【完結】英雄が番になるって聞いたのになんか違う

久乃り

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第15話 運命を信じてみる?

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 俺はただいま馬車の中にいた。
 しっかりとアルグレイトに抱きしめられたまま。

「いや、あの、そろそろ離して」

 馬車に乗ってまで抱きしめられているとか、そんなの必要ないだろう。

「遠慮して頂かなくて大丈夫ですよ」

 アルグレイトは笑って言うけれど、目の奥が怖くて仕方がない。
 英雄は敵国の王様をとった。って、聞いたけどこの人がどうやって?俺がそれを聞きたくてじっと見つめていると、アルグレイトは気がついたらしく、

「何か言いたそうですね」

「どうやって敵国の王様をとったんだよ?」

「おや、ご存知でしたか」
 喉の奥で低く笑いながら言う。

「どう見ても騎士じゃないだろ」

「ええ、そうですよ」

 アルグレイトは笑いながら肯定した。騎士じゃないのに王様をとった?横取りしたのか?

「ご心配なく」

 俺の心情を読んだのか、アルグレイトは含みのある笑いを浮かべてきた。

「教えて差し上げましょう」

 そう、言うやいなや、アルグレイトがなにかを取り出した。

「え?」

 俺がそれはなんだろう?なんて考えているうちに、アルグレイトの手がものすごく早く動いて、俺は、身動きが取れなくなっていた。

「えぇ?なに、なに、これ?」

 俺は束縛されていた。まったく身動きが取れない。そんな俺を、アルグレイトは笑ってい見ている。

「あの日、あなたが私の運命の番だと知ったのですよ」

 アルグレイトは銀縁メガネを右手の中指でクイッと押した。

「あんなくだらない戦争なんて簡単に終わるかと思ったのに、意外と長引いてしまいましてね」

 それは俺も思った。戦争の理由がくだらなすぎだ。一応、敵国の王様もαだったらしいけど、敵国にはαがほとんどいなくて、貴族でさえβだと聞いていた。こちらは圧倒的にαの騎士が多いのに、敵国は粘り強く頑張ってくれたのだ。
 まぁ、それでも3年しないで終わらせたんだから、凄いことだと思うけどな。こちらは死者も出てないし。

「あなたが、学園を卒業してしまったら、誰かのところに嫁がされてしまうでしょう?」

 アルグレイトは俺の顔を覗き込んで言う。

「それは、さすがに俺は知らないけど」

 だって、優秀なΩは優秀なαに、嫁がされるって聞いていたし。

「早く戦争を終わらせたくて、色々と策をねっていたんですがね。そんな時、噂が流れてきたのです」

 アルグレイトはうっとりとした目をしている。なんか、自分の世界に入っている気がするんだが。

「英雄が運命の番を得るだろう。と学園のΩたちが噂している。と」

 あ、それオウリルが流したやつな。そうやって牽制すれば、卒業しても戦争が終わるまでは番わなくて済むんじゃないか。って、おもっていたんだよな。

「ですからね、私はその期待に答えなくてはいけないと思ったのですよ」

「はぁ」

 それと、この束縛と、なんの関係が?

「英雄になるには、やはり敵の将をとるのが1番ですからね」

 うん、そうだと思うよ。思うけど、この束縛は?

「このロープは私が作った魔道具なんですよ」

 魔道具?どゆことだ?

「私は騎士ではありませんから、敵国の王の首を取ることは出来ません。ですが、拘束することはできるのです」

 んん?何言ってんだ?

「そのために、この魔道具を作り上げ、このように敵国の王を拘束したという訳ですよ」

「……うわぁ…」

 俺は感情のこもっていない声を出した。
 確かに、首を撥ねるだけが功績ではない。敵の将をとるってことは、どんな手段でもいいのだ。むしろ、生け捕りにした方が色々と便利だろう。

「あなたを得るために、私は頑張ったのですよ」

 アルグレイトがニンマリと笑うので、俺はとりあえず、笑ってみた。
 うん、で?これはいつ解いてくれるのかな?




 で、俺は、絶賛束縛中で更にはなぜかベッドの上に置かれている。

 全くもって解せない。

「どうです?リュート、あなたの望み通りに英雄の運命の番となってみて」

「いや、それ俺の望みじゃないし」

 俺は控えめに主張した。それを望んでいてのはオウリルと、その他大勢の学園のΩたちだ。

「どういうことです?」

 アルグレイトは怪訝な顔をした。

「だからぁ、俺たちΩは国の管理下にいるから、番を選べないだろ?だから、みんな夢見ちゃってんの!小説みたいに運命の番が現れるのを夢見ちゃってんの」

 俺がそう言うと、アルグレイトはまた銀縁メガネをクイッと押した。

「それは、つまり?」

 その姿勢のまましばし止まる。

「みんな夢見てんだよ。運命の番ってやつに」

 俺はもう一度言った。

「リュート、あなたは?」

 アルグレイトの声が一段低くなった?いや、気のせいだろうか?

「う、運命ってのがあるのなら、あの日俺を発情させたフェロモンのαがあんたなのかよ」

 俺は、精一杯の気力で言ってやった。アルグレイトから出されるフェロモンが、どうにも俺の動きを鈍くするからだ。
 ものすごく濃度の濃いフェロモンが、俺の周りに沢山あって、濃密な空気を作っているのが分かる。

「やはり、あの日発情したΩはあなただったのですね」

 アルグレイトがものすごく接近してきた。そうして、俺の首筋の匂いを嗅ぐ。前髪が耳に当たってくすぐったい。

「間違いないですね、この匂い」

 体勢のせいで、俺もアルグレイトの首筋の匂いを嗅ぐ羽目になった。ものすごく濃密な香りがする。
 甘くて、痺れるようなそんな匂い。親父や兄上とは全く違う。肺いっぱいに嗅ぎたい、そんな匂いだ。俺の中を全て満たしたい。

「……もっと」

 俺は無意識になんか言っていた。痺れるような感覚が全身をおおってくる。けれどそれは全然嫌じゃない。

「…って、おい」

 油断した。

 拘束が解かれ、俺の制服の中に、アルグレイトの手が入り込んでいた。

 「なにか?」

 「いや、なにしてくれちゃってんの?」

 アルグレイトの手は、俺の想像と全く違くて、とても綺麗で長い指をしていて、爪も綺麗に整えられていた。ずっと想像していた騎士の無骨な手とは、真逆な手だ。

 「リュート、あなたを私のものにするための儀式ですよ」

 「いや、俺発情してないし」

 「おや、そうですか?」

 アルグレイトは低く笑いを含んだ声を発した。発情してなければ、番の儀式はおこなえないだろう。発情中のΩと番って、項を噛むんじゃなかったっけ?

 「では、発情させてあげますよ」

 いやいや、俺の発情期はちゃんと3ヶ月ごとに来てるから、安定してるから。
 しかも、抑制剤も飲んでるし、発情するわけが無い。

 「しますよ、私はずっと我慢していたのですから」

 アルグレイトが俺の耳元で囁く。それは、熱を持ったなにかだった。
 耳殻を揺さぶるような、そんな熱を孕んだ声だった。そこから、俺の身体に熱が広がっていくような、そんな得体の知れない感覚が襲ってきた。

 「え?な…に?」

 心臓が脈打つごとに、全身になにかがひろがっていく。じわじわと広がるそれは、発情期のものに似ているようで、違うような気もする。

 「運命の番と出会ったのです。発情しますよ」

 アルグレイトの唇が俺の唇に重なった。俺の体温より高いそこから、更に熱いものが出てきて、俺の中に入ってきた。

 俺はその熱を拒むつもりは全く起きなくて、むしろ受け入れたくて、自分の中の熱を入ってきたそれに絡めていった。
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