分かれ道のすすみかた

日向寺結菜

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四歩目

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※前回までのお話

保育園で離ればなれになって以来一度も会ったことが無かった亜衣と啓太。
同窓会で久しぶりに会い、二人で連絡を重ねるに連れてお互いが惹かれ合い、付き合うことになる。


「啓太が好き」
この想いが自分の中から溢れてきた。
どうしようもなく好きで好きで仕方なかった。

啓太の部屋で。思わずそう口にした。
目を閉じると、啓太の手が私の肩にそっと触れる。
思わず触られた方の肩をあげてしまった。すると啓太はフッと笑い、

「亜衣。力入りすぎ。息はいて。」

と優しい声でつぶやいた。その暖かい声が私をまた緊張させる。

(いつまで目を閉じてればいいの…)

そう思った瞬間……

啓太の唇と私の唇が重なった。
啓太の唇は柔らかく、私の唇が全て埋まってしまうかのような大きさで
私はその瞬間に浸っていた。
数秒後唇が離れ、離れた唇が熱くなっているのを感じた。

「…もう、目開けていいよ?」

笑ながら私に向けられた声で、ずっと目を閉じたままだったことに気が付いた。
ゆっくりと目を開けると、照れ笑いをしている啓太が目の前にいた。
その笑顔は初めてみる顔だった。
しばらくの間、お互い無言となってしまった。すると突然

「…すげーーーーー緊張した!!!!」

と大声で言いだし、笑い始めた。
その笑顔に私の緊張も解け「なにそれ、私もだから」と二人して笑った。
ひとしきり笑うと、

「亜衣。おいで。」

と、腕を広げ待つ啓太。
まるでその場で座る子どもに向かっていうような、いい子にしていた犬にご褒美をあげるような
まあそんな感じ。
私は啓太の腕の中にすっともぐりこみ、けいたの肩にあごを乗せ、脚の間におさまった。
なんとも居心地が良かった。

今日は私が啓太の彼女になった日。
啓太はこの時何を思っていたのかな。私はとにかく幸せって言葉を体全身で感じたよ。



4月。


「ねー。似合うかな?」

スーツを着た写真を啓太に送るとすぐに電話がかかってきた。

「亜衣!スーツすげーいいじゃん!…それで入学式どうだった?」

啓太は行きたい大学に全て落ちてしまい、滑り止めには行きたくないということでまた来年受験することにした。
なので入学式は私だけ。啓太は自宅で勉強していた。

「偉い人が淡々と話して、先輩達が合唱してくれた。友達は…できなかった。」


「まだ入学式だから!これからできるよ!亜衣なら大丈夫!」

啓太に言われると何だってできてしまうような気がするから恐ろしい。
啓太とは一日に30通以上のメールを交わし、夜は電話をする。それが当たり前になっていた。
スーツを着たまま、啓太の家を目指す。
大学から自分の家に帰るより、啓太の家に行く方が近かった。


啓太を驚かせようと、啓太の家の呼び鈴を鳴らす。
すると「はーい」と高い女性の声が聞こえてきた。
急に血液が全身に回っていく。扉が開くと、綺麗な年配の女性がでてきた。

「どちら様ですか?」

私はその言葉にハッとして

「あの!私、その、保育園の時に同じクラスだった亜衣とお申します。」
(お申すって何だよ私)

「亜衣…亜衣ちゃん?やだ、久しぶりね!あまりにも綺麗になってるから気が付かなかったわ。そう言われてみれば面影あるわね!今日は啓太に用事?」

「あ、はい!あの…約束はしていないのですが、その…借りていたCDを返しに来ました!」

嘘ではなかった。実際に黒く光った新品のビジネスバックには啓太から借りたCDが入っていた。
玄関が騒がしいのに気が付いたのは啓太が出てきた。

「母さん、塾の話なんだけど……亜衣?どうしたの急に?」

驚いた啓太の表情を見ることができた。サプライズ成功だ。
しかし、私のほうが驚いていた。勝手にサプライズされに来てしまった。

「借りてたCDを返そうと思って!」

そういうと啓太のお母さんは家にあげてくれた。
啓太の部屋に向かい、扉を閉める。
気まずい空気の中、私が黙っているのをみて啓太は大笑いをした。

「…CD返すって…なかなかうまい言い訳だな。…スーツ姿みせにきてくれたんでしょ?」

啓太には何でもお見通しだ。

「スーツ似合ってるよ。おいで。」

啓太の「おいで」という言葉で私の全身の力が抜ける。啓太の腕の中に飛び込みたい。
でも扉の向こう側にはお母さんがいる。
私の理性は選択を迫られた。

啓太の腕の中に飛び込むか、飛び込まずに座るか。
私は‥‥

そりゃあ、迷わず飛び込むよね。






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