瑠壱は智を呼ぶ

蒼風

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chapter.3

17.詮索

「で?話を聞かせてくれるわよね?」

 おかしい。

 立場が逆ではないか。

 場所はカラオケハウス藤ヶ崎学園店一番客室。

 出演者は佐藤さとう智花ともか西園寺さいおんじ瑠壱るい。今はお互い対面に座っている。

 元はと言えば聞きたいことがあるのは瑠壱のほうだったはずである。

 勝手に合コンを主催したことにされた挙句、無理やりデートに誘われ、カラオケ店にまで連れ込まれた。それを許容したのはここまでついてくれば謎が解けるだろう、質問すれば大抵のことは答えてくれるだろうという期待があったからだ。

 ところが蓋を開けてみればどうだろうか。いつのまにか質問者は智花に代わり、瑠壱が質問しようとしても、聞き入れてもらえず、半分尋問の様な状態になってしまっているではないか。これでは話が違う。

 一人の女の子の連絡先を聞くために、もう一人の女の子とデートするという、字面だけ見れば割と最悪の行為をしているのも、疑問を解消するためであると言っていい。おかしい、こんなことは許されない。

 ただ、瑠壱は知っている。

 こうなってしまった時の智花は人の話を聞かない。

 全く誰に似たというのか。

「話っていっても、何から話せばいいんだ?」

 智花はばっさりと、

「昨日の放課後から、今日までにあったこと。あの店長とか、山科さんとかに関係しそうなこと全て」

 どうやら、片手間な説明では駄目なようだった。


               ◇


「ふーん…………」

 数十分後。

 ここ二日間に起きたことで、(山科が声優であるといった、他言無用な出来事以外は)全て説明をし、それを最後まで聞いた智花の反応がこれだった。ちなみに関心と言うよりは呆れの色が大きい。どうしてだ。ちゃんと説明したじゃないか。

 智花がぽつりと、

「…………なんでこんなヘタレを好きなんだろ」

 その言葉は瑠壱には届かなかった。

 いや、きっと届けるつもりなど無かったのだろう。

 だって二人は似た者同士なのだから。

 ヘタレはお互い様なのだ。

 智花は一つ咳ばらいをし、

「つまり、昨日のは合コンでも何でもなかったってわけ?」

「そうだ。まあ、確かにあれを二人で来ていたと捉えるのには無理があると思うが……疑うなら店長とか、沙智にも聞いてみてくれ。多分同じ答えが返ってくるから……と、言うか、確かめなかったのか?」

「何をよ」

「店長に、とか」

「するわけないでしょ、そんなこと。私と瑠壱の関係性も知らないのに、他の客の情報を渡すなんてことしないわよ、普通」

「そうかなぁ……」

 もちろん、普通はそうだろう。顧客の情報を、ぽんと見知らぬ他人に渡すなんてことは今のご時世まずありえない。

 ありえないのだが、あの店長ならば智花を「信頼出来る」と見定めたうえで、こっそりと教えてくれそうな気がしないでもないのだ。

 あくまで印象論でしかない。けれどあながち間違ってはいないような気もする。

 智花はため息をひとつつき、

「ま、いいわ。事実関係は分かったから。それじゃ、歌いましょ」

「いやいやいやいや」

「……何?」

 邪魔しないでもらえる?と言った感じの視線を向けてくる。ちなみに体は半分くらいカラオケ機器の方に向いていた。片手にはマイクを持っている。こいつは本当にこれで終わりにするつもりらしい。瑠壱は抗議する。

「約束が違うだろ」

「約束?」

「連絡先だ、連絡先。山科やましなの」

「あー」

 どうやら本当に忘れていたらしい。口をぽかんと開けている。釣っておいて餌をやらないタイプだなこいつ。

 智花は怪訝な視線を瑠壱に向け、

「え……ほんとに私に聞くわけ?他の女の連絡先を?相手があんたのことをどう思ってるかも分からないのに?え、気持ち悪」

「それ条件として提示した人間が言っていいフレーズじゃなくない?」

 智花はどっと疲れが抜けだすような深いため息をつき、手元のカラオケ機器とマイクをテーブルに置いて、懐からスマートフォンを取り出し、いくつか操作をし、

「はいこれ」

 ぐいと突き出して瑠壱に画面を見せてくる。そこには「山科沙智さち」という名前が書いてあった。

「え、なにこれ?」

 智花は更に機嫌を悪くし、

「なにって山科のRINEアカウント」

 RINEとはメッセージアプリの名前であり、つまるところ今智花が提示しているのはそのアカウントなのだ。

 いや、それくらいは流石の瑠壱でも分かる。いくら優姫との連絡が使用用途の八割を占めているとはいえ、使い方くらいはきちんと分かっているつもりだし、アカウント画面を見せられればきちんと理解は出来るつもりだ。

 つまり今問題なのは、

「いや、これをどうしろと?」

「どうって…………友達にでも追加したらいいじゃない。検索、出来るでしょ?」

「あー…………」

 ここに来て瑠壱は己の浅はかさを呪った。

 当たり前だが、どんな手段を使ったにしても、対面で会話をする機会を設けない限り、相手にとっては「全く見たことのない人間」からの連絡が行くことになるのだ。

 メールならば見知らぬアドレスから、RINEならば見知らぬアカウントからの友達登録申請。そして、電話ならば見覚えのない番号からの着信通知である。

 それでも答えてくれる人間は確かにいる。気軽にメールを開き、友達申請を承認し、電話に出て、話を聞いてくれる人間はいるはずである。

 が、残念なことに山科はそうではない。

 メールにしたって、知らないアドレスに関しては開いてすらくれない可能性があるし、友達登録だって、受けてもらえるかは分からない。電話などしようものなら、知らない番号というだけで取ってもらえないのではないか。

 一応、この中では一番RINEが“現実的”な連絡手段であることは間違いない。

 ただ、それでも驚かせてしまうのは事実である。

 瑠壱のアカウント名は本名になっているので、知らない人間として扱われる可能性は無いだろうが、教えてもいないアカウントを調べ上げて友達申請を飛ばそうものなら警戒レベルが一気に上がってもおかしくない。山科沙智というのはそういう人間だ。

 そんな苦悩など全く預かり知らない智花はさらりと、

「なに?友達申請も出来ないの?ほんとヘタレね」

 うるさい。

 お前みたいなのが相手なら苦労はしていない。

 多分。

 瑠壱は話題を変え、

「っていうかそれ、どうやって手に入れたんだ?友達なのか?」

 智花が、

「そんなわけないでしょ。私も人から聞いただけよ。なんだっけな……名前忘れちゃったけど、山科と友達だって子から」

 友達。

 沙智と。

 そんなはずはない。

 と、いうより、もし仮にそんなものが存在しているのだとすれば、沙智が学生相談室に足を運ぶことなど無かったはずである。

 高校三年生の一学期という、入学式より卒業式の方が近い時期になってなお、「友達が欲しい」という悩みを持ち込んできたのはまさに、彼女が藤ヶ崎学園高等部においてぼっちだったからではないか。

 相手がどう思っていたとしても沙智自身は友達としては認識していない可能性が高い。そんなことがあるのだろうか。友達に飢えている人間が、ちょっとしたつながりでも放棄することがあるだろうか。

 智花が更に続ける、

「なんかね、一応連絡先は知ってるんだけど、連絡するタイミングみたいなものが無いんだって。本当は、また一緒に遊びたいし、色々な話もしたいし、友達だと思ってるんだけどって。変な子よね。そんなに気になってるならとっとと連絡すればいいのに」

「それが出来るのはお前だけ…………ちょっとまて、また一緒に遊びたいってことは、前絵に山科と遊んだことがあるってことか?」

 智花が首肯し、

「そうみたいよ。なんかよくわかんないけど」

 思い至る。

 それはもしかして、一年生の時に沙智と一緒に遊んでいた「仲良しグループ」の一人ではないのだろうか。

 沙智は一緒に遊ぶ機会が少なくなってしまって、居心地が悪くなってしまい、結果として、相手に気を使うような形で自然消滅したと言っていた。

 が、それはあくまで沙智の側からの目線である。

 相手もそれをよしとしているとは限らない。

 人間関係と言うのはどうしてこうままならないものなのだろうか。

 沙智も、その友人を自称している子も、相手のことを嫌ったわけでは全くないのである。

 にも拘らず音信不通になった。

 そして、その結果沙智は今の今まで友達と呼べる相手がいない状態(だと思い込んで)で居続けた。

 もしかしたら、その子に沙智を仲介するのが一番スムーズなのかもしれない。

 言うまでもないことだが、沙智の側からすれば西園寺瑠壱という人間は藤ヶ崎の生徒であるということ以外何一つ接点のない人間だ。

 一応、先日『まちハレ』という繋がりも出来たが、それだって、別に沙智からすれば重要であるとは限らない。

 歌の練習だって、あくまで仕事の質を上げるためにやっているだけに過ぎないかもしれない。

 結局のところ、彼女が『まちハレ』に対してどんな感情を抱いているのかは確認できずじまいなのだ。

 もし、彼女がただの出演作として『まちハレ』という作品を捕らえていたら。

 もし、彼女にとって、旧友との交流が復活することの方が嬉しい事実であったら。

 瑠壱は軽く首を横に振り、そこから先をねじ切って捨てる。

 今は、その可能性は考えたくない。

 奇跡的ともいえる繋がりを、失うのは嫌だった。

 そんなわけで、

「まあいいわ。駄目もとかもしんないけど、友達申請してみるわ。画面見せてくれ」

 思いついた可能性を心の奥底にしまい込み、瑠壱は自分のスマートフォンを取り出して、アプリを立ち上げ、操作をして、智花のスマートフォンに表示されているアカウントを探し当てる。

「これか?」

 瑠壱は確認のために智花に画面を、

「とも、か?」

 確認した。

 いや、より正確には見ようとしたというべきかもしれない。

 なぜならその視線は、スマートフォンの画面を確認するより先に、もっと確認しておくべきものに気が付いてしまったのだから。

 智花が、これでもかと言わんばかりのじっとりとした視線をこちらにむけていたのだ。
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