【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第13話 乙女ゲームではない?

   ロイの質問はまるっと無視されて、そのままセドリックに手を引かれてロイは連れていかれた。
 行先はシャワールームで、王子に呼ばれたから身なりを整えるためだという。実技の後だと言われても、ロイにはまったく理解が出来なかった。

「えええええええ」

 同級生たちは、制服を脱いでシャワーを浴びている。もちろん、男しかいないから平然と裸だ。誰も何も隠そうとはしない。

「アレックス様の部屋に行くのに、シャワーを浴びてないだなんて失礼だろう」

 そう言って、セドリックはロイの制服を脱がそうとする。

「待って、待って、待ってってば!」

 ロイは慌ててセドリックの手を止める。脱がされるとかないし、脱ぎたくないし、見たくない。

「アレックス様を待たせる訳にはいかないだろう」

 セドリックはそう言って、ロイの制服のボタンに手をかける。

「ヤダヤダ、なんで脱がせようとするの?」

「俺が洗ってやる」

 平然ととんでもないことをセドリックは言う。

「無理無理無理、そんなことしないで」

 ロイが逃げるのを、同級生たちは黙って見ている。

「お前、一人でちゃんと洗えるのか?」

 完全にロイを子ども扱いしている。

「大丈夫だから、洗うとかじゃなくて、浄化魔法使えるから」

 ロイは必死でセドリックを制して、自分に浄化魔法をかけた。それこそ、頭のてっぺんから、つま先まで、制服のシワまで綺麗にした。

「………なんだ、それは」

 浄化魔法を初めて見たのか、セドリックが驚いていた。いや、その場にいた同級生たちもみな驚いている。

「え?使わないの?」

 ロイは、ずっと当たり前に使っていた。確かに、使用範囲は術者の腕しだいではあるので、ここまで全身くまなくできるのは珍しいのかもしれない。

「使わないのではなく、使えないからこうしてシャワーを浴びているんだ」

 セドリックに、言われてロイは納得した。確かに、浄化魔法が使えるのなら、騎士科の食堂があんなに汗臭いなんてことにはならないだろう。

「えと、セドリックも、する?」

 多分、アレックスの部屋にはセドリックが、案内してくれるのだろう。だから、セドリックも綺麗にしないと一緒には行けない。

「…あ、ああ、頼む」

 セドリックの了承を得たので、ロイはセドリックにも全身に、浄化魔法を施した。

「うん、汗くさくないね」

 ロイはセドリックの胸元の匂いを嗅いだ。

「バカか、お前は」

 セドリックはそう言って、ロイを離した。けれど、ロイの手を繋いで騎士科の寮に向かって歩き出した。

「ねぇ、歩くの早くない?」

 コンパスの違いを無視してセドリックが歩くから、ロイは、若干早足だ。これでは、冬だと言うのに汗をかいてしまう。

「…わかった」

 セドリックは立ち止まってから、そう言うと、ロイの歩幅に合わせて歩き出した。けれど、少しセドリックが前を歩くのは変わらない。

「王子の部屋を知ってるの?なんで?」

 ロイは疑問に思ったことを口にした。だって、ロイは魔術学科の方にいる王子の部屋なんて知らない。

「大抵、行かなくても知ってるもんだろう」

「そうなの?」

 行く必要がないから、ロイは知る必要もないと思っていた。

「騎士科に所属するなら、用がなくても場所や人物は把握しておくことだ」

 セドリックに言われ、ロイは頷いた。どうやら、騎士科は呪文を覚える代わりに、場所や人物をす覚える必要があるらしい。
 セドリックに連れられて、アレックスの部屋に入った。中には当たり前のようにテリーが立っていた。そして、何故かテオドールまでいた。

(ゲームで見てたイラストに似てる。テリーとテオドールがいたんじゃ、区別つかないじゃん)

 アレックスはソファーに座っていて、その両脇にテリーとテオドールが、立っている。なんだかこの間に似ている。

「聞いたよ。騎士科の寮に二人部屋の空きがないから魔術学科の寮に残るんだそうだね」

 アレックスがそう言ってきたので、ロイは頷いた。

「お前ほどでは、逆に二人部屋の方が危険な感じがするけどな」

 アレックスがそんなことを言ったけれど、ロイには意味が通じない。

「アレックス様、ロイは子爵家ですから、一人部屋は使えないのです」

 テオドールがアレックスに、そう告げる。

「だが、魔術学科の寮からでは、騎士科の校舎は遠いだろう?」

 アレックスがそんなことを言うので、ロイはすぐに口を開いた。

「別に、問題ないですよ。転移魔法を使えますから」

 それを聞いて、テオドールの表情が変わった。

「あなた、長距離の転移魔法を使えるのですか?」

「え?使えるよ。魔術学科の生徒は大抵使えるんじゃないの?」

 ロイがそんなことを言うと、テオドールは眉間に皺を寄せた。

「長距離の移動を、誰しもができるわけではありません」

 テオドールに、言われてロイは思い出した。言われてみれば、ほとんどの生徒が発動できなかった気がする。卒業までに、教室の端から端へと移動できるようになれば、合格だと聞いた気もする。

「お前、長距離の転移魔法が使えるのか」

 アレックスが身を乗り出してきた。なんだか不味い雰囲気を察したロイは、セドリックの顔を伺った。
 セドリックは、黙って首を横に振る。

「えっと、俺、通学に支障はないんで」

 ロイはそう言って、ドアに向かって走った。アレックスの部屋は結界が貼ってあるから、魔法が発動しない。ドアが開いたので、ロイは迷わずに開けて廊下に出た。テリーが追いかけてきたのがわかったので、すぐにロイは転移魔法を発動させた。

「くそっ」

 ロイの耳元で、テリーが悪態をついたのが聞こえた。
 ロイの転移魔法の発動が、テリーの手より早かったのだ。さすがに二回もテリーに羽交い締めされるのはごめんこうむりたい。
 ざっくりと魔術学科の建物をイメージして転移魔法を発動させたから、着地したのが校舎の入口だった。

「ああ、寮じゃなかった」

 ちょっと失敗したと思ったけれど、部屋に戻っても、テリーが追いかけて来ないとは限らない。
 ロイは少し休んでから、部屋に帰ろうと思って、ゆっくりと視線を動かした。

「げっ、聖女」

 視界の中に、アーシアの姿があった。

「何よ、その言い方は」

 唇をとがらせて、アーシアが文句を言う。中身を知らなければ、可愛らしいものだ。

「せっかく逃げてきたのに……」

 ロイは思わず愚痴が出てしまった。

「逃げてきた?誰から?」

 それを聞き逃さずに、アーシアが食いついてきた。

「え、あ、騎士科の王子」

 名前はなんだっただろうか?ロイは考えた。基本、人の名前を覚えるのは苦手だ。そもそも、王子が二人いてびっくりしたのだ。

「え?アレックス様に会えたの?早くない?」

 アーシアは嬉しそうに言う。

「え?なんで、知ってるの?」

 ロイは不思議に思って聞き返した。

「何言ってるの?アレックス様は、あんたの悪役令息ルートの最難関攻略キャラよ。名前は聞けた?」

「え?うん。名前は聞けたけど?」

 今、何か聴き逃してはいけないことを耳にした。

「じゃあ、攻略ルートが開いたんだ!すっごーい、初日でアレックス様を出せるなんて、さすがは悪役令息ね!」

 なんだかアーシアの鼻息が荒い気がする。

「ねぇ、さっきっから、意味がわからないんだけど。なに、悪役令息って、ルート?」

 途端、アーシアの表情が険しくなった。

「え?、あんたってば、自分の立ち位置分かってないの?悪役令息なのよ、攻略対象者を攻略しなさいよ」

 そんなに、凄まれてもロイにはイマイチ理解ができない。意味が分からなくて首をひねっていると、アーシアが教えてくれた。

「ねぇ、ここがゲームの世界だって知ってるわよね?この間説明したと思うけど、あんたは悪役令息で、騎士科を攻略する主人公なの」

「なんで、悪役令息が主人公?」

 ロイが聞き返すと、アーシアはわかりやすいぐらいにため息をついた。

「分かってないわね。ねぇ、騎士科には女の子は何人いた?」

「一人」

「でしょう?あんたは男なんだから、相手が一人しかいなかったら、攻略シミュレーションとしてはなんの面白みもないじゃない。いーい?あんたの攻略対象は、婚約者のいる貴族の子息なの。だからあんたは悪役令息って、呼ばれてるの。分かる?」

「へ?」

 ロイは思わず間抜けな声を出した。なんだかとんでもないことを言われた。

「乙女ゲームなんて俗称なのよ。シミュレーションゲームの、ジャンル恋愛ってことなの。つまりあんたは貴族の子息と恋愛するの。しかも対象者は全員婚約者がいるの。所謂NTRってやつよね。された方はたまったもんじゃないわよね。だって、相手は下位の子爵子息なんだもん。だから、あんたは悪役令息って呼ばれるのよ」

「ええええええ!!!」

 アーシアから説明されて、ようやく理解出来たロイは、ただ驚いた。そして、脱力した。
 へなへなと力なく座り込む。

「大丈夫よ、この世界同性婚できるから。しかも、魔力で子ども作れるし」

 なんの慰めにもならないことを、アーシアは嬉しそうに教えてくれた。

「ちょっと待って、俺、そんなゲームやりたくない」

「今更無理よ。もうゲームは始まったもの。何かしらのエンディングまで進めなくちゃ……っても、エンディングは卒業式だけどね」

 アーシアはそう言って、極上の笑みを浮かべた。

「え?ウソでしょ……」

 まだ入学して二ヶ月しか経っていない。一月始まりで、一年は十二ヶ月。しかも学園は四年制だ。恐ろしいほど先は長い。

「お互い頑張りましょうね?」

 アーシアが握手を求めて手を差し出してきた。ロイは無意識にその手を取った。
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