家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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二章  しかし、概して人々が運命と呼ぶものは、大半が自分の愚行にすぎない。

人とは、希望を抱かずにはいられない生き物なのです

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「なんで、あんなに優しそうな表情をしたんだろうね………」

 王都への道中。馬車は運転席に座っている人物との会話を可能にするために開閉式の小さな窓がついている。
 そこを開けながらレベッカはアイトと会話していた。
 内容は、エリザベスの表情の理由だ。

「私、みんなに嫌われてると思ってた………」

 トリスタンは、直接なにかをしないものの、すれ違えば憎悪の視線を送り付けてくる。
 ヴァインヒルトは、複雑そうな表情を浮かべながらもレベッカを嫌っているような素振りを見せている。
 ルルアリアは最も顕著であろう。実際に行動に移しているのだから。

 だけど、エリザベスは今までレベッカになにもしてこなかった。
 なにもしてこなかったということは、顔を見たくもない。触れたくもない。レベッカが発した音を耳に捉えたくない。そう思えるほどまで嫌っていると思っていたから。

「だけど、違うんじゃないかなって、思っちゃったの………」

 もしかしたら、話せば分かり合えるのでは無いだろうか。そう思ってしまった。

「アイトは、どう思う?」

 運転の邪魔になる。そんなことはわかっている。だけど、レベッカは聞かずにはいられなかった。

「そうですね。僕も僕以外はお嬢様のことを嫌っていると思ってました」

 レベッカの話を聞いて、アイトも意外そうに言っている。

 それはそうだろう。極端にも思えるが、他の全員が嫌い。だから接触してこない人も嫌っている。そう思ってしまうのは、あまりにも自然だと思える。

「だけど、もしかしたら違うんだよね………」

 そしてレベッカの中にひとつの希望が芽生えた。

「もしかしたら、お母さんは私たちの味方になってくれるかもしれないね」

「………」

 アイトは答えなかったが、気持ちは同じだろう。

「ねぇ、お母さんに話してみない?」

 アイトとレベッカの関係を。もしかしたら強力な味方が増えるかもしれない。そう思って言った言葉だったが、

「いえ、それはやめておいたほうがいいでしょう」

 アイトは否定的だった。

「なんで?味方が増えるのはいいことじゃないの?」

「確かに、そうかもしれません。ですが、エリザベス様が味方である、という確証はありません」

 そう。もしかしたら、レベッカから僅かな信頼を得るためだけに、エリザベスは行動した可能性もある。

「そっか。もしかしたらお母さんから情報が漏れる可能性もあるんだね」

「あくまでも、味方でなければの話ですけどね」

 そしてアイトの懸念点はまだある。

「それに、もし味方でも影響は微々たる差かと思われます」

「え?なんで?」

「それは、エリザベス様はルーズ家での発言力を差程持っていないからです」

 アイト曰く、エリザベスは他貴族との政略結婚として嫁いできた貴族の子であり、元々の貴族の身分としてはエリザベスは下である。

 そして、エリザベスは全く発言力がないわけではないが、ほとんど発言力はない。ルルアリアと同等か、それ以上なくらいだ。

「それに、このタイミングで外に飛び出そうと考えるのは、悪手です。最悪、例の事件となんらかの関わりがあると疑われます」

 トリスタンがいる以上、疑いが晴れるのは確定されているが、万が一もある。

「例の事件………冒険者の連続殺人事件、だよね?」

 そう。この一週間程で、ルーズ領周囲では、冒険者だけを狙った連続殺人事件が発生している。

「なので、落ち着くまで辛いですが我慢してください」

「うん。わかった………」

 それでも不満げなレベッカに、アイトは優しく声をかけた。

「大丈夫です。僕は僕で準備を進めてますから。社交会が終わって、一段落したら実行に移しましょう」

「え!?本当に!?」

 レベッカは、嬉しさのあまり思わず大声を出してしまった。

「はい。なので、もう少しの間だけ、我慢してくださいね」
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