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一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。
助っ人でバレーボールの試合に出てください?いいよ!でも僕は水泳選手だから足でまといになっても謝らないよ!だって誘ってきたのは君たちだから
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「では、そろそろお風呂に入りますか?」
レベッカが食べ終えた夕食の食器を片付けながらアイトはそう質問してきた。
ここで普通ならば赤面しながらアイトにビンタをかましただろう。
だが、アイトはレベッカが小さい頃から専属執事として働いていた。
ヴァインヒルトがレベッカを憎悪し始め、ほかの使用人がレベッカを邪険に扱い、レベッカの味方が誰一人いなくなり、アイトが専属執事に名乗り出てからはずっと、レベッカはアイトと一緒にお風呂に入っていたのだ。
「………やっぱり、一緒じゃないと、ダメ?」
だが、羞恥心はある。
「ダメですよ。もしお嬢様が一人で入って、他の方に目をつけられたら大変なことになりますよ」
それが原因。レベッカは一人じゃないと身体を満足に洗えない。などではなかった。レベッカは一人で入ると、他の使用人や姉、兄に虐待される可能性があるのだ。
ちなみに兵士たちはさすがにそんなことはしない。
そして、アイトはレベッカが入る際に他の人達に手出しをさせない抑止力となっている。
レベッカはアイトに疚しい気持ちが(あまり)ないことを理解しているが、それでも恥ずかしいのだ。
「………わかった」
だが、レベッカも乙女の端くれ。使用人に今日(唯一)持ってこられた食事を全身にかけられたためレベッカの身体は臭うのだ。臭いままは嫌なのだ。
結局レベッカはアイトに連れられてお風呂に。
風呂場まで来る途中にすれ違った使用人達には汚物を見るかのような目で見られたりしたが、いつものことなので慣れている。
脱衣場に入るとアイトとレベッカはもう躊躇わずに服を脱いでいた。
レベッカは12歳あたりからこの状況に羞恥心を覚えてきたが、慣れてしまえば問題ない。
レベッカはなるべくアイトの身体を視界に入れないようにして中に入った。
「ねぇ………」
「なんですか?」
「何度も言うけど、アイトが外で待機してるのはダメ、なの?」
「ダメですよ。他の使用人が闇討ちに来たらどうするのですか?」
レベッカもそれはわかっているのだ。わかっているのだが、やっぱり恥ずかしい。
「わかった。じゃあ、今日も目隠ししてるから………」
レベッカはそう言って目をタオルを巻いて隠した。
いつもこうだ。普通逆じゃない?と思うが、レベッカはアイトの裸を見るのが恥ずかしいという感情と、もし闇討ちに来たら目隠しをしたアイトは対処がむずかいという事情からいつもレベッカが目隠ししている。
「では、洗いますね」
アイトは最初に髪から洗う派だ。アイト曰く「上から洗った方がいいですからね。水で流す際に汚れが下に落ちますので、先に身体から洗うと結局は髪の汚れで変わらないのですよ」どのことだ。
ちなみにアイトは洗うのが上手だ。アイトのおかげでレベッカの髪質は上等だし、肌の艶も衰えていない。
「やっぱり、アイトは多才だね………」
「屋敷でしなくてはいけないことも多いですし。そうすると必然的に得意な分野も増えていくのですよ」
そこで髪は洗い終えたのかレベッカの髪を水で流す。次はリンスをレベッカの髪につけていく。
「ねぇアイト。アイトはさ、なんで私なんかを助けてくれるの?」
それは現在のレベッカの純粋な疑問。アイトとしてもレベッカを助けても意味なんてないはずなのに。
「なぜと言われると、そうですね………」
アイトは髪を洗い終えたのか、タオルに石鹸を付着してレベッカの背中を洗い始めた。
「僕から見て、あの頃のお嬢様は迷子の子のような顔をしてましたから………」
あの頃。レベッカの父、ヴァインヒルトが急にレベッカを憎悪し始め、使用人達がこぞってレベッカを苛め始めたころだろう。
「大好きな人に嫌われて、大切だと思っていた兄姉に虐められ、使用人達に邪険にあしらわれる。あの頃の行き場のないお嬢様が迷子に見えましたので………」
それは、あまりにもレベッカを気遣うような台詞だ。
「それだけ、なの?」
だが、レベッカにはそれだけに思えなかった。
アイトはその質問に少し手を止めると
「嘘」
「………え?」
「ですから、嘘ですよ。お嬢様は、僕にタチの悪い嘘を言わないではないですか………」
思い返す。確かにレベッカはアイトに嘘は言わない。言ったとしても、アイトを気遣うような、アイトに迷惑をかけないような、そんな嘘。
「本当に、それだけですよ。僕は故郷では騙されて、利用されてきましたから。ただ、それだけですよ。お嬢様の目を見てこの人は悪いことは考えないのだと、人を私利私欲のために利用しないって、わかりましたから。ただ、目の前の相手を気遣える、そんな綺麗な目をしてましたから………」
「本当に、それだけで………」
レベッカは、虐められ初めてからの観察眼で、ある程度はわかるつもりだ。相手の心情を。今はアイトの顔は見れないが、それでもレベッカには、そのアイトの言葉が嘘には聞こえなかった。
「ごめんね、アイト………」
レベッカはタオルの中で、静かに涙を流す。
「いいのですよ。それに、ここはごめんねではなく、ありがとう、ですよ」
「でも、私なんかのために………」
「それもですよ。自分のことを「なんか」なんて言わないでください。お嬢様は、素敵な人ですよ」
その後もレベッカは静かに涙を流し続けた。
□■
お風呂から上がり、就寝準備を整えたレベッカはベッドの中に入る。
「お嬢様、一人で寝れますか?」
「もう、アイトは私を何歳だと思ってるの?」
確かに最初は一人で寂しくて眠れなかったが、今はもう大丈夫だ。
「流石に夜中に闇討はなかったですが、鍵はかけてくださいね。僕が合図するまでこの部屋で………」
「大丈夫だよ。それに私、アイトに少しは鍛えてもらってるもの。暗殺者が来ても返り討ちにできるよ」
レベッカがそう返すと、アイトは安心したような表情になった。
「では、僕は行きます」
「うん。最後までありがとう。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい。お嬢様………」
レベッカが食べ終えた夕食の食器を片付けながらアイトはそう質問してきた。
ここで普通ならば赤面しながらアイトにビンタをかましただろう。
だが、アイトはレベッカが小さい頃から専属執事として働いていた。
ヴァインヒルトがレベッカを憎悪し始め、ほかの使用人がレベッカを邪険に扱い、レベッカの味方が誰一人いなくなり、アイトが専属執事に名乗り出てからはずっと、レベッカはアイトと一緒にお風呂に入っていたのだ。
「………やっぱり、一緒じゃないと、ダメ?」
だが、羞恥心はある。
「ダメですよ。もしお嬢様が一人で入って、他の方に目をつけられたら大変なことになりますよ」
それが原因。レベッカは一人じゃないと身体を満足に洗えない。などではなかった。レベッカは一人で入ると、他の使用人や姉、兄に虐待される可能性があるのだ。
ちなみに兵士たちはさすがにそんなことはしない。
そして、アイトはレベッカが入る際に他の人達に手出しをさせない抑止力となっている。
レベッカはアイトに疚しい気持ちが(あまり)ないことを理解しているが、それでも恥ずかしいのだ。
「………わかった」
だが、レベッカも乙女の端くれ。使用人に今日(唯一)持ってこられた食事を全身にかけられたためレベッカの身体は臭うのだ。臭いままは嫌なのだ。
結局レベッカはアイトに連れられてお風呂に。
風呂場まで来る途中にすれ違った使用人達には汚物を見るかのような目で見られたりしたが、いつものことなので慣れている。
脱衣場に入るとアイトとレベッカはもう躊躇わずに服を脱いでいた。
レベッカは12歳あたりからこの状況に羞恥心を覚えてきたが、慣れてしまえば問題ない。
レベッカはなるべくアイトの身体を視界に入れないようにして中に入った。
「ねぇ………」
「なんですか?」
「何度も言うけど、アイトが外で待機してるのはダメ、なの?」
「ダメですよ。他の使用人が闇討ちに来たらどうするのですか?」
レベッカもそれはわかっているのだ。わかっているのだが、やっぱり恥ずかしい。
「わかった。じゃあ、今日も目隠ししてるから………」
レベッカはそう言って目をタオルを巻いて隠した。
いつもこうだ。普通逆じゃない?と思うが、レベッカはアイトの裸を見るのが恥ずかしいという感情と、もし闇討ちに来たら目隠しをしたアイトは対処がむずかいという事情からいつもレベッカが目隠ししている。
「では、洗いますね」
アイトは最初に髪から洗う派だ。アイト曰く「上から洗った方がいいですからね。水で流す際に汚れが下に落ちますので、先に身体から洗うと結局は髪の汚れで変わらないのですよ」どのことだ。
ちなみにアイトは洗うのが上手だ。アイトのおかげでレベッカの髪質は上等だし、肌の艶も衰えていない。
「やっぱり、アイトは多才だね………」
「屋敷でしなくてはいけないことも多いですし。そうすると必然的に得意な分野も増えていくのですよ」
そこで髪は洗い終えたのかレベッカの髪を水で流す。次はリンスをレベッカの髪につけていく。
「ねぇアイト。アイトはさ、なんで私なんかを助けてくれるの?」
それは現在のレベッカの純粋な疑問。アイトとしてもレベッカを助けても意味なんてないはずなのに。
「なぜと言われると、そうですね………」
アイトは髪を洗い終えたのか、タオルに石鹸を付着してレベッカの背中を洗い始めた。
「僕から見て、あの頃のお嬢様は迷子の子のような顔をしてましたから………」
あの頃。レベッカの父、ヴァインヒルトが急にレベッカを憎悪し始め、使用人達がこぞってレベッカを苛め始めたころだろう。
「大好きな人に嫌われて、大切だと思っていた兄姉に虐められ、使用人達に邪険にあしらわれる。あの頃の行き場のないお嬢様が迷子に見えましたので………」
それは、あまりにもレベッカを気遣うような台詞だ。
「それだけ、なの?」
だが、レベッカにはそれだけに思えなかった。
アイトはその質問に少し手を止めると
「嘘」
「………え?」
「ですから、嘘ですよ。お嬢様は、僕にタチの悪い嘘を言わないではないですか………」
思い返す。確かにレベッカはアイトに嘘は言わない。言ったとしても、アイトを気遣うような、アイトに迷惑をかけないような、そんな嘘。
「本当に、それだけですよ。僕は故郷では騙されて、利用されてきましたから。ただ、それだけですよ。お嬢様の目を見てこの人は悪いことは考えないのだと、人を私利私欲のために利用しないって、わかりましたから。ただ、目の前の相手を気遣える、そんな綺麗な目をしてましたから………」
「本当に、それだけで………」
レベッカは、虐められ初めてからの観察眼で、ある程度はわかるつもりだ。相手の心情を。今はアイトの顔は見れないが、それでもレベッカには、そのアイトの言葉が嘘には聞こえなかった。
「ごめんね、アイト………」
レベッカはタオルの中で、静かに涙を流す。
「いいのですよ。それに、ここはごめんねではなく、ありがとう、ですよ」
「でも、私なんかのために………」
「それもですよ。自分のことを「なんか」なんて言わないでください。お嬢様は、素敵な人ですよ」
その後もレベッカは静かに涙を流し続けた。
□■
お風呂から上がり、就寝準備を整えたレベッカはベッドの中に入る。
「お嬢様、一人で寝れますか?」
「もう、アイトは私を何歳だと思ってるの?」
確かに最初は一人で寂しくて眠れなかったが、今はもう大丈夫だ。
「流石に夜中に闇討はなかったですが、鍵はかけてくださいね。僕が合図するまでこの部屋で………」
「大丈夫だよ。それに私、アイトに少しは鍛えてもらってるもの。暗殺者が来ても返り討ちにできるよ」
レベッカがそう返すと、アイトは安心したような表情になった。
「では、僕は行きます」
「うん。最後までありがとう。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい。お嬢様………」
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