文字サイズ
小
中
大
特大
11 / 57
10 愛しき日々 冬 3
「レーゼ! そこにいるな!? 動くなよ!」
近くの森からすらりとした少年が現れる。
森の入り口には広葉樹が多いが、木々の葉は既にほとんど落ちてしまっている。
初冬。
二人が出会ってから半月が過ぎていた。
「今そっちに行く」
彼は背中に若い雌鹿を抱えていた。その声に、藪の中で草の実を摘んでいた少女が駆け寄る。
「鹿を捕らえた」
矢が急所を射抜いているので、それほど苦しまずにすんだろう。肉はうまいはずだ。
「わぁ! これでこの冬は当分お肉に不自由しないわね! 重いでしょ、手伝う」
鹿は脚が長く、少年が担ぐにはいささか大きい。しかし、彼は苦もなく自分の体より大きな鹿を背負っていた。
九十六号──ナギは、毎日外に出て体を鍛えている。
この塔はすぐ後ろが山になっていて森も深く、ナギには格好の鍛錬の場となった。
命を落とす心配がなくなっても、鍛錬が身に染み付いてしまっているので、毎日彼は体を鍛える。
そのついでに、食肉となる動物を狩るなど、ナギにとってはなんでもないことだった。
「こんなもの、造作もない。血抜きはすませたし」
「また今日も、お肉が食べられるのね。私お肉大好き!」
「足りなくなったらまた捕まえてきてやる、レーゼ。鹿でも、うさぎでも」
最初は距離を置いて接していた少年も、自分の身を守る術がないレーゼに警戒心を解くのは早かった。
今では彼女は守るべき人間だと思いはじめている。
レーゼは、シグルだった九十六号を、人間のナギにしてくれたのだ。
「実を摘んでいたのか?」
レーゼの籠は、小さな赤い果実でいっぱいだった。
「うん。いい香りでしょう? この時期にしかならないし、少ないけど、とっても美味しいのよ」
レーゼは細い指先で積んだ実を、一つ口に放り込んだ。
寒くなってやっと実る、柔らかい草の実。
青白い顔色の中で、そこだけ赤い唇と白い歯にぐしゃりと潰され、飲み込まれる。噛んだ拍子に汁がナギの頬に飛んだ。彼はそれを指で拭って舐めとる。甘くてほんの少し苦い。初めてだが好きな味だ。
「どうぞ」
レーゼはもう一つ果実を摘んで少年に差し出した。
自分が先に食べたのは、安全だということを伝える意味があったのだろう。その指先は摘んでいた実の色に染まっている。
「……」
他人から直接食べ物を口に入れられるなど、ナギは今まで考えたこともない。その戸惑いをレーゼは勘違いしたようだった。
「熟しすぎたのは今食べる方がいいの。あとは、日持ちがしないからルビアにジャムにしてもらう」
「ああ」
ジャムが何か知らないナギは、レーゼに押し付けられた果実を噛み潰した。それは柔らかくてすぐに潰れる。果汁がどっと溢れて口腔を満たした。
「ふふふ……美味しいって顔してるね」
レーゼの言葉はいつも不可解だ。
ほとんど見えないはずのに、大抵のことはわかってしまう。しかしレーゼ自身にそれが説明できないことを、ナギは彼女に出会って数日で理解していた。
「ねぇ、ナギ」
「うん?」
「いつかここを出たら海を見に行こう。真っ青で光り輝く凪の海を」
「そうだな。俺が連れて行ってやる」
「ほんとう?」
レーゼは笑った。
それはナギが初めて見る、レーゼのおおらかな微笑みだった。
目が覆われている分、唇だけがいやに目立つ。それは指先と同じように赤く彩られていた。
どう言うわけか、それは少年を慌てさせ、少女から目を逸らさせた。
生まれも親も知らず、物心ついた時にはシグルの下級構成員として育った彼は、過酷な鍛錬で、同世代の子どもが次々に淘汰されていくのを無感動に見ていた。
生き残るためには感情を殺し、他人を出し抜き、大人に認められなければならないと思い知らされてきた。幸い彼には、ずば抜けた身体能力があった。
険しい山を駆け、狭隘な谷を降り、氷の張る湖を泳いだ。
飢えにも、毒にもある程度の耐性がついた。
なのにあの日、暖かさと柔らかさを感じて目覚め、目の前にある存在を見た時、彼の狭い世界は覆ったのだ。
ナギは空を見上げた。
冬の空色は薄く、おそらく海の青さとは程遠い。それでも、ナギはその青さを目に焼き付けた。
赤と青。
色彩がこんなにも美しいことをナギは初めて知る。
その冬は穏やかな冬だった。
もともとこの地は塔の背後の山脈、つまりナギが修行をしていた山が風よけとなり、雪は降っても吹雪くことが少ない。積もりはしても、ルビアとナギの力だけで退けることができた。
ナギは罠や弓を巧みに使い、鹿や、雪の中でも冬眠をしないウサギなどを捕らえてきたので、レーゼが記憶していた今までの冬よりも、ずっと豊かに過ごせるようになった。
ルビアは食べきれない肉を森で燻して燻製にする。冬場で肉は高く売れるので、ルビアは時々人里に持って行っては、塩や他の必需品と交換するのだ。近くの森からはいつも香ばしい煙が立ち上るようになった。
その日も二人は留守番をしている。
ルビアはナギに、レーゼには絶対に怪我をさせてはいけないと言い渡し、ナギはそれを守ると約束した。
昼間の多くの時間を二人で過ごす。
ただ、レーゼもナギも、世間で普通子どもがするようなことは、ほとんど何も知らない。遊びも歌も。
だから二人の会話は、今まで過ごしてきた中の話せる過去と、今の生活のことだけだった。
「レーゼ」
「なぁに?」
「俺……レーゼの目……というか、顔が見たい」
ナギは見えないものまで感じられるという、この目の前の小さな少女がどんな顔をしているか、とても知りたくなった。
いや、それだけじゃない。
俺はただレーゼの顔が見たいんだ。
「……もちろん嫌ならいいけど」
「……」
レーゼは少し考え込んでいるようだった。
「見てもナギは私を嫌いにならない?」
「なんで嫌いになるんだ」
「私は醜いから」
「俺だって醜い。肌は浅黒くて黄色っぽくて、髪も目も暗い色だ。ルビアは東の大陸の血だって言うけど」
「私が感じるナギは綺麗だけどなぁ……」
「俺が綺麗?」
初めて綺麗だと形容された少年は面食らうが、レーゼは見たままを言っているのではない。感じたことを伝えるだけだ。何か勘違いをしてるのだろう。
「いいよ。顔だけ見せてあげる。でも、頭は嫌よ。だって禿げ頭なんだもの」
「それでいい。眩しいだろうから、暖炉の前にものを置こう」
ナギは椅子に布をかぶせ、即席のつい立てを作った。レーゼはその間に、顔の上半分を覆っている包帯を取り去る。
「もういいよ」
レーゼの声を背中に聞いて、ナギはゆっくり振り返った。
「……」
「ね、濁って気持ちが悪いでしょう?」
以前ほんの少し見た通り、瞳は白っぽく濁っている。確かにこれでは、ものは見えないだろう。しかし、瞳自体はとても大きく、びっしりと白く長いまつ毛に囲まれていて形がいい。眉や鼻梁も整っていて、大理石でできた彫刻のようだった。
ただ──
額から左のこめかみにかけて、薄い紫の痣がある。まるで、どこかにぶつけたようなものだが、多分そうではない。
「どう? やっぱり汚い?」
「綺麗だ」
ナギは感じたままを言った。
そしてナギはレーゼの額の痣に触れた。指先がわずかにぴりりと痛む。
「ここ、痛くないか?」
「ああ、この痣のこと? 痛くはないよ。でも触らない方がいい。それも魔女の呪いだから。綺麗だなんて無理しなくていいよ」
「俺は綺麗だと思ったから言っただけだ。白くてとても整っている」
「でも、お爺さまやお父さまは醜いとおっしゃって、直系なのに縁起が悪いからって、城の外で暮らせって……」
「城? やっぱりレーゼは王族なのか? ゴールディフロウの?」
「え? う、うん、ずっと小さい頃だけど」
「レーゼ様」
現れたのは怖い顔をしたルビアだった。手には矢の材料となる細い竹を何本も持っている。外仕事のついでに取ってきたのだろう。
「今はそこまでにしておきなさい。早く目を覆って。あとで辛くなりますよ。どうしてお取りになったのです」
「俺が見たいと言ったんだ。レーゼのこと知りたくて」
「私もいいって言ったのよ。そんなに悪いことじゃないわ」
レーゼは悪びれずに言った。
「ナギはまだここに来たばかりです」
「でも、一緒に閉じ込められているわ。きっと役割があるのよ。ねぇ、ルビア。ルビア一人なら出られる結界なのに、どうしてナギは出ることができないのかしら?」
「さぁ。私にはなんとも。大昔に張られた結界ですからねぇ。あなたのご先祖は、結界にも意志のようなものを持たせたのかもしれませんよ? 村の者も猟師もこの塔のことは知らないですし。入れない」
「意志……じゃあナギは、きっと私が呼んだんだと思う」
レーゼは考え込みながら言った。
「どういうことですか?」
「私はね、ずっと誰かに会いたかったの。私と共にいてくれる誰かをずっと待ってた。きっとそれがナギなのよ」
「俺を待っていた?」
「ええ、きっとそう。私はこの頃、結界が破れるより先に死んじゃうかもしれないって思って悲しくなってた。けどナギが来てから可能性ができた。だからいつか、ナギがここから出られたら、私を助けられるかもしれない」
「レーゼ様。そう言うことは……」
「いいのよ。どうせもう、何を言ったって私を咎める人はいない。みんな死んでしまったもの」
「秘密なら俺は死んだって守る」
「そう。でももう秘密ではないのよ」
レーゼはナギに向き合った。
「ナギ、聞いて」
白く濁った見えないはずの瞳が、真っ直ぐに少年をとらえる。
「私はレーゼ。レーゼルーシェ・ビャクラン・ゴールディフロウ。ゴールディフロウの忘れられた王女にして、最後の王族です」
***
明日も更新します!
近くの森からすらりとした少年が現れる。
森の入り口には広葉樹が多いが、木々の葉は既にほとんど落ちてしまっている。
初冬。
二人が出会ってから半月が過ぎていた。
「今そっちに行く」
彼は背中に若い雌鹿を抱えていた。その声に、藪の中で草の実を摘んでいた少女が駆け寄る。
「鹿を捕らえた」
矢が急所を射抜いているので、それほど苦しまずにすんだろう。肉はうまいはずだ。
「わぁ! これでこの冬は当分お肉に不自由しないわね! 重いでしょ、手伝う」
鹿は脚が長く、少年が担ぐにはいささか大きい。しかし、彼は苦もなく自分の体より大きな鹿を背負っていた。
九十六号──ナギは、毎日外に出て体を鍛えている。
この塔はすぐ後ろが山になっていて森も深く、ナギには格好の鍛錬の場となった。
命を落とす心配がなくなっても、鍛錬が身に染み付いてしまっているので、毎日彼は体を鍛える。
そのついでに、食肉となる動物を狩るなど、ナギにとってはなんでもないことだった。
「こんなもの、造作もない。血抜きはすませたし」
「また今日も、お肉が食べられるのね。私お肉大好き!」
「足りなくなったらまた捕まえてきてやる、レーゼ。鹿でも、うさぎでも」
最初は距離を置いて接していた少年も、自分の身を守る術がないレーゼに警戒心を解くのは早かった。
今では彼女は守るべき人間だと思いはじめている。
レーゼは、シグルだった九十六号を、人間のナギにしてくれたのだ。
「実を摘んでいたのか?」
レーゼの籠は、小さな赤い果実でいっぱいだった。
「うん。いい香りでしょう? この時期にしかならないし、少ないけど、とっても美味しいのよ」
レーゼは細い指先で積んだ実を、一つ口に放り込んだ。
寒くなってやっと実る、柔らかい草の実。
青白い顔色の中で、そこだけ赤い唇と白い歯にぐしゃりと潰され、飲み込まれる。噛んだ拍子に汁がナギの頬に飛んだ。彼はそれを指で拭って舐めとる。甘くてほんの少し苦い。初めてだが好きな味だ。
「どうぞ」
レーゼはもう一つ果実を摘んで少年に差し出した。
自分が先に食べたのは、安全だということを伝える意味があったのだろう。その指先は摘んでいた実の色に染まっている。
「……」
他人から直接食べ物を口に入れられるなど、ナギは今まで考えたこともない。その戸惑いをレーゼは勘違いしたようだった。
「熟しすぎたのは今食べる方がいいの。あとは、日持ちがしないからルビアにジャムにしてもらう」
「ああ」
ジャムが何か知らないナギは、レーゼに押し付けられた果実を噛み潰した。それは柔らかくてすぐに潰れる。果汁がどっと溢れて口腔を満たした。
「ふふふ……美味しいって顔してるね」
レーゼの言葉はいつも不可解だ。
ほとんど見えないはずのに、大抵のことはわかってしまう。しかしレーゼ自身にそれが説明できないことを、ナギは彼女に出会って数日で理解していた。
「ねぇ、ナギ」
「うん?」
「いつかここを出たら海を見に行こう。真っ青で光り輝く凪の海を」
「そうだな。俺が連れて行ってやる」
「ほんとう?」
レーゼは笑った。
それはナギが初めて見る、レーゼのおおらかな微笑みだった。
目が覆われている分、唇だけがいやに目立つ。それは指先と同じように赤く彩られていた。
どう言うわけか、それは少年を慌てさせ、少女から目を逸らさせた。
生まれも親も知らず、物心ついた時にはシグルの下級構成員として育った彼は、過酷な鍛錬で、同世代の子どもが次々に淘汰されていくのを無感動に見ていた。
生き残るためには感情を殺し、他人を出し抜き、大人に認められなければならないと思い知らされてきた。幸い彼には、ずば抜けた身体能力があった。
険しい山を駆け、狭隘な谷を降り、氷の張る湖を泳いだ。
飢えにも、毒にもある程度の耐性がついた。
なのにあの日、暖かさと柔らかさを感じて目覚め、目の前にある存在を見た時、彼の狭い世界は覆ったのだ。
ナギは空を見上げた。
冬の空色は薄く、おそらく海の青さとは程遠い。それでも、ナギはその青さを目に焼き付けた。
赤と青。
色彩がこんなにも美しいことをナギは初めて知る。
その冬は穏やかな冬だった。
もともとこの地は塔の背後の山脈、つまりナギが修行をしていた山が風よけとなり、雪は降っても吹雪くことが少ない。積もりはしても、ルビアとナギの力だけで退けることができた。
ナギは罠や弓を巧みに使い、鹿や、雪の中でも冬眠をしないウサギなどを捕らえてきたので、レーゼが記憶していた今までの冬よりも、ずっと豊かに過ごせるようになった。
ルビアは食べきれない肉を森で燻して燻製にする。冬場で肉は高く売れるので、ルビアは時々人里に持って行っては、塩や他の必需品と交換するのだ。近くの森からはいつも香ばしい煙が立ち上るようになった。
その日も二人は留守番をしている。
ルビアはナギに、レーゼには絶対に怪我をさせてはいけないと言い渡し、ナギはそれを守ると約束した。
昼間の多くの時間を二人で過ごす。
ただ、レーゼもナギも、世間で普通子どもがするようなことは、ほとんど何も知らない。遊びも歌も。
だから二人の会話は、今まで過ごしてきた中の話せる過去と、今の生活のことだけだった。
「レーゼ」
「なぁに?」
「俺……レーゼの目……というか、顔が見たい」
ナギは見えないものまで感じられるという、この目の前の小さな少女がどんな顔をしているか、とても知りたくなった。
いや、それだけじゃない。
俺はただレーゼの顔が見たいんだ。
「……もちろん嫌ならいいけど」
「……」
レーゼは少し考え込んでいるようだった。
「見てもナギは私を嫌いにならない?」
「なんで嫌いになるんだ」
「私は醜いから」
「俺だって醜い。肌は浅黒くて黄色っぽくて、髪も目も暗い色だ。ルビアは東の大陸の血だって言うけど」
「私が感じるナギは綺麗だけどなぁ……」
「俺が綺麗?」
初めて綺麗だと形容された少年は面食らうが、レーゼは見たままを言っているのではない。感じたことを伝えるだけだ。何か勘違いをしてるのだろう。
「いいよ。顔だけ見せてあげる。でも、頭は嫌よ。だって禿げ頭なんだもの」
「それでいい。眩しいだろうから、暖炉の前にものを置こう」
ナギは椅子に布をかぶせ、即席のつい立てを作った。レーゼはその間に、顔の上半分を覆っている包帯を取り去る。
「もういいよ」
レーゼの声を背中に聞いて、ナギはゆっくり振り返った。
「……」
「ね、濁って気持ちが悪いでしょう?」
以前ほんの少し見た通り、瞳は白っぽく濁っている。確かにこれでは、ものは見えないだろう。しかし、瞳自体はとても大きく、びっしりと白く長いまつ毛に囲まれていて形がいい。眉や鼻梁も整っていて、大理石でできた彫刻のようだった。
ただ──
額から左のこめかみにかけて、薄い紫の痣がある。まるで、どこかにぶつけたようなものだが、多分そうではない。
「どう? やっぱり汚い?」
「綺麗だ」
ナギは感じたままを言った。
そしてナギはレーゼの額の痣に触れた。指先がわずかにぴりりと痛む。
「ここ、痛くないか?」
「ああ、この痣のこと? 痛くはないよ。でも触らない方がいい。それも魔女の呪いだから。綺麗だなんて無理しなくていいよ」
「俺は綺麗だと思ったから言っただけだ。白くてとても整っている」
「でも、お爺さまやお父さまは醜いとおっしゃって、直系なのに縁起が悪いからって、城の外で暮らせって……」
「城? やっぱりレーゼは王族なのか? ゴールディフロウの?」
「え? う、うん、ずっと小さい頃だけど」
「レーゼ様」
現れたのは怖い顔をしたルビアだった。手には矢の材料となる細い竹を何本も持っている。外仕事のついでに取ってきたのだろう。
「今はそこまでにしておきなさい。早く目を覆って。あとで辛くなりますよ。どうしてお取りになったのです」
「俺が見たいと言ったんだ。レーゼのこと知りたくて」
「私もいいって言ったのよ。そんなに悪いことじゃないわ」
レーゼは悪びれずに言った。
「ナギはまだここに来たばかりです」
「でも、一緒に閉じ込められているわ。きっと役割があるのよ。ねぇ、ルビア。ルビア一人なら出られる結界なのに、どうしてナギは出ることができないのかしら?」
「さぁ。私にはなんとも。大昔に張られた結界ですからねぇ。あなたのご先祖は、結界にも意志のようなものを持たせたのかもしれませんよ? 村の者も猟師もこの塔のことは知らないですし。入れない」
「意志……じゃあナギは、きっと私が呼んだんだと思う」
レーゼは考え込みながら言った。
「どういうことですか?」
「私はね、ずっと誰かに会いたかったの。私と共にいてくれる誰かをずっと待ってた。きっとそれがナギなのよ」
「俺を待っていた?」
「ええ、きっとそう。私はこの頃、結界が破れるより先に死んじゃうかもしれないって思って悲しくなってた。けどナギが来てから可能性ができた。だからいつか、ナギがここから出られたら、私を助けられるかもしれない」
「レーゼ様。そう言うことは……」
「いいのよ。どうせもう、何を言ったって私を咎める人はいない。みんな死んでしまったもの」
「秘密なら俺は死んだって守る」
「そう。でももう秘密ではないのよ」
レーゼはナギに向き合った。
「ナギ、聞いて」
白く濁った見えないはずの瞳が、真っ直ぐに少年をとらえる。
「私はレーゼ。レーゼルーシェ・ビャクラン・ゴールディフロウ。ゴールディフロウの忘れられた王女にして、最後の王族です」
***
明日も更新します!
感想 20
あなたにおすすめの小説
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
竜の卵を押し付けられて追放されましたが、孵ったら神竜でした
公爵令嬢エルヴィラは、夜会の場でルトガー王子から身に覚えのない罪で婚約破棄を言い渡される。おまけに押し付けられたのは、五十年間孵らない「ハズレの卵」。卵の管理役という名目で、北の辺境ノルドへ追放されてしまう。
けれど、殻ごしに触れた卵は、かすかにあたたかかった。――ぬくもりは、嘘をつかない。
エルヴィラは雪の旅路で毎晩卵を抱いて眠り、子守歌を歌い続ける。行き倒れかけたところを救ってくれたのは、辺境の竜医カスパル。「卵は、抱いてくれた腕を覚えていますから」――うわさよりも目の前の卵を信じてくれる人のもとで、卵はついに孵る。生まれたのは、真っ白なふわふわの子竜・ハク。じつは千年にいちどの神竜だった。
神竜を「石ころ」と呼んで捨てた王都からは、竜が次々と去り、雨が消え……。悪役たちは自分の嘘の答え合わせと向き合うことに。これは、疎まれていた「あたためずにいられない性分」が、正しく愛される場所で花開くまでの物語。もふもふ多め、後味すっきり、愛はブレません。
白い結婚だと言って妻を置いて逃げたら、知らない間に子供が生まれて消えていた
学生時代から想い続けていたヴィクトリアを忘れられないまま、ヒルダと結婚したハント。新婚初夜、彼は妻に「愛しているのは別の女性だ」と告げ、そのまま隣国へ赴任した。
恋愛小説のように、妻が待ち続けてくれるなら、いつか自分も愛せるようになると思っていたからだ。
―だが一年後。
彼がようやく開いた妻からの手紙には、
「その子はもういません」
とだけ書かれていた。
これは恋愛小説を信じすぎた伯爵が、愛を知るまでの物語。
## 女主人公が夫以外の相手とガチの愛人関係になります。嫌悪感のある方はご注意ください
続編:https://www.alphapolis.co.jp/novel/633480820/482067940
「お前を愛することはない」と言われたので、「はいはい、かしこまりー」と答えたら、勝手に伯爵様が曇り始めました
「お前を愛することはない」
「はいはい、かしこまりー」
納得できない結婚をしたリオとオリバー。
ともに暮らし、お互いを知っていくうちに、オリバーは少しずつリオに惹かれていく。
しかし、リオはオリバーの「愛することはない」という言葉を律儀に守り続けていて——。
※9/10に加筆しました。
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
※生成AIを構成・展開の壁打ち、設定整理、誤字脱字・表記ゆれ確認、文章推敲補助に利用。本文は基本的に自分で執筆し、提案された展開や短い表現を一部採用する場合があります。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
【完結】番である私の旦那様
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
転生した本好き幼女は、冷徹宰相パパのために暗躍します!~どんなピンチも本の世界に入れる『ひみちゅのチート』で解決でしゅ~
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
※最終話まで予約投稿済
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。