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18 ドレスのプレゼントとアロイスの秘密
しおりを挟むもたもたしていた私は教室を出るのが最後になっていた。広い教室に私とレニー二人きり!
「ジーナ、これブリジットと俺が選んだんだ。着てくれると嬉しいんだけど」
少しはにかみながらレニーは大きめの平たい箱を私に差し出した。
「えっ、何かしら?」
「その……言いにくいんだけど君が二着のドレスを日替わりで交互に着てるってブリジットが言ってて。バザーの時の騒動でドレスがだめになったんじゃないかと。それで、この間のお礼も兼ねてドレスをプレゼントしようという話になったんだ」
そうなのだ。アカデミーに着ていけるたった三着しかないドレスのうちの一着があの時だめになってしまっていた。繕いがきかない位にダメージを受けていてどうしようもなかったのだ。
「レニーが一緒に選んでくれたの?! 嬉しい!!」
私は包装をはがすのももどかしく箱を開けた。中には薄いグリーンにオレンジと黄色い小花をあしらったドレスが入っていた。
「うわぁ綺麗! ありがとうレニー、わたし本当に本当に嬉しいわ!」
ドレスをあてて喜ぶ私をレニーも微笑ましく見ている。その時教室のドアが開いてアロイスが顔をのぞかせた。
「あっ、アロイス。ねえ見てこれ。レニーが私にプレゼントしてくれたの! ブリジットと一緒に選んでくれたんですって!」
ドレスをあてている私を見たアロイスは微妙な反応を示した。唯一見える口元の笑みを作るのにも失敗している。もしかしてこの素敵なドレスは私に似合ってないのかしら……。
「おお、よ、良かったな。俺は別に用事があったわけないじゃないから」
アロイスはそう言って半開きのドアを閉めて行ってしまった。アロイスったらまた私とレニーを二人にする為に気を使ったのね。
この後私はレニーと一緒に下校し、バートレットベーカリーの前で別れた。
手を擦りむこうが私は働かなくちゃいけない。明日休みをもらった分、今日はきっちり稼がないとね。明日はアロイスがクレアをデートに誘えるように頑張るんだから!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は少し遡り、ロザリオを取り返した後、ジーナの屋敷の前。
「ケガしたところ、ちゃんと手当しろよ。じゃあな」
ジーナと別れ、走り去って角を曲がるとそこには馬に乗ったハーリン先生が待っていた。「さ、乗って下さい。帰りましょう」
俺は先生の前に飛び乗った。身軽なのはキツネになった時唯一の長所だ。
「とんだ一日だったな。お前を巻き込んでしまって申し訳ない」
「何をおっしゃるんですか。私はあなたの護衛としてアカデミーに入ったのです、当然の事ですよ。それにしても『アーロンちゃん』とは……フフフ」
「それは言うな! ……お前、面白がってるだろう?」
「いいじゃないですか、あの令嬢はとても面白い。猪突猛進というか無鉄砲というか。でもあなたとクレア様の仲を取り持とうとしておられるのでしょう? 頼もしいではないですか」
「だといいんだがな」
バザーでの一件以来、すっかりジェリコの株が落ちたようだった。それと反比例してジーナの評判が上がっている。アカデミー内でもあの事件は大いに話のネタになっていた。今日も噂話が飛び交っている。
「クリコット令嬢ってジェリコ様と婚約破棄されてから、随分と変わりましたよね。嫌味や自慢も言わなくなって。婚約破棄の主な原因が聖女様いじめだった事で反省したのかしら」
「ええ、まるで別人ですわ。人ってあそこまで変われるものなのね。でも家計が火の車というのは事実らしいですね、最近はお召し物が……いつも同じで」
言われてみると確かにそうだ。一日おきに同じものを着ているような気がする。その日帰ってすぐ、俺は従者兼護衛のヴィンセントに頼みごとをした。
「ドレスですか? この間はメイドの制服をご所望で、次はドレスですか」
ヴィンセントは怪訝な顔で俺を見た。
「変な誤解をするな。その……ジーナに。火事とその後の騒動でドレスがだめになったようだから」
「ああ、確かにあの時はひどい有様でしたね。分かりました、クリコット令嬢に合うようなドレスを見繕って参ります」
ヴィンセントは本当に優秀な男だ。小さな頃から一緒に居るが、頭も切れるし何事にもそつがない。今の俺にとって彼は友であり兄の様でもある。彼より信頼できる人間はこの世にいない。
だが……そうだな、もう一人。ジーナも信用出来るだろう。
初めは俺の弱みに付け込んでレニーとの仲を取り持って欲しいなんて、卑怯な女だと思っていた。ジェリコとの婚約破棄後すぐだった事もあって、ジェリコの代わりにするためだとも陰口されていた。でも彼女の思いは真剣で、決して打算的なものではなかった。レニーに思いを寄せるひたむきな姿は自然と応援したくなるほどだった。
翌日ヴィンセントが用意してくれたドレスを持参して、放課後に渡そうと教室のドアを開けると、レニーとジーナが一緒の所に遭遇した。しかもジーナはレニーからプレゼントされたドレスに大はしゃぎしている。
しまった、被ったか。よりにもよって同じ日に渡そうとするなんてタイミングが最悪だ。慌てて不自然な言い訳をしながらドアを閉め、ドレスの箱を抱えて足早にその場を去った。
「おや、まだ渡していなかったのですか?」
滅多にこちらの校舎に来ないヴィンセントと廊下で遭遇した。
「レニーが……レニーもジーナにドレスをプレゼントしてたんだ。タイミングが悪かったよ」
「そうですか。でも年頃の令嬢にドレスは何枚あっても足りないはずです。きっと喜ばれますよ」
そうだな、と口では言ったが、これは無記名で屋敷に届けよう。レニーからドレスをプレゼントされて喜びを爆発させていたジーナの表情を思い出すと、俺がドレスを贈った時のジーナの顔を見るのは気が引ける。きっとあんな輝くような笑顔を俺には向けないだろうから……。
おかしな成り行きで同盟を組む事になったジーナ・クリコット。貴族令嬢にしてはやたらとバイタリティのあるタイプ。鮮やかなオレンジ色の髪に瞳が若葉色で反対色のせいか、賑やかな印象が強い。その印象を裏切らない行動、物おじしない言動が一緒にいると楽しかった。俺たちはこれまで協定通りに色々な策を講じてきたが、俺はジーナに打ち明けていないことが幾つかある。
俺の本当の名はアロイス・ソルタナ・フォン・サーペンテイン。九歳の時に突然、体に異変が生じてキツネ型の獣人になってしまった。どんな薬も効かない、まじないや祈祷の類も無効。しかもキツネ化はどんどん進行していく。
父上はそんな俺を城のはずれにある離宮に隔離した。俺のこの姿を人目につかないようにする為に。その理由は明らかだ。
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絵画や彫像には必ずその傍に鷹を従えた姿で描かれ、故に鷹は神の使いとして崇められている。反対にキツネは鷹の獲物であり、大罪を犯した者や、神を冒とくした者は神に呪われキツネに姿を変えられてしまうという言い伝えがある。キツネになった罪人は鷹に狩られるのだ。
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