男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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うそ

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「社長、社長・・馨君!」

 目の前に涼が立っているのすら馨の目には入っていなかった。

「あ、ああ。すまない、何の話だったか」

「何度も呼んだんですよ。これ、婚姻届けです。社長が印鑑とサインをしてくれたらすぐ役所に持っていきますから」

 馨は書類に目を落としたが、また考え込んでしまった。

「いや、もう少し時間を置こう」

「この間写真を撮って行った週刊誌の記者から、やはり婚姻届けについて質問がありましたよ。籍が入っていないようですが、もしかして石井さんは高野景子の隠れ蓑だったんじゃないですかって」

「・・もう書きたいように書かせておけ」

 投げやりな態度の馨に涼は首を傾げた。

「契約結婚を本物にするんですよね? 沙耶さんも籍を入れることについて同意してると言ってましたし。どうして今更・・」

「沙耶は俺とは契約上の関係として距離を置きたいようだ。だから・・俺も余計な感情を抱かないほうがお互いの為なんだよ」

「会長に問われたら何と答えるんですか?」

「まだ分からない・・もう少し考えさせてくれ」馨は苦しそうな顔で頭を振った。涼は仕方なく社長室を出て行った。

(俺は彼女にすっかり心を奪われて一人で舞い上がっていただけだ・・。沙耶が俺に好意を抱いているなんて確証もないのに。なんてざまだ)

 馨は婚姻届けを手に取ったがすぐデスクに放り投げ、席を立って大きなため息をつきながら窓の外を眺めていた。


____


 女性週刊誌は驚くほど仕事が早かった。馨と景子がしっかり抱き合っている写真付きで、記事は疑問形で書かれていた。

 その上で景子の友人を匂わせる人物からのコメントも載っていた。『ベガスから帰って来て以来密かに関係を深めていたらしい』『石井さんは景子さんのマネージャーだから手助けしていただけ』

 これらのコメントから五瀬馨の本命は高野景子ではないかと記事は結ばれていた。


受付嬢A「おかしいと思ったのよ! 突然降って湧いたように社長の結婚話が出たと思ったら相手は全然普通の人でしょ?」

受付嬢B「まぁ高野景子の方がすんなり来るわね。今売り出し中の女優ですものね。ドラマ何本抱えてるんだっけ?」

A「石井さんて方が社長と一緒に出掛けて行った日、池田さんが知らない振りしてたわよね?」
B「あれは間違いなく知ってたわね」

A「高野景子って老舗和菓子店の一人娘だって言うし」
B「家柄もまあまあよね」

A「ああ~高野景子もここに来ないかしらねぇ。実物を見てみたいわぁ、美人なんでしょうね」
B「あら、この間いらしてたわよ」

A「えええっ、私がお休みの日に来るなんてついてないわぁ」
B「高野景子が本命ならそのうち一緒にいる所を見られるんじゃない?」
A「そうだといいわぁ」


____


 景子の所属事務所でも混乱が起きていた。

「景子ちゃん、この記事は一体どういう事なの?」
「それは・・それが真実に近いんです、本当は」

「この間はそんな事言ってなかったでしょ。それに景子ちゃんが二人の結婚を知ったのは沙耶ちゃんと五瀬さんが来た後でしょ? 沙耶ちゃんの相手が誰か知らなかったって言ってたじゃない」

「景子ちゃん、落合社長も私もちゃんと事実を把握していないと困るのよ。問い合わせが殺到してるの。スポンサーとの契約もあるんだから軽率な行動は控えて貰わないと」

 確かにそうだった。落合社長と沢本に聞くまでは沙耶の相手が五瀬だとは知らなかったのだった。
 景子はここまで来た以上はしらを切り通すしかないと腹をくくった。

「実は‥あの後偶然五瀬さんにお会いする機会があったんです。その時沙耶の事を相談されて・・。二人は上手く行ってないみたいなんです。それで相談に乗るうちに五瀬さんは私の方を・・」

「まぁ・・ついこの間仲良く顔を見せてくれたばかりだったていうのに・・」
「そうよねぇ、随分と沙耶の事を大切にしているように見えたのにねぇ。分からないものね」

「じゃあ沙耶ちゃんと別れてあなたと結婚するって言ってるの?」
「あら社長、元々二人は籍を入れていないみたいですよ」

「そうなんです、だから正式には離婚も何もないんです。それにまだそんな深い仲じゃありませんから私達」

 景子はうぶな振りをして恥ずかしそうに下を向いて見せた。

(ふふ、よくもまぁスラスラと口から出まかせを言えたもんだわ。私ってアドリブの才能もあるわね)

 後はどうにかして五瀬の心を掴まなくては・・。マスコミ対策を考えている社長達を後にして、景子は沙耶の代理マネージャーの山本と撮影現場へ向かった。


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