ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

文字の大きさ
26 / 61

26 二人の会話

しおりを挟む

 ジーナは俺とクレアを二人きりにするために、早々にランチを切り上げクリストファーを連れ立って食堂を出た。

「ジーナは私とアロイス、あなたを二人きりにさせたかったみたいね」
「あ、ああ」

「企みがバレバレだわ。でも、とてもチャーミングよね、彼女」
「そう、かもな」

 クレアは何もかも見透かしたような眼をして俺に笑いかけた。決まりの悪い思いがよぎるのは、図星を付かれているからなのか。

「クレアはその、どうなんだ? ジェリコとは」
「殿下には求婚されました」

 目を伏せながら静かにクレアは言った。その仕草からは嬉しいのか、そうでないのか、感情が読み取れない。

「そうか……でも最近のジェリコは評判が悪いだろう? 繕っていた体裁が崩れて、みんなジェリコが本当はどういう奴か知り始めてる。クレアも気付いているんじゃないのか」

「……殿下は根っからの悪人ではないと思うの。私が傍でお支えして差し上げたら、彼も変わるのではないかと。そんなのは私の思い上がりかしら?」

「いや、いい方に変わるなら、それに越したことはないよ。クレアならそれが出来ると思う」

 クレアがジェリコを選ぶなら、俺が人間に戻れる可能性は極めて低くなる。そうなれば次の国王はジェリコだ。ジェリコにはしっかりしてもらわなければ。クレアには謎めいたところがあるし、先日の不可解な行動の事も気になるが、ふたを開けてみれば取るに足りない事だったのかもしれない。

「私が殿下と婚約したらジーナは残念に思うかしら」

 なぜジーナが? ジーナはとっくにジェリコの事は吹っ切ってる。いつも四人で食事をしていたのだから、ジーナの様子を見ればレニーの事が好きだと気付いているはずだ。俺とクレアの仲を、ジーナが取り持とうとしている事を言っているのか。

「残念なのは、まず俺じゃないか?」

「アロイスはそう思わないでしょう? ジーナは誤解している様だけど、あなたが好意を抱いている相手は私ではないんだから」

 俺が息をのむ様子を見て、クレアはまた「ふふっ」と笑みを漏らした。俺は年齢を偽ってこのクラスに編入したが、クレアはジーナやジェリコと同い年のはずだ。だが、その笑みはやけに大人びていた。

 確かにクレアの言う通りだ。

 クレアとの結婚を望んでアカデミーに入り、初めて彼女の姿を見た時はその清楚な美しさに目を奪われた。気持ちも後から付いて来ると思っていた。そうして結ばれたあかつきには、仲睦まじく暮らして、ついには呪いが浄化されて人間に戻れる日が来るという期待を抱いた。

 でも俺の気持ちはいつの間にか違う方向へ動いてしまった。恋とは思惑通りになんていかないものだと思い知った。俺の感情の天秤は、人間に戻る事よりジーナを想う気持ちの方へ傾いたのだ。




 俺はスターク伯爵の次男という肩書でアカデミーに編入しているが、もちろん実際は違う。そして住まいも変わらず王城の離宮で、ヴィンセントと暮らしている。

「おかえりなさい、殿下」

 ヴィンセントがダイニングルームの扉を開けると、肉の焼ける香ばしい匂いが漂って来た。

「アロイスでいいって言っただろ。アカデミーでも殿下なんて呼んでしまったら大変だぞ」

「そうですね。それより食事がもうすぐ出来上がりますます。その鬱陶しい前髪も結って、着替えてきて下さい」

 俺の話はさらっと流して、ヴィンセントはまたダイニングルームに消えた。

 ヴィンセントは俺の警護の為にアカデミーで教鞭をとることになった。だが教職をこなしながらここでの生活のあれこれを一手に担うのは、流石に負担が大きすぎるのではないだろうか。

 夕食を共にしながらその事を話すと、ヴィンセントは問題ないと笑った。

「食事のほとんどは王城で作ってもらっていますし、掃除は使っている部屋しかしてませんから」

「それならいいが……」

「それよりジェリコ殿下とクレア様の婚約が近いうちに整うそうです。」

 ヴィンセントはそう言いながら俺の顔をじっと見ている。これを聞いた俺の表情から気持ちを読み取ろうとしているのだろうか。

「そうか、俺もクレアから求婚の話は聞いたよ」
「アロイス様……私もとても残念に思います」

「仕方ないさ、クレアはジェリコを支えたいと思ってくれているようだった。それはいい事じゃないか。ただ気になるのは、フェダック家の次男が転入してきた事だな。ジェリコとの婚約が決まりそうなこの時期に来たのは何かあるのか」

「何とも言えませんね。フェダック様の転入はかなり急な話だったようです」

 本当なら狩猟大会の後は帰国する予定だったはず。何がクリストファーの気持ちを変化させた? 

 ヴィンセントはワインを口に含み、少し考えてからまた話し始めた。

「現在、シュタイアータの皇王は体調が優れないと聞いていますが、実際はかなり重い病に伏せっておられるようです。昨年、後継者の長男が二十二歳の若さで逝去されたのが、精神的に堪えたのではないかと言われていますね」

「でももう一人男子が……ああ、確かまだ七つか八つだったか」

「そうです。それで皇王陛下亡き後、次男の後見人争いが、既に熾烈な状態だともっぱらの噂で」

「クリストファーの父は大公だから、後見人候補の一人か」

「フェダック大公は皇王陛下の弟君。もう一人の有力候補者は、次男の母親の実家であるアテート公爵家ですね」

「シュタイアータの皇子も、俺とジェリコのように母親違いの兄弟だからな。なるほど……そこら辺が絡んでいそうだ」

 クリストファーはクレアがこの国の王族と婚姻する事を嗅ぎつけて、クレアがフェダック大公側なのかアテート公爵側なのかを探りに来たのかもしれない。何せ、クレアが味方に付いた側にこの国の後ろ盾が得られることになるのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。 歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。 気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。 私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。 しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。 いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね! 悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。 魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。 やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。 そして、鍵とはいったいーー。 ※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む) ★小説家になろうでも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...