家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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3章 逆境は真実へと至る最初の道筋である。

『チノ』の葛藤

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 昇格戦。ライバルたちと戦いあい、そのランク帯で勝利した者が上のランクに上がることができる。

「蹴落としあいみたいだね」

 そのシステムを聞いたフィアラは、昇格戦のことをそう称した。

「まあ、間違っては無いけど………」

 だが、それではなんだか悪いことをしているみたいだ。
 バツが悪そうな顔をするチノだったが、フィアラは気にした様子は無い。

「どちらにせよ、私たちのやることは変わらないしね」

 どこか達観しているフィアラの様子を見て、チノは少し羨ましいと思った。
 もちろん、パフォーマンスの時はある程度割り切れるが、そこまで割り切ることは無理だ。

 チノは、フィアラの正体をレベッカ・ルーズという賞金首であることは知っている。
 フィアラはそのことは知らないが、チノはレベッカのことは調べていた。

 アイト・カイトという執事の殺害。実家であるルーズ屋敷の爆破。ヴァインヒルト・ルーズの殺害。これがレベッカの主な罪状であった。

 だが、チノはこれをいまいち信用できない。ひと月ほど共に暮らし、わかったのだがフィアラにチノを殺す気配はなかったのだから。
 確かに魔法は上手だ。だが、チノを殺す機会はいくらでもあったのに殺さなかった。それはつまりフィアラとしてはチノを殺す理由がないということ。

 チラリと、フィアラを見る。今も楽しそうに楽屋の真ん中でクルクルと回っている少女を見ると、どうしても殺人犯には見えなかった。

「ねぇ、フィアラ………」

 考え事を途中で打ち切ったチノは、本番の打ち合わせをするためにフィアラに声をかけたのだった。


■■■


 時刻は八時を過ぎ、空の色も青色から真っ黒に変化していた。

 そんな街中をフィアラは笑顔で歩いている。

「今日は一段と疲れたね!」

「そう、だね」

 そんな風に言ってくるフィアラに、チノは淡白な反応しか返さなかった。いや、返せなかった。

 すれ違う人々がフィアラとチノの姿を見て小さくもてはやす。

「変わったね………」

 ほんの少し前まで無名だったフィアラの名は、今や街中にその名前が響き渡っている。

「マスタークラス、だもんね」

 2人は、タッグチームでマスタークラスへの昇格を果たすことができた。
 マスタークラスは、勝ち抜く以外にも認められることも重要で難易度はかなりのものなのだが。

「チノ!ありがとう!」

 笑顔でそんなふうに言ってくるフィアラに邪気はひとつもなかった。

 だが、チノは知っている。フィアラはパフォーマンス中に一人を攻撃したことを。

(だけど………)

 チノはそれを罪にとう気はなかった。
 パフォーマンス中に会場に飛び込んできた人物は、テロリストみたいな人で、会場を荒らそうとしていた。だが、それを実行する前にパフォーマンス中のフィアラに片手間に対処された。

(誰にも気付かれることなく………)

 そばにいたチノでさえ見逃してしまいそうになった片手間の出来事。

「いつか、話してくれるのかな」

 前でファンと思われる人と握手をしているフィアラを見ながら、そう思うことしか出来なかった。
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