ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

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46 二人からの申し込み

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「俺がメロンを頼むから、ジーナは氷菓にしたらいい。メロンプレートはシェアしよう」

 そうやって注文したものがテーブルに運ばれてくると、ジーナは目を輝かせてこれから戦闘でもするみたいにスプーンを握りしめた。

「まずはメロンのシャーベットを一口いくか?」
  
 大きなプレートに乗った足付きガラスの器に、それは盛られていた。俺は器ごとジーナの前に差し出す。

「うわぁ、すっごくメロンの味が濃いわ! おいしい!」

「じゃあそれはジーナにあげるよ」

 俺の隣のクリストファーは、ジーナの食べっぷりを楽しそうに眺めながら、スコーンにジャムを塗っている。

「じゃあアロイスはこのクレープシュゼットの味見ね。オレンジの風味が効いていておいしいわよ。フォークを貸して」

「ジーナのフォークでいいよ」

「え、えっと、じゃあ、はい」

 ジーナは少しためらいを見せたが、自分のフォークでクレープを差し出した。俺は少し身を乗り出して、ジーナの手を掴んで自分の口に運ぶ。

「うん、確かにオレンジが効いてて美味いな」

「で、でしょう?」

 ジーナは大いに照れながら手を引いた。旋回する音がしそうな程、クリストファーが首を大きく回して、ジーナと俺の顔を見比べる。

「え、え、何ですかそれ。なんだかやけに親密な雰囲気じゃありませんか?」

「俺もジーナに告白したんだ。今は返事待ちなんだよ」

「はぁ??」

 クリストファーは頭がもげそうな勢いで俺に振り向いた。

「どう言う事ですか? そんなの初めて聞きましたよ、僕は本気だってあの時でん……アロイスにも話したじゃないですか。こんな抜け駆けするなんて卑怯です!」

 今度はジーナに向かってクリストファーは喚き立てた。

「ジーナ、僕はあなたとランディス君に気遣って話し掛けない様にしていたのに、ランディス君が知ったらまた大変な事に……」

「待て待て、落ち着いてくれ。ジーナはレニーとは別れたんだ、だから俺も自分の気持ちを打ち明けたんだよ。そうでなければ言わないつもりだった」

 クリストファーの目が大きく見開かれる。口元には笑みが広がった。

「そうでしたか! では僕も正式にジーナに交際を申し込みましょう。僕も彼には負けますが、高貴な血筋の由緒正しい貴族です。この通り見目も麗しい! 何よりジーナに惚れ込んでいますから、あなたを絶対に幸せにしますよ」

「自分で見目麗しいって言うようなナルシストより、相棒だった俺の方がジーナを幸せに出来るのは間違いないね。そうだろ、ジーナ」

 ちょっと声が大きかったか。通りすがった店員や近くの席の令嬢達が興味津々の視線を、あからさまにこちらの席に向けて来た。

「いやだわ、二人とも……」

 ジーナは真っ赤になって顔を両手で覆ってしまった。

「「可愛い……」」

 俺とクリストファーの意見が一致した瞬間だった。



 それからの二週間はあっという間だった。

 この間のカフェで、冷たいデザートを食べ過ぎたジーナは風邪をひいて、アカデミーをしばらく休んでいた。やっと出て来た後も、常にクリストファーが一緒に行動していたせいでジーナと二人きりになれず、返事を聞くことが出来なかった。

 ただ目下のところはクレアへの対処が最優先事項だ。

 クリストファーが調べ直した結果、サウスプレインズの教会が焼け落ちた時、その教会には司教と数人の司祭、そして配属されたばかりの聖女とその家族が居合わせたと記録にあったそうだ。

「その火事で生き残ったのは老齢の司教と十七歳の聖女だけだったようです。でも司教もその後すぐ亡くなられましたが」

 クリストファーは調査結果の手紙を横に置いて顔を上げた。

「その聖女の名前がクレアです」

「教会がサーペンテインとの戦争で焼けたのなら、クレアの目的は復讐だろうな。あれはひどい戦争だった。歴史で学んだだけだが、我が国の恥ずべき汚点だ」

「クレア様はジェリコ殿下との結婚で、王室に入って何かをするつもりなのでしょうか。しかし我々もクレア様が神聖力を悪用した所を見ていませんし、何の根拠も証拠もないのに結婚を反対出来ません……」

 アカデミーから帰って来たばかりのヴィンセントは着替える間もなく、話し合いに参加している。ここは例によって俺の住まいの離宮だ。

「ジェリコとクレアの結婚を俺が反対すれば、王位継承権狙いだと揶揄され、取り沙汰されないだろうな」

「クレアが生命力を奪うタイミングがいつか分かればいいんですが」

「それなら私が少し調べました」

 ヴィンセントが手帳を取り出して言う。

「クレア様が神聖力を使用した後は必ず不審死が起きています。これは百パーセントです。それ以外にも最近は頻度が上がっています」

「力を使うとそれを補充しなければいけない、というような構図か」

「ええ。それと、サウスプレインズのクレアが同一人物とすれば、相当な老齢でしょうから、若い見た目を維持し続けるためにも生命力が必要なのかもしれません」

「クレアが神聖力を使うように仕向ければ、おのずと生命力を奪う場面に遭遇できる確率も上がるのか」

 考え込むクリストファーにヴィンセントが顔を向けた。

「クレア様が治療に当たらざるを得ない状況で私がケガをするのはどうでしょうか? その後、クレア様から目を離さなければ、必ず生命力を奪う行動に出る筈です」

「なっ!」

「多少のケガでは神聖力を使わないでしょうね。かと言って死なない程度の大けがを負わせるというのも、かなりの技量がないと難しいのではないでしょうか」

 クリストファーは冷静に返す。

「でもこのままでは時間だけがどんどん過ぎて行きます。何か行動に移さなければ」

「ならヴィンセント、お前が俺にケガをさせろ」

「なっ、何をおっしゃるんですかアロイス様」

「死なない程度に急所を外して、大けがを負わせるほどの技量を持っているのはお前の方だ」

「アロイス様にそんな危険な真似はさせられません。誰か、腕の立つ傭兵上がりの者でも雇えばいいではないですか」

 いきりたってヴィンセントは椅子から立ち上がった。

「信用出来ない。それにお前より俺の方がクレアと親交がある。クレアも神聖力を使わざるを得ないだろう」

「その点に関しては僕もそう思います」

「しかし! 私はアロイス様をお守りする立場の者。その私がアロイス様を傷つけるなど……」

「お前だからだよ、ヴィンセント。私はお前を信頼している。お前ならやってのけると信じているんだ。それにお前に何かあったら誰が俺を守護するんだ?」

 ヴィンセントは俺の護衛騎士であり、俺にとっては兄のような存在でもある。長く辛い日々を共に過ごし、剣を教わり、時には叱られ、時には慰められた。そのヴィンセントを危険な目には合わせたくない。絶対にだ。

 小さく笑った俺の顔を見て、ヴィンセントはどっかりとイスに腰を下ろす。まだ苦悶の表情は残っているが、顔を上げた。

「では策を練りましょう、決して失敗する訳にはいきません」
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