初恋~ちびっこ公爵令嬢エミリアの場合

山口三

文字の大きさ
28 / 45

28エミリア、再会する

しおりを挟む

 私は、私がアカデミーを卒業した後のイライザの動向を知らなかったし、あまり気にしてもいなかった。アカデミーを卒業した後は、大量に舞い込む舞踏会やお茶会などの招待はほとんど断って社交界には顔を出さなかったせいもある。

 だから今日この日までイライザに会う事はなかったのだ。8年後の今日、騎士団の入団式の場で。


 私は3年ほど前から毎年騎士団の入団式には顔を出すようにしている。今年もお父様とお母様の隣に座って、入団式のセレモニーに参加していた。

「今年はロスラミン団長のご子息が入団されるそうよ。エミリアは仲がいいんでしょう?」
「アカデミーでは‥そうでした。卒業してからは会ってませんわ」

「まあ、8年も会ってなかったの? 薄情な先輩だこと」

 親子の情すら薄いお母様に言われたくないが、私は笑って流した。

「子息の名前はルーカスだったか‥。それと今年は我が騎士団始まって以来初の女性の騎士が誕生するぞ」

 お父様のこの発言を聞いた時も、私はイライザの事を思い浮かべすらしなかった。

 今年の新たな入団員は5名。優秀な成績順に名前が呼ばれ、ルーカスは1番だった。その時のロスラミン団長の誇らしげな表情と言ったら!

 私の座っている席からは遠くて顔は良く見えなかったが、背がとても伸びたようでお父様のロスラミン団長と同じ位になっている。

 そして初の女性騎士は4番目に名前が呼ばれた。「イライザ・コークス、前へ出なさい」

 えっ、イライザ・コークスですって?! まさか本当にイライザは公爵家の騎士団に入団したの?


 任命式が終わると副団長のアーノルドが新入りを連れだって私達に挨拶をしに来た。

「公爵様、こちらが今年新しく入団した5名です」

 それぞれが公爵家への忠誠を誓い、きびきびと挨拶した。

 次はイライザは自分の番だ。赤毛に縦ロールの小柄な少女はすっかり大人になり、髪も短めのボブスタイルになっていた。言われなければ彼女だと気づかなかっただろう。イライザも当然ながら公爵家への忠誠を誓い、その後私の顔を真っすぐに見て言った。

「エミリア様、お久しぶりでございます。アカデミーでのお約束通り、私は騎士になりました! 1日も早くエミリア様専属の騎士になれるよう、精進致します!」

 挨拶を終えたイライザが1歩下がると、黒髪の青年が前に出た。

 黒い髪は太陽の光に当たる部分が青く輝いている。穏やかな表情に合う淡い緑の瞳は優しい光を湛えていた。
 ルーカスもイライザと同じく立派な青年に成長していた。遠くから見た様に父親と同じ位まで背が伸び、バランスよく付いた筋肉が精悍さをより高めていた。

 私は8年と言う歳月がどれほどの長さかを思い知ったような気がした。

 でもルーカスは型通りの挨拶をしただけで私には何も言わなかった。アーノルドが新人を連れて下がった後、両親には後輩たちと話をしてくると断って、私はすぐにルーカス達を追いかけた。普段の自分からは想像できない行動だった。なぜだろう、ルーカスの挨拶の中で私の事は言及されなかったから? 当然イライザと同じ様に、私との再会を喜んでくれるはずだと思い込んでいたから?

「イライザ、ルーカス!」

 私が声を掛けるとイライザは喜んで私の両手を握った。

「エミリア様、お会いしたかったですわ! でも騎士になるまでは、とずっと我慢していたんですの!」
「そうだったのね・・ルーカスもまるで別人の様に、大人になったわね」

「エミリア様はお変わりありませんでしたか? 8年もご無沙汰してしまい申し訳ありませんでした」

 やっぱりルーカスの態度はよそよそしい。私の思い過ごしだろうか、8年の歳月を経て、ルーカスがただ単に大人になっただけかもしれないのに。

「それは私も同じだから‥えっと、これから二人は騎士団の宿舎で生活するのかしら?」

 新入団員は1年間は宿舎での暮らしが義務付けられている。

「僕はそうです」
「私は準備が整うまで家から通う事になってます」

 イライザは初の女性騎士だった為、宿舎に女性用の設備が整っていなかったのだ。そんな雑談を交わしているとカーティス副団長が私達を見つけ、会話に混じった。

「ルーカス君がエミリア様の後輩という事は知っていたけど、まさかコークスまでそうだったとは!」
「カーティス副団長、どうぞ僕の事もルーカスと呼び捨てて下さい。僕はあなたの部下になったのですから」

「ははは、そうだね。私の中ではまだお父上と共に騎士団を見学に来られた小さなルーカスが頭から離れなくてね」

 快活に笑いながらもカーティス副団長の視線は私に注がれている。

「エミリア様、お暑くないですか? そろそろ新人歓迎会の準備が整う頃でしょう。中で涼まれてはいかがでしょう?」

 ルーカスの形式ばった態度はカーティスにも同じだ。よそよそしいと感じたのは私の思い過ごしだったのかもしれない。

 二人にはまた歓迎会で会おうと告げて、私はカーティス副団長のエスコートに従って屋敷へ戻る。去り際に二人の会話が耳に入ってきた。

「ねえルーカス、まさかエミリア様はカーティス副団長と何かあるんじゃないでしょうね?!」
「何かって‥僕は知らないよ」

「だって二人の雰囲気は何ていうか‥それに副団長はずっとエミリア様を見つめていたわ。あれは主人に向ける視線じゃないわよ!」

「僕は知らないってば、イライザだってエミリア様が幸せなら文句はないだろう?」
「文句を言いたいんじゃないわ。ルーカスだって動揺した顔をしてるわよ!」

「僕はエミリア様がお幸せになることだけが望みだよ・・」




 それから少しして屋敷内で新人歓迎会が行われた。いつもは30分もしない内に早々と引き上げるのだが、今回はイライザとルーカスがいる。飲み物を片手に3人で談笑していると、若い執事が私に来客を告げた。

「銀行の副支配人様がお出ででございます。お名前はアレクサンドル・モーガン様と承っております」

「ええっ、モーガンですって」

 私とルーカス、イライザの3人はお互い顔を見合わせた!


 応接間の扉を開くとモーガンがソファから立ち上がった。10年近い歳月が流れている割にモーガンはあまり外見に大きな変化はなかった。

「久しぶりだね、僕の事覚えてる?」

 今日は一体何度『久しぶり』という日だろう。

「もちろんよ、お久しぶりね。モーガン卿」
「できればまたアレクと呼んで欲しいけど・・今日はビジネスで来たんだ」

 アレクの卒業後の動向はすべてお母様からの情報で知っていた。お母様はアレクが卒業した後も私とまだ付き合いがあると、しばらく誤解したままでいたのだ。

 優秀なアレクは国内一の大銀行に入り、最年少で今の地位についた。確か去年の暮れに婚約を発表したと記憶している。

「今日は騎士団の入団式だったんだね、忙しい所を申し訳ない」
「いえ、私は特に何かをする訳ではないから。それよりルーカスとイライザまで騎士団に入団したのよ」

 アレクもイライザの入団には驚いていた。少しばかりの昔話の後、私の書斎に場所を移して私達はビジネスの話に移った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

処理中です...