【完結】英雄が番になるって聞いたのになんか違う

久乃り

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第14話 やっぱり俺なのか?

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 「何の連絡もなかったね」

 オウリルが何やら楽しそうだ。
 一番恐れていたことが起きてしまった。
 家から何も連絡がなかったのだ。

 俺の予想な中では、英雄が他のΩを番に指名した。っていうのがベスト。最悪なのは、俺を指名したけど、家長である親父が、納得してしまえる家格であったために、俺には連絡が来なかった。
 何しろ、母上も来なかった。卒業式でも何も言われなかった。

 そんでもって、今日は報告会というか、まぁ、勲章とかを与える式典なんだが・・・
 学園のΩは花を添える意味もあって、全員参加させられてるんだ。卒業したのに。あとは騎士科にいる学生も、後ろの方にいる。

 まぁ、俺たちは出兵式の時と同じように、ちょっとした品物を騎士たちに渡す係なんだけどな。
 今日は、念の為Ωの俺たちは抑制剤を服用させられた。

 なにせ英雄がいるからな。αもβも興奮してしまう可能性が高い。そうなると不用意にフェロモンが飛ばされて、Ωの俺たちが発情とかしてしまうかも知れない。って、事らしい。そんなら参加させるなよ。ってのが本音。

 戦争に参加したっていう証の勲章を、騎士たちに配り歩く。
 抑制剤を飲んでいるから、気分は落ち着いているけれど、何度も発情期を迎えているだけに、俺はαのフェロモンが分かるようになっていた。

嗅ぎわけができるぐらいに。
親父と兄上のフェロモンは、似ているようで違う。親父の方がなんかハーブっぽいんだよな。おそらく、親子で間違いが起きないように軽い刺激を与える感じに臭うんだろう。兄上のは、森林にいるような感じに香ってくる。心地いいけど、好きかと問われれば違う。

 俺は、勲章を配りながら、落ち着いて匂いを嗅いでいた。
 あの日と同じように、俺はやっぱり最前列の騎士たちの担当で、胸に勲章をつけるのだけど、あの日と違って、全員騎士服だ。式典用の綺麗なやつ。

 既に結構な勲章が着いている人もいて、こわごわとおぼつかない手つきになってしまった。
 もちろん、知っている顔もある。
 今回の戦争で、英雄となった騎士は誰なんだろうな。なんて考えながら、一人一人をゆっくりと見たけれど、全くわからなかった。

 「騎士たちも抑制剤飲んでるそうだよ」

 配り終わって並んだ時に、オウリルが耳打ちしてきた。無駄にフェロモンばらまいて、式典が乱交場になったら笑えないもんな。

 「どうりでフェロモンを嗅げないと思ったよ」

 「やっぱり?」

 オウリルも思っていたらしい。英雄になるほどのαのフェロモンなら、嗅げば分かると。

 「英雄は、御前になるよね?」

 「普通なら」

 俺とオウリルはなぜかお互いの手を握りあっていた。
 この式典に参加しているΩで、俺とオウリルが一番家格が上になる。英雄となった騎士が所望するのは誰なのか?それだけが怖い。

 「アルグレイト、前に」

 突如誰かが呼ばれた。
 呼ばれて前に歩みでたのは、騎士にしては随分と細身だった。けれど背も高くて、体型はかなり整っている。綺麗に整えられた黒髪は、一筋の乱れもない。背中しか見えないけど、相当な力を持ったαだと分かる。

 俺とオウリルは既に両手を握りあっていた。
 あの騎士が動いた途端、得体の知れない何かが飛んできたのだ。フェロモンと言うにはなにか強すぎる。

 「アルグレイト、此度の功績誠に素晴らしいものである。望みがあるなら、褒美としてそれを与えようと思う。言ってみよ」

 王様がよくある口上をやっている。
 アルグレイトという騎士は、王様の前に膝まづいている。
 そうして、ゆっくりと顔あげると、口を開いた。

 「では、私の運命の番を」

 きたーっ!
 オウリルの握る手に力が入る。オウリルの願ってい展開。英雄が運命の番を欲する。ってやつだ。

 「…いいだろう」

 王様はちょっとためてから、許可をした。

 「ありがたき幸せ」

 アルグレイトはそう答えると、優雅に立ち上がり、くるりと後ろを向いた。

 ん?

 「ねぇ、リュート」
 オウリルが俺に耳打ちをする。

 「あの人騎士じゃない」

 「俺もそう思う」

 銀縁メガネかけた騎士なんて知らない。

 英雄が銀縁メガネ?

 なんか違くね?

 なんて考えていたのに、その英雄であるアルグレイトは、真っ直ぐにこちらに向かってきたのだ。

 俺とオウリルは、身を寄せあって、互いの手をにぎりしめる。
 どんどんアルグレイトが近づいてくる。
 これは、もう、ロックオンされているのは間違いない。

 「私の運命の番」

 ピタリと目の前に立ち止まり、すっと手を差し出された。

 俺だ。

 俺がロックオンされている。

 抑制剤を飲んでいるはずなのに、αのフェロモンが強く臭ってくる。甘くて心地の良い、深く嗅げば頭の後ろの辺りが痺れるような、そんな匂い。

 「っう…あの…」

 心臓が急に早鐘を打ち始めた。抑制剤を飲んでいるのに、まるで発情期にでもなったかのように体が熱くなってくる。

 「手を…」

 差し出された手を、俺は取ってしまった。
 触れた手のひらが熱い。

 なんでだ?

 どうしていいのか分からず、俺が小首を傾げたのを見て、アルグレイトは微笑んだ。
 そして、俺の手を引っ張った。

 「えっ?」

 俺はすんなりオウリルの手を離し、アルグレイトの胸に飛び込む形になり、周りにいたΩの生徒たちから悲鳴にも似た歓声があがる。

 俺が驚いて目を見開いていると、アルグレイトと目が合った。けれど、俺は何も出来ない。なにも考えられない。いや、考えたくなどない。

 こんな展開恥ずかしすぎて、死ぬわ。

 またもや、悲鳴のような歓声が上がった。
 俺は自分の身に何が起きているのかわからなかった。いや、分かりたくなかった。

 俺は、アルグレイトにお姫様抱っこをされて、そのまま会場を後にした。

 その時、一瞬見えたオウリルの顔が、とても満足そうに微笑んでいたのを俺は忘れないだろう。
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