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第20話 クラスメイトはアルファ令嬢
しおりを挟む「おはようございます。レイミー様」
教室についたとたん、レイミーにあいさつをしてきた生徒がいた。
「お、おはようございます」
驚きながらも挨拶を交わした気けれど、こちらの令嬢は誰だっただろうか?レイミーは必死で思い出だそうとした。確かこの教室で一番の人だと記憶していた。だから公爵令嬢だ。家名はなんか長ったらしかった。
「ハーンルーン公爵家が長女エミリアにございます」
そんな風にあいさつをされて、これがエミリアの気遣いなのだとレイミーは気が付いた。
「ぼ、僕はマイヤー子爵家が長男レイミーでっす」
最後が少し噛んでしまったけれど、ちゃんとできたと思う。だがしかし、レイミーの背後には無表情の騎士が立っていた。エミリアの記憶によれば、一昨日迎えに来た騎士とは違う。あの日の騎士は確かアルファだったはずだ。今日の騎士は王宮の騎士には違いないが、襟章を見てもわかるがベータだ。第一騎士団はアルファ、第二騎士団はベータ、そして第三騎士団が平民のアルファだ。レイミーの背後に立っているのは第二騎士団の襟章を付けているつまりは貴族のベータである。一昨日と変わってしまった理由は簡単なことだろう、オメガのレイミーに、他のアルファが張り付いていることが気に入らないだけだろう。誰かさんが。
「はい。存じております。わたくし、レイミー様と友人になりたいと思っておりますの」
エミリアがそう笑顔で告げると、一瞬レイミーの背後で騎士が動いた。だが、それはエミリアに対してではなく、廊下を歩いてきた生徒に対してだったようで、レイミーに気づかれないように何かを処理したのがエミリアには見えた。
(本当に確かめに来るだなんて、はしたない)
騎士の向こうに見えたのは、昨日の男子生徒。ジャックだった。
確かに王宮の騎士が学園に来たのなら、それは騒ぎになるだろうけれど、たいていは騎士に恋する女子生徒がすることだ。まさか、アルファの男子生徒がわざわざ行動を起こすだなんて思ってもいなかった。そもそも、一目で王宮の馬車とわかる白い馬車に護衛の騎士が付いて学園にやってきたのだ、その時点で察するのが貴族の嗜みだ。それなのに、わざわざ確認しにやってくるだなんて、慎みがないにもほどがある。たまたまレイミーがおっとりしているから気が付いていないだけで、騎士にはしっかりと顔を見られてしまったわけだから、あとから言い訳なんて通用はしないだろう。
「レイミー様は、王宮から登校されましたの?」
廊下の騒がしさがうっとおしくて、エミリアはあえてそんな質問をレイミーに投げた。廊下に集まった生徒たちが知りたいのはきっとそこだろう。
「はい。そうです」
レイミーは隠すことなくはっきりと返事をした。あんまりにも隠さないものだから、さすがにエミリアも驚いたが、どうやらレイミーは隠し事をするつもりはないらしい。
「今朝も陛下と一緒に朝ごはんを食べたんです。カリカリベーコンがおいしかったんですよ」
レイミーは思い出してうっとりとした顔をした。だって貧乏子だくさんのマイヤー子爵家は、ベーコンだって母親の手作りだ。安い肉を買ってきて、日持ちさせるためにベーコンにしているだけなのだ。リンゴの香りがするような上品なベーコン何て、レイミーは生まれて初めて食べたから、感動はひとしおだ。
「そ、そうなのですね。陛下と朝食を……」
そんなことまで聞いていないのに、レイミーが元気よく教えてくれたから、エミリアは驚いた。背後に立つ騎士の顔色をうかがったが、まったく変わる様子がない。どうやら相当なことがうかがい知れた。
「そうなんです。陛下が僕にたくさん食べさせるから、僕太っちゃいそうです」
そう言ってレイミーは自分のお腹を見た。ほっそりとしたレイミーの身体はずいぶんと薄い。オメガの割には骨ばった指は、お世辞にも綺麗とはいいがたかった。
「レイミー様はほっそりとしてらっしゃいますから、きっと陛下は心配されていらっしゃいますのね」
「そうなんですか?」
「アルファはオメガの世話を焼きたいものですわ」
もちろん、それがアルファによる給餌行動だなんて口が裂けても言えるわけがない。エミリアが結構はっきりと口にしたから、廊下にいた生徒たちにもよく聞こえたらしい。人が引いていく気配がした。エミリアが廊下の方に視線を向けると、もうそこにはジャックの姿はなかった。真実を知ってそうそうに立ち去ったのだろう。最後まで残っていた生徒は、なんとかレイミーの姿を見ようとしていたが、騎士に遮られ断念して立ち去って行った。
何とか平穏に授業を迎えたが、一大イベントが待ち構えていた。
昼食だ。
タダでおいしいご飯が食べられる、レイミーにとってとても大切な時間である。
しかし、困ったことに、食堂は全生徒全職員が使うのだ。ただの子爵令息で無くなってしまったレイミーを、何事もなく食堂で食事をとらせることは至難の業だ。きっと名前も知らない誰かが相席をしようとするだろうし、勝手に嫉妬した誰かが何かを仕掛けてくるかもしれない。しかもレイミーの護衛としているのは騎士ただ一人。
「レイミー様、お席はこちらになります」
いつものように食堂の列に並ぼうとしたレイミーに、騎士が違う部屋を案内してきた。食堂のメニューは決まっているため、席に座ると給仕が勝手に配ってくるのだ。その時に量の加減をしてもらうので、割と安心して好きな量を食べられる。
「こっち?」
レイミーは食堂に入っていく列を眺めながら、騎士に促されて部屋に入った。こんなところに部屋があったのかと驚いていると、レイミーはさらに部屋の中に入ってもっと驚いてしまった。白いピカピカのダイニングテーブルに、布張りの肘掛椅子、窓の外には綺麗に手入れされた美しい庭があったのだ。もちろん、そこには誰もいない。
「お座りください」
騎士が椅子をひいてくれたので、レイミーは椅子に座った。それが合図だったのか、ワゴンを押した給仕がやってきた。レイミーの前に食器を並べていく。
「本日は子牛肉のシチューにございます。パンは歯ごたえのあるライムギパン。季節の野菜のサラダ、デザートはプティングでございます」
いつもの食堂で聞くのと変わりのない給仕の説明だが、出てきた食器が違かった。陶器ではなく銀食器だ。これはあれだ、高貴な人が使うという高級品だ。レイミーは緊張しながら最初の一口を口に運んだ。初めて使う銀食器は冷たくて重たかった。確か力を入れすぎると曲がってしまうと聞いていたから、扱いがより慎重になる。
「おいしい」
子牛肉というのはきっと初めて食べたけど、柔らかくて食べやすかった。少し大きめの野菜も食べ応えがあるし、季節の野菜というのがなんとも新鮮で、かけられていた白いドレッシングも少し酸味があって食べやすい。ライムギパンの香ばしさは口の中ではじけるように広がって、レイミーはとてつもなく感動した。
「っん、ん、っん」
食べながらレイミーの目から涙があふれてきた。
(僕だけこんなにおいしいものを食べてる)
家に残された弟や妹は、今頃何を食べているのだろうか?昨夜はどうやって寝たのだろうか?一人で食事をして、レイミーは思わずそんなことを考えてしまった。なにしろ貧乏子だくさんのマイヤー家では、一人の時間なんてなかった。いつも誰かがそばにいた。特に寒い冬は、みんなでくっついてお互いの体温で暖まっていたほどだ。こんなにおいしい食事を一人で食べている現実に、レイミーは寂しくなって思わず涙があふれてしまったのだ。
だが、そんな事情が分からないから騎士は慌てた。何か嫌いな物でもあったのかと思ったが、レイミーは綺麗に全部食べていた。そうして何事もなかったかのように午後の授業に臨んだのであった。もちろん、今日のことは事細かに報告されたので、国王アルベルトがおおいに勘違いしたことは言うまでもない。
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