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一歩目
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人には必ず分かれ道がある。
その分かれ道の選択によって今がある。
あなたには、
『あの時あっちの道を選択していれば‥』
と、思う事はありますか?
私には、いつも保育園の玄関で待っててくれる男の子がいた。
晴れてる日も雨の日も。
私よりも早く登園し、玄関で正座して待っている。
「亜衣ちゃん。おはよ。」
屈託のない笑顔でいつも迎えてくれる。
「啓太くん。おはよ。」
私がそういうと、私の脱いだ靴を下駄箱に入れ、私の手をひっぱり教室に連れて行ってくれる。
「今日も2人はらぶらぶね」
と、先生達が楽しそうに話している。
これが私達の日課だった。
みんなでお散歩に行く時も、いつも手を繋ぎ、一緒に遊び、また手を繋ぎ、帰ってくる。それが私には当たり前で、居心地が良かった。
でも、それは長く続く事はなく
卒園式を境に彼と会う事は無くなった。
お互い別々の小学校へ進み、私が引っ越す事になった為、彼との連絡手段は年に一回、年賀状のみとなった。
そんな彼のこともいつしか忘れていき、私は高校生になった。
必死で勉強し、大学受験を終え、明日はいよいよ卒業式。
「この制服を着るのも明日で最後か‥」
鏡の前に立ち、制服を合わせると、なんだか寂しくなってくる。
「亜衣ー!ご飯よー!」
下の階から、母親の声がした。
「今行くー!」
そう答え、さっきの寂しさが嘘のように、ベッドに制服を投げ捨て、リビングに降りていくと
「亜衣、あんたに手紙がきてたわよ」
お母さんに手渡された一枚のハガキ。
そこには、
【同窓会のお知らせ】
と書いてあった。
まだ同窓会を経験した事が無かった私にとって、それは真新しい文字だった。
同窓会?と思い、母に参加の許可を取ると
「保育園の同窓会かー、啓太くん来るといいね!」
「啓太?誰それ?」
「忘れちゃったの?あんなにいつも一緒にいたのに?」
「いつも?」
「あんたが来るのをいつも保育園の玄関で待っててくれたんだけど、忘れちゃった?」
それは、記憶が風化してしまった私にとっては驚きの事実だった。
確か保育園のアルバムがあったはずと母は言い、ゴソゴソと探し始めた。
数分後、大きなアルバムを取り出し、この子よ!と1人の男の子を指さす。
彼は、確かにどの写真にも私の隣に写り、満面の笑みでこちらを見ていた。
「これが‥啓太くん‥」
私の心臓が静かに波をうち、彼の笑顔から目が離せなかった。
同窓会当日。
私は、以前通っていた保育園の前に立っていた。同窓会の前に、色々思い出そうとしてみたが、やはり啓太くんの事は思い出せなかった。
母と保育園に通った道を歩いていくと、新しい家や建物ができ、道路も綺麗に塗装されている。時の流れを感じながら、一歩一歩前に進む。気がつくと、会場の前に立っていた。
私は震える声で入り口に立っている人に
「同窓会の集まりできたんですが‥」
言い慣れない言葉を口にし、恥ずかしいような、久しぶりに会う友達に緊張しているような、不思議な感覚でフワフワとしていた。すると
「‥亜衣ちゃん?亜衣ちゃんだよね?久しぶり!」
意外な反応に驚き顔をあげた。
「私のこと覚えてない?由美子!亜衣ちゃんの家にも遊びに行ったことあるよ!」
名前を言われ、私の脳は受験会場で活性化していた時の3倍くらいのスピードで記憶を遡る。
「‥あ、由美子ちゃん!!お父さんが大工の由美子ちゃん!!」
必死で記憶を遡ったのに、お父さんの情報しか思い出せなかった。
「そう!ってか、思い出したのがお父さんが大工って、相変わらず亜衣ちゃんは面白いね!」
相変わらずという言葉に少し戸惑いながら、私は会場に向かった。
会場について、扉をあける。
すると、大勢の人が目についた。
だが誰の事もあまり覚えていない。
不安に押しつぶされそうになっていた時、優しい声が私に投げかけられた。
「亜衣ちゃん。大きくなったね。美人さんになっちゃって。」
その声は、当時大好きだった美和先生の声だった。
「美和先生!ご無沙汰しています!」
「元気そうでよかったわ。お母さんは?元気にしてる?」
「はい!相変わらず仕事が忙しいみたいで‥」
「そう。でも、亜衣ちゃんが来てくれて、先生嬉しいな!」
先生はそう言うと、みんなの輪に私を招き入れた。
「亜衣ちゃん、久しぶり!」
「亜衣ちゃん、僕のこと覚えてる?」
「亜衣ちゃん、オレンジでいい?」
と、物凄い勢いで話しかけられ、私の脳はフル回転した。すると、少し遠くから私を見つめる視線に気がつき、その視線に会釈をした。その視線の主は、満面の笑みで私の視線を返した。
「‥啓太くんだ‥」
アルバムの写真の中でみた笑顔そのものだった。そのことに気がついた瞬間、体の中心がブワッとなった。
恋愛小説とか、恋愛ドラマとかでスローモーションに見えるあれだ。
体の中心が熱くなり、鼓動の音が聞こえた。彼は私に近づき
「亜衣ちゃん。久しぶり。相変わらず可愛いね。‥やっと会えた。」
「やっと?」
「何度も会いに行こうと思ったんだけど、俺も親父の転勤とか色々あって、会いに行けなかったんだ。」
その言葉に、嬉しさもあったが申し訳ない気持ちの方が勝った。だって私は何一つ覚えていなかったのだから。その事を悟られないようにしようと
「啓太くんは、昔よりかっこよくなったね!なんか‥その‥大人って感じ!」
「何だよそれ!相変わらず面白いな」
また、あの満面の笑みでこっちをみる啓太くん。写真で見たからかもしれないが、その笑顔は私を安心させた。
それから、私があまり覚えていないのを悟ったのか、啓太くんが隣についてみんなを紹介してくれた。
プールでお漏らしをした勇輝くん。
豆まきで先生が扮装した鬼が怖く号泣した真希ちゃん。
誕生日にもらうお菓子を踏んで粉々にした亮太くん。
など、啓太くんの話すエピソードにみんなの顔が緩み、和やかな空気になる。
なんでそんなに覚えているんだろうと驚くくらい、彼は全員のエピソードと名前を私に教えてくれた。
「啓太!そろそろお開きにしよっか?」
由美子ちゃんは、啓太くんの事を啓太と呼び捨てにする。それに引っかかっている私に
「亜衣ちゃん、まだ時間大丈夫?よかったら同じ小学生だった奴らとカラオケ行くから、一緒に行かない?」
啓太くんは少し緊張した面持ちで私を誘ってくれた。ここでカラオケに行ったら、間違いなく家には帰れなくなる。終電まであと30分。私はまだ未成年。お父さんの怒る顔が頭に浮かぶ。
「‥難しいかな?」
険しい顔をした私を覗き込む彼の顔があまりにも可愛くて‥
「‥行く。行きたいな!」
私は終電に乗ることよりも、カラオケに行くことを選んだ。
その分かれ道の選択によって今がある。
あなたには、
『あの時あっちの道を選択していれば‥』
と、思う事はありますか?
私には、いつも保育園の玄関で待っててくれる男の子がいた。
晴れてる日も雨の日も。
私よりも早く登園し、玄関で正座して待っている。
「亜衣ちゃん。おはよ。」
屈託のない笑顔でいつも迎えてくれる。
「啓太くん。おはよ。」
私がそういうと、私の脱いだ靴を下駄箱に入れ、私の手をひっぱり教室に連れて行ってくれる。
「今日も2人はらぶらぶね」
と、先生達が楽しそうに話している。
これが私達の日課だった。
みんなでお散歩に行く時も、いつも手を繋ぎ、一緒に遊び、また手を繋ぎ、帰ってくる。それが私には当たり前で、居心地が良かった。
でも、それは長く続く事はなく
卒園式を境に彼と会う事は無くなった。
お互い別々の小学校へ進み、私が引っ越す事になった為、彼との連絡手段は年に一回、年賀状のみとなった。
そんな彼のこともいつしか忘れていき、私は高校生になった。
必死で勉強し、大学受験を終え、明日はいよいよ卒業式。
「この制服を着るのも明日で最後か‥」
鏡の前に立ち、制服を合わせると、なんだか寂しくなってくる。
「亜衣ー!ご飯よー!」
下の階から、母親の声がした。
「今行くー!」
そう答え、さっきの寂しさが嘘のように、ベッドに制服を投げ捨て、リビングに降りていくと
「亜衣、あんたに手紙がきてたわよ」
お母さんに手渡された一枚のハガキ。
そこには、
【同窓会のお知らせ】
と書いてあった。
まだ同窓会を経験した事が無かった私にとって、それは真新しい文字だった。
同窓会?と思い、母に参加の許可を取ると
「保育園の同窓会かー、啓太くん来るといいね!」
「啓太?誰それ?」
「忘れちゃったの?あんなにいつも一緒にいたのに?」
「いつも?」
「あんたが来るのをいつも保育園の玄関で待っててくれたんだけど、忘れちゃった?」
それは、記憶が風化してしまった私にとっては驚きの事実だった。
確か保育園のアルバムがあったはずと母は言い、ゴソゴソと探し始めた。
数分後、大きなアルバムを取り出し、この子よ!と1人の男の子を指さす。
彼は、確かにどの写真にも私の隣に写り、満面の笑みでこちらを見ていた。
「これが‥啓太くん‥」
私の心臓が静かに波をうち、彼の笑顔から目が離せなかった。
同窓会当日。
私は、以前通っていた保育園の前に立っていた。同窓会の前に、色々思い出そうとしてみたが、やはり啓太くんの事は思い出せなかった。
母と保育園に通った道を歩いていくと、新しい家や建物ができ、道路も綺麗に塗装されている。時の流れを感じながら、一歩一歩前に進む。気がつくと、会場の前に立っていた。
私は震える声で入り口に立っている人に
「同窓会の集まりできたんですが‥」
言い慣れない言葉を口にし、恥ずかしいような、久しぶりに会う友達に緊張しているような、不思議な感覚でフワフワとしていた。すると
「‥亜衣ちゃん?亜衣ちゃんだよね?久しぶり!」
意外な反応に驚き顔をあげた。
「私のこと覚えてない?由美子!亜衣ちゃんの家にも遊びに行ったことあるよ!」
名前を言われ、私の脳は受験会場で活性化していた時の3倍くらいのスピードで記憶を遡る。
「‥あ、由美子ちゃん!!お父さんが大工の由美子ちゃん!!」
必死で記憶を遡ったのに、お父さんの情報しか思い出せなかった。
「そう!ってか、思い出したのがお父さんが大工って、相変わらず亜衣ちゃんは面白いね!」
相変わらずという言葉に少し戸惑いながら、私は会場に向かった。
会場について、扉をあける。
すると、大勢の人が目についた。
だが誰の事もあまり覚えていない。
不安に押しつぶされそうになっていた時、優しい声が私に投げかけられた。
「亜衣ちゃん。大きくなったね。美人さんになっちゃって。」
その声は、当時大好きだった美和先生の声だった。
「美和先生!ご無沙汰しています!」
「元気そうでよかったわ。お母さんは?元気にしてる?」
「はい!相変わらず仕事が忙しいみたいで‥」
「そう。でも、亜衣ちゃんが来てくれて、先生嬉しいな!」
先生はそう言うと、みんなの輪に私を招き入れた。
「亜衣ちゃん、久しぶり!」
「亜衣ちゃん、僕のこと覚えてる?」
「亜衣ちゃん、オレンジでいい?」
と、物凄い勢いで話しかけられ、私の脳はフル回転した。すると、少し遠くから私を見つめる視線に気がつき、その視線に会釈をした。その視線の主は、満面の笑みで私の視線を返した。
「‥啓太くんだ‥」
アルバムの写真の中でみた笑顔そのものだった。そのことに気がついた瞬間、体の中心がブワッとなった。
恋愛小説とか、恋愛ドラマとかでスローモーションに見えるあれだ。
体の中心が熱くなり、鼓動の音が聞こえた。彼は私に近づき
「亜衣ちゃん。久しぶり。相変わらず可愛いね。‥やっと会えた。」
「やっと?」
「何度も会いに行こうと思ったんだけど、俺も親父の転勤とか色々あって、会いに行けなかったんだ。」
その言葉に、嬉しさもあったが申し訳ない気持ちの方が勝った。だって私は何一つ覚えていなかったのだから。その事を悟られないようにしようと
「啓太くんは、昔よりかっこよくなったね!なんか‥その‥大人って感じ!」
「何だよそれ!相変わらず面白いな」
また、あの満面の笑みでこっちをみる啓太くん。写真で見たからかもしれないが、その笑顔は私を安心させた。
それから、私があまり覚えていないのを悟ったのか、啓太くんが隣についてみんなを紹介してくれた。
プールでお漏らしをした勇輝くん。
豆まきで先生が扮装した鬼が怖く号泣した真希ちゃん。
誕生日にもらうお菓子を踏んで粉々にした亮太くん。
など、啓太くんの話すエピソードにみんなの顔が緩み、和やかな空気になる。
なんでそんなに覚えているんだろうと驚くくらい、彼は全員のエピソードと名前を私に教えてくれた。
「啓太!そろそろお開きにしよっか?」
由美子ちゃんは、啓太くんの事を啓太と呼び捨てにする。それに引っかかっている私に
「亜衣ちゃん、まだ時間大丈夫?よかったら同じ小学生だった奴らとカラオケ行くから、一緒に行かない?」
啓太くんは少し緊張した面持ちで私を誘ってくれた。ここでカラオケに行ったら、間違いなく家には帰れなくなる。終電まであと30分。私はまだ未成年。お父さんの怒る顔が頭に浮かぶ。
「‥難しいかな?」
険しい顔をした私を覗き込む彼の顔があまりにも可愛くて‥
「‥行く。行きたいな!」
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