【完結】コインランドリーの恋

久乃り

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第2話

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 彼が来るであろう少し前にコインランドリーにやって来て、ゆっくりと空いている数を確認する。小さな機械は上の段が、1つしか空いていなかった。そこを使うべきか、下の段にするべきか、悩んでいると、自動ドアが開いた。

(きっ、来た)

 思わずそちらを見てしまったけれど、人としての条件反射だ。佐々木は自分に言い聞かせて、直ぐに目を逸らした。

「あの、こちら使われますか?」

 小さな機械の前に立っていたからから、彼から声をかけられてしまった。
 今日は薄いストライプ柄のシャツだ。スラックスをはいていて、靴はシンプルなスニーカーだ。

「えっ、あ、あ、はい」

 しどろもどろになりながらも、返事をしてしまった。佐々木が返事をしたから、彼はしゃがみこんで下の段の扉を開いた。ナイロン製のバックから洗濯物を取り出して、最後にボトルから粒を出して投入した。

(か、香り付けとか、までっ)

 一連の動作が非常にスムーズで、佐々木はずっと見つめていた。彼はそのまま扉を閉めると、必要な金額のコインを投入する。動き出したのを確認すると、終了時刻を確認して立ち上がった。

「なにか?」

 洗濯乾燥機を使うと答えたのに、立ちっぱなしの佐々木の顔を見て、不審に思ったらしい。

「あ、いや、別に」

 佐々木は慌てて動き出すと、開いている上の段の扉を開けて、洗濯物を放り込んだ。本当はコインランドリーなんて使う必要は無い。洗濯機は持っている。部屋干しをしても問題なんてない。仕事はほぼリモートで済ませているから着替えも大してしていない。

「これでアリバイが作れた」

 ほぼ同時に洗濯を始めたから、終わりの時間もほぼ同じだ。ここでこのまま居座り続けても不審者にならない。
 佐々木は安心して椅子に座り、そうしてタブレットを操作し始めた。


 終了時間がそろそろだな。なんて思いつつ、デジタル表示の数字を確認した。何人かが出入りをして、乾いた洗濯物を持ち帰る。中にはここで畳んでいく人もいた。シーツを畳むのは大変そうだ。なんて思ったけれど、一人暮らしの部屋では干す方が大変だろう。

 佐々木はチラチラと時間を確認しつつ、自動ドアの開く気配に耳をもっていっていた。おそらく、例の彼はやってくる。几帳面な性格なのか、終了よりほんの少しだけ早くやってくるのだ。

 ウィーンという音がして、自動ドアが開いた。反射的にそちらを見るとやはり彼だった。平日のこんな時間なのにシャツにスラックスだ。ベルトもきちんとしめている。そうして前に立つと、自分の洗濯乾燥機が終わるのを待つ。

 佐々木の目の前に、小ぶりで形の良い臀がある。触りたい。いや、掴みたい。きっちりとベルトをしめている腰は佐々木の両手で掴めそうだ。あの腰を鷲掴みにしたい。
 佐々木がそんな妄想をしていると、終了音が鳴り響いた。そうすると彼は膝を着いて下の段のコインランドリーの扉を開ける。乾燥まで終わっている洗濯物を取り出していく。その手元を佐々木は思わず凝視した。

(指先細くて長い。爪が短い)

 佐々木の中の勝手な想像で、彼の架空の彼女があの指で敏感なトコロを責め立てられている。どうしたって、佐々木の下品な想像では、短い爪は相手を傷付けないためとしかならないのだ。
 気づかれないようにチラチラと彼の洗濯物をチェックする。やはり今日もある。薄い透け感のある布地に、やや太めの紐。

(黒に赤に紫っ、黄色もエロい)

 彼がタオルで隠すようにしたのはレースでてきた黄色のおそらく絶対に下着だ。太めの糸で編まれたレースでは、何が隠れるというのだろう。佐々木の妄想は止まらない。そんな佐々木の前を彼は無言で去っていく。一瞬横を向いたから、ベルトの回された腰、つまりは薄い腹が目に付いた。

(やべぇぇ)

 タブレットで顔を隠したが、佐々木の隠さなくてはならないのは下半身だ。あの薄い腹を見てしまっては、もう下品な想像はノンストップで最後まで突き進んでしまった。

「終わった」

 佐々木の洗濯物が入っている洗濯乾燥機が終了音を鳴らした。
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