『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~

スカッと文庫

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第4話:崩壊の序曲

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ゼノス帝国の朝は、柔らかな絹の肌触りと、芳醇な紅茶の香りで始まった。
昨日まで土に汚れ、石を投げられていた私に用意されたのは、王国の王妃すら手が届かないような最高級の天蓋付きベッドと、十数名もの侍女たちだった。

「エルナ様、こちらのドレスはいかがでしょうか? 陛下の命により、帝国最高の針子が徹夜で仕立てたものでございます」

差し出されたのは、私の瞳と同じ色をした、薄紫色の最高級シルクのドレス。散りばめられた魔石は、歩くたびに夜空の星のように瞬く。
鏡の中に映る私は、もはや「偽聖女」と蔑まれていた哀れな娘ではなかった。シルの魔力とゼクスの加護を受け、その肌は真珠のように輝き、瞳には強い意志が宿っている。

「……信じられない。私、本当に生きているのね」
「生きているだけではありません。貴女は今日、この帝国の『象徴』となるのです」

部屋の隅で腕を組んでいたシルが、満足げに目を細めた。
彼は人型のまま、私の護衛として片時も側を離れない。彼の存在そのものが、私の正当性を証明する何よりの証左となっていた。

一方その頃。
私を捨てた王国――サンクチュアリ公国では、建国以来最大の危機が訪れていた。

「……どういうことだ! なぜ結界が消えかかっている!」

王宮の会議室。カイル王子の怒声が響き渡る。
窓の外を見れば、空を覆っていたはずの聖なる光の膜が、ボロボロに剥がれ落ちていた。結界の綻びから、森の魔物たちが王都のすぐ側まで迫っている。

「ミレーヌ! お前の魔力値は『五万』なのだろう!? すぐに結界を修復しろ!」
「そ、そんなこと言われても……。私、祈り方は習っていませんわ! エルナ様がやっていたように、ただ手をかざせばいいだけじゃないのですか!?」

カイルに促され、ミレーヌが真っ青な顔で結界の基石に手を触れる。
しかし、石は無情にも沈黙したままだった。当然だ。彼女の数値は、高価な魔導具で一時的に偽造された「偽物」なのだから。

「おかしいわ……。エルナがいた時は、こんなにすぐ壊れたりしなかったのに!」
「……まさか、あいつの『5』という数値こそが、偽りだったというのか?」

カイルの背筋に、初めて冷たい汗が流れた。
彼らが「ゴミ」として捨てた少女こそが、実はこの国を支える唯一の柱だったのではないか。その疑念が脳裏をよぎるが、今さら認めるわけにはいかない。

「探せ! エルナを死の森から連れ戻すのだ! 呪いを解かせれば、また結界は元に戻るはずだ!」

彼らはまだ、自分たちの過ちの重さを理解していなかった。
エルナがすでに隣国に渡り、最強の味方を得ていることなど、夢にも思っていないのだ。

夜になり、帝都では豪華な晩餐会が幕を開けた。
ゼクス皇帝の隣に座り、堂々と現れたエルナの姿に、列席した貴族たちは息を呑む。

「紹介しよう。我が帝国の新たな守護聖女、エルナだ」

ゼクスの宣言と共に、エルナがそっと指先を空に掲げる。
すると、帝国全土を包み込むほどの巨大で温かな結界が、一瞬にして展開された。王国のそれとは比較にならないほど強固で、美しい光。

「これが……本物の、力……」

列席者たちが感嘆の声を漏らし、跪く。
エルナは、遠い故郷の方角を見据えた。
そこには、自分を捨て、嘲笑った人々の絶望が待っている。

「カイル王子、ミレーヌ様……。あなたたちが選んだ結果を、どうぞ存分に味わってください」

エルナの口元に、冷たくも美しい笑みが浮かんだ。
彼女の「聖女としての慈悲」は、あの日、死の森に捨ててきたのだから。
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