ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

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52 ジーナ2

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「ジーナ来るんだ!」

 クレアはレニーから受け取った短剣でジェリコの首に光る刃をあてがった。レニーは私の腕を引っ張り、礼拝堂への階段を上り始める。ジェリコはクレア一人なら振りほどけると思ったのか、身をよじった。だがジェリコの首にぴったり当てられた短剣が小さな傷を作った途端、ジェリコは小さな悲鳴を漏らした。

「ひぃぃ! クレア、なぜこんな事をするんだ。ラスブルグに復讐だなんて嘘だろう」

「殿下はお国の歴史を勉強なさらなかったのですか? ラスブルグがシュタイアータに、シュタイアータの聖女にどんな非道な事をしたか……」

「そんなのはわたしのせいじゃないぞ、先祖の罪をなぜ子が償わなくてはいけないんだ!」

 ジェリコは短剣に怯えて身動きひとつ出来ないまま喚いている。

 レニーは私を礼拝堂の祭壇の前で跪かせた。中二階はガラス張りの温室の様になっており、王宮の中庭にせり出すように配置されている。礼拝堂自体はさほど明るくないが、中庭のガス燈のお陰で幻想的な雰囲気を漂わせていた。

「ここで永遠の愛を誓おう、ジーナ」

 ふりだけでも、レニーに従う真似をしたらいいのだろうか。私は信心深い人間じゃない。親に捨てられ孤児になった事で神を恨んだりもした。ましてやコリウス神はゲームの世界の神様だ。でも自分の命を長らえる為に、神聖な礼拝堂で偽りの愛を誓うの? これが正解かは分からない、でも私は自分の気持ちに嘘はつきたくない。

「レニーは私の憧れだったわ。何の彩もない私の生活に『ホリスタ』ライフは輝きをくれた。レニーが私の推しである事はずっと変わらないけれど、ここで誓う愛とは別の物なの」

「ほりすた……推し? 俺が君の憧れだって? 憧れなのに愛ではないと言うのか?」

 ランディス邸で見た時の様に、レニーの瞳に狂気が上って来た。私は自分の決意を少しだけ後悔しながら、思いっきりレニーを突き飛ばす。レニーはよろけて後ずさった。その隙に階段を目指して一気に駆け出す。でも後ろから飛んできた何かが足にぶつかり、階段手前で私は転んでしまった。

「「ジーナ!」」

 アロイスとクリストファーの叫びが聞こえた。転んだ足元を見ると五十センチ位の燭台が転がっている。レニーが祭壇から私の足めがけて投げたんだ。

 痛みで震える手で足を押さえた。幸い、折れてはいなさそうだけど立ち上がることが出来ない。レニーはゆっくり近づいてきてため息をついた。

「はぁ……ジーナ、まだ逃げられると思ってるんだ」

「殿下が終わったらあなたの番だから、大人しく待っていてジーナ。そんなに拒絶したらレニーが可哀そうよ」

 クレアが階段上の私たちをチラッと見上げて眉根を寄せた。

「わ、私の番って……。どうしてなの、ラスブルグに復讐ってどういう……」

「私の家族はこの国との戦争で無残に殺されたわ。私が聖女としてここまでやってこられたのは、戦争を繰り返すサーペンテイン王家に鉄槌を下せとコリウス神が望まれたからよ!」

 クレアは短剣を持っていない方の手で、ジェリコの手首を掴んだ。

「計画通りにはいかなかったけれど、王子たちの命だけは奪ってやる」

「う、うわぁぁぁぁっ」

 ジェリコが急に悲鳴を上げて悶え出した。電気が走ったみたいに体をのけぞらせ痙攣している。

 クレアの瞳が宝石の様に光っている。前に旧校舎で見た時は、光の加減でそう見えただけかと思っていた。でも違う、あれは神聖力を使うとああなるんだ。

 でも神聖力を使っているのにジェリコが苦しんでいるのはどうしてなんだろうと疑問が浮かんできた。が、空気を切り裂く弓矢の音で思惑はかき消された。

「あああっ」

 クレアの肩に弓矢が命中した。

「ランディス君、君を撃ちたくはありません、クリコット令嬢を解放して大人しく投降してください」

 声の主はハーリン先生だった。ハーリン先生は礼拝堂の屋根の上から、羽目板の一部を外し、屋根から身を乗り出してクレアを撃ったのだ。弓矢は今度はレニーを狙っている。

 痛めた足を庇いながら階段を降りかけると、肩を押さえ階段に寄りかかっていたクレアが恨めしそうに顔を上げた。

「くっ……ハーリン先生、私はこんな事も出来ますのよ」

 クレアが肩を押さえていた手をハーリン先生へ向けると、突風が巻き起こった。先生は風に煽られ、屋根から礼拝堂の中へ落ちかかった。

「きゃぁっ」

 私は思わず目をつぶったが、落ちて来たのは弓で、先生はどうにか天井枠にぶら下がっている。

「復讐の為に私は準備を重ねたのよ、神聖力を使って出来ることを試行錯誤したわ」

 クレアは更に追い打ちをかけようと、もう一度ハーリン先生に狙いを定めている。ジェリコは尻餅をつき怯える幼子の様に目を潤ませて、クレアを見上げていた。

「ジェリコ、早くこっちへ逃げるんだ!」

 クレアがハーリン先生に気を取られている隙に、アロイスと数人の近衛兵が中へ駆けて来た。

「ち、力が入らない。走れないよ……」

 ジェリコは四つん這いになってノロノロと出口に向かった。やっと這い這いが出来るようになった赤子みたいだ。

「邪魔しないで!」

 クレアの怒りは数人の兵士を吹き飛ばした。クレアはもしかして神聖力を使ってあの突風を起こしているの? 神聖力をあんな風に使えることは驚きだけど、復讐の為にそんなことをしていいのだろうか。神様はそれを許してしまうものなの?

 クレアは何度も手を振り回した。どうにか礼拝堂に降り立ったハーリン先生も、弓矢を拾う前に壁に叩きつけられ、レニーまでもが巻き添えを食って、祭壇の上に吹き飛ばされた。

 礼拝堂の中はクレアを中心に、さながら嵐の様に風が吹き荒れている。クレアはジェリコの横に来てまた腕を掴んだ。

「私の神聖力は殿下の生命力を奪います。どうぞ自身の軽率さを恨みながら死んでください」

「うぁあああ、や、やめてくれっ」

「ジェリコ!」

 アロイスは兵士が落とした剣をクレアに向かって投げ飛ばした。でもクレアに当たる直前で剣は勢いを失くし、床に転がる大きな音だけが虚しく響く。

「まだ邪魔する気なのね。さっき私が言った事を忘れたのかしら、あなた方にもまだ知らない事があると。あなたに呪いをかけたのは私なのよ。それが意味するのは何か分かるでしょう?」

 クレアは悠然と立ち上がり、まるで慈悲でも施すかのように、その手をアロイスに向けた。

「やめて━━っ」

 手を伸ばしたって届くはずがない。なのに精一杯腕を伸ばして、声の限りに叫んだ。アロイスの見開かれた目は、クレアから私に移る。一瞬の出来事がスローモーションのように流れ、アロイスは自分の運命を悟ったかの様にゆっくりした瞬きを私に送った。

「ジー……」

 私の名は最後まで呼ばれる事無く、宙に消えた。

 苔の生えた古木みたいな色の光がクレアの手から発せられ、アロイスはキツネになってしまった。クレアがもう一度手を振ると、キツネは軽く弾き飛ばされ、礼拝堂の隅に転がって動かなくなってしまった。

「私の邪魔をするとこうなるわよ」

 クレアは勝ち誇ったように、薄笑いを浮かべている。辛うじて立っていた近衛兵たちも息を飲み、後ずさった。

 こんな……こんな人だったなんて。これが『ホリスタ』の主人公なの? 私は呪いをかけた張本人とアロイスの縁を取り持とうと、あんなに奔走していたの? 

 クレアはいい人だと思っていた。優しくて、聖女らしく慎ましやかで。でもそれは私たちを騙そうと被った偽りの仮面だったんだ。そう思うと急に怒りが込み上げてきた。非道なクレアに対しても、今の今まで気づかなかった愚かな自分にも。

 もう一度立ち上がろうと床についた手に、冷たい物体が触れた。見た目よりずっしりと重いその燭台を握りしめて、階段の手すりに体重をかけ立ち上がる。

「ジーナ!」

 するどいレニーの叫びが追いかけてきて振り返ったが、ハーリン先生がレニーを食い止めてくれた。

 さっきまでは立ち上がれもしなかったのに、ノルアドレナリンが出てると痛みを感じないって本当なんだわ。それに近衛兵が躊躇しているせいか、暴風は収まりかけていた。

 ぐったりとして、もう叫ぶ力さえ残っていない様子のジェリコに、止めを刺そうと近づくクレア。その背後に私はそっと近づいた……。

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