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21.アルファ様は優秀です
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「この車でだめなら、どんな車ならいいんだ」
義隆は帰宅する車中で田中に八つ当たりしていた。晴天の霹靂のような出会いをした運命の番が大変なことになっていた。オメガなのにオメガの判定を得られなかった。すなわち発情しない。フェロモンの分泌がない。なのに子宮だけはしっかりと成長していた。改善するための手術は場所が場所なだけに難しいから、こっそりすることが出来ない。ほっておけば貴文はベータとしての人生を全うすることだろう。
だがしかし、貴文に一目惚れをし、あまつさえ運命の番だと察してしまった義隆は何とかしたいのだ。そう、運命の番をオメガとして覚醒させたい。そうして自分に惚れて欲しい。
恋は盲目とはよく言ったもので、冷静に考えて貴文の顔は平凡だ。美人でもなければ可愛くもない。そもそも29歳の成人男子だ。義隆よりも10歳以上年上だ。それなのに、あの一瞬で恋に落ちた。それがフェロモンじゃないから厄介なのだ。フェロモンだったら抗ってやるつもりだったのに、なぜだかあの顔に惚れてしまったのだ。
「クラスで2番目に可愛い子でもない。まして女でもない。もう時期30になる男に惚れたんだ。何がなんでも俺に惚れさせたい。だから田中、何とかならないのか」
はっきり言えば言ってることがめちゃくちゃだ。とても名家の優秀なアルファ様の発言とはおもえない。思えないのだが、番のことになったらアルファはどうにもポンコツになるのだ。歴史上、オメガのためになりふり構わずことを起こしたアルファは数しれない。ひとつの国を滅ぼしたきっかけは、番のオメガが「あの国が欲しい」 と言ったからだと後の歴史家が書いていた。
名家名門一之瀬家の誇る一之瀬匡は、運命の番である菊地和真のために法律を作り守るためのシェルターを作った。10年ほどの時間をかけて、愛する番をいつでも守れるように国を社会を人々の意識を変えたのだ。少なからずともその偉業をなしとげた一之瀬匡の血を引いている義隆である。惚れた相手をオメガとして目覚めさせるぐらいはやってのけてみせようものなのだ。
「道路交通法違反になりますからねぇ、私が積極的には申し上げにくいのですが……」
田中はなんとも歯切れの悪い返事をした。仕方がないのだ。田中は大人だ。まして一之瀬家に仕える立派な秘書だ。常識人として振る舞わなくてはならないのだ。
「それくらいは分かっている。我が一之瀬家が積極的に違反行為をする訳にはいかない。分かって……ああ、あれか、あれだな。田中」
斜め前方に停車した車を見て義隆は笑った。そう、答えが目の前にやってきた。つまりはそういうことなのだ。
「あの車は車検に通ったから公道を走行しているんだよな?」
「そうですね」
左前方に止まった白のワンボックス。何故か後部座席の窓には内側にキルティングのようなものが貼られている。後方の窓ガラスにも貼られているから後部座席の様子は外からはまるで見えなかった。
「どのくらいで用意ができる?」
義隆はじっくりと左前方に止まったワゴン車を見た。ベースは商業用のワンボックスだ。そうなるとサスが板バネだろうから、乗り心地の観点から失格だ。やはり乗り心地は、重要だ。
「新車でご準備するとだいぶお時間がかかります」
田中の中ではざっと見積もりが進んでいるのだろう。
「どうせ内装を全て取り替えるんだからそこは仕方がないな。車検を通して来週までに準備できるか?」
スマホで何かを確認しながら義隆はそう言ったが、ふと気がついて顔を上げた。
「黒だとイメージが悪いか?白い方がいいのか?」
「この車でだめなら、どんな車ならいいんだ」
義隆は帰宅する車中で田中に八つ当たりしていた。晴天の霹靂のような出会いをした運命の番が大変なことになっていた。オメガなのにオメガの判定を得られなかった。すなわち発情しない。フェロモンの分泌がない。なのに子宮だけはしっかりと成長していた。改善するための手術は場所が場所なだけに難しいから、こっそりすることが出来ない。ほっておけば貴文はベータとしての人生を全うすることだろう。
だがしかし、貴文に一目惚れをし、あまつさえ運命の番だと察してしまった義隆は何とかしたいのだ。そう、運命の番をオメガとして覚醒させたい。そうして自分に惚れて欲しい。
恋は盲目とはよく言ったもので、冷静に考えて貴文の顔は平凡だ。美人でもなければ可愛くもない。そもそも29歳の成人男子だ。義隆よりも10歳以上年上だ。それなのに、あの一瞬で恋に落ちた。それがフェロモンじゃないから厄介なのだ。フェロモンだったら抗ってやるつもりだったのに、なぜだかあの顔に惚れてしまったのだ。
「クラスで2番目に可愛い子でもない。まして女でもない。もう時期30になる男に惚れたんだ。何がなんでも俺に惚れさせたい。だから田中、何とかならないのか」
はっきり言えば言ってることがめちゃくちゃだ。とても名家の優秀なアルファ様の発言とはおもえない。思えないのだが、番のことになったらアルファはどうにもポンコツになるのだ。歴史上、オメガのためになりふり構わずことを起こしたアルファは数しれない。ひとつの国を滅ぼしたきっかけは、番のオメガが「あの国が欲しい」 と言ったからだと後の歴史家が書いていた。
名家名門一之瀬家の誇る一之瀬匡は、運命の番である菊地和真のために法律を作り守るためのシェルターを作った。10年ほどの時間をかけて、愛する番をいつでも守れるように国を社会を人々の意識を変えたのだ。少なからずともその偉業をなしとげた一之瀬匡の血を引いている義隆である。惚れた相手をオメガとして目覚めさせるぐらいはやってのけてみせようものなのだ。
「道路交通法違反になりますからねぇ、私が積極的には申し上げにくいのですが……」
田中はなんとも歯切れの悪い返事をした。仕方がないのだ。田中は大人だ。まして一之瀬家に仕える立派な秘書だ。常識人として振る舞わなくてはならないのだ。
「それくらいは分かっている。我が一之瀬家が積極的に違反行為をする訳にはいかない。分かって……ああ、あれか、あれだな。田中」
斜め前方に停車した車を見て義隆は笑った。そう、答えが目の前にやってきた。つまりはそういうことなのだ。
「あの車は車検に通ったから公道を走行しているんだよな?」
「そうですね」
左前方に止まった白のワンボックス。何故か後部座席の窓には内側にキルティングのようなものが貼られている。後方の窓ガラスにも貼られているから後部座席の様子は外からはまるで見えなかった。
「どのくらいで用意ができる?」
義隆はじっくりと左前方に止まったワゴン車を見た。ベースは商業用のワンボックスだ。そうなるとサスが板バネだろうから、乗り心地の観点から失格だ。やはり乗り心地は、重要だ。
「新車でご準備するとだいぶお時間がかかります」
田中の中ではざっと見積もりが進んでいるのだろう。
「どうせ内装を全て取り替えるんだからそこは仕方がないな。車検を通して来週までに準備できるか?」
スマホで何かを確認しながら義隆はそう言ったが、ふと気がついて顔を上げた。
「黒だとイメージが悪いか?白い方がいいのか?」
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