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12 次のイベントと謎の女子
しおりを挟むファラマン夫人は休憩室まで付き添ってくれた。キャシー達に何を言われようと大した事はない。貴族令嬢がお金の為にパン屋で働いていると指さされても悔しくなんかない。そう思っていたのにファラマン夫人に優しくされると急に涙が溢れて来た。
「可哀そうに、貴族社会はさぞ生きにくい所でしょうね。まだ若いのにこんなに苦労して……」
彼女は大きな手で私の背中を優しくさすってくれた。大きくて暖かい手。彼女が私のお母様だったらよかったのに。
そこへ新聞を読みながらバートレットさんが入って来た。
「いやあ不可解な事もあるもんだ! 二十歳の若者が一晩で白髪の老人になって死んでしま……ジーナちゃん、どうしたんだい?!」
「あ、バートレットさん。大丈夫です、何でもないんです。すみません、仕事に戻ります」
明日アカデミーに行ったらクラス中にこの事が広まってるんだろうな。第二王子の元婚約者がパン屋で働いている……いえ、アカデミー中に広まってるに違いないわ。
予想通りあの日以来、私は「パン屋令嬢」とか「売り子令嬢」と呼ばれるようになってしまった。
おまけにそれを聞きつけたジェリコに「自分の元婚約者がパン屋で働いているなんてみっともないから、今すぐ辞めろ」と物凄い剣幕で迫られた。ところが一緒に居たクレアが「家族の為に働く」私の行動は尊いものだと、私の味方をしてくれたおかげで私は仕事を辞めずに済んだ。ジェリコは不本意そうだったけど、先日の誕生日パーティーでクレアをほったらかしにした手前、強くは出られなかったようだ。
そうこうしてる間に次のイベントが始まった!
国内でも最大のコリウス教国教会で開かれるチャリティーバザーイベント。このイベントは攻略する対象によって主人公の聖女が神聖力を使う相手が変化する。
本来ならこのイベントも、ジーナの婚約破棄の前に起きるはずの物だった。アカデミーの掲示板にバザーの告知がされていたのを見て驚いたけど、どうもイベントの順番がめちゃくちゃになっているみたい。でもこのイベントで何が起きるかは当然分かっているから、アロイスとクレアの親密度アップの為に利用させてもらうわ。
チャリティーバザーはアカデミーと、アカデミーを支援している貴族が主催している。生徒たちが手作りした小物を即売してその収益を教会に寄付したり、古着や毛布を無償で貧しい人に配布する。その中でイベントに関係するのは炊き出しだ。
炊き出しで小さなボヤが起こり、火傷をした攻略対象を神聖力を使って癒すと親密度が上がるというのが、今回のプチイベント。ここはジェリコルートだと仮定すると、火傷をするのはジェリコで癒すのはもちろんクレア。でも乱暴とは思うけど、アロイスに火傷を負ってもらって、クレアに癒してもらうという流れに持っていこうと思う。
一週間に渡って開催されるチャリティーバザーは、隣国シュタイアータ皇国から留学に来ている聖女クレアが、親交の証として寄贈する由緒あるロザリオを、ラスブルグ国教会に奉納する式典から幕を開けた。
式典にふさわしい輝くような晴天の中、大聖堂には主催側の貴族や教会関係者が大勢出席していた。中にはクレアの姿を初めて見る人もいるようだ。
「あれが噂の聖女様ですか。なんともお美しい方で……ジェリコ殿下のお目に留まるのも不思議ではないですね」
「全くですわ。殿下は最近、婚約を解消されたそうですからもしかしたら……」
はいはい、その元婚約者が後ろで聞いてるんですけど。でもそんな事より、あれは誰なの?! レニーの隣にくっついてキャアキャア言ってる女子は?!
「すごい! 本当に綺麗だわ、あのロザリオをこんな間近で見られるなんて夢みたい! ね、そう思わない?」
「あれはそんなにスゴイ物なのか?」
「まあ! これから聖騎士になろうという人が、あのロザリオの伝説を知らないなんて! あれはこの世界に聖女をもたらしたと言われているマザーロザリオ7本のうちの1本と言われているのよ」
「えっ、あれがそうなのか。その伝説なら知ってるよ。清い心の持ち主にロザリオを介して神聖力が注がれ、聖女が誕生したというやつだろ? そんな貴重なものをシュタイアータは寄贈してくれたのかぁ」
「そうよ、木製の質素な材質だけれど素晴らしい彫刻が施してあるのよ。材質までは知らなかったでしょ? これでまたひとつ聖騎士に近づいたわね、私のおかげよ!」
レニーの隣の女子はそう言いながら、人差し指でレニーの頬をつついた! な、な、な、なんて事を! 私でさえまだレニーの手にすら触れた事がないのに! (ダンス以外で)何ですか、そのいちゃいちゃぶりは!
同じ学年では見かけない人だわ。誰なの? まさかレニーに婚約者がいたの!? ここはゲームの世界なのに、ゲーム設定から逸脱していることも多い。本来ならいないはずの婚約者が現れてもおかしくないわ。だとすると、私は初めから失恋してたってことになる……。
「私のばか……肝心なところを調べておかなかったわ」
「うん? どうしたんだジーナ。ポーチの数が合わないのか?」
私は手にしたポーチを力任せにぎゅうっと握りつぶしていた。
バザー初日の今日、私とレニーは物販の係になっていた。女子生徒が家政科の授業で作った刺しゅう入りのポーチを店頭に並べている所だ。
「あっ、いえ大丈夫、数は合ってるわ。私の数え間違いね」
いけない、また考え事に没頭しちゃってた。それより今、この物販のテントの中には私とレニーの二人だけ! 二人だけの楽園よ! さっきの女子が誰か聞きたかったけど、せっかくの二人だけの世界を見知らぬ女子の話題でぶち壊すのは忍びないわ。レニーと一緒のテントにしてもらうのに苦労したんだから。
さて、国内最大の教会であるここ、国教会の敷地は広く右手に物販のテントが数個立ち並んでいる。左手奥には炊き出しのテントがあり、出口近くに毛布などを無料配布するテントがある。
「ふぅ~ん、施しを受ける方達は奥で炊き出しを受け取ったあとで毛布を貰って帰るルートになってるのね」
そう言いながら私とレニーのテントに入って来たのは先ほどの女子だった。入って来るなり私を嘗め回すようにジロジロと見て、物知り顔で言った。
「その派手なオレンジ色の髪、あなたがジーナ・クリコット令嬢ね。あなた、レニーを追いかけまわしてるそうですけど、そんなはしたない事はよしていただけるかしら? いえ、よしていただくわ。レニーとあなたについて色々と噂が流れるのは迷惑なんですの」
いきなりやって来てレニーとの仲を否定され、私はカッとなった。
「どこのどなたか知りませんけど、失礼ね! 大体なんであなたが迷惑なのよ、レニーと私の問題よ、あなたには関係ないでしょ?」
『あなたには関係ない』そう言いつつ、さっきの考えが私の心に影を落とす。まさか本当にレニーの婚約者なんじゃ……。
「ブリジット、なんて事を言うんだ、確かに失礼だぞ」
「失礼なものですか、お兄様の事は私にだって関係あるわ! しかも相手が第二王子にフラれた悪名高い令嬢だなんて、放っておけないでしょ」
「えっ、お兄様?」
「そうなんだジーナ。ブリジット、ちゃんと挨拶しろ」
「ふん、私はブリジット・ランディス。レニーお兄様の可愛い、可愛い妹よ!」
「ええっ!」
怒りの風船はしゅ~~ぅっと音を立ててあっという間に小さくなる。私とした事がレニーに妹がいるなんて知らなかった! いえ、ゲームでレニーは男兄弟しかいないから、女子に免疫がないという設定だった。イベント発生の時期といい、ゲーム設定はどうなっちゃってるの?? でも確かによく見ると同じような栗色の髪だし、口元も似てるわ!
「そうなの! い、妹さんだったのね。これからよろしくね、ブリジットさん!」
コロっと態度を変えて、今更笑顔で挨拶したところで、ブリジットの態度はツーンと尖ったままだ。テントの前で作業をしていたアロイスは忍び笑いを漏らしている。くっ、アロイスに笑われるなんて!
ブリジットがレニーの妹と知ってほっとした束の間、この後私はブリジットに悩ませられる事になる。
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