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①
しおりを挟む至宝を探しに海の都を訪れた。今回の至宝のありかは王国建国前、海の民が女神の娘と共に暮らしていたという伝説の海底都市の中らしい。そして、海底都市に行く資格があるのは選ばれた戦士と巫女のみ――
というわけで、巫女として選ばれてしまった私は女神からの命令で男装しているのに今度は仲間の王子からの命令で女装して、現在、獣人騎士の海克服のための特訓に、協力しているのであります。
海の中で、後ろから抱きかかえられながら。
(どうしてこうなっちゃったかな……)
カナヅチの護衛騎士、アルにとって海に潜って海底都市に行くことは、とても勇気のいることだ。それはわかっているのだが――お友達のキングスライム、ハルちゃんの中に2人乗り込んで、密着しながら海底遊覧しているこの状況は非常によろしくない。
背中に心地よい体温を感じながら、途方に暮れて上を仰ぎ見る。海面から挿し込む太陽の光が、キラキラ輝いて、万華鏡みたいで幻想的だ。悠々と泳ぐ魚たち、彩り豊かなサンゴ礁が目の前に広がり、好きな人と2人きり――
皮肉にも、デートとしては最高のシチュエーションだ。
(アルと恋人にはなれないのにな――)
獣人のアルには、出会った瞬間にわかるらしい、かわいい運命の番いが近い未来現れる予定なので、私はお邪魔虫だ。胸の奥にくすぶる感情が、非常に煩わしい。背後から回された腕に重ねていた手をそっと降ろした、その時だ。
サンゴ礁の山を曲がった先に、大きな門と、同じような形をした石造りの家がいくつも立ち並んでいる光景と出くわした。
「え……これって……海底都市? 」
思わぬチャンスに息をのむ。回されたアルの腕に力が入ったのがわかった。
「入ります? 」
「あぁ、もちろん……」
ここが海底都市だとしたら、至宝を見つけられるかもしれない――
もしなかったとしても、何か有意義な情報を得られるかもしれない――
ゆっくり、慎重に、ハルちゃん号に乗った二人は進んでいく。はるか昔に海に沈んでしまったにも関わらず、今もなお形を残している家々は、なんの目的でここまで頑丈に造られていたのだろうか。壁や屋根といった骨格は石造りだが、扉や窓は木で出来ていたためかさすがに腐敗していて、時折その中から海の生き物たちが顔を出す。
「みんな同じ形……村だったのかな? 」
「門があったからどうだろうな。この感じだと、むしろ一戸建ての宿に近いのかもしれない。」
なるほど――たしかに、今泊まっているコテージタイプの宿と近い雰囲気がある。一通り周囲を遊覧してみたが、怪しいものは何もない。
「入ってみる――? 」
「あぁ、行くか。」
恐る恐る、家の中に入ってみる。石造りの大きな台が一つだけある殺風景な部屋だ。これがベッドだとしたら――テーブルと椅子を置いて窓やドアがちゃんとあれば――ホテルの一室に見えてくる。
「アルのいう通り、やっぱりホテルかも――ってうわぁぁぁ! 」
いきなり部屋が明るく光りだした。眩しさに思わず目をつぶる。アルに力強く抱き込まれて守られながら――落ち着くのを待つ。
「なんだ――これは。」
アルの困惑した声が聞こえた。恐る恐る目を開けて周囲を見渡すと――
ドアがある。
窓がある。
テーブルがある。
椅子がある。
ベッドには布団がある。
そして、水がなくなって空気がある。
普通のホテルの部屋にいつの間にか変わっていた。
「えぇぇぇぇ!! なんで、どうして!? 」
「わからんが……とりあえず出てみるか。」
ハルちゃんから手を出すと、陸と同じ、普通の空気だ。顔を出しても、息が出来る。まるでこの空間だけタイムスリップして、かつての地上にあったころの部屋に戻ったみたいだ。
「ミコト……一人で動くんじゃねぇぞ。」
アルの背中に庇われながら、部屋の中を探索する。
布団は異常なし。普通にフカフカで寝心地よさそうなベッドだ。テーブルも椅子も普通。ドアと窓は、海水が入ってきてもいいようにもう一度ハルちゃんの中に入って試してみたけど、ビクともしない。
そしてテーブルの上には、一枚のカードと砂時計。砂時計の砂は……全て上に溜まっているのに落ちてこない。
(何だか嫌な予感がする……)
ホテルの一室。開かないドアと窓。何かの指標となっているであろう砂時計。
そしてカードには――
「満足するまで出られません? 一体どういう意味だ? 」
(うわぁぁぁぁぁん!! 絶ックス部屋じゃん!!! )
首をかしげるアルになんて説明すればいいのだろう――
満足とは?? 誰の何の??
ホテルはホテルでも、ここは古代のラブホテルだったみたいです。
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