ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

文字の大きさ
12 / 61

12 次のイベントと謎の女子

しおりを挟む
 
ファラマン夫人は休憩室まで付き添ってくれた。キャシー達に何を言われようと大した事はない。貴族令嬢がお金の為にパン屋で働いていると指さされても悔しくなんかない。そう思っていたのにファラマン夫人に優しくされると急に涙が溢れて来た。

「可哀そうに、貴族社会はさぞ生きにくい所でしょうね。まだ若いのにこんなに苦労して……」 

 彼女は大きな手で私の背中を優しくさすってくれた。大きくて暖かい手。彼女が私のお母様だったらよかったのに。

 そこへ新聞を読みながらバートレットさんが入って来た。

「いやあ不可解な事もあるもんだ! 二十歳の若者が一晩で白髪の老人になって死んでしま……ジーナちゃん、どうしたんだい?!」

「あ、バートレットさん。大丈夫です、何でもないんです。すみません、仕事に戻ります」

 明日アカデミーに行ったらクラス中にこの事が広まってるんだろうな。第二王子の元婚約者がパン屋で働いている……いえ、アカデミー中に広まってるに違いないわ。

 

 予想通りあの日以来、私は「パン屋令嬢」とか「売り子令嬢」と呼ばれるようになってしまった。

 おまけにそれを聞きつけたジェリコに「自分の元婚約者がパン屋で働いているなんてみっともないから、今すぐ辞めろ」と物凄い剣幕で迫られた。ところが一緒に居たクレアが「家族の為に働く」私の行動は尊いものだと、私の味方をしてくれたおかげで私は仕事を辞めずに済んだ。ジェリコは不本意そうだったけど、先日の誕生日パーティーでクレアをほったらかしにした手前、強くは出られなかったようだ。

 そうこうしてる間に次のイベントが始まった! 

 国内でも最大のコリウス教国教会で開かれるチャリティーバザーイベント。このイベントは攻略する対象によって主人公の聖女が神聖力を使う相手が変化する。

 本来ならこのイベントも、ジーナの婚約破棄の前に起きるはずの物だった。アカデミーの掲示板にバザーの告知がされていたのを見て驚いたけど、どうもイベントの順番がめちゃくちゃになっているみたい。でもこのイベントで何が起きるかは当然分かっているから、アロイスとクレアの親密度アップの為に利用させてもらうわ。

 チャリティーバザーはアカデミーと、アカデミーを支援している貴族が主催している。生徒たちが手作りした小物を即売してその収益を教会に寄付したり、古着や毛布を無償で貧しい人に配布する。その中でイベントに関係するのは炊き出しだ。

 炊き出しで小さなボヤが起こり、火傷をした攻略対象を神聖力を使って癒すと親密度が上がるというのが、今回のプチイベント。ここはジェリコルートだと仮定すると、火傷をするのはジェリコで癒すのはもちろんクレア。でも乱暴とは思うけど、アロイスに火傷を負ってもらって、クレアに癒してもらうという流れに持っていこうと思う。


 一週間に渡って開催されるチャリティーバザーは、隣国シュタイアータ皇国から留学に来ている聖女クレアが、親交の証として寄贈する由緒あるロザリオを、ラスブルグ国教会に奉納する式典から幕を開けた。

 式典にふさわしい輝くような晴天の中、大聖堂には主催側の貴族や教会関係者が大勢出席していた。中にはクレアの姿を初めて見る人もいるようだ。

「あれが噂の聖女様ですか。なんともお美しい方で……ジェリコ殿下のお目に留まるのも不思議ではないですね」

「全くですわ。殿下は最近、婚約を解消されたそうですからもしかしたら……」

 はいはい、その元婚約者が後ろで聞いてるんですけど。でもそんな事より、あれは誰なの?! レニーの隣にくっついてキャアキャア言ってる女子は?!

「すごい! 本当に綺麗だわ、あのロザリオをこんな間近で見られるなんて夢みたい! ね、そう思わない?」

「あれはそんなにスゴイ物なのか?」

「まあ! これから聖騎士になろうという人が、あのロザリオの伝説を知らないなんて! あれはこの世界に聖女をもたらしたと言われているマザーロザリオ7本のうちの1本と言われているのよ」

「えっ、あれがそうなのか。その伝説なら知ってるよ。清い心の持ち主にロザリオを介して神聖力が注がれ、聖女が誕生したというやつだろ? そんな貴重なものをシュタイアータは寄贈してくれたのかぁ」

「そうよ、木製の質素な材質だけれど素晴らしい彫刻が施してあるのよ。材質までは知らなかったでしょ? これでまたひとつ聖騎士に近づいたわね、私のおかげよ!」

 レニーの隣の女子はそう言いながら、人差し指でレニーの頬をつついた! な、な、な、なんて事を! 私でさえまだレニーの手にすら触れた事がないのに! (ダンス以外で)何ですか、そのいちゃいちゃぶりは!

 同じ学年では見かけない人だわ。誰なの? まさかレニーに婚約者がいたの!? ここはゲームの世界なのに、ゲーム設定から逸脱していることも多い。本来ならいないはずの婚約者が現れてもおかしくないわ。だとすると、私は初めから失恋してたってことになる……。

「私のばか……肝心なところを調べておかなかったわ」
「うん? どうしたんだジーナ。ポーチの数が合わないのか?」

 私は手にしたポーチを力任せにぎゅうっと握りつぶしていた。

 バザー初日の今日、私とレニーは物販の係になっていた。女子生徒が家政科の授業で作った刺しゅう入りのポーチを店頭に並べている所だ。

「あっ、いえ大丈夫、数は合ってるわ。私の数え間違いね」

 いけない、また考え事に没頭しちゃってた。それより今、この物販のテントの中には私とレニーの二人だけ! 二人だけの楽園よ! さっきの女子が誰か聞きたかったけど、せっかくの二人だけの世界を見知らぬ女子の話題でぶち壊すのは忍びないわ。レニーと一緒のテントにしてもらうのに苦労したんだから。


 さて、国内最大の教会であるここ、国教会の敷地は広く右手に物販のテントが数個立ち並んでいる。左手奥には炊き出しのテントがあり、出口近くに毛布などを無料配布するテントがある。

「ふぅ~ん、施しを受ける方達は奥で炊き出しを受け取ったあとで毛布を貰って帰るルートになってるのね」

 そう言いながら私とレニーのテントに入って来たのは先ほどの女子だった。入って来るなり私を嘗め回すようにジロジロと見て、物知り顔で言った。

「その派手なオレンジ色の髪、あなたがジーナ・クリコット令嬢ね。あなた、レニーを追いかけまわしてるそうですけど、そんなはしたない事はよしていただけるかしら? いえ、よしていただくわ。レニーとあなたについて色々と噂が流れるのは迷惑なんですの」

 いきなりやって来てレニーとの仲を否定され、私はカッとなった。

「どこのどなたか知りませんけど、失礼ね! 大体なんであなたが迷惑なのよ、レニーと私の問題よ、あなたには関係ないでしょ?」

『あなたには関係ない』そう言いつつ、さっきの考えが私の心に影を落とす。まさか本当にレニーの婚約者なんじゃ……。

「ブリジット、なんて事を言うんだ、確かに失礼だぞ」

「失礼なものですか、お兄様の事は私にだって関係あるわ! しかも相手が第二王子にフラれた悪名高い令嬢だなんて、放っておけないでしょ」

「えっ、お兄様?」
「そうなんだジーナ。ブリジット、ちゃんと挨拶しろ」

「ふん、私はブリジット・ランディス。レニーお兄様の可愛い、可愛い妹よ!」

「ええっ!」

 怒りの風船はしゅ~~ぅっと音を立ててあっという間に小さくなる。私とした事がレニーに妹がいるなんて知らなかった! いえ、ゲームでレニーは男兄弟しかいないから、女子に免疫がないという設定だった。イベント発生の時期といい、ゲーム設定はどうなっちゃってるの?? でも確かによく見ると同じような栗色の髪だし、口元も似てるわ!

「そうなの! い、妹さんだったのね。これからよろしくね、ブリジットさん!」

 コロっと態度を変えて、今更笑顔で挨拶したところで、ブリジットの態度はツーンと尖ったままだ。テントの前で作業をしていたアロイスは忍び笑いを漏らしている。くっ、アロイスに笑われるなんて!

 ブリジットがレニーの妹と知ってほっとした束の間、この後私はブリジットに悩ませられる事になる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※表紙はAIにより作成したものです。 ※小説内容にはAI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...