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第21話 とても楽しみです
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21.とても楽しみです
アインホルン王国第48代国王アルベルトが隣国の姫と婚約をした。
相手は、誕生日を迎え、16歳になった隣国のオメガの姫ロレンシア。
めでたく発情期を迎え、姫がオメガであると宣言し、他国からの申し出がなかったことから約束通りに婚約が成立したのだ。婚約の品として、アルベルトはロレンシアに金鎖で編まれたチョーカーをおくった。もちろんオメガにとって大切な項を守るためである。当人たちの顔合わせはなく、書面だけのやり取りであったため、使者が遣わされた。恭しく掲げられた金鎖のチョーカーを見て、隣国の姫ロレンシアは眉をひそめた。てっきりアルベルトの瞳を模したエメラルドの指輪が届けられると思っていたからだ。一応金鎖のチョーカーに小粒ではあるがエメラルドが8粒ほど縫い付けられていた。アルベルトは黒髪であるから、自分の色を丸ごと送ったのではないことぐらい一目瞭然だった。
「おつけいたします」
隣国からの使者から受け取ったチョーカーを侍女が二人係でロレンシアの首につけた。ひんやりとした金鎖の感触にロレンシアは驚いたが、徐々に体温となじみ、その重さを実感すると自然と笑みが浮かぶ。
「謹んでお受けいたします」
ロレンシアがそう答えると、使者は恭しく頭を下げ、書簡を掲げて帰っていった。
アインホルン王国の使者が帰った後、ロレンシアはくつろぐために湯につかろうとした。その時、首につけた金鎖のチョーカーを外そうとして騒ぎになった。
「外せないって、どういうことよ」
世話係の侍女が一様に顔を見合わせる。誰も申し訳ないとか、怯える素振りなどしないのも姫であるロレンシアは気に入らなかった。
「風呂に入るのよ、外せなくてどうするのよ」
怒りに満ち溢れたロレンシアがそうは言ったものの、侍女は誰も答えない。そのくらいのこと、知っていると思っていたからだ。
「答えなさいよ」
裸のまま、しびれを切らしたロレンシアが叫ぶ。仕方なく、侍女の中で一番年長のものが答えた。
「アルファから贈られたチョーカーは、送り主のアルファにしか外せません」
きわめて簡潔に答えを言われ、姫であるロレンシアは言葉を失った。
「ですから、姫様が婚姻されて初夜を迎える日まで外すことはかないません。オメガの婚約の常識ですもの、オメガである姫様は知っているかと思っていましたわ」
侍女がさらりと言ってのけたので、姫であるロレンシアは怒りと驚きでいっぱいになった。気に食わない侍女などそばに置いておいても意味がない。八つ当たりをして首にしてやろうかと思ったが、今は風呂が先である。なにしろ自分は今裸なのだ。
「かけさせていただきます」
チョーカーを守る様に布がかけられ、髪や体が洗われた。すっきりしたようでイマイチすっきりしないまま、風呂から上がれば、いつものように全身に香油がぬられた。だが、チョーカーが巻かれた首には何もぬられない。
「金と宝石によくありませんから、今後は首元に化粧もできません」
きっぱりと言われ、怒りの双眸で侍女を見たが、誰もなにも答えなかった。ただ、あくる日の朝、姫であるロレンシアの侍女がいっせいに入れ替わっていた、位の低い貴族の娘たちだけになり、必要最低限の言葉しか交わさなくなってしまったのだ。そのせいでロレンシアの機嫌が悪くなり、侍女の入れ替わりはますます激しくなったのだった。
婚約を交わした後アインホルン王国では、建国記念祭の準備で忙しかった。誰も婚約したての隣国の姫を招待しようなど話題にも上げなかった。なにしろアルファは嫉妬深いのだ。自分のオメガを大勢に見せたいなど思わないのが普通である。アルファである隣国の王はそのあたりのことは理解しているから、かわいい末娘の姫ロレンシアが建国記念祭に招待されなくてもなんとも思わなかった。そんなことは説明しなくともわかっていると思っていたからだ。だが、アルファとオメガの常識を教えられていないロレンシアは激怒した。そのせいでまた侍女が辞め、とうとう平民の行儀見習いが侍女として姫であるロレンシア付きの侍女になってしまったのであった。
「レイミー様の当日の衣装はこちらになります」
そんな隣国の事情など全く知らないレイミーは、言われるままに建国記念祭の衣装に袖を通す。レイミーの首につけられたチョーカーは、お下がりの宝石をリメイクしたものだ。国王陛下アルベルトの色はしているものの、送り主が違う。だからレイミーは堂々とつけたり外したりしているわけだ。
「このお衣装にはチョーカーが大きすぎますので、当日はレースのものにいたしましょう」
セシリアがそう言うと、衣装係がいくつかのレースでできたチョーカーを出してきた。オメガにとってチョーカーはアクセサリーの一つである。だから、いくつも数を揃えておくのが一般的だ。建国記念祭ではレイミーは常に国王アルベルトのそばにいるから、黒のレースのチョーカーをいくつか当ててみる。
「こちらがよろしいですね」
セシリアが一つ決めると衣装係はトルソーに衣装と合わせるようにチョーカーを付けた。
「ああ、いいですね。きっと陛下もお喜びになられますわ」
セシリアは満足そうに微笑んだ。
アインホルン王国第48代国王アルベルトが隣国の姫と婚約をした。
相手は、誕生日を迎え、16歳になった隣国のオメガの姫ロレンシア。
めでたく発情期を迎え、姫がオメガであると宣言し、他国からの申し出がなかったことから約束通りに婚約が成立したのだ。婚約の品として、アルベルトはロレンシアに金鎖で編まれたチョーカーをおくった。もちろんオメガにとって大切な項を守るためである。当人たちの顔合わせはなく、書面だけのやり取りであったため、使者が遣わされた。恭しく掲げられた金鎖のチョーカーを見て、隣国の姫ロレンシアは眉をひそめた。てっきりアルベルトの瞳を模したエメラルドの指輪が届けられると思っていたからだ。一応金鎖のチョーカーに小粒ではあるがエメラルドが8粒ほど縫い付けられていた。アルベルトは黒髪であるから、自分の色を丸ごと送ったのではないことぐらい一目瞭然だった。
「おつけいたします」
隣国からの使者から受け取ったチョーカーを侍女が二人係でロレンシアの首につけた。ひんやりとした金鎖の感触にロレンシアは驚いたが、徐々に体温となじみ、その重さを実感すると自然と笑みが浮かぶ。
「謹んでお受けいたします」
ロレンシアがそう答えると、使者は恭しく頭を下げ、書簡を掲げて帰っていった。
アインホルン王国の使者が帰った後、ロレンシアはくつろぐために湯につかろうとした。その時、首につけた金鎖のチョーカーを外そうとして騒ぎになった。
「外せないって、どういうことよ」
世話係の侍女が一様に顔を見合わせる。誰も申し訳ないとか、怯える素振りなどしないのも姫であるロレンシアは気に入らなかった。
「風呂に入るのよ、外せなくてどうするのよ」
怒りに満ち溢れたロレンシアがそうは言ったものの、侍女は誰も答えない。そのくらいのこと、知っていると思っていたからだ。
「答えなさいよ」
裸のまま、しびれを切らしたロレンシアが叫ぶ。仕方なく、侍女の中で一番年長のものが答えた。
「アルファから贈られたチョーカーは、送り主のアルファにしか外せません」
きわめて簡潔に答えを言われ、姫であるロレンシアは言葉を失った。
「ですから、姫様が婚姻されて初夜を迎える日まで外すことはかないません。オメガの婚約の常識ですもの、オメガである姫様は知っているかと思っていましたわ」
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チョーカーを守る様に布がかけられ、髪や体が洗われた。すっきりしたようでイマイチすっきりしないまま、風呂から上がれば、いつものように全身に香油がぬられた。だが、チョーカーが巻かれた首には何もぬられない。
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きっぱりと言われ、怒りの双眸で侍女を見たが、誰もなにも答えなかった。ただ、あくる日の朝、姫であるロレンシアの侍女がいっせいに入れ替わっていた、位の低い貴族の娘たちだけになり、必要最低限の言葉しか交わさなくなってしまったのだ。そのせいでロレンシアの機嫌が悪くなり、侍女の入れ替わりはますます激しくなったのだった。
婚約を交わした後アインホルン王国では、建国記念祭の準備で忙しかった。誰も婚約したての隣国の姫を招待しようなど話題にも上げなかった。なにしろアルファは嫉妬深いのだ。自分のオメガを大勢に見せたいなど思わないのが普通である。アルファである隣国の王はそのあたりのことは理解しているから、かわいい末娘の姫ロレンシアが建国記念祭に招待されなくてもなんとも思わなかった。そんなことは説明しなくともわかっていると思っていたからだ。だが、アルファとオメガの常識を教えられていないロレンシアは激怒した。そのせいでまた侍女が辞め、とうとう平民の行儀見習いが侍女として姫であるロレンシア付きの侍女になってしまったのであった。
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