男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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景子の告白

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 景子はマスクをしていたが更にその上からマフラーを巻いて顔を隠した。そして急ぎ足で大きな通りへ向かいタクシーを拾い、自宅の住所を告げた。


 ガチャンと大きな音を立てて後ろ手にドアを閉めた景子は真っ蒼な顔をしてリビングに入って来た。

「あらお帰りなさい景子、早かったわね。話は済んだの?」

 バラエティ番組を見ながらタバコをふかしていた父の敦司も振り向いた。「なんだ、何の話だ」

「お、お父さん・・私大変な事をしちゃったわ」景子はガクガクと震え出した。

 取り乱したままドアの前で立ちすくむ景子をリカは立ち上がってソファまで連れて来て座らせた。

「どうしたの? 沙耶には会えたの?」
「そ、その沙耶を・・私・・こ、殺しちゃったかもしれない」

「なっ、何だってぇ」敦司は手にしていたタバコを落として慌てている。
「き、きちんと話なさい、景子の勘違いじゃないの?」
「でも・・沙耶、動かなくなってた。頭から血が流れていたし・・」

 景子は先ほどの出来事を両親に話した。

「〇〇橋の下だな・・俺が様子を見てくる」
「わ、私も行くわ・・」

 もし死んでいたら・・死体を片付けなければ。この人ひとりには荷が重いわ、私がちゃんとしないと。コートを羽織りながら、そうリカは心を決めていた。


______



 高野夫婦が○○橋の下に着いた時にはもう人だかりが出来ていた。パトカーが2台止まっていて周辺には立ち入り禁止の黄色いテープが引かれいる。

 リカは人だかりの中に混じり、隣に立っていた主婦に声をかけた。

「何かあったんですか?」
「橋の下でね、女性が倒れていたんですって。さっき救急車で運ばれて行ったわ」

「亡くなってたんですか?」
「いえ、多分死んでないと思うわ。『お名前言えますかー?』って言ってるのが聞こえたから」
「そうですか、無事だといいですわね」


 家に戻ってきたリカ達夫婦は景子に状況を説明した。

「じゃあ死んでないかもしれないのね?」
「そうだけど・・無事なら無事で景子に突き飛ばされたって言われたら・・」

「大丈夫よ、沙耶は私に背中を向けていたわ。私がわざと突き飛ばしたって沙耶には分からないわ。周囲には誰もいなかったし。ぶつかったって言えばいいのよ」

 沙耶が無事だったのを聞いた景子は俄然強気になった。

「そうよ、死んでたとしたって誰にも見られてないから平気だったんだわ。嫌だわ、私ったら取り乱したりして。落ち着いたらお腹が空いてきちゃったわ、お母さん何か作って」

 リカはため息をつきながら返事した。「分かったわ、座って待ってて」


______



 翌日の学校帰りに結花が沙耶の病室を訪れた。馨の指示でこの病院で空きがある一番いい個室に沙耶は移されていた。

「池田さん、沙耶さんは?」
「こんにちは、結花ちゃん。沙耶さんはまだ眠ってる」

「頭を打ったから目を覚まさないの? このままずっと目を覚まさなかったらどうしよう・・」
「そんな事考えちゃだめだよ結花ちゃん。沙耶さんは絶対元気になるから」

「うん・・」それでも結花の顔からは不安な表情が消えなかった。

 すると後ろで声がした。「う・・うぅぅん」

 結花と涼、同時に振り返ると沙耶が薄目を開けていた。「沙耶さん!」結花は沙耶の顔を覗き込んだ。

「僕は医者を呼んできますね」涼はすぐさま病室を出て行った。

 沙耶は目を開けたり閉じたりしていたが、徐々に意識がはっきりしてきている様だった。

 医者は到着すると沙耶の脈を測ったりして状態を確認しにかかった。

「五瀬沙耶さん、分かりますか? ここは病院ですから安心してくださいね。どこか痛い所とか吐き気はありませんか?」
「頭、頭が痛いです」

「吐き気は?」
「ありません・・喉が・・水を頂けませんか?」

 沙耶は水を飲むために上半身を起こそうとした。「無理しないで下さい。吸い飲みがありますから起きなくても大丈夫ですよ」

「大丈夫・・です」沙耶は支えられてゆっくりと体を起こした。そして水を少し飲んだ後、自分が今いる病室をぐるっと見回した。

「私、どうして病院に?」
「倒れているところを発見されたんだですよ、意識が戻って本当に良かった」涼がそう言いながら沙耶に微笑みかけた。

「あたなが私を病院へ?」
「いえいえ、僕じゃないですけど・・大丈夫ですか?」きょとんとしている沙耶を見て不安になった涼は医者の顔を見た。

「目が覚める前の事は覚えていますか?」医者が質問した。

「ええと・・ええと・・景子の・・景子の撮影でアメリカに行く準備をしてました。そうだわ、早く帰らないと景子の機嫌が悪くなっちゃう」

 涼の表情が固まった。結花は意味が分からず涼と医者と沙耶の顔を代わるがわる見ている。

「あの、私はいつ退院出来るんでしょうか?」
「五瀬さん、まだ当分は無理ですよ」
「先生、私石井と言います。いつせじゃありません」

 一呼吸置いて、医者は結花を示して質問した。

「では石井さん、この女性は誰かご存じですか?」

「いいえ、知りません」


 
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