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第19話 責任者が誰とかもはやそれ
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番ができて、俺はようやく実家に里帰りができるようになった。
首には、アルグレイトからの貰った首輪が着いている。チョーカーでもいいのだけれど、アルグレイトの趣味らしい。と、言うか、アルグレイトの手作りだ。
魔道具なんだけどな。
「お替えなさいませ、リュート様」
馬車を降りると、家令が待ち構えていた。約3年ぶりになるけれど、特に変わった感じはしない。
アプローチは綺麗に整えられて、季節の花が飾られて、上位貴族の邸って感じがする。
「父上は仕事なんだろう?」
俺は家令と話をしながら客間に足を運ぶ。
学園に入った時に、この邸から俺の部屋は無くなっている。「ただいま」とは言いつつも、俺は客人の扱いだ。
客間に足を踏み入れて、俺はものすごい違いを目にした。
「……………オウリル?」
客間のソファーで俺を出迎えたのは、艶やかな黒髪をゆったりと肩から前に垂らして、ふんだんにレースをあしらった服を着込んだ、3年間共に学園で学んだ友だった。
「待っていたよ、リュート」
お互い駆け寄って抱きしめ合う。
ちょっとしか離れていなかったけど、ものすごく懐かしく感じるのは、お互いの雰囲気が変わったからだ。
「うわぁ、リュートが色っぽい」
オウリルがそう言って、俺の髪に触れる。
俺は髪を伸ばしている最中で、横の髪だけを編み込んでいる。それが学園にいた頃との僅かな違いなんだけど、オウリルからしたらものすごい違いに見えるらしい。
「相変わらず、オウリルは綺麗だな」
そう言いつつ、向かい合ってソファーに座った。俺たちの動きに合わせてメイドがお茶を出し、焼き菓子を並べる。
出てきたのは俺の大好きな焼き菓子だった。忘れずにいてくれて嬉しい気持ちと、オウリルはこれが、好きなのか気になった。
「オウリルもこれ、好きなのか?」
俺は遠慮なく焼き菓子を口にする。
「このうちにきて初めて食べたけど、おいしいよね」
オウリルも、焼き菓子を口にしてお茶を飲む。
さて、さも、当たり前のように振舞ってはいるが、ここは俺の実家である。
なぜ、オウリルがいるのだろうか?
「ところで、俺はなにもきいていないんだけど?」
お茶を飲みながらそう言うと、オウリルは突然笑いだした。
俺は驚いて目を見開き、黙って立っている家令を見る。けれど、家令は何も言わない。
「ごめん、ごめん」
ひとしきり笑ったオウリルは、目じりの涙を指ですくってから教えてくれた。
「僕ねぇ、番が出来たんだ」
ものすごい笑顔で言われたけれど、それじゃあ答えになってはいない。
いや、でも、わかってはいるけれど。
「今更だけど、おめでとう」
俺はそう言いつつ、家族の誰からもそんな連絡を貰っていないことに疑問を抱いた。
「うん、あのね」
オウリルは、きちんと座り直すと、俺を正面から見る。
「僕ね、リュートの、兄上の番になったんだ」
まぁ、そうだろうとは思うけど、俺の実家にいるんだし。それ以外考えられないけどな。
「僕さぁ、『運命の番』に、憧れていたじゃない?」
オウリルが、頬を染めながら話し始めた。
「うん?」
そうだったかな?
まぁ、確かにやたらと英雄の話をしてはいたよな?
「リュートが英雄に連れ去られた後にさぁ、リュートの兄上がちょっとオコだったんだよね」
それは知らなかったな。まぁ、兄上は割と俺を溺愛していたから、英雄とはいえ挨拶もなく俺を連れ去ったアルグレイトが気に入らなかったんだろうな。兄上は騎士だから、敵国の王様を捕らえるって功績を、取られたのも気に入らなかったのかも知れないし。
「それでね、αの威嚇がダダ漏れしちゃってさぁ」
オウリルはその時のことを面白そうに話し始めた。
「一番近くにいた国王がモロに浴びちゃって、周りの護衛の騎士も顔が青ざめちゃってさ、そんな雰囲気なのに、僕ったら発情しちゃったんだよね」
そう言って、オウリルは楽しそうに笑った。いや、結構な大惨事だと思うけど?
「僕が発情して盛大にフェロモン撒き散らしたらさぁ、リュートの兄上がいつの間にかに僕のことを抱きしめてたの」
そう言って、オウリルはうっとりとした表情を見せた。うん、恋に恋する乙女みたいな顔してるよ。
「もう、その瞬間に僕とリュートの兄上のフェロモンが一気に爆発しちゃって、Ωの学生はみんな気絶しちゃってさぁ、本当に大惨事になっちゃったんだぁ」
笑えない話を、笑いながら話すオウリルは、全く悪びれてはいなかった。ただ、ただ、Ωのフェロモンの面白話ぐらいのテンションで話をしている。俺はいなかったけど、身内のしでかしたことに内心青ざめる。
「それでね」
オウリルは、とびきりの笑顔を俺に向けてきた。
「うん、なんだろう?」
なんかだか、嫌な予感しかしない。
家令が俺と目線を合わせないのが、それを裏付ける。
「英雄と番になったリュートと、僕たちの結婚式、合同で盛大にやらないと収まらなくなっちゃったみたいなんだ」
「………なんで?」
「式典の後始末的な?」
それ、俺には関係なくね?
「リュートの兄上が絡んでるでしょ?」
「ああ、うん」
「二回も結婚式するなら、一度にして方が招待される側も楽だし、この家の家格から言ってそれなりの人たちを呼ぶことになるから、二回も国の行政を止められないじゃない?」
「う、うん?」
「まぁ、ぶっちゃけで言うと、王様が怒ってる?みたいな?」
「つか、それだよな?」
式典ぶっ壊した挙句、フェロモンでΩを気絶させて、更には運命の番との発情でフェロモンを盛大に爆発させたとあっちゃ、そりゃ王様だって怒るだろうよ。
俺は少し冷めたお茶を飲んだ。とりあえず落ち着こう。そうすると、ようやく家令が歩み寄ってきた。
「そのようなわけですので、リュート様」
どのようなわけなんでしょうね?聞きましたけど?納得したわけじゃいんだが。
「うん?」
俺は、分かりたくない。というのを伝えるために、目線だけをそっと家令に向けた。
「衣装を作成致します。夫となられるおふた方は式典用の制服を着用されますので、妻となられますおふたりには、それは豪華な衣装を身につけて頂きたく」
家令がそう言うと、逆間の扉が盛大に開いた。
俺が驚いてそちらを見たのに、オウリルは嬉しそうだ。
ああ、オウリルは最初から分かっているんだもんな。驚いたりしないだろうし、『運命の番』に憧れていたんだから、派手な結婚式も憧れだっただろうな。
「衣装が被ったり、あまりにもチグハグだと困るじゃない?だから、一緒に作ろうと思って」
オウリルの話しは最もで、と、なると?
「国で一、二を争うデザイナーを呼び寄せてございます」
家令が、そう言うと二人のデザイナーらしい人物が、俺たちに向かって頭を下げた。
「ミーファです」
「セレスです」
2人ともΩだと、ひと目で分かった。が、そっちじゃない方の性別はわからんが。
俺は特にお気に入りのデザイナーとかがないので、オウリルに先に指名してもらって、残った方のデザイナーにお願いすることにした。
───────
結婚式はそれはそれは盛大だった。
なにせ、王都をパレードしたのだ。すっげー豪華な馬車を2台も使って!王様かよって、ツッコミしたくなる程の豪華な馬車だ。
くそめんどくさい事に、ひたすら手を振り続けた。しかも笑顔で・・・
「私のリュートの笑顔を、不特定多数の目に晒すことになるだなんて」
隣でアルグレイトが、ぶつくさ言っている。
気持ちは分かるけど、英雄の癖して凱旋パレードをしないで俺との発情優先しちゃったんだから仕方がないんじゃねーの?
多分あれだ、凱旋パレードに用意したのをこっちに全部まわしてきた。そうとしか思えない程の煌びやかさだ。
後方の馬車で、オウリルは満面の笑顔で兄上に抱き抱えられている。さすがに俺はお断りをした。
どんな羞恥プレイだよ。
よくできるな、オウリル。さすがは乙女思考だ。
俺はひたすら手を振って、笑顔を貼り付け、隣で恐ろしいことをぶつくさ呟くアルグレイトを眺めるのだった。
───────
んで、初夜なんだが・・・
「えーっと、既に済ませてますよね?」
俺は完全に逃げ腰だった。
だってそうだろう?あの日したじゃん。
しかも、今日は発情期じゃないし。発情期でなければΩは妊娠できない。発情してないと、まぁ、わかりやすくいえばヤル気が起きない。んだが?
「結婚したのですから、毎晩でもしますよ?」
え、なにその、恐ろしい宣言。
「あの魔道具に改良を加え、あなた仕様にしたのですよ」
更に恐ろしい宣言が、来た。
「いま、なんて?」
あの日俺を拘束したロープが色を変えてやってきた。なんで、動くの?
「やはり黒は無粋です。あなたの美しい肌に映えるよう、赤にしてみました」
赤ロープが動いている。シーツの上に数本、アルグレイトの手にも、ある。
「太さや形状を沢山揃えたのですよ」
使用目的が分からない。いや、分かりたくはない。太さの違いが、何になるというのだろうか?
「あなたがイキまくって苦しいとおっしゃるので、それを抑えるために、この細い物をご用意しました」
細くて赤い魔道具が、俺の下半身に向かって進んでくる。一応、俺は花嫁衣装を着てはいるけれど?
「ひっ……ひゃぁぁぁぁ」
ズボンを一気に引き抜かれ、顕になった俺の下半身には既に赤い魔道具が巻きついていた。
「え?なんで……もう」
「万が一の事があっては気が気でなくて」
銀縁メガネに手を添えながら、アルグレイトは何故か頬を染めている。
「貞操帯のようなものですよ」
そう言って、俺の下半身に顔を寄せてきた。
「ちゃんと、おいたができないように巻き付き、かつ気づかれないよう適度な締め付けができていますでしょう?」
いつの間にこんなものが巻きついていたのだろうか?全くもって気づかなかった。こんなにも俺自身に、巻きついていると言うのに。
「発情してなくて、私のフェロモンにやられていないあなたを、私のテクニックで可愛らしく啼かせたいのですよ」
何それ?
何言ってんだ、こいつ?
「え、えーっと……それは、つまり?」
「発情して何もかも分からなくなっているあなたも可愛いのですが、気持ちいいのを我慢するあなたも可愛らしくてたまらないのです」
そう言ってアルグレイトは俺に唇を重ねてきた。
少し薄い唇から、肉厚の舌が伸びてきて、俺の口内へと入り込む。
「!!!!」
アルグレイトの舌の動きに合わせてなのか、反応する俺に合わせてなのか、魔道具が動き出した。
「大丈夫ですよ、あなた仕様になってますから」
喉の奥で笑うアルグレイトが恐ろしい。
「俺仕様ってなに?」
「ええ、もちろん。敵国の国王を拘束した魔道具は、攻め仕様で思いっきり激しいものでしたからね。敵国の王も簡単に落とせましたよ」
突然、なんの告白なんだ?
「大丈夫ですよ、これはあなたを優しく攻めるように作ってありますから」
微笑んで言われても、全く嬉しくない。それに、なんかとんでもないことを聞いたきがするんだが?
「ちょっと待て」
「なんですか?」
「本当にお前が英雄なのかよっ」
俺は思ったままを口にした。
「手段はどうあれ、敵国の王を捕らえて落としたのは私ですから、間違いないかと?」
そんなこと、微笑んで言うことじゃねーよ。
「ぜっ、絶対なんか違うだろーっ」
俺は、こんなやつが英雄だなんて認めないからな。
おしまい
首には、アルグレイトからの貰った首輪が着いている。チョーカーでもいいのだけれど、アルグレイトの趣味らしい。と、言うか、アルグレイトの手作りだ。
魔道具なんだけどな。
「お替えなさいませ、リュート様」
馬車を降りると、家令が待ち構えていた。約3年ぶりになるけれど、特に変わった感じはしない。
アプローチは綺麗に整えられて、季節の花が飾られて、上位貴族の邸って感じがする。
「父上は仕事なんだろう?」
俺は家令と話をしながら客間に足を運ぶ。
学園に入った時に、この邸から俺の部屋は無くなっている。「ただいま」とは言いつつも、俺は客人の扱いだ。
客間に足を踏み入れて、俺はものすごい違いを目にした。
「……………オウリル?」
客間のソファーで俺を出迎えたのは、艶やかな黒髪をゆったりと肩から前に垂らして、ふんだんにレースをあしらった服を着込んだ、3年間共に学園で学んだ友だった。
「待っていたよ、リュート」
お互い駆け寄って抱きしめ合う。
ちょっとしか離れていなかったけど、ものすごく懐かしく感じるのは、お互いの雰囲気が変わったからだ。
「うわぁ、リュートが色っぽい」
オウリルがそう言って、俺の髪に触れる。
俺は髪を伸ばしている最中で、横の髪だけを編み込んでいる。それが学園にいた頃との僅かな違いなんだけど、オウリルからしたらものすごい違いに見えるらしい。
「相変わらず、オウリルは綺麗だな」
そう言いつつ、向かい合ってソファーに座った。俺たちの動きに合わせてメイドがお茶を出し、焼き菓子を並べる。
出てきたのは俺の大好きな焼き菓子だった。忘れずにいてくれて嬉しい気持ちと、オウリルはこれが、好きなのか気になった。
「オウリルもこれ、好きなのか?」
俺は遠慮なく焼き菓子を口にする。
「このうちにきて初めて食べたけど、おいしいよね」
オウリルも、焼き菓子を口にしてお茶を飲む。
さて、さも、当たり前のように振舞ってはいるが、ここは俺の実家である。
なぜ、オウリルがいるのだろうか?
「ところで、俺はなにもきいていないんだけど?」
お茶を飲みながらそう言うと、オウリルは突然笑いだした。
俺は驚いて目を見開き、黙って立っている家令を見る。けれど、家令は何も言わない。
「ごめん、ごめん」
ひとしきり笑ったオウリルは、目じりの涙を指ですくってから教えてくれた。
「僕ねぇ、番が出来たんだ」
ものすごい笑顔で言われたけれど、それじゃあ答えになってはいない。
いや、でも、わかってはいるけれど。
「今更だけど、おめでとう」
俺はそう言いつつ、家族の誰からもそんな連絡を貰っていないことに疑問を抱いた。
「うん、あのね」
オウリルは、きちんと座り直すと、俺を正面から見る。
「僕ね、リュートの、兄上の番になったんだ」
まぁ、そうだろうとは思うけど、俺の実家にいるんだし。それ以外考えられないけどな。
「僕さぁ、『運命の番』に、憧れていたじゃない?」
オウリルが、頬を染めながら話し始めた。
「うん?」
そうだったかな?
まぁ、確かにやたらと英雄の話をしてはいたよな?
「リュートが英雄に連れ去られた後にさぁ、リュートの兄上がちょっとオコだったんだよね」
それは知らなかったな。まぁ、兄上は割と俺を溺愛していたから、英雄とはいえ挨拶もなく俺を連れ去ったアルグレイトが気に入らなかったんだろうな。兄上は騎士だから、敵国の王様を捕らえるって功績を、取られたのも気に入らなかったのかも知れないし。
「それでね、αの威嚇がダダ漏れしちゃってさぁ」
オウリルはその時のことを面白そうに話し始めた。
「一番近くにいた国王がモロに浴びちゃって、周りの護衛の騎士も顔が青ざめちゃってさ、そんな雰囲気なのに、僕ったら発情しちゃったんだよね」
そう言って、オウリルは楽しそうに笑った。いや、結構な大惨事だと思うけど?
「僕が発情して盛大にフェロモン撒き散らしたらさぁ、リュートの兄上がいつの間にかに僕のことを抱きしめてたの」
そう言って、オウリルはうっとりとした表情を見せた。うん、恋に恋する乙女みたいな顔してるよ。
「もう、その瞬間に僕とリュートの兄上のフェロモンが一気に爆発しちゃって、Ωの学生はみんな気絶しちゃってさぁ、本当に大惨事になっちゃったんだぁ」
笑えない話を、笑いながら話すオウリルは、全く悪びれてはいなかった。ただ、ただ、Ωのフェロモンの面白話ぐらいのテンションで話をしている。俺はいなかったけど、身内のしでかしたことに内心青ざめる。
「それでね」
オウリルは、とびきりの笑顔を俺に向けてきた。
「うん、なんだろう?」
なんかだか、嫌な予感しかしない。
家令が俺と目線を合わせないのが、それを裏付ける。
「英雄と番になったリュートと、僕たちの結婚式、合同で盛大にやらないと収まらなくなっちゃったみたいなんだ」
「………なんで?」
「式典の後始末的な?」
それ、俺には関係なくね?
「リュートの兄上が絡んでるでしょ?」
「ああ、うん」
「二回も結婚式するなら、一度にして方が招待される側も楽だし、この家の家格から言ってそれなりの人たちを呼ぶことになるから、二回も国の行政を止められないじゃない?」
「う、うん?」
「まぁ、ぶっちゃけで言うと、王様が怒ってる?みたいな?」
「つか、それだよな?」
式典ぶっ壊した挙句、フェロモンでΩを気絶させて、更には運命の番との発情でフェロモンを盛大に爆発させたとあっちゃ、そりゃ王様だって怒るだろうよ。
俺は少し冷めたお茶を飲んだ。とりあえず落ち着こう。そうすると、ようやく家令が歩み寄ってきた。
「そのようなわけですので、リュート様」
どのようなわけなんでしょうね?聞きましたけど?納得したわけじゃいんだが。
「うん?」
俺は、分かりたくない。というのを伝えるために、目線だけをそっと家令に向けた。
「衣装を作成致します。夫となられるおふた方は式典用の制服を着用されますので、妻となられますおふたりには、それは豪華な衣装を身につけて頂きたく」
家令がそう言うと、逆間の扉が盛大に開いた。
俺が驚いてそちらを見たのに、オウリルは嬉しそうだ。
ああ、オウリルは最初から分かっているんだもんな。驚いたりしないだろうし、『運命の番』に憧れていたんだから、派手な結婚式も憧れだっただろうな。
「衣装が被ったり、あまりにもチグハグだと困るじゃない?だから、一緒に作ろうと思って」
オウリルの話しは最もで、と、なると?
「国で一、二を争うデザイナーを呼び寄せてございます」
家令が、そう言うと二人のデザイナーらしい人物が、俺たちに向かって頭を下げた。
「ミーファです」
「セレスです」
2人ともΩだと、ひと目で分かった。が、そっちじゃない方の性別はわからんが。
俺は特にお気に入りのデザイナーとかがないので、オウリルに先に指名してもらって、残った方のデザイナーにお願いすることにした。
───────
結婚式はそれはそれは盛大だった。
なにせ、王都をパレードしたのだ。すっげー豪華な馬車を2台も使って!王様かよって、ツッコミしたくなる程の豪華な馬車だ。
くそめんどくさい事に、ひたすら手を振り続けた。しかも笑顔で・・・
「私のリュートの笑顔を、不特定多数の目に晒すことになるだなんて」
隣でアルグレイトが、ぶつくさ言っている。
気持ちは分かるけど、英雄の癖して凱旋パレードをしないで俺との発情優先しちゃったんだから仕方がないんじゃねーの?
多分あれだ、凱旋パレードに用意したのをこっちに全部まわしてきた。そうとしか思えない程の煌びやかさだ。
後方の馬車で、オウリルは満面の笑顔で兄上に抱き抱えられている。さすがに俺はお断りをした。
どんな羞恥プレイだよ。
よくできるな、オウリル。さすがは乙女思考だ。
俺はひたすら手を振って、笑顔を貼り付け、隣で恐ろしいことをぶつくさ呟くアルグレイトを眺めるのだった。
───────
んで、初夜なんだが・・・
「えーっと、既に済ませてますよね?」
俺は完全に逃げ腰だった。
だってそうだろう?あの日したじゃん。
しかも、今日は発情期じゃないし。発情期でなければΩは妊娠できない。発情してないと、まぁ、わかりやすくいえばヤル気が起きない。んだが?
「結婚したのですから、毎晩でもしますよ?」
え、なにその、恐ろしい宣言。
「あの魔道具に改良を加え、あなた仕様にしたのですよ」
更に恐ろしい宣言が、来た。
「いま、なんて?」
あの日俺を拘束したロープが色を変えてやってきた。なんで、動くの?
「やはり黒は無粋です。あなたの美しい肌に映えるよう、赤にしてみました」
赤ロープが動いている。シーツの上に数本、アルグレイトの手にも、ある。
「太さや形状を沢山揃えたのですよ」
使用目的が分からない。いや、分かりたくはない。太さの違いが、何になるというのだろうか?
「あなたがイキまくって苦しいとおっしゃるので、それを抑えるために、この細い物をご用意しました」
細くて赤い魔道具が、俺の下半身に向かって進んでくる。一応、俺は花嫁衣装を着てはいるけれど?
「ひっ……ひゃぁぁぁぁ」
ズボンを一気に引き抜かれ、顕になった俺の下半身には既に赤い魔道具が巻きついていた。
「え?なんで……もう」
「万が一の事があっては気が気でなくて」
銀縁メガネに手を添えながら、アルグレイトは何故か頬を染めている。
「貞操帯のようなものですよ」
そう言って、俺の下半身に顔を寄せてきた。
「ちゃんと、おいたができないように巻き付き、かつ気づかれないよう適度な締め付けができていますでしょう?」
いつの間にこんなものが巻きついていたのだろうか?全くもって気づかなかった。こんなにも俺自身に、巻きついていると言うのに。
「発情してなくて、私のフェロモンにやられていないあなたを、私のテクニックで可愛らしく啼かせたいのですよ」
何それ?
何言ってんだ、こいつ?
「え、えーっと……それは、つまり?」
「発情して何もかも分からなくなっているあなたも可愛いのですが、気持ちいいのを我慢するあなたも可愛らしくてたまらないのです」
そう言ってアルグレイトは俺に唇を重ねてきた。
少し薄い唇から、肉厚の舌が伸びてきて、俺の口内へと入り込む。
「!!!!」
アルグレイトの舌の動きに合わせてなのか、反応する俺に合わせてなのか、魔道具が動き出した。
「大丈夫ですよ、あなた仕様になってますから」
喉の奥で笑うアルグレイトが恐ろしい。
「俺仕様ってなに?」
「ええ、もちろん。敵国の国王を拘束した魔道具は、攻め仕様で思いっきり激しいものでしたからね。敵国の王も簡単に落とせましたよ」
突然、なんの告白なんだ?
「大丈夫ですよ、これはあなたを優しく攻めるように作ってありますから」
微笑んで言われても、全く嬉しくない。それに、なんかとんでもないことを聞いたきがするんだが?
「ちょっと待て」
「なんですか?」
「本当にお前が英雄なのかよっ」
俺は思ったままを口にした。
「手段はどうあれ、敵国の王を捕らえて落としたのは私ですから、間違いないかと?」
そんなこと、微笑んで言うことじゃねーよ。
「ぜっ、絶対なんか違うだろーっ」
俺は、こんなやつが英雄だなんて認めないからな。
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しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
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……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
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