家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

文字の大きさ

大中小

34 / 111

二章　しかし、概して人々が運命と呼ぶものは、大半が自分の愚行にすぎない。

人生に違和感って感じることない？

しおりを挟む

　レベッカは自室の窓から外の景色を眺める。

　現在の時刻は昼。だが、アイトはまだ昼食を持ってこず、アイトが呼びに来るまで外出用の服に着替えて部屋に待機と言われている。

　現在レベッカが来ているのは、デートの時にアイトに買ってもらった服。
　荷物の準備も、事前にアイトが全て用意してくれた。

　と、レベッカの部屋がノックされてアイトが入ってきた。

「アイト。もう時間なの？」

「はい。馬車の準備もできています。どうぞこちらへ」

　そうしてレベッカを誘導し始めるアイト。だが、アイトは部屋を出る前に一瞬振り返ると、

「その服、とても似合ってますよ」

　そう一言だけ言ってきた。

「もう、もっと他にあると思うのに………」

　と、レベッカは文句を零すが、顔は満更でもなさそうだった。
　そのままレベッカは静かにアイトの後ろを歩いていく。

　途中、数人の使用人たちとすれ違ったが、彼ら彼女らはなにも言わない。

　時折睨みつけてくるだけで、レベッカになんら干渉しなかった。

　堂々と屋敷前の庭に出ると、そこには二台の馬車が用意されていた。

「わぁ！これに乗るの？」

「はい。僕達は後ろの馬車ですね」

　アイトにそう言われて、一列に並んでいる馬車の後ろの馬車にレベッカは乗り込む。

「アイト。他の人たちは？」

　レベッカの言う他の人たち。ヴァインヒルトやルルアリア、トリスタンにエリザベスのことだ。

「他の方々は前の少し広めの馬車に乗る予定です。ですので、この馬車はお嬢様専用ですね」

　ヴァインヒルトたちが乗っている馬車を引っ張る馬は別の使用人が担当している。そして、レベッカが乗る馬車はアイトが担当することになっているのだ。

「じゃあ、私は一人なの？」

「荷物は既に中に入っています。他の方をお嬢様と同じ馬車に入れるのは、私には耐えられませんので」

　使用人として言うべき荷物のことを簡単に言って、他の使用人を載せない理由を話すアイト。
　アイト的には、自分の見えない場所でレベッカが傷つけられることも、傷つけられないとしても二人きりにすることが耐えられなかったのだ。

　レベッカはすぐにそのことを察して、優しく微笑んだ。

「ありがとう、アイト」

　アイトは小さくお辞儀して、その場を去ってしまった。
　今馬車にはレベッカ一人。万が一にも他の誰が入ってくることもない。

　馬車には窓がついているので、そこから庭を見る。

　移動中は、ここから外の景色を眺めることができるのだ。そう考えるだけで、レベッカはワクワクしてくる。

　屋敷の方に視線を向けると、ヴァインヒルトとトリスタンはレベッカの方を見ようともせず、ルルアリアは猛烈に睨みつけてきた。

　レベッカはそれだけなら気にしなかったが、母であるエリザベスの表情だけは気になった。

　エリザベスは、レベッカに向かって微笑んで来たのだ。愛情のこもった優しい目を。

　レベッカが怪訝そうな表情をしていると、

「どうしましたか？お嬢様。出発しますよ？」

　アイトが馬車の運転席に搭乗した。

「わかった。お願いね」

　そうして、一行は出発した。王都で開かれる社交会へ。

しおりを挟む