ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

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59 アロイスルート

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「これ、食べるのか? 本当に?」

 アロイスの前に置かれたのは焼きたてのローストチキン。手で触れられないほど熱々だ。

「俺、やっと人間に戻ったばかりなんだぞ」

「完全なものか確認が必要です。また変身するようなら、クリコット令嬢が神聖力を使えるうちに、手を打たなくては」

 私はもう力を使えないと思う。でもハーリン先生があまりにも必死なので、そうは言えなかった。

「ジーナが神聖力を使った? ジーナは聖女になったのか??」

「説明は後です、さあ食べて下さい! さあ!」

 アロイスはナイフでほんの少しだけチキンを削り取ると、目をつぶって口に入れた。

「ゴクン」

「「ゴクン」」

 私もハーリン先生も釣られて固唾を呑む。

 そこへ乱暴にドアが開閉される音がして、私たちは飛び上がった。

「陛下!」

 血相を変えて部屋に飛び込んで来たのは国王陛下だった。

「に、人間に戻ったと……アロイス!」

「どうやら呪いは消えたようです。チキンを食べてもこの通りですから」

「そうか! そうか!」

「全てはこちらのクリコット令嬢のお陰です」

「二人とも頭を上げなさい。クリコット令嬢、そなたには何と礼を言ったら良いか」

 陛下の顔に歓喜の表情が満ちていた。陛下にはジェリコと一緒に何度か拝謁した事があるが、こんな喜ばしい目をした陛下は初めてだ。

「陛下、私だけではございません。ランディス子爵令嬢やマホーニー司教様にもお力添えを頂きました」

「ランディス子爵令嬢か、なるほど」

 アロイスは席を立って私の横に並んだ。

「陛下、お願いがございます。クリコット令嬢への婚約の申し込みの許可を頂きたいのです」

「ア、アロイス?!」

 ど、どうして国王陛下にそんな許可を取るのよ、アロイスったら! ジェリコとの婚約はもう一年も前に解消してるんだから、陛下には関係ないはずよ。

 陛下の眉が少しだけ動いた。陛下も驚いたんだわ。でもすぐ真顔に戻って陛下は頷く。

「うむ、許可する」

「ええっ」

「では食事を続けなさい。邪魔をしたね」

 気のせいか、出て行く陛下は口元がほころんでいたみたい。アロイスはいそいそと自分の席に戻りチキンに取り掛かった。

「ああ、美味い。お腹が空いてペコペコだったんだ。ジーナも食べるか?」

「ちょっ、アロイス!」

「こんなに美味いチキンはそうそうあるもんじゃない。まぁ食べてみろって」

 あんまり勧めるものだから、私も一口……。

「ほんとだ、とても香ばしく焼けてるわ。でもジューシーで……ってそうじゃなくて!」

「ははは、分かってる。でも外堀から埋めるのはジーナに教わったんだ」

 人間に戻ったアロイスはとても快活で良く笑う。呪いが解けて、まさに憑き物が落ちたみたいだ。

「明日はアカデミーだろう? 俺も出席するよ。馬車まで送ろう」

 季節は初冬だ。もう外は夕刻の気配が色濃い。

 離宮の石畳を歩き、泉のある庭園を抜け林に入った。その間、私は今までに起きた事をアロイスに話した。

「クリストファーがクレアから聞き出したことは事実だろうな。呪いをかけたクレア本人じゃないと解呪できないというのは」

「じゃあどうして私が使った神聖力で、アロイスは人間に戻れたのかしら?」

「ブリジットが見つけた本の裏表紙に書いてあったことを考えると……クレアは神聖力を悪用した、だから徐々に力はクレアから去り、ロザリオに蓄えられていった。ジーナの使った力はクレアの神聖力だったから呪いが解けたんじゃないかな?」

「なるほどねぇ、じゃあどうして神様はクレアから神聖力を全て取り上げなかったのかしらね」

「それは多分……神のみぞ知る、だな」

 林を抜ける寸前、アロイスは歩を止めた。

「ところでジーナ、さっきはすまなかった。ジーナの気持ちを確かめる前にキスしようとしたりして」

「えっ! はぅ、あ、あぅ」

「ジーナ、言葉になってないぞ」

 クスッと笑ってアロイスは一歩私に近付いた。

「なぁ、俺はうぬぼれていいんだろ? 早くこの間の返事を聞かせてくれ」

「そうよ、私もアロイスが好き。もっと早くに言えなくてごめんなさい」

「今知ったからいいさ」

 夕闇が迫る中、ぼんやりとガス燈が灯った。暖かい光に照らされたアロイスの顔が近づいて来る。私はゆっくり目を閉じた……。



--------------------------------



「だ、誰なの、あれ」

「また転校生?」

 やっと平和が訪れたと思った教室が、また俄かにざわめき立っている。その原因はこの人だ。

「ジーナ、おはよう」

 アロイスは私に声を掛けた後、自分の席に着いた。

「ええっ、あそこってスターク君の席でしょ」
「……うそ。あれってアロイス・スタークなの?」
「もう、めっちゃイケメンじゃない。ジェリコ殿下より、フェダック様よりいけてない?」

 久しぶりに登校してきたアロイスは鬱陶しい前髪を切り、その『めっちゃイケメン』と言われる顔を惜しげもなく披露したのだ。

「お久しぶりね、スターク君。ご病気はもう良くなられたの?」
「あら、確かお怪我でしたわよね? ところで今年の降臨祭には、どうかしらぜひ私と……」
「いきなり何言ってるのよ、まずは放課後に私とお茶でも行きません?」

 このアカデミーの女子はホント肉食系が多いんだわ。良かった、イケメンに転生しなくて。

「すまない、降臨祭に行く相手はもう決めてあるんだ」

 その相手は誰かと問われたアロイスは笑って質問をはぐらかしていた。去年の降臨祭は私は一人だった。今年、アロイスは私を誘ってくれるのかな。『もう決めてある』という言葉に、どうしても期待が膨らんでしまう。

 お昼休みには待ちかねたようにブリジットがランチに誘いに来た。

「私も聞きたい事が沢山あるのよ。どうしてブリジットはクレアが神聖力を悪用してるって気付いたの?」

「この本を手にした時からですわ。スターク先輩にも話したんですけど、この本を読んだとき、真っ先に浮かんだのがクレア様でしたの」

 私の隣のアロイスが頷く。

「それに」

 ブリジットは忍び笑いを漏らして言った。

「図書室で裏表紙の秘密を発見した時、ジーナさんはクレア様の名前を漏らしてしまっておいででしたわ。ご自分では気付いていらっしゃらないようでしたけど」

「えっ、やだ。そうなの?」

「騒動の渦中にはいつも、クレア様、スターク先輩、ジーナさんの三人がいました。ジーナさんが心を痛めている原因はスターク先輩の事で、スターク先輩はクレア様に何かされたのだと思い至るのもすぐでした。兄の異変もそうですわ」

「はあ~ブリジットってホントに凄いわねぇ」

「そういえば、今年の降臨祭には第一王子のアロイス殿下がゲストとして招かれるらしいですね」

 ああ、アロイスと同じ名前の王子。私が生きている間はスチールが公開されなかったから、初めてその姿を見る事になるんだわ。この世界でも第一王子は病床に臥せっていたそうだから、その顔を知る人は少ないんだっけ? 

 例によって大物狙いのキャシー・コーマックが「今まで人との交流がなかった方だから、きっとお相手探しの為に降臨祭に参加されるんだわ!」と決めてかかっていたっけ。これはチャンスよ! とも顔に書いてあったわね。

「もうご病気は完治されたのかしら?」

 私がそう言うと、ブリジットはなぜかアロイスの顔に視線を走らせてから返事した。

「そうだと思います。神聖力で完治されたのでしょう」

「神聖力で治る病気なら、初めからそうすれば良かったのにね」

「さて、私は図書室へ行きますからここで失礼します」

 ブリジットを見送った後、私とアロイスは昼休みの残り時間で、あの旧校舎を訪れる事にした。旧校舎は来年取り壊しが決まったのだ。

「残念ね、二か月後にはもうここは更地になってしまうのね」

「思い出深い場所だったのにな」

 本当に。何度ここに来て作戦会議を立てただろう。ここでクレアに会ってわだかまりを解き仲良くなったり、あの古ぼけたベンチに座ってアロイスの告白を聞いたり……思い出したら急に恥ずかしくなってきたわ。

「顔が赤いぞジーナ。風邪をひいたら大変だ、もう戻ろう……っとその前に」
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