ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

文字の大きさ
60 / 61

60 アロイスルート2

しおりを挟む

「今年の降臨祭は俺と一緒に参加してくれるか?」

 ほっと胸をなでおろす。大丈夫だとは思っていたけれど、誘ってもらえるまではやっぱり不安だった。

「もちろんよ、ドレスもこの間の舞踏会で作ったのがあるし大丈夫だわ」

「あれは確かに良く似合っていたけど、またカメリアのブティックで新調しよう。今度は俺が費用を持つから」

「ええっ、またあそこで? だめよ、あんな高級店。舞踏会に滞在していた時間は短かったわ。同じドレスだって気づくのはブリジットくらいだから平気よ」

「俺が嫌なんだ、あれはクリストファーがプレゼントした物だろう」

 駄々っ子みたいに唇を尖らせるアロイスに、意表を突かれた。私はアロイスがこんな風にやきもちを焼くなんて思ってもみなかったから。

「ふふっ、正直に言うとね、ちょっと嬉しいわ。そのやきもち」

「俺も正直に言って、倹約家のジーナはすごく好ましいと思う。だけど今回は俺に譲って欲しい。その……付き合って初めてパートナーとして参加する場だから、さ」

「あっ! そ、そうね。今回はアロイスにお願いするわね」

「よし、また一緒に仕立てに行こう」


 
 十二月はこちらの世界も忙しい。冬支度あり、年越しの用意ありと大忙しだ。洗濯機や掃除機もろもろ……時々前世の便利な世の中が恋しくなる時もある。そんな訳で、降臨祭の日はあっという間にやって来た。

「ねぇねぇ、降臨祭はもうとっくに始まってる時間じゃない? どうして遅れて行くの?」

 アロイスが待ち合わせに指定してきた時間は、開始時間から十五分も後だった。

「今日はゲストという形での参加なんだ。ちょっとすました顔をしてないといけないから、笑うなよ」

 何のことだからさっぱり分からない。アロイスはカメリアのブティックで私と一緒に新調した正装をしているが、肩にはサッシュが掛けられている。胸にも幾つかメダルを付けていて、まるで王族か軍人みたい。

 アカデミーの大講堂入り口には、いつもと違って案内役が立っていた。アロイスと案内役が目を合わせると、案内役は深々とお辞儀した後に言った。

「本日のゲストである、アロイス・ソルタナ・フォン・サーペンテイン殿下、パートナーのジーナ・クリコット令嬢のご入場です」

「へ?」

「さ、お手をどうぞ」

 まさか私の後ろに第一王子殿下がいらっしゃるの? と振り返ったが誰もいない。アロイスは優雅な笑みを浮かべて手を差し出している。

 進み出た私たちを拍手が迎えた。そのうち何人かのクラスメイトが、第一王子の正体に気づいた。

「どうしてクリコット令嬢の名前が一緒に呼ばれたか不思議だったのよ! あれ、スターク君じゃないの!」

「スターク君が第一王子殿下だったの?! た、確かに髪を上げた顔はジェリコ殿下と少し似てるかも……」

「それにしても、ジェリコ殿下の次はアロイス殿下……クリコット令嬢ってどうなってるの?!」

 大講堂に入った途端に人が押し寄せ、アカデミーの生徒、教師全員と話したんじゃないかって位に、私たちは挨拶の洗礼を受けた。

 今まで表舞台に出ていなかった第一王子だ。しかもジェリコが王太子に指名される可能性は低いと囁かれる今、「ぜひ、今度我が屋敷のお茶会にお出で下さい」とか「私のサロンで開かれる音楽会へぜひ!」などというお誘いが決まりごとのようにアロイスに繰り返された。

 ダンスの時間になってやっと私たちは二人で会話することが出来た。

「その顔だと、今日まで俺が第一王子だって気づかなかったみたいだな。始終目がまん丸だったぞ」

「当り前よ! 私、腰が抜けるかと思ったわ。誰も教えてくれなかったわよ。というか、アロイスが私に教えてくれても良かったじゃない!」

「気づかれたら言おうと思ってた。なんとなく自分が王子だなんて言いにくかったんだ。ジェリコの事もあったし、王族なんてもう懲りたと言われるんじゃないかってさ。周囲も悪気があって黙ってたわけじゃないと思う。俺が言ってないのにばらすのはまずいと思ったんだよ」

「王族って言っても、アロイスはジェリコとは違うわ。あっ、もしかして『殿下』って呼ばないといけないかしら?」

「いや、今のままがいい。二人の時はいつも通りに名前を呼ばれたい」

 とろけるような甘い声でアロイスは囁く。ちょっとした憤慨は消え、今の私の顔はきっと夕焼けの様に違いないわ。

「少し抜け出さないか? 外の空気が吸いたくなった」

「そうね、いいわ」


 思ったより外は暖かだった。風もなく、この時期にしては気温が高い。

「こっちだ、あそこのベンチで休もう」

「あ、ここは……」

 ここはキツネになったアロイスと初めて対峙した場所だ。

「まだ一年しか経っていないのね。あの時ここでアロイスとぶつかっていなかったらどうなってたのかしら」

「俺は多分一生チキンを食べられなかっただろうな、好物なのに」

「そうだったの! まだまだ知らないことがいっぱいだわ。これからひとつずつ教えてね。私、アロイスのことをなんにも知らなかったんだ、ってまた今日気づかされたわ」

「俺もジーナの事をもっと知りたいし、ずっと一緒にいたい……だから君に結婚を申し込むよ。どうかこれを受け取って欲しい」

 まさに『ホリスタ』のゲームのような展開だ。まごうことなき王子であるアロイスが、私に跪いて指輪を差し出す。その指輪についている赤い石の大きい事と言ったら!

「ありがとう、アロイス。私、お受けします」

 真剣な表情のアロイスは、途端に破顔して私の手を取った。その、お母様の形見だという大粒のルビーの指輪を私の薬指にはめたアロイスは「愛してる」という囁きと情熱的なキスを私にくれた。

 見つめ合う私たちの後ろで草を踏みしめる足音がした。

「ああ、居ましたね。お邪魔するようで申し訳ありませんが、皆さんが探しておられます。講堂へお戻りください」

 ハーリン先生だ。アロイスは「邪魔するよう、じゃなくて邪魔してるよ」とぶつくさ言いながら講堂へ向かった。

「まぁいい、目的は果たしたから。戦闘再開だな、行こうジーナ」

 先生は申し訳なさそうな顔で私に笑いかけた。その笑みを見て、今までの先生の言動を思い返す。騒動が去り、冷静な今だから気づく事が沢山あった。

「あっ、まさか、もしかして……」

 講堂に戻る道すがら、アロイスはハーリン先生について簡単に説明してくれた。

「騙すつもりはありませんでしたが、殿下をお守りする事が最優先でしたので」

「ええ~じゃあ、ロザリオを盗んだならず者達を追跡した時も、先生は知ってたんですか?」

「ええ、そうです。しかし殿下には申し訳ないですが『アーロンちゃん』には笑いまし……ゴホン」

「ヴィンセント、覚えておけよ」

「もう言いません、言いませんって」

 二人のやりとりを見ていると、只の護衛兼従者というよりもっと親密な関係だと分かる。あのひとけの無い離宮での生活も、先生がいたからやってこられたんだと、容易に想像がついた。

「何笑ってるんだ、ジーナ?」

「ううん、お二人の関係が素敵だなって思ったの!」




 新年が明けてからも色々な事が起きた。

 まずはクレアの事件が公になったこと。
 すべての事柄についてではないが、ラスブルグのせいで家族を失ったクレアがラスブルグ王家に復讐の為に近づいたこと。それを第一王子であるアロイスがクレアの目的に気づき、阻止したことが公表された。ただし、神聖力を悪用していた点については伏せられ、クレアも追跡を逃れようとした時に事故死したことになっている。

 これについてはシュタイアータに戻ったクリストファーが、皇国とラスブルグの間を取り持ち、詳細を取り決めた内容だった。

 ラスブルグはクレアが単独でした行動だと発表し、シュタイアータを非難することはなかった。シュタイアータもアテート公爵が密かにクレアに力を貸していた事実を表に出さない代わりに、ラスブルグが起こした戦争について蒸し返すこともしなかった。

 そして新年の祝賀の後すぐにアロイスが王太子に指名された。その一週間後の今日、クリコット家の閑散とした客間のソファにアロイスは座っている。

 私はというと、書斎で書類を前に頭を抱えるお父様と、それを見てイラついているお母様の前に立っていた。

「この金額だと先月の収益とほぼ変わらないではありませんか。領地の管理人を替えた方がいいわ、あなた」

「そうは言ってもなあ……。それでジーナは何の用なんだ、こっちはお前の婚約破棄のせいで窮地に陥っているというのに!」

「その婚約の事です。ある方が婚約を申し込みに直接来られているんです」

「あら! じゃあ例の大公家のご子息かしら?」

「いえ、アカデミーで同じクラスだった方ですわ」

 期待に目を輝かせていたお母様は一転して落胆、舌打ちした。

「本当に使えない子ね。お前のクラスにはジェリコ殿下以外、平凡な貴族の子息しかいなかったでしょう? どうして大公家のご子息をしっかり捕まえないのよ」

「そのクラスメイトは断ればいいんじゃないか。大公家のほうはまだ望みがあるんだろう? ルドルフを可愛がってくれているんだし」

 アロイスだってルドルフを気に入ってくれるわ、そう思いながらきっぱりと言った。

「まずは会って下さい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。 歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。 気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。 私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。 しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。 いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね! 悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。 魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。 やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。 そして、鍵とはいったいーー。 ※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む) ★小説家になろうでも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...