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第十七話︰朝っぱらの来訪者
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次の日は朝から騒がしかった。
寝ぼけ眼を擦っていると、まるで道場破りのように、鈴の間にやってきた人物が二人。
「巫女様!入室の許可を」
「……」
誰だ。こんな朝っぱらに。
まだ冴えていない頭で、襖の向こうから聞こえてくる声に眉を寄せる。男性のものだったが、どうも聞き覚えがあったので、仕方なく「どうぞ」と返して許可をした。
「失礼……あっ」
彼らは襖を開け放ってから、寝間着姿で布団に入ったままの紬を見て、しまったという顔をする。
てっきり、朝支度は済ませていると考えていたのだろう。こちらは昨日の出来事で、疲れきった体をぐっすりと休める必要があったので、今日くらいは早起きをせずとも許されたい所。
「いえ、いいので。どうぞ。」
「……失礼します」
二人はバツが悪そうに入ってくる。
どちらも知らない顔だ。ただ、一体誰なのかはすぐに分かった。
「沖さんと連さん……で、間違いないですよね?」
「はい。こちらが沖で」
「自分が連です」
(道理で瓜二つなわけだわ……)
朝日村での二人は面を被っていたので、顔を見るのは初めてである。その顔つきは明らかに若く、少年とも青年ともとれる。
髪色も目の色も服装も同じ──遠目からでは間違いなく判別がつかないだろう。この距離で見ればかろうじて、つり上がった目が沖、たれ下がった目が連だと分かる。
「村ではどうしてお面を?」
「自分を阻害対象とする“認識阻害”を使う際は、面を被る必要があるんです」
「なるほど。……ええと、お二人とも、どんな要件でこちらに?」
沖も連も、先程からずいぶんと大人しい。
こちらを睨みもせず、敬語を使って、初めて会った時の態度とはまるで違う。逆に調子がくるってしまって、紬は優しく二人に聞いた。
「長居するつもりはありません。……礼と、謝罪がしたくて」
彼らは顔を見合せて、その場に座す。
それから、深々と頭を下げた。
「巫女様。先日の朝日村での大変無礼な態度、深くお詫び申し上げます。」
「!」
「貴女が、奥様を治したのだと聞きました。──奥様の命を救って下さり、ありがとうございます。」
二人はゆっくりと頭を上げて、眉を下げた。
「我々は巫女である貴女を、人間である貴女を、誤解していました。どうかお許し下さい。」
「……」
紬は唖然として彼らを見る。それから、先日の時紀との会話を思い出して、小さく息をついた。
(恨みの教育を受けているあやかし……ね。)
「許すも何も、あれくらいで怒ってはいませんよ。」
「……!」
「これから仲良くしていただけたら、それでいいんです。よろしくお願いしますね」
「……ありがとうございます。」
「よろしくお願いします。」
もう一度頭を下げる二人。紬は穏やかな気持ちになって、目を細めた。
……ところで先程、近くの襖が開いた音が聞こえた気がする。
それから、足音が近づいてきて──
「沖。連。」
「!」
きゅっと身が引き締まる、よくよく聞き覚えのある声で呼ばれて、二人はギクッと肩をはね上げた。
そろりそろりと振り返る。開いたままの入口に立っているのは、にこやかに笑みを浮かべた上司である。
「す、彗月様……」
「妻の部屋で何をしているのかな。」
「いえっあの、やましいことなど決して!」
実際潔白なのだから堂々とすれば良いものを、慌てふためくものでかえって不審である。
彗月とて邪推しているわけではないので、「分かっているよ」とさらりと返す。
「ただ、寝て起きたばかりの女性の元に押しかけるのは、感心しないな。」
「申し訳ございません……」
「間が悪く……」
面をつけていない分、彼らがしゅんと縮こまる様は分かりやすい。主人に怒られた子犬のようだわと思いながら、紬は彗月に挨拶をする。
「おはようございます、彗月さん。すみません、寝間着のままで」
「いえいえ。昨夜はよく眠れましたか?」
「おかげさまでぐっすりと。……目覚ましもありまして、起きるのには困りませんでした。」
ついからかうと、沖と連が慌てふためくのが見えた。
「仲良くなったようでなにより。……さて、早速ですが朝支度を終えたら、私の元へ来てください。緋の間にて、焔様との会議があります。」
「!」
いよいよ退魔の結界の件や、祝言についての話をするのだろう。
紬は「わかりました」と頷き、いそいそと布団から出て立ち上がる。ゆっくりと寝ている紬に気を使って、春子は部屋に来なかったので、支度は自分で済ませてしまおうと思う。
「着替えますから、沖さんも連さんも部屋を出てください」
「は、はい。」
「彗月さんは……どうします?」
「いや、出ていきますよ。」
冗談交じりであえて聞いてみると、案の定彼は残ることなく、すみやかに自室に戻っていった。
寝ぼけ眼を擦っていると、まるで道場破りのように、鈴の間にやってきた人物が二人。
「巫女様!入室の許可を」
「……」
誰だ。こんな朝っぱらに。
まだ冴えていない頭で、襖の向こうから聞こえてくる声に眉を寄せる。男性のものだったが、どうも聞き覚えがあったので、仕方なく「どうぞ」と返して許可をした。
「失礼……あっ」
彼らは襖を開け放ってから、寝間着姿で布団に入ったままの紬を見て、しまったという顔をする。
てっきり、朝支度は済ませていると考えていたのだろう。こちらは昨日の出来事で、疲れきった体をぐっすりと休める必要があったので、今日くらいは早起きをせずとも許されたい所。
「いえ、いいので。どうぞ。」
「……失礼します」
二人はバツが悪そうに入ってくる。
どちらも知らない顔だ。ただ、一体誰なのかはすぐに分かった。
「沖さんと連さん……で、間違いないですよね?」
「はい。こちらが沖で」
「自分が連です」
(道理で瓜二つなわけだわ……)
朝日村での二人は面を被っていたので、顔を見るのは初めてである。その顔つきは明らかに若く、少年とも青年ともとれる。
髪色も目の色も服装も同じ──遠目からでは間違いなく判別がつかないだろう。この距離で見ればかろうじて、つり上がった目が沖、たれ下がった目が連だと分かる。
「村ではどうしてお面を?」
「自分を阻害対象とする“認識阻害”を使う際は、面を被る必要があるんです」
「なるほど。……ええと、お二人とも、どんな要件でこちらに?」
沖も連も、先程からずいぶんと大人しい。
こちらを睨みもせず、敬語を使って、初めて会った時の態度とはまるで違う。逆に調子がくるってしまって、紬は優しく二人に聞いた。
「長居するつもりはありません。……礼と、謝罪がしたくて」
彼らは顔を見合せて、その場に座す。
それから、深々と頭を下げた。
「巫女様。先日の朝日村での大変無礼な態度、深くお詫び申し上げます。」
「!」
「貴女が、奥様を治したのだと聞きました。──奥様の命を救って下さり、ありがとうございます。」
二人はゆっくりと頭を上げて、眉を下げた。
「我々は巫女である貴女を、人間である貴女を、誤解していました。どうかお許し下さい。」
「……」
紬は唖然として彼らを見る。それから、先日の時紀との会話を思い出して、小さく息をついた。
(恨みの教育を受けているあやかし……ね。)
「許すも何も、あれくらいで怒ってはいませんよ。」
「……!」
「これから仲良くしていただけたら、それでいいんです。よろしくお願いしますね」
「……ありがとうございます。」
「よろしくお願いします。」
もう一度頭を下げる二人。紬は穏やかな気持ちになって、目を細めた。
……ところで先程、近くの襖が開いた音が聞こえた気がする。
それから、足音が近づいてきて──
「沖。連。」
「!」
きゅっと身が引き締まる、よくよく聞き覚えのある声で呼ばれて、二人はギクッと肩をはね上げた。
そろりそろりと振り返る。開いたままの入口に立っているのは、にこやかに笑みを浮かべた上司である。
「す、彗月様……」
「妻の部屋で何をしているのかな。」
「いえっあの、やましいことなど決して!」
実際潔白なのだから堂々とすれば良いものを、慌てふためくものでかえって不審である。
彗月とて邪推しているわけではないので、「分かっているよ」とさらりと返す。
「ただ、寝て起きたばかりの女性の元に押しかけるのは、感心しないな。」
「申し訳ございません……」
「間が悪く……」
面をつけていない分、彼らがしゅんと縮こまる様は分かりやすい。主人に怒られた子犬のようだわと思いながら、紬は彗月に挨拶をする。
「おはようございます、彗月さん。すみません、寝間着のままで」
「いえいえ。昨夜はよく眠れましたか?」
「おかげさまでぐっすりと。……目覚ましもありまして、起きるのには困りませんでした。」
ついからかうと、沖と連が慌てふためくのが見えた。
「仲良くなったようでなにより。……さて、早速ですが朝支度を終えたら、私の元へ来てください。緋の間にて、焔様との会議があります。」
「!」
いよいよ退魔の結界の件や、祝言についての話をするのだろう。
紬は「わかりました」と頷き、いそいそと布団から出て立ち上がる。ゆっくりと寝ている紬に気を使って、春子は部屋に来なかったので、支度は自分で済ませてしまおうと思う。
「着替えますから、沖さんも連さんも部屋を出てください」
「は、はい。」
「彗月さんは……どうします?」
「いや、出ていきますよ。」
冗談交じりであえて聞いてみると、案の定彼は残ることなく、すみやかに自室に戻っていった。
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