男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

文字の大きさ
22 / 52

沙耶の変化

しおりを挟む
 馨は職場に贈られてきた花を少し自宅に持ち帰った。リビングにはカサブランカの強い香りが充満している。

「わぁ~すごい沢山のお花。いい香りだわ! このお花、どうしたんですか?」
「君との結婚祝いで社長室に沢山届いたんだ。花は好きか?」
「はい、好きです。そこにお花があるだけで気持ちが明るくなりますよね」

(俺は君がいるだけで気持ちが明るくなる)馨は言葉にはしなかったがそう思っていた。

「君の部屋にも飾るといい」
「兄さん、私もいい?」

 沙耶と花を見ていた結花が顔を上げて馨を見た。

「いいけど・・あれ、結花何か感じが変わったな」

「えへへ、いいでしょ? 沙耶さんに髪を整えて貰ったんだ。軽くメイクもしてるの。学校に行ったらねジャネットが話しかけてきたんだよ、洋服はどこで買ってるのかって聞かれたんだ。今度一緒に買い物に行く約束もしたんだよ!」

「良かったわね! 結花ちゃん。メイクの仕方は私が教えてあげるから。結花ちゃんならすぐ上手になるわ」
「うん! プロに教わるんだから間違いないね」

 結花が自分の部屋へ花を持っていくとリビングには馨と沙耶二人だけになった。

「結花を可愛がってくれてありがとう。君が来てから結花は本当に明るくなったよ」

「結花ちゃん、学校のお友達とうまく馴染めなくて困ってたみたいなんです。それで二人でお洋服を買いにいったり・・色々と。でも妹が出来てとても嬉しいのは私なんです。結花ちゃんが私に悩みを打ち明けてくれたのも本当に嬉しくて」

「そうか‥そんな風に思ってくれて俺も嬉しいよ。そうだ! 指輪が出来てきたんだ」

 馨はカバンの中からエンゲージリングの箱を取り出した。そして沙耶の指にはめようと沙耶の左手を取った時だった。沙耶が、ぱっと手を引っ込めたのだ。

「あっ、あの自分でつけてみてもいいですか?」
「あ、ああ。付けてみてくれ」(なんだ? 今手を引いたよな・・どうしたんだ?)

「うわぁやっぱり大きいですね。キラキラしてる・・ほんとに綺麗・・」
「これにして良かったな」

 馨は指輪に見とれている沙耶を見て少しほっとした。(俺の気のせいか、さっきは触られたくない様に見えたが)

 だが馨の気のせいではなかった。翌朝出社する時の頬へのキスもなかったのだ。沙耶は笑顔で手を振っていたが馨に近づこうとはしなかった。



 その日の夕方近くに馨に面会を求めてきた人物がいた。

「社長、高野景子が来ていますがお会いになりますか?」
「高野景子? 一体何の用だ・・今日はこの後何かあるか?」
「いえ、特別な事はありません。今日も早く帰れますよ」涼はニヤリと笑って見せた。

「それなら会ってみるか。通してくれ」

 景子はここぞとばかりにめかしこんでいる。そして幼馴染で家族でもある沙耶を心配する心優しい女を演じていた。

「突然訪問した失礼をどうか許してください。週刊誌に報道された沙耶が心配で夜も眠れなくて。沙耶の様子を伺いたくて居ても立っても居られなかったんですの」

「そうですか。ですが心配はご無用です、沙耶は宅で元気にしていますよ」
「それは良かったですわ。はぁ~安心したら力が抜けて・・」

 景子は胸に手をあてながらよろめく振りをした。近くにいた涼が支えてソファに座らせた。

「池田、飲み物をお出ししてくれ」すぐ帰ってもらうつもりだったが、仕方なく馨はそう言った。

「はい」涼もやれやれと言った面持ちだったが、声には表さず部屋を出て行った。

 涼が戻ってくると景子は盛んに馨に話しかけていた。

「沙耶が五瀬家でご迷惑をお掛けしていないか心を砕いておりましたの。私は子供の頃から沙耶を知っていますから・・」

 いかにも沙耶に何か問題がある様な思わせぶりな話し方だ。

「でも私たちは大の親友、今では大切な家族ですから放っておけなくて。厚かましいお願いだとは思いますけどこの後私も一緒に沙耶の所へ連れて行っていただけませんでしょうか?」

 一緒に五瀬の家に行きたいと言っているのか?! 本当に沙耶を心配しているのか怪しいものではあったが、断る口実が咄嗟に思いつかなかった。

 元気だと言ってしまった以上、病気は理由に出来ない。そして今回断ってもまた同じ理由で来るのは目に見えている。

 馨の考えを汲み取った涼が声を掛けた。「それでしたら今日は私が運転して世田谷まで行きます。沙耶さんとお会いになった後また送って行きます」

「まぁ! ご親切にありがとうございます」


_______


 リビングで景子が持って来た和菓子とお茶を囲みながら馨と沙耶と景子の間には微妙な空気が流れている。涼はお茶を出した後、キッチンに下がっていた。

「心配してたのよ沙耶。記者にしつこくされたりして嫌な思いはしていなかった?」

「え、ええ。家には沢山来てたわ。でもコメントはしないと馨さんと約束していたから、何も話さなかったの。確かにしつこかったわ」

(馨さん‥か。ま、いいわ。今に見てなさい、その馨さんを私の物にしてみせるんだから)

「そうか・・沙耶、苦労をかけるな」心配そうな顔の馨とは反対に沙耶は笑顔で答えた。

「週刊誌の記者に取材されるなんて人生の中で滅多にある事じゃないですよね? そう思ったらちょっと楽しくなりました。ある事ない事言ってくるって聞いてましたけど本当にその通りなんだなっておかしくて・・」

 沙耶はその時の事を思い出し、下を向いてクスクス笑っていた―私が妊娠してるわけないのに。

 その笑っている沙耶を馨も嬉しそうに眺めている。

(私を相手している時とは随分違う顔ね・・気に入らないわ)相好を崩した馨の様子を見て景子は不愉快になった。

 そこへ結花が帰宅した。結花はリビングに元気よく入って来た。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...