10 / 41
第10話 僕は一体何をする?
しおりを挟む「足元にお気を付けください」
馬車の扉が開いて、声をかけられた。生まれて初めて乗った馬車である。緊張しすぎて馬車酔いなんてしなかったし、カーテンが閉められてしまったから外の景色を楽しむ余裕もなかった。最も寝ていたのだけれど。さてはて、ここは何処だろう?
「はい」
元気よく返事だけはして、立ち上がる。だがしかし、どうやって馬車から降りるのかなんてわからない。カバンは持って降りた方がいいのだろうか?そもそもカバンは抱きかかえていたのだった。その態勢のまま一歩前に踏み出てみた。
「お荷物を持ったままはあぶのうございます」
誰かの声がして、目の前に手が差し出されてきた。
「へ?あ、はい」
間抜けな返事をしたらカバンが横に消えていった。宙に浮いた手が誰かに掴まれた。しかも両手である。
「ゆっくりとおりてください」
そんなことを言われたから、足元だけに集中して下まで降りた。たったそれだけで妙な達成感を味わってしまい、レイミーは思わず鼻息荒くなってしまった。顔をあげてみれば、父親より立派な身なりの人たちが立っていた。
「レイミー様、お疲れ様にございます」
そう言ってレイミーの前で優雅に頭を下げてきたのは一人の女官だった。
「あ、はい。お疲れ様にございます」
思わずつられて頭を下げてしまった。
「レイミー様、わたくしどもに気軽に頭を下げてはいけません。よろしいですね」
いきなりの説教にレイミーは面食らった。
「はじめましてレイミー様。わたくし後宮で女官を務めさせていただいておりますセシリアと申します」
見たこともないぐらい素晴らしいお辞儀をされて、レイミーは目を見開いて驚いた。だがしかし、不穏な言葉が耳に入ってきた気がする。そこを聞き返していい物か考えようとしたが、思考におちいる前に前に進むように促されてしまった。
「こちらのお部屋にお入りください」
案内された部屋はとんでもなくシンプルな作りだった。一見粗末な作りに見えるけれど、使われている素材は何もかもが一級品だ。布張りのソファーだって、刺繍が入っていないだけで上等なシルクが使われているのだ。
「マイヤー子爵家のレイミー様に間違いございませんね?」
向かいのソファーに座った女官が書類を見ながら確認してきたから、レイミーは素直に返事をした。もはやそうする以外の選択肢など見当たらないからだ。
「ここは第48代アインホルン王国国王アルベルト様の後宮にございます。この度レイミー様の後宮入りが決まりましたのでこうしてお迎えさせていただいた次第にございます」
突然の堅苦しい挨拶に、レイミーはただただ戸惑うばかりだった。言われている言葉はちゃんと聞こえているし、意味だって理解しているが、思考がまったく追い付いていなかった。だって、後宮って言ったのだ。後宮……レイミーは男の子なのに。
「すでにマイヤー子爵とは魔法契約が済んでございます。レイミー様のお支度金の支払いや、マイヤー子爵家の体裁を整えるためのあれこれは、宰相閣下がすべて手配を整えてございますからご安心くださいませ」
流れるように説明されて、レイミーはうっかり聞き流してしまった。内容はよくわからなかったが、大人たちが何やらを済ませてくれたことだけは理解した。
「こちらがレイミー様の雇用契約書にございます」
女官は持っていた書類をレイミーの前に差し出した。間違いなく魔法契約書で、大変立派な作りの紙だった。
「まずはよくお読みくださいませ」
言われてレイミーは魔法契約書を手に取り読んでみた。言い回しが若干わかりにくかったりはするが、ようはレイミーが後宮で働くことについての内容が書かれていた。仕事内容については適宜としか書かれておらず、経費は用途に応じてとなっているし、休日は都度だった。明確に書かれているのは一か月の給金だけで、今のマイヤー子爵の十倍だった。しかし給金はマイヤー子爵家の体裁を整えるために使われるらしい。主な用途は使用人の雇用なんだそうだ。たしかに、子爵家なのに使用人が一人もおらず、馬車も所有していないのは問題だろうことぐらい、レイミーは理解していた。だって、学園に歩いて登校している貴族はレイミ―しかいないのだから。
「わかりました。僕お仕事頑張ります。でも……学園には通いたかったです」
レイミーはわかりやすいぐらいしょんぼりしてしまった。頑張って買いそろえた制服や学用品が無駄になってしまうことはとても残念だ。まだ一週間しかたっていないから、友だちらしい友だちはいないけれど、図書館にある本が読み放題で、学食が無料で食べられることがとても魅力的だったのに。
「ご心配なさらないでください。レイミー様は学園に通えましてよ。卒業まできちんと通えます。必要なものはいつでもすぐに買いそろえますのでご安心ください。こちらに用途に応じてとあるではありませんか。お休みだって都度でございます。何も心配なことはございません。もちろん、通学は馬車になりますから安全で快適です」
なにか安っぽい通販番組みたいなことを言われたが、すれていないレイミーは素直に喜んだ。学園に通える、しかも卒業まで。これだけでレイミーにとっては好待遇であった。後宮に勤めるとはなんと素晴らしいことなのだろう。
「ありがとうございます。僕頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
そう返事をすると、レイミーは魔法契約書にサインをしたのだった。
114
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる