイミングよくスマホにメッセージの着信があった。横目で見ると、やはり石崎からだった。ネットバンクだから、アクセスすれば通知ぐらいいくのだろう。
メッセージを見れば、予想通りの言葉が届いていた。
「こんなの、どうしろって」
将晴が覚えていないだけで、随分とアルファが見に来てくれていたらしい。将晴に与えられた金額を考えると、一体いくら儲けたのか、恐ろしくなる。
何となく首に手をやって、知らぬ感触に肩が震えた。
「忘れてた」
新しいネックガードをつけていたのだ。指紋認証でロックが解除され、アプリと連動してヒートの時期などを計測してくれる最新モデルだった。
もちろん高価だ。
コテージ利用者には格安で提供してくれた。そう説明するように言われた。これで測定される数値を提供することで、格安で利用出来る。そういうことにしておく。秘密が増えたが仕方がない。
あちらには色々知られすぎていて、逃げようかないのだ。将晴が逃げれば、母親に、どんなに影響がいくのか、高校生の将晴には皆目見当もつかない。
だからこそ、怖いのだ。
パーティセットを見て、母親は驚いたけれど、石崎に言われた通りにバイトを始めたといえば、すんなりと受け入れてくれた。オメガが働ける先は少ない。だから、コテージでの雑用と、言っておけば大抵納得されるそうだ。現に母親は納得した。
ゴールデンウィークの中日での登校は、だいぶだるかった。衣替えが曖昧とはいえ、オメガである将晴はそう簡単に薄着にはなれない。ネックガードを隠すためにも、きちんと制服を着て、襟元をゆるめることなく登校した。クラスメイトのベータ男子は、初夏の陽気のせいで上着を着ておらず、開襟シャツを着ているものも多い。
それを少し羨ましいと思いつつも、将晴は端にある自分の席に着く。フェロモンの関係で、窓際や後ろの席になるのはよくある事だ。
将晴がぼんやりしているうちに授業が始まり、出席を取ったところで将晴の復帰は特に触れられることは無かった。
中学と違って、周りの程よい無関心がありがたい。
一学期は定期テストが二回ある。そのどちらもヒートが被らなかったのはある意味良かった。次のヒートは七月の終わりの頃で、上手く行けば夏休みだ。
ボディバックを身につけて、地下駐車場から外に出ると、ゴールデンウィーク中らしい初夏の陽気で当たりが眩しい。
「自宅まで送るから」
石崎が、そう言う。
「え、やだ、やめてくれ」
将晴は答える。
「じゃあ、どこがいい?」
将晴はすっかり自分を出して喋っていた。ヒートの間そばにいられたのだ、あれだけの姿と声を知られてしまった相手に今更取り繕う気にはなれない。
「ショッピングモールがいい」
「いいの?混んでるよ?」
「その方がいい」
バックミラー越しに石崎が様子を伺ってくるけれど、将晴は気にしないことにした。
ショピングモールは混んでいて、駐車場の空きを見つけるのに苦労した。何故か石崎は将晴を連れて建物に入っていく。
「なに?」
「記念に服を買ってあげるから」
「はぁ?」
戸惑う将晴に気遣うことなく、石崎はショピングモールの中にある店へと足を進める。男性向けのカジュアルブランド。ちょっと背伸びした高校生に人気ではある。
「この辺がいいかな?」
将晴のサイズを把握しているのか、適当に合わせて会計を済まされた。
「次は夏だろう?」
紙袋を将晴に渡しながら、石崎は耳元でそんなことを言う。それを聞いて、将晴の喉が上下する。
「混んでるから、買ってあげる」
石崎はファストフードでパーティセットを買って将晴に渡してきた。
「三十分程度で家に着くんだよね?夕飯にもなるから、お母さんと食べてね」
随分とおおきな袋を将晴に持たせて、ついでに季節限定フレーバーの、シェイクを口に押し付ける。
「…………」
将晴は無言で受け取ると。もう、両手がいっぱいだ。普段なら、ここには自転車で来るのだけれど、今日は歩きで帰る。いささか、荷物が多いけれど、自宅に送って貰う訳には行かない。祝日で、母親が家にいる。
既に、ヒートが明けたから。とメッセージを送ってあるのだ。昼ごはんはいらないとも連絡をしてるから、もしかしたら居ないかもしれないけれど、近所の人に、見られるのは宜しくない。
既に初夏の日差しの中、徒歩で三十分は些かキツかったが仕方がない。玄関は鍵がかかっていて、母親は不在だった。
買い物にでも出ているのかと思って、パーティセットは念の為冷蔵庫にしまいこむ。飲み終わったシェイクの容器をゴミ箱に捨てて、2階の自室に入ると、日差しのせいでこもっていた。
窓を開けて換気をする。
貰った紙袋の中をベッドに出すと、夏らしい色合いのシャツと通年履けそうな色合いのズボン。それとカーディガンがあった。簡単に値札を外されてはいるが、あの店の大体の値段は知っている。いきなりこんなに増えたら母親が気にするだろう。
将晴はとりあえず、カーディガンと、ズボンだけタグを外してタンスにしまった。
シャツは紙袋にいれて、とりあえずベッドのしたに隠した。
ボディバックを開けると、見知ら封筒が入っていた。スマホを、出した時には気づかなかったのか、なかったのか。初日の石崎の手際を考えると、将晴が気づかなかったのは仕方がなかったと言い訳する。
「なんか、入ってる」
封筒の中に固いものがあるのが分かった。机の上で中身を出すと、プリントされた用紙とクレジットカードだ。
アルバイト代を振り込むための口座らしい。
「……なん、で…」
クレジットカードに記載されている名前を見て、将晴は血の気が引いた。まさか、ここまで調べられているとは思わなかった。
クレジットカードの名義は、小山田将晴。
別れた父親の姓で作られていた。
生活保護の監視から逃れるためには、確かにこれは有効かもしれない。ただ、どうやって作ったのかが疑問ではある。
同封されていた用紙を読んで、ネットバンクの口座を確認すると、高校生のアルバイト代としてはずいぶんと破格な金額が入っていた。
「───────!」
思わず背筋が伸びた時、タイミングよくスマホにメッセージの着信があった。横目で見ると、やはり石崎からだった。ネットバンクだから、アクセスすれば通知ぐらいいくのだろう。
メッセージを見れば、予想通りの言葉が届いていた。
「こんなの、どうしろって」
将晴が覚えていないだけで、随分とアルファが見に来てくれていたらしい。将晴に与えられた金額を考えると、一体いくら儲けたのか、恐ろしくなる。
何となく首に手をやって、知らぬ感触に肩が震えた。
「忘れてた」
新しいネックガードをつけていたのだ。指紋認証でロックが解除され、アプリと連動してヒートの時期などを計測してくれる最新モデルだった。
もちろん高価だ。
コテージ利用者には格安で提供してくれた。そう説明するように言われた。これで測定される数値を提供することで、格安で利用出来る。そういうことにしておく。秘密が増えたが仕方がない。
あちらには色々知られすぎていて、逃げようかないのだ。将晴が逃げれば、母親に、どんなに影響がいくのか、高校生の将晴には皆目見当もつかない。
だからこそ、怖いのだ。
パーティセットを見て、母親は驚いたけれど、石崎に言われた通りにバイトを始めたといえば、すんなりと受け入れてくれた。オメガが働ける先は少ない。だから、コテージでの雑用と、言っておけば大抵納得されるそうだ。現に母親は納得した。
ゴールデンウィークの中日での登校は、だいぶだるかった。衣替えが曖昧とはいえ、オメガである将晴はそう簡単に薄着にはなれない。ネックガードを隠すためにも、きちんと制服を着て、襟元をゆるめることなく登校した。クラスメイトのベータ男子は、初夏の陽気のせいで上着を着ておらず、開襟シャツを着ているものも多い。
それを少し羨ましいと思いつつも、将晴は端にある自分の席に着く。フェロモンの関係で、窓際や後ろの席になるのはよくある事だ。
将晴がぼんやりしているうちに授業が始まり、出席を取ったところで将晴の復帰は特に触れられることは無かった。
中学と違って、周りの程よい無関心がありがたい。
一学期は定期テストが二回ある。そのどちらもヒートが被らなかったのはある意味良かった。次のヒートは七月の終わりの頃で、上手く行けば夏休みだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
49
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる