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13話 皇子の限界
しおりを挟むダイエットを始めて半年を過ぎるとなかなか大きな変化が出にくくなる。加えて食事制限のストレスも溜まってくるのがこの時期だ。
初めの二、三カ月は順調に体重が落ち、皇子もズボンがゆるくなったと喜んでいた。だが最近はそういった変化が微小で、食事にもよく不満を漏らすようになってきていた。
「まずい! こんな病人が食べるような物はもう飽きた。いくらこんな事を続けても無駄なんだ、痩せるのはもうやめだ!」
ある日の夕方。
皇子は夕食の皿をぐいっと前に押しやった。皿は別の皿と衝突してテーブルの上でガチャンと大きな音をたてる。給仕をしていたメイドの手がビクッと反応し、助けを求めるように私の顔を見た。
【ブ――――ゥゥ】
食器の音と共にどこからか多くのブーイングが聞こえてきた。
何これ? まさかメイド達がブーイングなんてする訳ないし……まさか視聴者の声なの?
びっくりして周りを見渡したが、誰も反応していない。ブーイングは私にしか聞こえてないようだ。と、とにかく皇子をなだめなくちゃ。
「皇子様、この時期は成果も微小に感じられお辛いと存じますが、ここが堪忍所です。どうか投げやりにならず……」
私は必死に皇子を説得しようと言葉を探したが皇子はそれを遮った。
「君は痩せているからそんな事が言えるのだ。ダイエットで苦しむ僕の気持ちが分かるものか!」
その言葉を皇子は私から顔を背けて吐き捨てた。
「陛下とミーガン妃には僕から話す。いくら続けても無駄だと分かって頂こう。もう明日から来なくてよい」
「そんな、無駄だなんて……では少しだけお食事に皇子様のお好きな物を取り入れましょう。モチベーションを上げればまた……」
「もういいと言っているだろう! 痩せる事に何の意味がある? 僕はこのままでいいんだ!」
皇子は私に最後まで言わせず、勢いよく椅子から立ち上がって部屋から出て行ってしまった。ひっくり返った椅子が、静まり返った食堂に大きな音を響かせる。
【あ~あ】と、また私にだけ声が聞こえる。んもう、外野がうるさい!
仕方なく私も部屋を出た。今は私が何を言っても逆効果だろう。今日のところは家に帰るしかない。
だが廊下をとぼとぼと歩いていると『せっかくここまで頑張ったのに!』という、なんともやり切れない思いが湧いて来た。
私のダイエット計画に無理があった? 私はもっと皇子の気持ちに寄り添ってあげるべきだった?
自分は1年以上をかけてここまで痩せられたけれど、皇子と私は違う。私は自分から痩せようと思い立って行動したが、皇子はダイエットさせられている。その違いは大きく、ストレスのかかり方も私とは比べ物にならなかったのではないか。それを私は考慮できていた?
自分ができた事は皇子も同じようにできると、安易に考えていたのではないだろうか?
皇子は来月で十九歳になる。謀反が起こるまで後二年しかない。
ドラマでは、謀反を起こす皇帝の弟に手を貸す貴族は少なくなかった。
ジェーミー皇子は頼りなく、皇帝としての資質も薄いと周囲は反対したが、それでも皇帝はジェイミーを正式な後継者とし、のちに皇太子に指名した。それに反発を覚えた貴族たちを取り込んで謀反は成功したのだ。
ジェイミー皇子が立派な皇太子に成長すれば、反発を覚える貴族を減らせると考えていたのに……。
どうしたらいい? ダイエットは諦めて臣下や貴族たちから認められるような方向にシフトする? でもそれは一介の男爵令嬢の自分の手には余る計画だろう。
それにダイエットすら続かない皇子というレッテルを、そう簡単に剥がすことができるだろうか?
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