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春休みのアレコレ
第23話 新しい生活です
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「あー、一日か」
何やら騒がしい寮内の空気を感じて、佐藤は呟いた。すっかり忘れていたけれど、今日は四月一日だ。今日から学年が変わる。生徒は四月二日産まれが年長者になる。と言うのか腑に落ちないけど。入学を許可されないと高校生にならないけど。
まぁ、細かいことは置いといて中等部の寮から高等部の寮に1年生が移ってきているわけだ。
しかしながら、このフロアに誰かが入ってくるとは聞いていない。
つまり、今年はその手の特待生がいないと言うことになる。
「なんだ、あいつは意外と平凡なのか?」
そんなことをボヤきながら、佐藤はちょっとした野次馬根性を出して2階へと降りてみた。
簡易受付所となってしまった食堂には、結構人がいた。
中等部で使っていたカードキーを返して、高等部で使用するカードキーを受け取る。中等部の寮と違うのは、門限が1時間延びたこと。部屋も個人スペースが広くなった。6畳から8畳だ。寮の規約も変わりない。家具は既に入れられているので、大抵が着替え程度を持ってきただけだ。
もちろん、新しい制服も備え付けのクローゼットに入っている。
このごちゃごちゃがあと三日ほど続くだろう。缶コーヒーでさえ買わない佐藤は、だいぶ離れたところからその様子をながめていた。もちろん、知り合いなんていない。
「佐藤くん、なにしてるの?」
昨日も学校で顔を合わせた。今日は、これから学校で会う予定だった下総が声をかけてきた。
「一年が入ってきたなぁ、って」
「懐かしい?」
「別に」
佐藤の素っ気ない返答に、下総は思わず笑ってしまった。分かりきっていた事だけど、改めて言われるとそうなんだと思う。
(佐藤くん、素っ気ない)
下総としては、もしかして緊張しているのかも?という淡い期待は打ち砕かれた。どうしたって佐藤は他人に興味がないらしい。
「あっ」
佐藤は何言わずにふっと歩き出してしまった。向かう先は階段だ。
「え、置いていくとかなくない?」
下総は慌てて佐藤の後をおった。下総だって、制服を着ていたのだ。一言声をかけてくれてもいいでは無いか。
「えー、ちょっと待ってよ」
校舎の階段と違って、寮の階段は非常階段と同じ作りをしているせいで、段差が男子学生むけになっていない。
1段づつ丁寧に降りようとすると、下総のように身長の高い者は、どうしたっておかしな降り方になってける。だからといって、急ぐに任せて1段抜かしをするほどのキャラでは下総はない。
待ってと言われたからか、佐藤は立ち止まって振り返る。手すりに手を添えながらとたとたと降りてくる下総を見て、佐藤は何となく顔が緩んだ。
「え?なに?」
踊り場からこちらを見上げる佐藤の顔を見て、下総は驚いた。
笑ってる。
「足が長いと大変だな」
下総が追いついた途端に、佐藤はまた歩き出す。下総は佐藤の後ろをゆっくりとついて行くことが出来た。
佐藤は、あえてこちらの非常階段を使用したのだ。食堂のある2階へと上がる階段は、新入生がやたらと利用していて、人が多いのだ。
結局は玄関で人混みに遭遇するだろうけれど、そこで一瞬すれ違うだけなら大したことは無い。
佐藤は相変わらずパーカーの上に学ランを着込んでいる。
後ろからフードを見れば、生地が薄くなったのが確認できた。一応素材にはこだわっているらしい。
下総は何となく佐藤のパーカーに触れてみた。
「なんだよ」
「生地が薄くなったね、春物?」
「はぁ?」
佐藤はどこか不機嫌そうな顔をしているけれど、声は違う。
お互い手ぶらで歩いているので、何となく手持ちぶたさな感じがして、下総は思わず佐藤の手を取った。
「なんだよ、いきなり」
そうは言ったものの、佐藤は下総の手を振りほどこうとはしなかった。
「こうやって、学校行ったことない?」
「はぁ、ねーし」
「そうなの?相葉くんとも?」
「明李と手ぇ繋ぐとかないわ」
やっぱり佐藤は手をそのままにする。
「俺とは繋いでくれるんだ」
下総はちょっとだけ、嬉しそうに笑った。
「つか、お前俺の手を上にあげるな」
佐藤が、ムッとしたポイントはそこだった。
「え?そこ」
「俺のがちっちぇの丸わかりじゃん」
佐藤の苦情を受けて、笑いながら下総は手を下げた。
「俺が辛い」
「じゃあ離せばいい」
「それはやだ」
「高校生にもなって、手繋ぐとか」
佐藤は目線を合わせない。
「仲良しアピールだよ」
「誰にだよ」
とりあえず、おしゃべりしながら二人で登校してみた。
もちろん、仲良しアピールはちゃんと通じていた。生徒会室の窓から相葉たちが見ていたのだ。
「僕たちに見せてるんだよね?」
佐々木が相葉に尋ねる。
「そうでしょうね。そもそも、俺とユーヤが小等部からの付き合いってに対抗してんのかな?」
「長いんだね」
「小等部から寮生ってのが少ないんですよ」
相葉は吐き捨てるように言う。そんな態度がどことなく佐藤と通じる気がすると、後ろから見ていた遠山は思った。でも、思っただけで口にはしない。
「桜餅貰ったから緑茶でいいよね?」
会議用のテーブルに、桜餅と緑茶を既に並べているのは根岸で、書記である遠山は資料を配っていた。
「あ、手伝ってなかった」
へらっと笑いながら佐々木は言うけれど、資料を印刷したのは佐々木だから、まとめて配るだけの遠山の方が楽をしているのだろう。
廊下が一瞬賑やかになったと思ったら、佐藤と下総が手を繋いだまま入ってきた。
「いい加減、手を離せよ」
「別に問題ないでしょう?」
「大アリだよ、トイレでも繋いでるとか、意味わかんねー」
佐藤の発言で、さすがに相葉は吹き出した。
トイレでも手を繋いでいた?どうやって用事を済ましたのだろう?
「なにかの罰ゲームなの?」
佐々木が聞くと下総が嬉しそう答えた。
「俺に隠し事してたから」
「なんだよそれ、聞かれなかったからだろ」
佐藤は相葉に、一瞬目線を送った。
「あ、俺を巻き込まないでよ。まぁ、俺もユーヤに同意」
相葉は席について、楽しそうに佐藤を、眺めていた。
「小等部からいたんだよね?」
「そう、小等部から寮にいたのなんて今じゃ俺らぐらい?」
相葉は佐藤を見ながら喋る。
「小等部の寮は出入りが激しいからな」
佐藤は右手で資料を見ながら返事をする。
「小等部に寮があったことを知らなかったけど、俺は」
下総が言うと、ほかの三人も頷いた。
「基本は通いに1時間半だからな。寮に入れられるのなんて、よっぽどの奴だけ」
佐藤がそう言うと、相葉は苦笑いするしかない。相葉の家からだと飛行機だけでも1時間半はかかる。
「正式には募集してないってこと?」
佐々木が聞くと佐藤は頷いた。
「コネって言うより寄付金次第」
「寄付金」
そのワードに驚きはするものの、私立の学園だ。あっても不思議ではない。
「寄付金と言う名の賄賂みたいなもんだよ」
いくら積んだかなんて知らないけど。なんて佐藤は笑いながら言った。相葉は黙って頷いている。
「俺も相葉も柳田も、帰る家なんてないんだよ」
佐藤がサラッと言うと、相葉は笑っていた。
「仕送りだけはやたらと貰えるけどね」
「俺はそれも嫌だから自分で稼いでるけどな」
全く笑えない話だ。
佐藤はともかく、相葉の実家については割と知られている。海外にも進出しているような会社だ。株式も上場しているから、大企業のおぼっちゃまとして相葉の人気は高いのだ。見た目だってかなりいい。異母兄弟が居ることは知られているけれど、世間的には相葉が跡取りだと認知されている。それを見据えて相葉の親衛隊になっているものは割と多い。
「相葉くんの事情は何となくみんな知ってるけどね」
根岸がそう言うと、相葉は笑顔で対応した。
「佐藤くん…会長のビジュアル解禁宣言で、卒業生が入学式に参列希望をやたらと出しているんだけど」
根岸がそう言って、資料を見るように促す。警備の予算を、動かすのかどうかということらしい。
「招待してる訳じゃない。2階の立ち見に入れればいい」
佐藤はそう言って、予算の変動は無しと決めた。
「俺はユーヤの素を知ってるけどね」
相葉がニヤニヤしているので、下総は改めて佐藤を見た。頭が若干の違和感だ。
「小等部の頃は染めてなかったからな。カラコンも入れてなかったし」
「僕小等部からいたけど、佐藤くんのこと分からないや」
佐々木は首をかしげながら言う。
「ユーヤは苗字を変えてるから」
相葉はそう言って、だから佐藤に馴染めないと笑った。
「中等部から佐藤にしたんだ。平凡な苗字」
「頭黒くして没個性な」
相葉が笑いながら言う。初めて見た時、黒髪の佐藤が面白かったらしい。
「ねぇ、佐藤くん。ひとつ聞いてもいいかな?」
未だに佐藤と、手を繋ぎ続けている下総が口を開いた。
「なに?」
佐藤は下総の顔を見た。
ずっと繋いでいる手を、下総は見つめている。それで何を聞かれるか、既に分かってはいた。だから、ほかの役員は気づかない。
「なんで左手の薬指に指輪してるの?」
下総がそう言って、繋いだ手を上にあげる。
どう見ても新品の指輪がひかっていた。
「嫁に行ったから」
「え?」
「この間、16になったから嫁に行った」
「恋人いないって、答えてたのに」
下総の突っ込みもちょっと違う。
「もしかして、あの人?」
相葉が思い出したように聞くと、佐藤は頷いた。
「ああそうだよ」
佐藤が肯定したことで、相葉は納得した。佐藤の家族用と言っているスマホに、唯一登録されている人だ。
「つまり、恋人はいないけど旦那はいる、的な?」
遠山がそう言うと、佐藤は笑っていた。
「ノンケじゃねーじゃん」
「旦那にしか興味無い」
「ご馳走様と、言っておく」
遠山はそう言いつつ、下総の顔を見ていた。下総は素直におめでとう。とか言っちゃってる。完全にこの学園に染まってるよな。とか遠山は思うのだ。
何やら騒がしい寮内の空気を感じて、佐藤は呟いた。すっかり忘れていたけれど、今日は四月一日だ。今日から学年が変わる。生徒は四月二日産まれが年長者になる。と言うのか腑に落ちないけど。入学を許可されないと高校生にならないけど。
まぁ、細かいことは置いといて中等部の寮から高等部の寮に1年生が移ってきているわけだ。
しかしながら、このフロアに誰かが入ってくるとは聞いていない。
つまり、今年はその手の特待生がいないと言うことになる。
「なんだ、あいつは意外と平凡なのか?」
そんなことをボヤきながら、佐藤はちょっとした野次馬根性を出して2階へと降りてみた。
簡易受付所となってしまった食堂には、結構人がいた。
中等部で使っていたカードキーを返して、高等部で使用するカードキーを受け取る。中等部の寮と違うのは、門限が1時間延びたこと。部屋も個人スペースが広くなった。6畳から8畳だ。寮の規約も変わりない。家具は既に入れられているので、大抵が着替え程度を持ってきただけだ。
もちろん、新しい制服も備え付けのクローゼットに入っている。
このごちゃごちゃがあと三日ほど続くだろう。缶コーヒーでさえ買わない佐藤は、だいぶ離れたところからその様子をながめていた。もちろん、知り合いなんていない。
「佐藤くん、なにしてるの?」
昨日も学校で顔を合わせた。今日は、これから学校で会う予定だった下総が声をかけてきた。
「一年が入ってきたなぁ、って」
「懐かしい?」
「別に」
佐藤の素っ気ない返答に、下総は思わず笑ってしまった。分かりきっていた事だけど、改めて言われるとそうなんだと思う。
(佐藤くん、素っ気ない)
下総としては、もしかして緊張しているのかも?という淡い期待は打ち砕かれた。どうしたって佐藤は他人に興味がないらしい。
「あっ」
佐藤は何言わずにふっと歩き出してしまった。向かう先は階段だ。
「え、置いていくとかなくない?」
下総は慌てて佐藤の後をおった。下総だって、制服を着ていたのだ。一言声をかけてくれてもいいでは無いか。
「えー、ちょっと待ってよ」
校舎の階段と違って、寮の階段は非常階段と同じ作りをしているせいで、段差が男子学生むけになっていない。
1段づつ丁寧に降りようとすると、下総のように身長の高い者は、どうしたっておかしな降り方になってける。だからといって、急ぐに任せて1段抜かしをするほどのキャラでは下総はない。
待ってと言われたからか、佐藤は立ち止まって振り返る。手すりに手を添えながらとたとたと降りてくる下総を見て、佐藤は何となく顔が緩んだ。
「え?なに?」
踊り場からこちらを見上げる佐藤の顔を見て、下総は驚いた。
笑ってる。
「足が長いと大変だな」
下総が追いついた途端に、佐藤はまた歩き出す。下総は佐藤の後ろをゆっくりとついて行くことが出来た。
佐藤は、あえてこちらの非常階段を使用したのだ。食堂のある2階へと上がる階段は、新入生がやたらと利用していて、人が多いのだ。
結局は玄関で人混みに遭遇するだろうけれど、そこで一瞬すれ違うだけなら大したことは無い。
佐藤は相変わらずパーカーの上に学ランを着込んでいる。
後ろからフードを見れば、生地が薄くなったのが確認できた。一応素材にはこだわっているらしい。
下総は何となく佐藤のパーカーに触れてみた。
「なんだよ」
「生地が薄くなったね、春物?」
「はぁ?」
佐藤はどこか不機嫌そうな顔をしているけれど、声は違う。
お互い手ぶらで歩いているので、何となく手持ちぶたさな感じがして、下総は思わず佐藤の手を取った。
「なんだよ、いきなり」
そうは言ったものの、佐藤は下総の手を振りほどこうとはしなかった。
「こうやって、学校行ったことない?」
「はぁ、ねーし」
「そうなの?相葉くんとも?」
「明李と手ぇ繋ぐとかないわ」
やっぱり佐藤は手をそのままにする。
「俺とは繋いでくれるんだ」
下総はちょっとだけ、嬉しそうに笑った。
「つか、お前俺の手を上にあげるな」
佐藤が、ムッとしたポイントはそこだった。
「え?そこ」
「俺のがちっちぇの丸わかりじゃん」
佐藤の苦情を受けて、笑いながら下総は手を下げた。
「俺が辛い」
「じゃあ離せばいい」
「それはやだ」
「高校生にもなって、手繋ぐとか」
佐藤は目線を合わせない。
「仲良しアピールだよ」
「誰にだよ」
とりあえず、おしゃべりしながら二人で登校してみた。
もちろん、仲良しアピールはちゃんと通じていた。生徒会室の窓から相葉たちが見ていたのだ。
「僕たちに見せてるんだよね?」
佐々木が相葉に尋ねる。
「そうでしょうね。そもそも、俺とユーヤが小等部からの付き合いってに対抗してんのかな?」
「長いんだね」
「小等部から寮生ってのが少ないんですよ」
相葉は吐き捨てるように言う。そんな態度がどことなく佐藤と通じる気がすると、後ろから見ていた遠山は思った。でも、思っただけで口にはしない。
「桜餅貰ったから緑茶でいいよね?」
会議用のテーブルに、桜餅と緑茶を既に並べているのは根岸で、書記である遠山は資料を配っていた。
「あ、手伝ってなかった」
へらっと笑いながら佐々木は言うけれど、資料を印刷したのは佐々木だから、まとめて配るだけの遠山の方が楽をしているのだろう。
廊下が一瞬賑やかになったと思ったら、佐藤と下総が手を繋いだまま入ってきた。
「いい加減、手を離せよ」
「別に問題ないでしょう?」
「大アリだよ、トイレでも繋いでるとか、意味わかんねー」
佐藤の発言で、さすがに相葉は吹き出した。
トイレでも手を繋いでいた?どうやって用事を済ましたのだろう?
「なにかの罰ゲームなの?」
佐々木が聞くと下総が嬉しそう答えた。
「俺に隠し事してたから」
「なんだよそれ、聞かれなかったからだろ」
佐藤は相葉に、一瞬目線を送った。
「あ、俺を巻き込まないでよ。まぁ、俺もユーヤに同意」
相葉は席について、楽しそうに佐藤を、眺めていた。
「小等部からいたんだよね?」
「そう、小等部から寮にいたのなんて今じゃ俺らぐらい?」
相葉は佐藤を見ながら喋る。
「小等部の寮は出入りが激しいからな」
佐藤は右手で資料を見ながら返事をする。
「小等部に寮があったことを知らなかったけど、俺は」
下総が言うと、ほかの三人も頷いた。
「基本は通いに1時間半だからな。寮に入れられるのなんて、よっぽどの奴だけ」
佐藤がそう言うと、相葉は苦笑いするしかない。相葉の家からだと飛行機だけでも1時間半はかかる。
「正式には募集してないってこと?」
佐々木が聞くと佐藤は頷いた。
「コネって言うより寄付金次第」
「寄付金」
そのワードに驚きはするものの、私立の学園だ。あっても不思議ではない。
「寄付金と言う名の賄賂みたいなもんだよ」
いくら積んだかなんて知らないけど。なんて佐藤は笑いながら言った。相葉は黙って頷いている。
「俺も相葉も柳田も、帰る家なんてないんだよ」
佐藤がサラッと言うと、相葉は笑っていた。
「仕送りだけはやたらと貰えるけどね」
「俺はそれも嫌だから自分で稼いでるけどな」
全く笑えない話だ。
佐藤はともかく、相葉の実家については割と知られている。海外にも進出しているような会社だ。株式も上場しているから、大企業のおぼっちゃまとして相葉の人気は高いのだ。見た目だってかなりいい。異母兄弟が居ることは知られているけれど、世間的には相葉が跡取りだと認知されている。それを見据えて相葉の親衛隊になっているものは割と多い。
「相葉くんの事情は何となくみんな知ってるけどね」
根岸がそう言うと、相葉は笑顔で対応した。
「佐藤くん…会長のビジュアル解禁宣言で、卒業生が入学式に参列希望をやたらと出しているんだけど」
根岸がそう言って、資料を見るように促す。警備の予算を、動かすのかどうかということらしい。
「招待してる訳じゃない。2階の立ち見に入れればいい」
佐藤はそう言って、予算の変動は無しと決めた。
「俺はユーヤの素を知ってるけどね」
相葉がニヤニヤしているので、下総は改めて佐藤を見た。頭が若干の違和感だ。
「小等部の頃は染めてなかったからな。カラコンも入れてなかったし」
「僕小等部からいたけど、佐藤くんのこと分からないや」
佐々木は首をかしげながら言う。
「ユーヤは苗字を変えてるから」
相葉はそう言って、だから佐藤に馴染めないと笑った。
「中等部から佐藤にしたんだ。平凡な苗字」
「頭黒くして没個性な」
相葉が笑いながら言う。初めて見た時、黒髪の佐藤が面白かったらしい。
「ねぇ、佐藤くん。ひとつ聞いてもいいかな?」
未だに佐藤と、手を繋ぎ続けている下総が口を開いた。
「なに?」
佐藤は下総の顔を見た。
ずっと繋いでいる手を、下総は見つめている。それで何を聞かれるか、既に分かってはいた。だから、ほかの役員は気づかない。
「なんで左手の薬指に指輪してるの?」
下総がそう言って、繋いだ手を上にあげる。
どう見ても新品の指輪がひかっていた。
「嫁に行ったから」
「え?」
「この間、16になったから嫁に行った」
「恋人いないって、答えてたのに」
下総の突っ込みもちょっと違う。
「もしかして、あの人?」
相葉が思い出したように聞くと、佐藤は頷いた。
「ああそうだよ」
佐藤が肯定したことで、相葉は納得した。佐藤の家族用と言っているスマホに、唯一登録されている人だ。
「つまり、恋人はいないけど旦那はいる、的な?」
遠山がそう言うと、佐藤は笑っていた。
「ノンケじゃねーじゃん」
「旦那にしか興味無い」
「ご馳走様と、言っておく」
遠山はそう言いつつ、下総の顔を見ていた。下総は素直におめでとう。とか言っちゃってる。完全にこの学園に染まってるよな。とか遠山は思うのだ。
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