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第17話 本人不在で話は終わる
しおりを挟む「この教室にオメガの男がいるだろう?」
不躾な問いかけをしてきたのは、クラスの誰もが知らない男子生徒だった。制服のネクタイの色から二年生であることだけはわかったが、誰も反応しない。それはそうだ、昨日このクラスにいるオメガの男子生徒の存在を全員がしっかりと把握したばかりなのだから。
「お初にお目にかかります。ステラ伯爵家のジャック様とお見受けいたします。わたくしハーンルーン公爵家のエミリアと申します」
つつつつっと、入り口にやってきたのは可憐な少女エミリア。だがその物言いは全く大人しくはなく、むしろ居丈高な言い方だった。もちろん、その言い方はジャックの気に障ったので、睨むような目線をエミリアに向けてきた。
「このクラスにオメガの男子生徒はおりますが、あいにく本日は欠席しておりましてよ」
反論を許さない完璧な笑みを浮かべてエミリアは答えた。だが、そんな答えをジャックは期待していたわけではない。貧乏子爵家と名高いマイヤー子爵家の男オメガの顔を拝みに来てやったのだ。なんなら発情期の相手ぐらいしてやってもいいだろうぐらいのふざけた気持ちだ。だがしかし、返ってきた答えは思っていたのとだいぶ違っていた。
「ご存じかとは思いますが、その男子生徒の名前はレイミー・マイヤー、子爵家の御子息です。昨日、王城の騎士が迎えに来ておかえりになりましたの。そして本日はご欠席、この意味、お分かりになりますわよね?」
ゆっくりと含みのある言い方をエミリアがすれば、ジャックは黙るしかなかった。まだ社交界にデビューしていないとはいえ、エミリアは公爵令嬢、ジャックは伯爵令息、家格に差がある、ついでに言えば、エミリアはアルファだ。ジャックもアルファだが、喉がひりつくような感覚を覚える。
「それがどうした」
ジャックは虚勢を張ってみたものの、教室の中からくる視線はどれも友好的ではなかった。一部はすでに憐れみを持っていたりもする。
「お疑いになるのでしたら、マイヤー子爵家を確認しに行けばよろしいのですわ」
それだけ言うとエミリアは踵を返して教室の奥に戻ってしまった。誰もジャックの相手をしないとわかると、ジャックは視線をさまよわせる。廊下に誰もいないことを確認すると、大慌てで自分の教室へと帰っていたのだった。
そうして、学校の帰り道、御者に買い物があると言っていつもと違う道を通らせると、何やらにぎやかな一角があった。御者はそこの前をゆっくりと通り過ぎる。そうして小声で車内のジャックに伝えてきた。
「マイヤー子爵は近いうちに伯爵になるって噂ですよ。立派な馬車を注文したらしいです」
それを聞いてジャックは狼狽えた。通りすがりに見たマイヤー子爵家は、狭いけれど立派な庭には色とりどりの花が咲いていた。門が新しくなり門番が立っていた。子爵家では考えられないことだ。
「す、すぐに家に帰ってくれ、買い物は中止だ」
元から買い物なんてなかったから、ジャックは急いで帰宅することにした。噂好きな母ならきっと知っているはずだ。
「母上、お聞きしたいことがあります」
そうしてジャックは自分がどれほど悪手を打ったのか思い知った。だがしかし、そんな些細なことは王城に届くことはなく、ステラ伯爵家に嵐はやってこなかったのであった。
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