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その17
しおりを挟む「いい朝ねぇ」
優雅にハーブティーなんぞを飲みながら、ユルガシドから輿入れした来た姫、エリシアは呟いた。母国ユルガシドにいた頃には考えられなかったような贅沢がここにはあった。
「本日の朝食は季節の果物をふんだんに載せたパンケーキにございます。北の国より取り寄せたメイプルシロップがよく合います。甘さがスッキリとしていて、朝にピッタリでございますよ」
榛色のお仕着せを着た侍女が、エリシアの前に朝食を並べていく。このように誰かにかしずかれる日が来るなんて、エリシアには想像もつかなかった。
「ありがとう。とても美味しそうだわ」
メープルシロップがかけられた果物は朝日を浴びてキラキラと輝いている。それはまるで宝石のような輝きだ。
「ところで、差し出がましいとは思いますが。姫様の護衛騎士は如何なさいましたか?この場にいないだなんて、職務怠慢なのではありませんか?」
新しいハーブティーを注ぎながらそんな事を言われたから、エリシアは思わず笑ってしまった。
「嫌だわ。わかっていてそんなことを言うの?帝国の侍女は意地悪なのね」
昨日の今日だ。知っていてそんな事を言うのだから笑ってしまう。
「そのようなつもりではございません」
「いいのよ。わかってるわ。でもね、ユノハイムはとても忠義に熱いから、私のために調査をしてくれているのきっと残業中よ」
「左様でございましたか。確かに姫様がお一人で朝食はおかしな事にございますものね」
「そうよ。ユノハイムはね、昨夜から私の代わりに仕事をしてくれているの。きっと今日も昼過ぎ、いいえもしかするとティータイムになる頃に報告に来るでしょうね」
「そうですわね。私が聞いたところによりますど、明け方まで調査が続いていたとの事です」
「それなら、やはりユノハイムが報告に来るのはティータイム頃になりそうね」
「喉には蜂蜜がいいそうですわ」
「では、報告に来たユノハイムに出してあげてちょうだい。聞き取りにくくてはやり直しになってしまうもの」
そんなふうに笑いながらのやり取りをして、エリシアは美味しくて楽しい朝食の時間を過ごしたのであった。
そうして、そんなやり取りがされていたとは知らないユノハイムは、この日も昼過ぎに報告にとやってきた。閨にいる侍女が気を利かせて食べやすい食事を出してくれたので、有難く食べてきた。報告の最中に腹が鳴っては大変失礼になるからである。エリシアへの報告に来たところで、またもや侍女にとめられて、今度は蜂蜜を舐めさせられた。「声の質が悪いと聞き取りにくい」と言う理由だった。もちろん、昨日と同様に待たされてからの御前である。
「ユノハイム、あなた職務怠慢ではなくて」
優雅にティーカップを傾けるエリシアは、まるでユノハイムなど見ないでそう言ってきた。なぜなら、見てしまったらユノハイムに同情してしまうからだ。何しろエリシアはユノハイムのおかげでこの生活を手に入れたのだ。護衛騎士として、ユノハイムの活躍をこのまま続けて貰わなくてはならないのである。
「申し訳ございません」
片膝を付いて頭を下げるユノハイムの姿はだいぶやつれているように見えるが、着ている騎士服はユルガシドにいた頃よりも光沢のある上質なものに変わっていた。もちろんユノハイムはその事に全く気がついてなどいない。同じ青でもユノハイムの青い瞳が映えるような品のある落ち着いた青の布地で仕立てられているからだ。ユルガシドで作られた騎士服は、どこか野暮ったい感じのする明るい青だった。それがお気に召さなかった貴人が仕立て直してしまったのである。服の生地が上質なものに変わっていると言うことに気が付かないとは、随分と肌が痛めつけられてしまっているのだろう。そのことを思うとエリシアの胸は多少は痛むのだ。
「それで?こんな時間までまた私を待たせたのですから、良い報告を持ってきたのでしょうね」
「もちろんでございます」
そう言ったユノハイムの手に何かが握られていることぐらいエリシアはずっと気がついていた。もちろん、事前に侍女が教えてくれているから、大方予想は付けてある。あとはなんと返せばいいのかだけだ。
「皇帝陛下の武器はどのような大きさだったのかしら」
エリシアは予め決めておいた質問をくちにした。
「はい。大きさはこのくらいにございます」
待ってましたとばかりにユノハイムは手にしていた物をエリシアの前に差し出した。
「何よコレ」
差し出された物を見て、エリシアは眉根を寄せた。予め叱咤することは決めてはいたものの、流石に言葉を失った。
「木の枝に御座います」
見れば分かる。
「はぁ?コレが大きさ?意味がわからないわ。こんなものでどうやって攻撃をするというのよ」
エリシアはわざと声を荒らげ、バカにしたような口ぶりで言ってみた。いや、確かに意味が分からないのである。せめて子ども用の木剣でも持ってくるのかとあ思えば、まさかそのままの木である。
「大きさは確かにこのくらいに御座います。太さといい長さといい、間違い御座いません」
ユノハイムはその青い目をキラキラと輝かせて熱弁を振るう。
「皇帝陛下は巧みなる指技を駆使されまして、武器を自在に動かされるのです」
まぁ、多少端折ってはいるが大凡があっているので良しとしておく。だがしかし、それを可としてはいけないのがエリシアである。何がなんでも否を唱えなくてはならないのだ。
「指技?木の枝で?陛下が?」
つまらなそうにユノハイムが差し出した木の枝を持って見て、エリシアはため息混じりに呟いた。
「いえ、その木の枝は皇帝陛下の武器の大きさの見本にございます」
エリシアの顔を見て思わずしどろもどろになるユノハイムを見て、更なる口撃を仕掛ける。
「この木の枝で陛下が指技を使われて、何をするの?それとも何?これは楽器なのかしら?」
つまみ上げた木の枝を眺めながらエリシアは言う。もちろん違うことぐらい分かってはいるけれど、言わなくてはならないのだ。
「違います。皇帝陛下の武器は正しく武器であり、姫様に攻撃をするそうです。ですから、私は姫さまの盾となり同時に皇帝陛下の武器を収める鞘となることを命じられました」
言われたことを言われたとおりに口にしたユノハイムであったが、そんな事を言われたところで意味が通じるはずもなく、最も通じて上げるつもりのないエリシアは、斜め上を向いて顎をそらした。視線の端に映る榛色のお仕着せを着た侍女が目配せをしているのが分かった。
「やり直しよ」
冷たく言い放った。
「な、何故です」
今日こそ完璧な報告が出来たと自負していたユノハイムは慌てた。
「何故って、そんな事も分からないの?こんな棒切れ持ってこられてもわかるわけないでしょ。これのどこが武器なのよ。意味がわからないわ。これを使って指で何をするのよ」
そう言ってエリシアは手にしていた木の棒をユノハイムの前に放り投げた。
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