【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第42話 見して見して

 ガロ工房の前は静かだった。
 ダンジョンがあり、冒険者が集まる街とはいえ、朝から武器を買い求める者はそうそういないと言うことだ。前回の様に絡まれることにならず、セドリックは内心ホッとしていた。

「おはよう」

 ロイが元気よくガロ工房に入っていき、その後にセドリックが続いた。
 依頼に来た日と同じように、店の主人であるガロはカウンターにいた。満足そうな笑顔を向けてくるのは、自信の表れなのだろう。

「待ってたぜ」

 ガロの返事を聞いて、セドリックは頭を下げた。冒険者たちは、気さくで格式張った態度を嫌う傾向にあると聞いた。だからと言って、セドリックがその対応に合わせることはできない。公爵家の嫡男として生まれ育ってきたし、なにより学園の制服を着ている以上、砕けた態度は取れなかった。

「おはようございます」

 ガロの前まで来て、セドリックは丁寧に挨拶をし直した。人気はなかったけれど、それでも認識阻害を織り交ぜた結界を張るのは忘れられない。将来的に仕える相手がいるから、身につけたものなのだ。

「相変わらずだなぁ」

 ガロは、そんなセドリックの警戒心むき出しにも取れる結界に、苦笑した。この街で、ガロ工房の商品を盗もうなんて不届き者はいないのだ。まして、正体の知れたロイの依頼した剣を掠めとろうなんてバカは、生きていられないと言ってもいいほどだ。

「申し訳ない」

 セドリックがまたそんなことを言うから、ガロはただ小さく笑うしかない。奔放なご子息様に、振り回されるご学友が、どんな身分なのかぐらい知っている。先代によく似た気質だ。

「早く見せてよ」

 そんなセドリックとは対照的に、ロイは気持ちを抑えきれなくて、カウンターに手をついて飛び跳ねかねない勢いだ。

「ああ、わかったよ」

 そう言ってガロは、ロイとセドリック、それぞれの前に剣を置いた。
 柄にはめ込まれた魔石の輝きが、配列の関係性から力を増していた。セドリックは剣を手に取ると、鞘を外した。柄は魔石がはめ込まれているのに、セドリックの手によく馴染んだ。握手をしただけなのに、この仕上がりは大したものだ。刀身に刻まれた文字は、精霊への祈りだった。

「刻む文字はよ、性能によって変えんのよ」

 ガロに言われて理解した。ロイの剣には違う文字が刻まれている。神への加護だ。

「ありがとう。素晴らしいものだ」

 剣を鞘に収め、セドリックは金貨の入った袋を取り出した。空間収納は、まだロイほど大きくはないけれど、使いこなせる様になったのだ。

「こいつは?」

 代金は依頼の時にロイが支払い済みだ。

「当家からの気持ちだ、受け取ってほしい。それと」

 セドリックは酒瓶をカウンターに置いた。

「先代の日記に書かれていた」

 ガロは金貨の入った袋より、酒瓶を手に取った。

「どうした?」

 ガロは酒瓶のラベルをじっくりと眺めている。大したことは書かれていない。酒場でみかけるよくある大衆向けの酒だ。だからこそ、たくさんの酒造所が作ってもいる。

「先代の日記に記されていた。ここの酒造所のを特に喜ぶ、と」

 セドリックがそう答えると、ガロはニヤリと笑った。

「英雄ってぇのも、なかなかいい仕事してくれるな」
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