家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。

好きな人にキスするシチュエーションって、憧れてたけどそんな相手がいないんだよなぁ

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 レベッカが目を覚ますと、見た事のある天井が見えた。

「ここって………」

 レベッカもよく知る、屋敷にある自室だ。

「ふぁぁぁ」

 小さな欠伸をしながらレベッカは起き上がり、昨日のことを思い出そうとすると、

「おはようございます。お嬢様」

 アイトがやってきた。

「?おはよう、アイト。今日はいつもより来るのがはやいね」

 疑問を感じながら、挨拶をすると、

「そうですね。今日は少し、お嬢様に来て欲しい場所があります」

 そう言うと、アイトは突然レベッカをお姫様抱っこで連れて行った。

「え?えぇ?」

 あまりにも突然の事態に気が動転する。

「すぐに着くために加速しますね。舌を噛まないように、気をつけてください」

「そ、そんなこと言われたってぇぇぇぇ」

 そんなレベッカをアイトが連れて行った場所は、墓地だった。

「ここ、は?」

「ここには、今回の殺人事件による被害者たちが眠っている場所があります」

 やがてたどり着いた一つの墓。

「あっ………」

 レベッカは、寝惚けていた頭が覚醒して、昨日の事を完全に思い出した。

「お嬢様、気をしっかりもってください」

 アイトにそう言われて、あと一歩のところで踏みとどまる。
 だが、目の前にある墓、ステラの墓を見ると、とても正気を保てずにはいられなかった。

「私の、せいで………」

「そんなことは………」

「そんなこと、あるもん」

 アイトが言っているのは、悪魔の子による厄災のことだろう。だが、今回のステラの死は、そんなもの関係あろうがなかろうが、ステラの死はレベッカ自身のせいなのだ。

 救いたいと、思った。助けたいと、思っていた。だけど現実は非情で、レベッカがなにかをしたいと願う度に運命はそれを妨害してくる。

「私が、しっかりしていれば………」

 レベッカが、油断せずに周囲に注意していれば、魔獣の接近くらい、簡単に察知することができたはずなのだ。

 レベッカは、5歳になった後に伝えられた自身の恩恵ギフトを思い出す。
 【襲来の厄災】。それがレベッカの恩恵ギフトの名前。その名前の通り、周囲に厄災を呼び寄せるという力だ。

「私の、せいで………」

 ステラにも、レベッカがいなければ、幸せな人生を送れたかもしれないのだから。

「アイト、私って、生きてない方がいいんじゃないかな?」

 レベッカは静かに涙を流す。自分にそんな資格はないと、そう思いながらも泣かずにはいられなかった。

「私、どうしたらいいのかな?」

 なにもできないのに、なにか自分にできることを考える。

「私ってもう、誰にも必要とされてないよね」

 そんな後悔と自責の念に囚われて、自分で自分を殺しそうになっているレベッカを、アイトが優しく抱きしめた。

「………アイト?」

 アイトの突然の行動に困惑するレベッカ。普段ならば、赤面するものの、今はそんな余裕はレベッカにはない。

「気をしっかりもってください」

「もってるよ。アイトだって、私の事、嫌でしょ?迷惑、してるでしょ?」

 きっと、もうアイトだってレベッカと一緒にいるのは嫌だと、そう考えたからこその言葉だった。だが、

「そんなこと、ありません」

 アイトは、レベッカのその考えを否定した。

「なんで?もう、私みたいな人とは」

「僕がいつ、お嬢様を拒絶しましたか?」

「………」

 アイトはいつだって、レベッカの味方をしてきたのだ。

「誰もお嬢様を必要としないなら、僕がお嬢様を必要とします。誰もお嬢様を大切にしないなら、僕がお嬢様を大切にします」

「………なんで、そんなに私を心配してくれるの?」

 たとえ専属執事だとしても、これは少々やりすぎだ。
 そう考えて、アイトの顔を見上げる。

「きっと、今のお嬢様にはなにを言ってもきかないでしょう」

 効果はない。そう考えながらも、

「なので、行動で示したいと思います」

 なによりも効果のある行動として

 アイトは、レベッカの唇に口付けをした。
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