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だからこうなる
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「ん、ぅん……ん」
首筋回されて手がゆっくりと髪の中にまわって、緩く編み込んだ髪型を崩していく。
そんなに力はこもってはいないが、それでも離れられない程度には入っている。
相変わらずの少し短めの舌が、頑張って自分の口内を丹念に舐めとるように動いている。一番刺激をするのは舌の付け根で、角度を変えて上顎もゆっくりと舐めてくる。その刺激がなんだかむず痒くてからかうように自分の舌を絡めてみる。
「ふっ、ん……あ、ん」
唾液の分泌を促して、器用に飲み込んでいるのが分かる。喉を鳴らす音が聞こえる度に、どうにもならない高揚感がやってくる。
「ん、うん」
満足したのか、ゆっくりと顎まで舐めとってからはなれていった。
「補給できたかな」
自分の唇を最後に舐める仕草は、イタズラ心を刺激するのだが、そこで手を出そうものなら両手で拒絶されるのでもうやめている。
「それは良かった」
リシュデリュアルは年下の番が割と我儘に自分勝手をすることをよしとしていた。そういう行動を見るのもなかなか楽しい。と気がついたのだ。千年ほど生きて、すっかり何もかも退屈に感じていたけれど、若い番はよく動く。自分と考え方が根本的に違うのだと、分かると、なかなか考え深い。
産まれた我が子になんの躊躇いもなく自らの血を与えるとか、王族なら蛮行だとか言って拒否しそうなものなのに、してしまう。そんなところも斬新で新鮮だ。
魔力の補給が出来て、満足そうに目を閉じて寝転ぶ番を見ていたら、コロンと転がった拍子に目が合った。
突然目を開いてこっちを見てきたのだ。
「え?、なになに?」
じっと見つめるその様子は、何がお強請りだと最近分かってきたので、嬉しくてついつい甘い顔をしてしまう。
「なぁ、下に降りたらダメなのか?」
予想外のことを言われて、リシュデリュアルは固まった。
「えーっと、まあまり、説明しなかった僕も悪いんだけど」
どこから説明したらいいのか分からず、リシュデリュアルは焦っていた。
「いや、その辺は感覚共有で理解してはいる」
我が子を膝に抱きながらフィートルは焦るリシュデリュアルを制した。王族だからなのか、どこか達観したような素振りを見せつつも、約束の抜け道を探し出そうと探るような目を向けてくる。
「下に降りられると理解しているのだけれど?」
「うん、できるよ」
浮島から、天から、下に降りることはできる。許可も要らない。ただ、竜族でなければそれなりの反動が出る。
「色々と弊害が出ると思う。ちょっと時間の流れが違うから」
「一日が百年とか?」
「いや、さすがにそこまでは」
なかなかファンタジーなことを言われて、さすがにリシュデリュアルは否定した。
「そうじゃなくて、ね」
リシュデリュアルはどう説明をするか、頭の中で考えた。
「ああ、分かった」
リシュデリュアルが考え始めると、その途端にフィートルが返事をしてきた。どうやら感覚共有の為、リシュデリュアルが頭の中で話そうとしていることを、フィートルは勝手に共有して、理解してくれたらしい。
「ええ、と、大丈夫?」
説明しないまま理解されて、リシュデリュアルはちょっと困惑していた。
「ペナルティの内容は理解した。それは少し危険だと理解した」
なんだか可愛げの無い返答を聞いて、リシュデリュアルは少し不満だったが、それはそれで良しとすることにした。
「下に降りて、何がしたいのかな?」
リシュデリュアルは、滅多に下に降りたがる番がいないため、フィートルが下に降りたい理由を聞いてみた。
「魔素溜まりを浄化しないと」
至極真面目なことを言われて、リシュデリュアルは少々拍子抜けした。
フィートルはひっそりと自国の大地に立っていた。
いつもの通りにフードを被り顔を隠し、手袋をして手の甲の紋章を隠す。
魔素溜まりを見つけて、腰にぶら下げた棒を伸ばして浄化の作業の、魔力を注ぐ。
一つだけ違うのは、なぜこんなことをしているのか自分で良く、理解していない事だ。
大地に降り立った途端、色々消えてなくなった。
喪失感だけが自分の中にあると言うのに、何故か目的があった気がすると、ふらふらと足が進んだ。
何をどうしてどうなるか。それは感覚として理解していた。魔力の注ぎ方も、力加減もそうだと知っていた。
魔素溜まりを一つ無くす毎に、休憩を取りゆっくりとやすんだ。魔物の気配はそれなりにあるけれど、人とは誰にもあわなかった。
「だいぶ片付いたかな?」
思わず口にしてみたが、誰もいないため返事はない。
辺りを警戒しても、魔物の気配も遠ざかっていた。
少し開けた場所で、適当な木の根元に腰掛ける。
困ったことに、どうするかまったく検討がつかなかった。他に何かすることがあったのか?
木々の間から差し込む光を目を細めて眺めていると、何故かそこに人が立っていた。
陽の光を浴びて、若干輪郭がぼやけるようにも感じるが、確かにヒトの形をしている。
自分より幾分大きいのが分かった。
「気が済んだかな?」
ゆっくりと歩み寄ってきたそのヒトは、自分を覗き込むように顔を近づけるとそう言った。
「……よく、わからないな」
「うん、まぁ、初めてだからね」
手を差し出されたので、自然と握ってしまった。
「帰ろう」
返事を言う必要はなかった。
「ダルいな」
久しぶりに、地上に降りて魔力を使ったせいか、体がだるかった。
「補給する?」
嫁である竜族がお誘いを申し出てくれたが、すげなく断った。
「残念」
口にしつつも顔は笑っているので、本当はそうでも無いようだ。
「下に行ったことは覚えているでしょう?」
「そうだな。覚えてる」
不思議な感覚だった、足が地面に着いた途端、色々な事を忘れてしまったのだから驚きだ。
しかし、戻ってきてみれば何もかもキチンと覚えている。これが竜族の番に科せられた制約だと言うのだから、なかなか面白い。
「しかし、困ったな」
「どうしたの?」
リシュデリュアルは大切な番の困りごとに興味を示した。
「俺がここにいることを、誰にも教えていない」
「ああ、そうか」
リシュデリュアルは、すっかり忘れていた。自分の大切な番は帝国と呼ばれる所の王子であったことを。
天帝に報告したので、それでよしと思っていたのだが、ニンゲンはそうはいかない。
「自分の部屋に結界作ってるんだよな」
フィートルがボソリと呟いたことがちょっとあんまり過ぎて、さすがにリシュデリュアルも困惑した。
「えーっと、さすがに解除してあげないとまずいと思うよ、僕は」
城の中に結界がはられた部屋があるだなんて、どんなダンジョンなんだろう。と想像しただけで残されたヒトたちが可哀想になる。解除しなければ、この先千年は開かずの間だ。
「一度、国に戻って部屋の片付けをしよう」
フィートルがそう言うと、リシュデリュアルは笑顔で頷いた。
首筋回されて手がゆっくりと髪の中にまわって、緩く編み込んだ髪型を崩していく。
そんなに力はこもってはいないが、それでも離れられない程度には入っている。
相変わらずの少し短めの舌が、頑張って自分の口内を丹念に舐めとるように動いている。一番刺激をするのは舌の付け根で、角度を変えて上顎もゆっくりと舐めてくる。その刺激がなんだかむず痒くてからかうように自分の舌を絡めてみる。
「ふっ、ん……あ、ん」
唾液の分泌を促して、器用に飲み込んでいるのが分かる。喉を鳴らす音が聞こえる度に、どうにもならない高揚感がやってくる。
「ん、うん」
満足したのか、ゆっくりと顎まで舐めとってからはなれていった。
「補給できたかな」
自分の唇を最後に舐める仕草は、イタズラ心を刺激するのだが、そこで手を出そうものなら両手で拒絶されるのでもうやめている。
「それは良かった」
リシュデリュアルは年下の番が割と我儘に自分勝手をすることをよしとしていた。そういう行動を見るのもなかなか楽しい。と気がついたのだ。千年ほど生きて、すっかり何もかも退屈に感じていたけれど、若い番はよく動く。自分と考え方が根本的に違うのだと、分かると、なかなか考え深い。
産まれた我が子になんの躊躇いもなく自らの血を与えるとか、王族なら蛮行だとか言って拒否しそうなものなのに、してしまう。そんなところも斬新で新鮮だ。
魔力の補給が出来て、満足そうに目を閉じて寝転ぶ番を見ていたら、コロンと転がった拍子に目が合った。
突然目を開いてこっちを見てきたのだ。
「え?、なになに?」
じっと見つめるその様子は、何がお強請りだと最近分かってきたので、嬉しくてついつい甘い顔をしてしまう。
「なぁ、下に降りたらダメなのか?」
予想外のことを言われて、リシュデリュアルは固まった。
「えーっと、まあまり、説明しなかった僕も悪いんだけど」
どこから説明したらいいのか分からず、リシュデリュアルは焦っていた。
「いや、その辺は感覚共有で理解してはいる」
我が子を膝に抱きながらフィートルは焦るリシュデリュアルを制した。王族だからなのか、どこか達観したような素振りを見せつつも、約束の抜け道を探し出そうと探るような目を向けてくる。
「下に降りられると理解しているのだけれど?」
「うん、できるよ」
浮島から、天から、下に降りることはできる。許可も要らない。ただ、竜族でなければそれなりの反動が出る。
「色々と弊害が出ると思う。ちょっと時間の流れが違うから」
「一日が百年とか?」
「いや、さすがにそこまでは」
なかなかファンタジーなことを言われて、さすがにリシュデリュアルは否定した。
「そうじゃなくて、ね」
リシュデリュアルはどう説明をするか、頭の中で考えた。
「ああ、分かった」
リシュデリュアルが考え始めると、その途端にフィートルが返事をしてきた。どうやら感覚共有の為、リシュデリュアルが頭の中で話そうとしていることを、フィートルは勝手に共有して、理解してくれたらしい。
「ええ、と、大丈夫?」
説明しないまま理解されて、リシュデリュアルはちょっと困惑していた。
「ペナルティの内容は理解した。それは少し危険だと理解した」
なんだか可愛げの無い返答を聞いて、リシュデリュアルは少し不満だったが、それはそれで良しとすることにした。
「下に降りて、何がしたいのかな?」
リシュデリュアルは、滅多に下に降りたがる番がいないため、フィートルが下に降りたい理由を聞いてみた。
「魔素溜まりを浄化しないと」
至極真面目なことを言われて、リシュデリュアルは少々拍子抜けした。
フィートルはひっそりと自国の大地に立っていた。
いつもの通りにフードを被り顔を隠し、手袋をして手の甲の紋章を隠す。
魔素溜まりを見つけて、腰にぶら下げた棒を伸ばして浄化の作業の、魔力を注ぐ。
一つだけ違うのは、なぜこんなことをしているのか自分で良く、理解していない事だ。
大地に降り立った途端、色々消えてなくなった。
喪失感だけが自分の中にあると言うのに、何故か目的があった気がすると、ふらふらと足が進んだ。
何をどうしてどうなるか。それは感覚として理解していた。魔力の注ぎ方も、力加減もそうだと知っていた。
魔素溜まりを一つ無くす毎に、休憩を取りゆっくりとやすんだ。魔物の気配はそれなりにあるけれど、人とは誰にもあわなかった。
「だいぶ片付いたかな?」
思わず口にしてみたが、誰もいないため返事はない。
辺りを警戒しても、魔物の気配も遠ざかっていた。
少し開けた場所で、適当な木の根元に腰掛ける。
困ったことに、どうするかまったく検討がつかなかった。他に何かすることがあったのか?
木々の間から差し込む光を目を細めて眺めていると、何故かそこに人が立っていた。
陽の光を浴びて、若干輪郭がぼやけるようにも感じるが、確かにヒトの形をしている。
自分より幾分大きいのが分かった。
「気が済んだかな?」
ゆっくりと歩み寄ってきたそのヒトは、自分を覗き込むように顔を近づけるとそう言った。
「……よく、わからないな」
「うん、まぁ、初めてだからね」
手を差し出されたので、自然と握ってしまった。
「帰ろう」
返事を言う必要はなかった。
「ダルいな」
久しぶりに、地上に降りて魔力を使ったせいか、体がだるかった。
「補給する?」
嫁である竜族がお誘いを申し出てくれたが、すげなく断った。
「残念」
口にしつつも顔は笑っているので、本当はそうでも無いようだ。
「下に行ったことは覚えているでしょう?」
「そうだな。覚えてる」
不思議な感覚だった、足が地面に着いた途端、色々な事を忘れてしまったのだから驚きだ。
しかし、戻ってきてみれば何もかもキチンと覚えている。これが竜族の番に科せられた制約だと言うのだから、なかなか面白い。
「しかし、困ったな」
「どうしたの?」
リシュデリュアルは大切な番の困りごとに興味を示した。
「俺がここにいることを、誰にも教えていない」
「ああ、そうか」
リシュデリュアルは、すっかり忘れていた。自分の大切な番は帝国と呼ばれる所の王子であったことを。
天帝に報告したので、それでよしと思っていたのだが、ニンゲンはそうはいかない。
「自分の部屋に結界作ってるんだよな」
フィートルがボソリと呟いたことがちょっとあんまり過ぎて、さすがにリシュデリュアルも困惑した。
「えーっと、さすがに解除してあげないとまずいと思うよ、僕は」
城の中に結界がはられた部屋があるだなんて、どんなダンジョンなんだろう。と想像しただけで残されたヒトたちが可哀想になる。解除しなければ、この先千年は開かずの間だ。
「一度、国に戻って部屋の片付けをしよう」
フィートルがそう言うと、リシュデリュアルは笑顔で頷いた。
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