家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。

「さあ!この箱を開けてみてください!最後にはきっと幸運が訪れますよ!」と言われて開けた箱には何も入ってなかったっていう絶望

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 レベッカ・ルーズ。
 それがレベッカの本名だった。

 ルーズ家の次女として生を授かり、家の未来のために育てられる。レベッカが産まれた時は、ルーズ家の当主であるヴァインヒルト・ルーズはそう思っていた。

 だが、レベッカが産まれてすぐに事件は起こった。
 ヴァインヒルトの妻、エリザベス・ルーズの病気、突如とした領民の反乱、王家からの身に覚えのない不正証明書etc.....。

 何もかもが不可解だったのだ。
 病気はまだ良かったのだ。いや、決して良くはないのだが、他の悲劇に比べれば、数段もマシだった。
 それに、病気に関しては、その頃十歳のアイトが猛勉強して習得した治癒魔法であっさりと治ったのだから。

 最初の悲劇が無事に解決し、安心しきっていたルーズ家に、更なる悲劇が舞い降りてきたのはその二日後であった。

 その日、急にルーズ領の食料の殆どが使い物にならなくなったのだ。

 食糧難に陥ったルーズ領だったが、ある場所には安全な食糧が残っていたのだ。

 それがルーズ家の食糧庫。そしてその事実をどこからか聞きつけた領民は、食糧難を打破するため、新鮮で安全な食糧を手にするために反乱をおこした。

 立て続けに起こった事件にヴァインヒルトは激しく動揺したが、極めて冷静に対処した。
 もしヴァインヒルトが冷静にならずに激情のままに対処したならば、反乱をおこした領民を皆殺しにしたことだろう。だが、ルーズ家を襲った不運はこの一つだけではなかった。それ故に度重なる不運によって逆に冷静になることができたヴァインヒルトは、なんとか反乱を抑えることができたのだ。

 誰一人殺さずに反乱を抑える。無謀にも思えるヴァインヒルトのその思いは成功したと言えるだろう。さすがに誰一人血を流さない。そんな願いは叶わなかったが、命があるだけ十分だろう。

 危機的状況は去った。反乱が終わった時はヴァインヒルトはそう考えていた。
 反乱が終わった時には成長した息子と娘。そして生まれたばかりの娘がいた。病気が治った妻もいた。
 これから幸せな生活が待っているんだと、疑いもしなかった。

 だが反乱を抑え、後処理を終えた三日後に王都からの使者が来たのだ。

「ヴァインヒルト・ルーズ。貴殿には薬物の密売や己の都合で領民を非道に殺害した疑いがかけられている」

 意味がわからなかった。薬物の密売?ヴァインヒルトはそもそも薬物を買ったこともないし、売ったこともない。手に入れたこともない。領地の金の流れはある程度わかっているのでそのようなものが領地に流れてきたこともないのはわかっている。
 領民の殺害?それこそ有り得ない。ヴァインヒルトは先日の反乱も誰一人殺すことなく納めたのだ。
 しかも、他領に交渉して領民の食料も少ないながら確保したのだ。褒めて欲しい訳では無いが、責められるのは違うだろう。

 ヴァインヒルトは胸の中のモヤモヤを放置できるはずもなく、王都に赴き、国王と話しをすることに決めた。領地のことは、いつもヴァインヒルトのそばで政治学も学んでいるアイトに任せ、数人の護衛とともに王都に向かった。

「国王よ!私の不正はなにかの間違えです!どうか、賢明な判断を!」

 王都に赴き領地にいるアイトと通信しながら対処した。二ヶ月もかかってしまったが、薬物の売買の証拠は結局偽りの情報であり、領民も一人も減っていないことが明らかになった。

 ようやく家に帰ることが許可されたヴァインヒルトは、帰り際に国王にこう言われた。

「運が良いのか悪いのか………悪魔の子を匿いながらもこうして全て無事に終わっているのだからな………」

 その時はなんのことかわからなかった。だが、領地に帰り、家族団欒で夕食を食べた後にアイトでは処理できない溜まっていた仕事を処理している途中にそばで手伝ってくれていたアイトに質問したのだった。

「悪魔の子って、アイトは知っているか?」

 それは純粋なる興味。勤勉なアイトならば何かを知っているのではないか。そんな淡い期待だった。

 そして、それは最悪の形で達成された。

「はい。知っています」

「本当か?」

「はい。大昔の厄災ですけどね」

 大昔の厄災の名前。なぜそんなものが国王の口から出てきたのか意味がわからず、ヴァインヒルトはアイトから詳しく聞いた。

 曰く、大昔に世界に絶望をもたらした存在。
 曰く、それは人々を貶めることしか考えていない。
 曰く、それには人の言葉が通じず。
 曰く、それは存在しているだけで絶望を招く。
 曰く、この世に生を授かった瞬間から、周囲の人物に絶望を送り付けていた。
 曰く、その姿は

「銀髪の美少女であった………」

 アイトの最後の言葉を聞いた時、ヴァインヒルトは耳を疑った。
 生を授かった瞬間から絶望を招く銀髪の女。そんなものヴァインヒルトの身近には

「レベッカ………」

 レベッカ一人だけだ。
 レベッカが絶望を招いた証拠はない。レベッカが悪魔の子だという証拠もない。だが、悪魔の子の疑いがある。

「レベッカが………」

 その思考に辿り着き、ヴァインヒルトはその考えを辞めた。

「やめだやめだ。娘を疑う親がどこにいる。まだなんの確証もない。それに、悪魔の子は大昔に殺されたんだろ?」

「はい。当時の世界最強に三日三晩にも及ぶ死闘の末に殺されたと明記されていました」

「ならば安心だ。たとえ生まれ変わったとしても、また銀髪の女として生まれる保証もない。レベッカを疑うのもこれで終わりだ」

 ヴァインヒルトはそうして悪魔の子のことを思考の端に追いやった。
 そしてその六年後、ヴァインヒルトはレベッカを嫌悪するのであった。
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