家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

文字の大きさ
19 / 111
一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。

今、笑っていなければいけない

しおりを挟む
 アイトとキスをした。その事実がレベッカの頭の中を駆け巡る。

「うぅ………」

 レベッカは現在、ベッドでうつ伏せ状態になりながら、足をパタパタと動かしている。

 ステラには悪いと思いながらも、どうしても羞恥と歓喜の感情がレベッカの中を駆け巡る。

「不意打ちなんて、狡い………」

 確かにアイトはカッコイイし、頼りになる。レベッカもアイトのことは凄く頼りにしていた。
 だけど、レベッカの中では、アイトとは壁を作っていた。
 執事と、貴族令嬢。レベッカは自分が貴族令嬢と言えるかの疑問もあったが、それはそれとして、アイトとの距離を少しでも作るために、そういった壁を作っていた。

 だが、今回の事件。レベッカはレベッカとして動いた。そしてステラを失った。その悲しみをアイトは突いてきたのだ。

 人によっては、狡いと言うだろう。
 卑怯だと言うだろう。弱った女の子の心に入り込むような真似をしたのだから。

 だが、アイトからそのようなことをされては、もうレベッカは自分の心を偽れなかった。

「私は、アイトのことが、好き………」

 それを口にして、レベッカはまた羞恥で顔を真っ赤にした。

「うぅ………想像以上に恥ずかしい………」

 誰も聞いていないとはいえ、それを口にするには勇気がいる。

「今の私を見たら、ステラはどう思うかな?」

 裏切り者と、罵るだろうか。
 人の犠牲の上で生きておいて、幸せになるなと、そう言っただろうか。
 それとも、祝福してくれただろうか。

 わからない。レベッカは、本当のステラがまだわからなかった。だけど、レベッカは死んだステラの分まで生きようとは思ってない。

 死者は死者だ。生者は生者。生者が死者を思い、死者の分まで生きよう考えるのは傲慢だろう。

 「~ならきっとこうしてくれる」なんて憶測もしない。だけど、

「祝ってくれたら、嬉しいな………」

 もしかしたらステラは天国に行けたかもしれない。
 現実世界で、最後は散々だったぶん、ステラには天国に赴いてほしいと思うし、来世では幸せになって欲しいと、ほんのりと願う。

「お嬢様。入りますよ」

 と、そのタイミングでアイトが扉をノックして入ってきた。

「どうですか?もう気分は治りましたか?」

 レベッカがアイトにキスをされて、ここまで動揺してるのに、キスをした張本人であるアイトは一切動揺していない。

「ねぇ、アイト。アイトって、キスし慣れてるの?」

 もしキス慣れしてるならば、色々と思うところはあるが、動揺していない理由にも納得だ。

「いえ。僕も初めてでしたが」

 だが、アイトもファーストキスだとほざいた。

「じゃあ、なんでそんなに冷静なの!?」

 初めてなのに、2人でこんなに差がでるなんて。理不尽だ。

「お嬢様は、僕に動揺してほしいのですか?」

「そうじゃなくて、私だけ恥ずかしがってるのは嫌なの!」

 アイトに向かってそう叫ぶと、レベッカは寝転がっていたベッドから降りて、立ち上がった。

「お嬢様?なぜ、こちらにゆっくりと近づいて来るのですか?」

「なぜって?アイトなら、わかるよね?」

 レベッカはゆっくりとアイトに近づくと、今度は真正面からアイトの唇を奪った。
 身長差故にレベッカが背伸びをして、アイトの顔も手を使って無理矢理近づけてするようなキスだったが、それでもレベッカは幸福感に満たされた。
 少しだけ唇が重なり、2人の顔が離れる。

「ねぇ、アイト。私は、アイトのことが好き」

 レベッカの突然の告白に、アイトはなにも言わなかった。

「ねぇ、アイトは?アイトは私のこと、好きじゃない?」

「好きですよ」

 そんなもの、アイトにとっては考える必要もなかったのだろう。
 アイトは即答した。

「僕は、お嬢様が好きです。ずっと一緒にいたいと思っています」

 アイトのその言葉に、満面の笑みを浮かべたレベッカは、アイトに抱き着いた。
 アイトもそれを容認し、レベッカを抱き締めた。

 アイトは胸の中で抱き締められている主を見て安堵する。
 ステラが死んで、情緒不安定だったレベッカの心が元に戻って。
 ステラのことはアイトも覚えている。だから、ステラのことを知った時は残念に思ったが。

 今は、レベッカが笑顔ならば、それでよかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...