2 / 5
二歩目
しおりを挟む
※前回までのお話
保育園に通っていた時、いつも私が来るのを待っていてくれた男の子(啓太)と同窓会で再会した。
彼の屈託のない笑顔は、昔と何一つ変わっていなかった。
私は、終電を諦め、二次会のカラオケに行くことにした。
私は、カラオケというものが苦手だ。
人前で歌を歌うからではない。どちらかというと歌う事は好きで、合唱コンクールなども進んで参加した。
では、何が苦手なのか‥。それは、自分が歌っている時の周りのリアクションが気になってしょうがないのだ。
みんな盛り上がってる?
音はうるさくない?
いまバラード歌っていい空気?
店員さんがいる時って歌わないの?
と、気にする事が多すぎて全然楽しめない。だから基本的には聞き役に徹する。これが1番だ。
「亜衣!何歌う?」
啓太くんが満面の笑みで私に問いかける。
「‥何歌うか決まってないから‥先に歌っていいよ!」
我ながら上手く誤魔化せたと思った。
みんな、次々に好きな歌を歌っていく。その歌に合わせて、必ず啓太くんは合いの手を入れている。合いの手担当。
啓太くんの合いの手が聞きたくて、みんながどんどん曲を入れていく。
啓太くんは、どんな曲がきてもその場を楽しませてくれた。そして、亜衣は歌わないの?亜衣の歌聞きたい。と何度も言ってくれた。
カラオケにきて2時間が経過した頃、私が一度も歌ってない事にとうとう気付かれてしまった。
「亜衣ちゃんは歌わないの?カラオケ苦手だった?」
由美子ちゃんが優しく聞いてくれた。
「え?あ、歌うよ!いま決めたところ!」
そう言って曲を入れた。
激しい曲でもなく、バラードでもなく。映画の主題歌になった曲なら無難だろうと思い、選んだ。その曲のタイトルがテレビにうつり、汗ばんだ手でマイクを握る。
(大丈夫‥きっと啓太くんが盛り上げてくれる‥)
勇気を出して歌い始めた。
すると、見事に室内がシーンとなる。
気にしないようにすればするほど、部屋の静けさが気になり、鼓動が早くなる。すがる思いで啓太くんの方をみて驚いた。彼は、泣いていた。ポロポロと涙を流していた。次に由美子ちゃんを見た。うっとりとした表情で聞き入っているように思えた。そう、室内にいる全員がちゃんと歌を聞いてくれていたのだ。
『♫~手を~繋ごう~』
最後のフレーズを歌い終わり、マイクを置いた。すると
「すごいね!亜衣ちゃん歌上手すぎるよ!啓太なんて泣いてるもん!」
由美子ちゃんが笑いながら話しかけてくれた。嬉しい反面、やはり『啓太』と呼び捨てなのが気になる。
「ありがとう。この曲大好きなんだ。‥啓太くん、大丈夫?」
「泣いてごめん。すっっっげー良かった!感動した!!うわー!録音しておけばよかったー!」
彼の感想にまた室内の空気が笑いに変わる。私はホッとした。緊張から解けると人はなぜトイレに行きたくなるのだろうか。私は「ちょっとごめん」と言い、部屋を出た。
トイレから出てくると、そこに啓太くんが立っていた。
「あの‥どうかした?」
「いや、あのさ。さっきの曲すごい良かった。本当に。」
「うん‥ありがとう。」
「‥もし良かったらなんだけど、連絡先教えてもらえないかな?」
「私の?」
「‥他に誰がいるの?」
「あ、そっか。」
と、天然ボケが出てしまった。
そんな私にまたあの笑顔を向けてくれる。私達は連絡先を交換した。
2人で部屋に戻ると、由美子ちゃん以外の人達は寝ていた。それもそうだ。もうすぐ日付が変わる。
「みんなー!帰るよー!準備してー!」
と、由美子ちゃんが流れるようにみんなを起こしていく。終電を逃してしまった私は、どこで時間をつぶそうか考えていた。すると、
「実はさ。俺も終電無いんだ。」
こっそりと啓太くんが教えてくれた。
「啓太と亜衣ちゃんはどーするの?」
由美子ちゃんがするどく聞いてきた。
「俺たちは、ファミレスとかで時間潰すよ!」
啓太くんの言葉で、まだ一緒にいられる事を喜んだ。
カラオケが終わり、由美子ちゃんと連絡先を交換し、みんなと別れた。それはつまり、啓太くんと2人きりになったという事だ。すると突然、
「亜衣ちゃん!見晴らし公園覚えてる?保育園の時、よくみんなで行ったところ!今から行かない?」
「こんな時間に?警察に見つかったら補導されるよ?」
「んーされたらされたでしょ!」
彼の答えに思わず笑ってしまった。結局、見晴らし公園に行くことになり、歩いて向かう道中で私は啓太くんにずっと気になっていたことを聞いた。
「由美子ちゃん、啓太って呼び捨てだったけど、ずっと仲良いの?」
「由美子は近所だったから、小学校を卒業するまで一緒だったんだ。幼馴染みたいなもん?」
彼は笑って話してくれた。でも、由美子ちゃんは幼馴染以上の感情を持っているだろうと思った。これは女のカン。
暫くすると、目の前に公園が現れた。見晴らし公園だ。到着すると、啓太くんがはしゃぎ出した。驚くぐらい、飛び跳ねている。「懐かしい」と何度も口にするが、私は何も感じなかった。
「亜衣ちゃん!こっち!ここ登ってきて!」
彼はいつのまにか高台に登っていた。声のする方へ向かうと、小さな階段があり、ゆっくりと上へ向かう。あと2段くらいまで登ると、啓太くんが手をだして
「もう少し!はやく!!」
と、私を急かした。
暗かった事もあり、私は彼の手をギュッと握り、頂上に登った。その時だった。
「誰かいるのか?!」
小さなライトと共に、威圧感のある声が聞こえた。警察だ。
「やべ!」
啓太くんは私の上に覆い被さり、じっと動かなくなった。覆い被さられた私は、警察どころではなかった。啓太くんと密着している。鼓動が尋常じゃない速さになる。
(どうか、啓太くんに聞こえていませんように)
暫くして、一通り公園を見渡した警察官がその場からいなくなる。
「‥危なかったー。補導されるとこだったな!‥亜衣ちゃん?どうした?」
彼は、微動だにしない私を心配をする。
私は、自分の顔が真っ赤になっていると思い、顔をあげることができなかった。
「亜衣ちゃん!見て!さすが見晴らし公園だよなー!名前通り!」
その言葉に顔をあげると、真っ暗な街の中に溢れる小さな灯りがいくつも重なり、夜空がそのまま落ちてきたように光り輝いていた。
「‥綺麗だね。」
「亜衣ちゃん。俺、ずっと亜衣ちゃんに会いたかったんだ。図々しいかも、しれないけど、亜衣って呼んでもいい?」
暗くてあまり見えないが、彼の声はいままでになく真剣な声だった。
「‥うん。いいよ!」
そう言うと、彼は嬉しそうに
「俺のことも啓太って呼び捨てでいいからね!」
と言った。
本当に夜で良かったと思う。私の表情はきっとわからないと思うけど、恐らく気持ち悪いくらいニヤけていたに違いない。
「啓太くん」と呼ぶか「啓太」と呼ぶか。
私は「啓太」と呼ぶ方を選んだ。
「連れてきてくれてありがとう。啓太。」
保育園に通っていた時、いつも私が来るのを待っていてくれた男の子(啓太)と同窓会で再会した。
彼の屈託のない笑顔は、昔と何一つ変わっていなかった。
私は、終電を諦め、二次会のカラオケに行くことにした。
私は、カラオケというものが苦手だ。
人前で歌を歌うからではない。どちらかというと歌う事は好きで、合唱コンクールなども進んで参加した。
では、何が苦手なのか‥。それは、自分が歌っている時の周りのリアクションが気になってしょうがないのだ。
みんな盛り上がってる?
音はうるさくない?
いまバラード歌っていい空気?
店員さんがいる時って歌わないの?
と、気にする事が多すぎて全然楽しめない。だから基本的には聞き役に徹する。これが1番だ。
「亜衣!何歌う?」
啓太くんが満面の笑みで私に問いかける。
「‥何歌うか決まってないから‥先に歌っていいよ!」
我ながら上手く誤魔化せたと思った。
みんな、次々に好きな歌を歌っていく。その歌に合わせて、必ず啓太くんは合いの手を入れている。合いの手担当。
啓太くんの合いの手が聞きたくて、みんながどんどん曲を入れていく。
啓太くんは、どんな曲がきてもその場を楽しませてくれた。そして、亜衣は歌わないの?亜衣の歌聞きたい。と何度も言ってくれた。
カラオケにきて2時間が経過した頃、私が一度も歌ってない事にとうとう気付かれてしまった。
「亜衣ちゃんは歌わないの?カラオケ苦手だった?」
由美子ちゃんが優しく聞いてくれた。
「え?あ、歌うよ!いま決めたところ!」
そう言って曲を入れた。
激しい曲でもなく、バラードでもなく。映画の主題歌になった曲なら無難だろうと思い、選んだ。その曲のタイトルがテレビにうつり、汗ばんだ手でマイクを握る。
(大丈夫‥きっと啓太くんが盛り上げてくれる‥)
勇気を出して歌い始めた。
すると、見事に室内がシーンとなる。
気にしないようにすればするほど、部屋の静けさが気になり、鼓動が早くなる。すがる思いで啓太くんの方をみて驚いた。彼は、泣いていた。ポロポロと涙を流していた。次に由美子ちゃんを見た。うっとりとした表情で聞き入っているように思えた。そう、室内にいる全員がちゃんと歌を聞いてくれていたのだ。
『♫~手を~繋ごう~』
最後のフレーズを歌い終わり、マイクを置いた。すると
「すごいね!亜衣ちゃん歌上手すぎるよ!啓太なんて泣いてるもん!」
由美子ちゃんが笑いながら話しかけてくれた。嬉しい反面、やはり『啓太』と呼び捨てなのが気になる。
「ありがとう。この曲大好きなんだ。‥啓太くん、大丈夫?」
「泣いてごめん。すっっっげー良かった!感動した!!うわー!録音しておけばよかったー!」
彼の感想にまた室内の空気が笑いに変わる。私はホッとした。緊張から解けると人はなぜトイレに行きたくなるのだろうか。私は「ちょっとごめん」と言い、部屋を出た。
トイレから出てくると、そこに啓太くんが立っていた。
「あの‥どうかした?」
「いや、あのさ。さっきの曲すごい良かった。本当に。」
「うん‥ありがとう。」
「‥もし良かったらなんだけど、連絡先教えてもらえないかな?」
「私の?」
「‥他に誰がいるの?」
「あ、そっか。」
と、天然ボケが出てしまった。
そんな私にまたあの笑顔を向けてくれる。私達は連絡先を交換した。
2人で部屋に戻ると、由美子ちゃん以外の人達は寝ていた。それもそうだ。もうすぐ日付が変わる。
「みんなー!帰るよー!準備してー!」
と、由美子ちゃんが流れるようにみんなを起こしていく。終電を逃してしまった私は、どこで時間をつぶそうか考えていた。すると、
「実はさ。俺も終電無いんだ。」
こっそりと啓太くんが教えてくれた。
「啓太と亜衣ちゃんはどーするの?」
由美子ちゃんがするどく聞いてきた。
「俺たちは、ファミレスとかで時間潰すよ!」
啓太くんの言葉で、まだ一緒にいられる事を喜んだ。
カラオケが終わり、由美子ちゃんと連絡先を交換し、みんなと別れた。それはつまり、啓太くんと2人きりになったという事だ。すると突然、
「亜衣ちゃん!見晴らし公園覚えてる?保育園の時、よくみんなで行ったところ!今から行かない?」
「こんな時間に?警察に見つかったら補導されるよ?」
「んーされたらされたでしょ!」
彼の答えに思わず笑ってしまった。結局、見晴らし公園に行くことになり、歩いて向かう道中で私は啓太くんにずっと気になっていたことを聞いた。
「由美子ちゃん、啓太って呼び捨てだったけど、ずっと仲良いの?」
「由美子は近所だったから、小学校を卒業するまで一緒だったんだ。幼馴染みたいなもん?」
彼は笑って話してくれた。でも、由美子ちゃんは幼馴染以上の感情を持っているだろうと思った。これは女のカン。
暫くすると、目の前に公園が現れた。見晴らし公園だ。到着すると、啓太くんがはしゃぎ出した。驚くぐらい、飛び跳ねている。「懐かしい」と何度も口にするが、私は何も感じなかった。
「亜衣ちゃん!こっち!ここ登ってきて!」
彼はいつのまにか高台に登っていた。声のする方へ向かうと、小さな階段があり、ゆっくりと上へ向かう。あと2段くらいまで登ると、啓太くんが手をだして
「もう少し!はやく!!」
と、私を急かした。
暗かった事もあり、私は彼の手をギュッと握り、頂上に登った。その時だった。
「誰かいるのか?!」
小さなライトと共に、威圧感のある声が聞こえた。警察だ。
「やべ!」
啓太くんは私の上に覆い被さり、じっと動かなくなった。覆い被さられた私は、警察どころではなかった。啓太くんと密着している。鼓動が尋常じゃない速さになる。
(どうか、啓太くんに聞こえていませんように)
暫くして、一通り公園を見渡した警察官がその場からいなくなる。
「‥危なかったー。補導されるとこだったな!‥亜衣ちゃん?どうした?」
彼は、微動だにしない私を心配をする。
私は、自分の顔が真っ赤になっていると思い、顔をあげることができなかった。
「亜衣ちゃん!見て!さすが見晴らし公園だよなー!名前通り!」
その言葉に顔をあげると、真っ暗な街の中に溢れる小さな灯りがいくつも重なり、夜空がそのまま落ちてきたように光り輝いていた。
「‥綺麗だね。」
「亜衣ちゃん。俺、ずっと亜衣ちゃんに会いたかったんだ。図々しいかも、しれないけど、亜衣って呼んでもいい?」
暗くてあまり見えないが、彼の声はいままでになく真剣な声だった。
「‥うん。いいよ!」
そう言うと、彼は嬉しそうに
「俺のことも啓太って呼び捨てでいいからね!」
と言った。
本当に夜で良かったと思う。私の表情はきっとわからないと思うけど、恐らく気持ち悪いくらいニヤけていたに違いない。
「啓太くん」と呼ぶか「啓太」と呼ぶか。
私は「啓太」と呼ぶ方を選んだ。
「連れてきてくれてありがとう。啓太。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる